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手話放送プロジェクト(1)手話の新たな可能性を目指して

記事公開日:2019年08月16日

ひと昔前に比べると、字幕放送も普及してきた今、NHKへさらに寄せられている声が「もっといろいろな番組を“手話”で楽しみたい」というもの。この夏、「ハートネットTV」では、ニュースや特別な番組ではない、エンターテインメントやドキュメンタリー番組に“手話”をつけて放送するトライアルを行います。動き出した「手話放送」プロジェクトの様子を追いました。

新しい手話放送を目指して

「もっといろんな番組を手話で楽しみたい」

聞こえない人たちからのこうした声に応えるため、ことし、NHKが取り組むのが、従来のイメージを覆すような手話を取り入れた放送です。

画像(テスト収録の様子)

最大の特徴は、聞こえる「手話通訳者」ではなく、日常的に手話で話す「ろう者」が、番組の音声情報を表現することです。出演者のことばはもちろん、字幕では伝えられない、登場人物の息遣いや、声のトーン、音楽のリズムなどを、手話で伝えます。さらに、番組の世界観に合わせて衣装を着たり、手話に限らずいろんな手法で音を可視化。

リオ・パラリンピックの際にはイギリスの公共テレビ局であるチャンネル4がこうした演出を用いた映像を制作し、大きな反響を呼びました。

「Signed & Subtitled: We're The Superhumans | Rio Paralympics 2016 Trailer」
© Channel4

NHKでも2016年のリオ・パラリンピックから、字幕・解説放送だけではなく、手話や、副音声での視覚障害者向け実況などを駆使した「ユニバーサル放送」を実施し、さまざまな情報発信を行ってきました。今回のプロジェクトには、こうした取り組みをさらに広げることで、聞こえない人にはより多くの番組を楽しんでもらい、聞こえる人には手話に興味を持つきっかけになってほしいという思いが込められています。

聞こえる人と聞こえない人が一緒に進める番組づくり

今回、新たに手話をつける番組は『おはなしのくに』と『ドキュメント72時間』です。

『おはなしのくに』は日本や世界の昔話や童話・民話や名作から毎回1編を取り上げ、さまざまな分野で活躍する一流の語り手が表情豊かに語る「読み聞かせ」の番組。もうひとつの『ドキュメント72時間』は、毎回異なる1つの場所で3日間、行き交う人々の様子を追ったドキュメンタリー。どちらの番組も手話をつけるのは初めての試みです。

さらにもうひとつの試みが、聞こえる人と聞こえない人が1つのチームとなり、番組づくりを進めていくことです。番組の監修を務めるのは、2人のろう者。日頃から役者として活躍している江副悟史さんと、舞台観劇に手話や字幕をつける活動をしている廣川麻子さん。番組スタッフと一緒に、さまざまなアイデアを出し合いました。

番組内のすべての“音”を1人のろう者で表現するほうがいいのか、出演者の声と音楽の表現を分けて、別々のろう者で伝えるほうがわかりやすいのか? ろう者の動きや視線、衣装などをどこまで“演出”するべきなのか?

話し合いをもとに、6月、NHKのスタジオで収録前のテストが行われました。

画像(監修の江副悟史さんと廣川麻子さんを交えて、スタッフ打合せ)

この日は、プロデューサーやディレクターが事前に考えた表現や演出を試し、監修の2人から意見を聞くことが主な目的。クロマキーと呼ばれる映像合成が可能なスタジオでテストが行われます。

画像(テスト収録の様子)

通常、NHKの番組の収録では出演者が話す内容や、VTRの内容を記した台本が用意されますが、テストにあたって用意されたのは、話しことばの内容に加えて、音の情報も記載された台本。監修の2人に、音も含めてどのような番組なのかを把握してもらうためです。

試行錯誤が続いたテスト当日

最初に取り組んだのは、手話を表現するろう者の立ち位置や画面に映る大きさのテスト。(※当日は、ろう者の代役を手話通訳者が務めました。)

ニュースでは、映像の中に「小画面」を作って手話通訳者の姿を出す場合もありますが、今回は番組の映像に手話表現者の姿がなじむよう、小画面を作らず、映像の中に表現者を入れ込んで表示。手話も、番組の映像も、どちらもしっかり見える最適な大きさを模索しました。

映像と手話表現者のバランスが決まったら、今回の特徴でもあるさまざまな演出を試していきます。多くの番組では、手話通訳者の姿が元の映像を邪魔しないよう、通訳者は画面端に固定されています。しかし、今回、目指すのは、手話も含めてエンターテインメントとして番組を楽しめること。手話表現者が映像に合わせて動いたり、リズムをとるなど、さまざまな演出を予定しています。

画像(映像にあわせて動きをつける手話通訳者)

テストを進めるうちに、番組の特徴的な演出が、音声だけでは伝わりづらいことを発見する場面がありました。

例えば『ドキュメント72時間』では、ナレーションが登場人物に問いかけるシーンがあります。

画像(『ドキュメント72時間』の1シーン)

江副さん「このナレーションは、誰に問いかけているんですか?一般的にナレーションは、説明のために視聴者に向けられるものですよね?」

番組ディレクター「これは番組ならではの演出で、ナレーションが映像に向けて問いかけるんです」

廣川さん「そういう演出であれば、例えば手話通訳者も映像に向かって、問いかけるとわかりやすくなるかもしれませんね」

ナレーションで表現していた番組の世界観を、聞こえない人にも楽しんでもらえるにはどうしたら良いか? 字幕放送だけでは伝わらない情報を、手話でどのように表現するか? テスト当日はこうした議論が何度も行われ、収録日への準備が進められていきました。

夏の放送を目指して試行錯誤が続く、手話放送プロジェクト。ハートネットTVでは、この様子を今後もお伝えしていきます。

手話放送プロジェクト
(1)手話の新たな可能性を目指して ←今回の記事
(2)収録の裏側に密着!
(3)放送を終えて。番組に込めた思い

手話放送「おはなしのくに」、こちらからご覧になれます。

「手話で楽しむみんなのテレビ!動画集」はこちらから

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