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気をつけたい熱中症!障害のある人の落とし穴と対策

記事公開日:2019年08月20日

梅雨が明け、これから夏本番という時期に気をつけなければならないのが「熱中症」です。
開催まで1年をきった2020東京オリンピック・パラリンピックでもその対策が大きな課題となっています。高齢者や幼児は特に注意が必要ですが、実は障害のある人も高い熱中症リスクがあります。熱がこもりやすい、体温調節がしにくいなど、障害者ならではの特性があり、一般的な判断基準ではリスクを見逃す危険があります。今回は、実際に車いすユーザーが熱中症になってしまったケースをもとに気をつけたいポイントをご紹介します。

障害があることで高まる熱中症リスク

障害のある人が気をつけなければならない熱中症。
どういう状況で起こってしまうのでしょうか。今回は、車いすユーザーのケースについて見ていきます。熱中症にかかってしまった経験を話してくれたのは千葉絵里菜リポーター。脳性まひがあり電動車いすを使用しています。

画像(千葉絵里菜リポーター)

2018年の6月、パラ競技の取材のためバスを降りて車いすで競技場へ向かったときのことです。千葉リポーターは体調の異変を感じていました。

「なんか暑いなーって感じたんですけど、行くのが先決になっちゃって」(千葉リポーター)

当日の最高気温は31度。カンカン照りの真夏日。同行したスタッフは汗だくだったのに、千葉リポーターは汗をかいていませんでした。

画像(千葉絵里菜リポーターの腕とスタッフの腕の汗の状態を比較)

さらに千葉リポーターは30分の移動の間一切水を飲みませんでした。競技場に着くころには頭痛とだるさを感じるようになり、そして競技の観戦中、ついに千葉リポーターの体調が悪化。

画像(熱中症にかかった当時のつらい状況を話す千葉絵里菜リポーター)

「吐き気がしてきたので、トイレに行って吐いて、これはダメだと思って。上司の人に早退しますと伝えました」(千葉リポーター)

周りのスタッフやヘルパーは無事でしたが、千葉リポーターだけが熱中症になってしまったのです。

車いすユーザーが抱える“温度のバリア”とは

このとき千葉リポーターの体には何が起きていたのでしょうか。
障害者の熱中症に詳しい日本大学生産工学部准教授の三上功生さんに、車いすユーザーの熱中症リスクについて伺いました。

画像(日本大学生産工学部准教授 三上功生さん)

「熱中症が起こる環境条件っていうのが、健常者と障害者とでは大きく異なっていると思います」(三上さん)

取材を進めると車いすユーザーならではのリスクが潜んでいることがわかりました。

画像(車いすユーザーの熱中症リスク)
①熱がこもる
地面からの距離が近く照り返しが強いうえに、おしりと背中は常に車いすと密着。熱がこもりがちです。
②体温調節
普段から屋外を避けることが多いため汗をかくことに慣れておらず、必要な時にも十分な汗が出ません。また特に頸髄に損傷がある人は発汗障害があり汗が全く出ないため、体温が下げられないのです。
③水分補給
車いすで使えるトイレが限られ、使える場合でも排泄に多くの手間や時間がかかります。あまり行かずに済むように水分を控えがちになってしまい、脱水症状になりやすくなります。

障害のある人の熱中症リスクについて、三上さんはこう語ります。

「スロープとか手すりとか行動面の不自由さを解消しようとする技術は発展したと思うんですけど、私は目に見えない“温度のバリアフリー”というものが存在すると思っています」(三上さん)

環境省では熱中症予防のために室温の目安を28℃以下としています。しかし例えば三上先生の研究では、頸髄損傷のある人は室温26℃以下(湿度50%の場合)でないと熱中症のリスクがあるといいます。障害のある人とない人とでは、安全な温度が違うのです。

画像(熱中症予防のための室温)

明日からできる対策!

去年熱中症になってしまった千葉リポーター。そのあとから日常生活で熱中症にならないよう工夫していることがあるそうです。

画像(千葉リポーターが使う3つの道具)

「冷却スプレーと冷却シート、保冷剤、この3つは外出するとき必ず持ち歩くようにしています」(千葉リポーター)

千葉リポーターは熱中症対策のため車いすユーザーの友人にどんな工夫をしているのか聞いて回ったそうです。その中から自分に合うものを選び、この3つのグッズを使うようになりました。実は、こうした当事者の体温調節の工夫を一冊にまとめた冊子があります。

画像

大阪頸髄損傷者連絡会 『頸損だより』No.109 「それぞれの体温調節の工夫」より

大阪頸髄損傷者連絡会の事務局長、島本義信さんは作成の意図をこう話します。
「頸髄に損傷がある方は、真夏だとたった30分の外出でも危険が伴います。そのためそれぞれの人が暑さ対策の工夫をしているのですが、なかなか他の人がどんな工夫をしているかを知る機会がない。皆さんの工夫を共有することが役に立つのではと思い、当事者にアンケートをして作ったのがこの冊子です」

この冊子の内容はウェブサイトで閲覧することができます。暑さを避けるため外出を控えることも一つの手ですが、こうした工夫を使って安全に、そしてより充実した夏を過ごしたいものです。

身体障害だけではない 知的障害や発達障害のある人の場合

ここまでは身体に障害のある人のケースをご紹介しましたが、そのほかの障害のある人も熱中症リスクが高い場合があります。

例えば、知的障害のある人です。
最重度の知的障害がある人を支援する施設、「希望の郷 東村山」の職員、松井潤さんは夏の時期に利用者の熱中症のリスクを強く感じているといいます。

「重度の知的障害がある方の場合、基本的にご自分からの訴えがありません。暑い、のどが渇いたということをうまく伝えることができないのです」(松井さん)

このため熱中症の発見が遅れてしまう可能性があります。被害を少しでも減らすため、排泄の回数や発汗の様子を慎重に観察し、室温もこまめにチェックしているそうです。

画像(知的障害のある人・発達障害のある人のリスクの表/知的障害のある人、「暑い」「のどが渇いた」など、自分の状況を訴えられない。発達障害のある人、暑さやのどの渇きを感じるのが苦手、服装にこだわりがあり気温が高くても厚着をしてしまう)

また、発達障害のある人にも特有の熱中症リスクがあります。
東京学芸大学教育学部教授の高橋智さんは、発達障害当事者の聞き取り調査をしています。体温調節の難しさは当事者からよく訴えられることだそうです。

「発達障害がある方の中には、自律神経の働きが弱く汗をかきにくい人や、暑さやのどの渇きを感じることが苦手な人、特定の服装にこだわりがあり気温が高くても厚着をしてしまう人などがいて、そうしたことが熱中症のリスクになります。」(高橋さん)

高橋さんによれば発達障害に関する熱中症の研究は始まったばかりで、対策の研究はまだ進んでいないそうです。当事者や周りの家族もリスクを知らない場合が多く、注意が必要です。

周囲の人たちはどうすれば?

障害のある人ならではの熱中症リスク。当事者に関わる周りの人はどうすればよいのでしょうか。

画像(三上さん、「温度のバリアフリーというものがある」)

「温度に困難を抱えている人たちがいるということを、当事者だけでなく世間一般の人たちが知ることが温度のバリアフリーにつながると思っています。」(三上さん)

たとえ細かい知識はなくても、「この温度は障害のある人にとってつらいかもしれない」と思いを馳せること、そうした配慮を一人ひとりの頭の片隅においておくことが熱中症の防止につながります。障害者の熱中症について、みんなで考えることが必要です。

暑さをしのぐ 未来の福祉機器

最後に、最新の機器を研究しているという国立障害者リハビリテーションセンター研究所を訪ねました。開発を担当している福祉機器開発部、室長の硯川潤さんは頸髄損傷の当事者です。

画像(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 硯川潤さん)

「こちらが体温調節の機能が弱った方を支援する支援機器になります」(硯川さん)

電気を通すと冷える特殊な素材で、背もたれを冷却する機能がついた車いすです。千葉リポーターが室温32度に設定された部屋でこの車いすに乗ってみると、

画像(背もたれを冷却する機能がついた車いすを試す千葉リポーター)

背中が涼しくなり、気温が高いことを忘れるほどでした。しかしこの車いすはまだ研究の最中。コストの面などに課題があるそうです。そこでより実用化に近い機器を見せてもらいました。冷却水を作って首の周りに循環させ、首の大きな血管を冷やすことで、効率よく全身を冷やす装置です。

画像(冷却水で首を冷やす機器を試す千葉絵里菜リポーター)

千葉リポーターも使い心地はかなりよいようです。自身も脊髄損傷で車いすユーザーの硯川さんは、こう話します。

「僕もやっぱり外勤で外の仕事に行くときにかなり熱中症っぽい症状が出てしまったことがあって、夏場の昼の外出は仕事であっても控えるようにしています。細かいことを含めると何かしら皆さん我慢して暮らしているんですよね。そういうことがすみずみまでなくなるっていうことを追求していきたいなと思っていますね」(硯川さん)

※この記事はハートネットTV 2019年7月30日放送「HEART-NET TIMES 7月」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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