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万引きがやめられない「クレプトマニア(窃盗症)」 対応と治療

記事公開日:2018年03月30日

お金がないわけでも、モノが欲しいわけでもないのに万引きがやめられない。再犯を繰り返す窃盗犯の中に『盗む行為そのものに依存する』クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)の人がいることがわかってきました。背景には生育歴などさまざまな要因があると言われています。社会はこの病とどう向き合えばいいのかを考えます。

症状:病気と気づかず万引きを繰り返す「クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)」

万引きする以外が考えられない。ほかの方法が考えられない。窃盗癖がやめられない。クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)とは万引きなどの窃盗行為が止められない心の病です。

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窃盗犯の1-2割を占めると言われる、盗みたい衝動をコントロールできない依存症「クレプトマニア」。アメリカでは診断基準があるものの、日本では認知が低く、病気と気づかずに窃盗を繰り返し、何度も刑務所に入る累犯者も出ています。窃盗症の再犯防止に必要なのは治療。しかしクレプトマニアの人たちを受け入れる医療機関はごくわずかです。

「刑務所はただ我慢しているだけで「とりたい」っていう気持ちは簡単にはそんな消せないんですよね。自分の人生を台無しにしているな。でもやめられないっていうのは異常でしかいいようがないですね。」(コータローさん)

窃盗罪で3回、計4年間服役したコータローさん(仮名)、27歳。教育熱心な両親に育てられたコータローさんは、子どものころから時間があれば勉強するよう厳しく指導され、高校生になっても友達つきあいや恋愛を厳しく制限されました。

コータローさんは、大学受験目前に思うような成績が出なくなり、そのストレスを解消するため過食を始めました。家族に隠れて食べては吐く「摂食障害」を発症したのです。過食に気づいた母親が食べ物を隠すようになると、貯金を崩して自分で買い込むようになりました。しかしお金はすぐ底をつき、18歳の冬にコータローさんがとった行動が万引きでした。

「とるのが悪いっていうのは確かにわかっていました。それよりもとにかく家に早くかえって食べてはきたいっていう気持ちしかなくて、そんなに罪悪感とかはその時はなかったです。そこからはずっとお金があったとしても買うことはなく、食べるのとか掃除するのとか歯を磨くのとか一緒で、万引きすることは自分の生活の一部になっていました。」(コータローさん)

初犯で捕まった際には実刑は免れたものの、その後も万引きを繰り返し、21歳の時ついに刑務所に入ります。服役中はまじめに過ごしていましたが、万引きをしたい気持ちがなくなることはなかったと言います。

出所後、コータローさんは家族や友人と離れ、更生保護施設で暮らすことになりました。孤独感を強める中、万引きは回数も量も増えていきます。そして23歳で2度目の刑務所に。10か月服役するも出所したその日には万引きをしていました。

朝起きて、一日を万引きに費やし、盗んだものは捨てる。そんな自分を変えたいと思いながらとめられませんでした。出所したわずか6日後、再び逮捕。この時ようやく自分が病気だと知ることになります。精神鑑定の結果、摂食障害と病的窃盗・クレプトマニアと診断されたのです。高校生のときに万引きをしてから8年がたっていました。

対応と治療:万引きしても受け入れられるという安心感

なぜ何度も刑務所に入りながら、盗むことをやめられなかったのか。

クレプトマニアの治療の草分け的存在である群馬県の精神科病院『赤城高原ホスピタル』の竹村道夫医師は、これまでその疑いのある患者1600人を診察。そこで明らかになったのが、多くの患者が虐待や両親の不仲など問題のある家庭に育っていたこと。また、3割を超す患者が摂食障害を合併していたことです。

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「虐待を受けたり『ありのままのあなたでいてもいいんですよ』というメッセージを親からもらってないと、このままじゃいけないという気になって自分でコントロールできるダイエットから拒食になったり、そこから過食嘔吐になったりする。あるいは自分がちゃんと報われていないという気持ちがあると盗る方向に集中しやすい。もともと持っているむなしさみたいなものを、解消するような手段になっていくということがあるんだと思いますね。」(竹村医師)

クレプトマニアへの対応が難しいのは、日本ではまだ認知が低いことに加え、刑務所を出たあと、受け皿として治療できる医療機関がほとんどないこと。そうした中、『赤城高原ホスピタル』では、手探りでクレプトマニアの治療を行ってきました。

治療として患者には専門職によるルームカウンセリングの他、グループミーティングへの参加が義務づけられています。病院スタッフは立ち会わず、参加者は患者だけ。誰にもいえなかった盗みたい気持ちやつらい体験を正直に打ち明けます。ほかの参加者の話を聞き、窃盗癖をやめられなかったのは自分だけではないと知り、どんな話をしても責められず受け入れられるという安心感を得ます。

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ちえみさん(30)は、2回の服役後、今年9月に出所しすぐに赤城高原ホスピタルに入院しました。以前、別の医療機関に入院したこともありましたが、万引きをやめることはできず家族からも見放されました。

入院して主治医から指示されたのが患者同士で話すこと。これまで軽蔑されることを恐れ、万引きのことを正直に話したことはありませんでした。初めて本音で語り合える仲間と出会い、回復する手応えを感じています。

「本当にここだけは私の本当をさらけ出せるっていう場所。薬でも教科書でもなく依存症ってそういうので治すんじゃないんだなって。人でなおすんだなって。人が薬なんだなって。他者との関係の中で回復していくんだなって。それはすごく感じています。一人だったら回復できない。」(ちえみさん)

回復:窃盗症の人たちとつながることが治療のカギ

退院後、地域にもどった人たちは病気を克服するためにどのような生活を送っているのでしょうか。

みゆさんは、2年間の入院後、地域で暮らして3年になります。外出時は派手な格好でわざと視線を集めるようにしています。万引きしたものを隠せないようにするため、カバンはつねにビニール製。さらに買い物の前後に必ず行うのが主治医へのメールです。店に入ることを伝え、万引きしないブレーキにしています。こうした努力を続け、みゆさんは5年間万引きしない生活を送ってきました。しかし、いまだに自分が病気から回復したという実感を持てずにいます。

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万引きせずに過ごす一日一日が大変だと言うみゆさん。ふいにおそってくる万引きしたいという気持ちに向き合うために、医師からアドバイスされたのが入院中に出会った窃盗症の当事者たちとつながることです。複数の仲間と文通しています。

「あちらでもがんばっている。私もこっちでがんばっている。そこでつながっている意識が深まりますね。お互いがお互いを支え合ってるって。一人ではいきていけないのですごく私にとって一生の宝ですね。お互いがとらない。とりあえず万引きしない。なにがあったって盗らないっていうのは仲間の支えがあると思います。」(みゆさん)

依存症の人が自分の問題と向き合うためには「同じ思いをしている人と隠さずに話せるっていうことが大切」と話すのは、ダルク女性ハウス施設長の上岡陽江さん。クレプトマニアの自助グループはまだ少ないため、アルコールや買い物依存など合併する症状のある人には、そちらのグループに行って欲しいと訴えます。

さらに精神科医の松本医師は、クレプトマニアを司法だけで扱い、刑罰を与えるだけでは問題は解決しないと指摘。当事者が孤立して孤独が深まれば深まるほど問題はこじれていくため、医療や福祉、地域とつながるような支援システムを作り、それをサポートする人がいることが重要と話します。

病気と気づかず万引きを繰り返す「クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)」。日本でもこの病気への理解と支援が進んでいくことが望まれます。

※この記事はハートネットTV 2017年11月1日放送「シリーズ 依存症 第2回 クレプトマニア ―罰だけでなく治療を―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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