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【特集】出生前検査(1)求められる情報提供のあり方

記事公開日:2019年07月04日

産まれる前に、おなかの赤ちゃんの状態を調べる、出生前検査。医療技術の進歩により、血液検査や超音波検査でも、病気や障害の可能性が分かるようになってきました。しかし、検査について知らされることがないまま妊娠が進んでしまうケースもあります。受けられる期間が限られる出生前検査。今後、どのように情報提供されていけばいいのでしょうか。

検査を知らないまま進んでしまった妊娠

最近多くの人が受けるようになってきている出生前検査には、さまざまな種類があります。

まず、通常は「非確定検査」を受けます。身体への負担が少なく、あくまで、病気や障害の可能性を調べる検査です。その結果、陽性だった人は、診断を確定するために羊水検査などの「確定検査」を受ける流れになります。

画像(主な出生前検査の種類と受けられる期間)

そのなかでも、日本では2013年から行われている「新型出生前検査(NIPT)」は、おなかの赤ちゃんにダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーの3つの染色体異常がないかどうかを調べる検査。血液検査だけで行うことができます。

日本医学会によって全国で92の病院が、この検査の実施施設として認定されています。検査は、高年齢での妊娠など、一定の条件を満たした人のみが対象です。

しかし、このような検査がある一方で、実は検査について知らないまま妊娠が進み、あとから戸惑うケースが少なくありません。

画像(兵庫医科大学病院外観)

年間500人の女性が、新型出生前検査を受けている兵庫医科大学病院。
この病院で検査を受けた40歳の女性は、ここに来るまで地元の産婦人科にかかっていました。高齢での出産に不安を感じ、インターネットで調べるなかで、この検査のことを知りました。地元のかかりつけ医からは検査について何も伝えられませんでした。

「妊娠が分かったときに携帯のアプリに登録したら、色んな情報がばーっと出てきて、こういうちゃんとしたところ(大学病院)じゃなくって、個人でされているようなところの広告がバーンと入ってきて、そこから新型出生前検査について調べ始めた」(女性)

画像(出生前検査を受けた40歳の女性)

「(地元の産婦人科から)そんな検査の話はなかったと思う。私は高齢なので、自分から『要件に当てはまっていると思うんですけど』とお伺いしました」(女性)

自ら主治医に申し出ることで、ようやく兵庫医科大学病院を紹介してもらったのです。

画像(日本産婦人科学会の指針)

医師によって分かれる見解

なぜこうしたことが起きるのでしょうか。実は、日本産科婦人科学会の指針には「医師が積極的に知らせる必要はない」と書かれているのです。

長年、出生前検査に携わってきた医師であり、兵庫医科大学病院 遺伝子医療部・産科婦人科教授の澤井英明さんは、現状は医師によって見解が分かれていると言います。

画像

兵庫医科大学病院 遺伝子医療部・産科婦人科教授 澤井英明さん

「そこの産婦人科の先生のポリシーや考え方によって、出生前診断の話をしない先生もいますね。出生前診断をすることによって、赤ちゃんに病気があるとなると、出産をあきらめる選択につながることもありますよね。ようするに赤ちゃんに病気があるということを調べて、健康だったら産む、病気だったらあきらめるという選択をすること自体を良しとしない考えの先生もいらっしゃいます」(澤井さん)

新型出生前検査の存在を知らないまま時間がたってしまい、受ける機会を失ったという36歳の女性もいます。

「今まで妊婦健診に行っていたところは、地元の小さい婦人科のクリニックだったので、本当に今日までこの(出生前検査の)話を聞いてなかったんですね。話しておいて欲しかったなって気持ちもありつつも、まったく自分がそういうのを調べていなかったっていうのもなんとなく自分の責任は若干あるなっていうのは正直思っています」(女性)

画像(出生前検査が受けられる期間)

   出典:兵庫医科大学病院 出生前診断外来

現在は妊娠18週。新型出生前検査を受けても、その後、診断を確定するための羊水検査には間に合わないため、検査は受けないことにしました。

「流産の心配がないものであれば、もしかしたらやっていたかも知れないなっていうのは、正直思っています。もっと初期の段階で聞いておいて、考えたうえで選択をできればベストかなって思いました」(女性)

検査について考える機会を作ることが必要

出生前検査のことを知らされずに戸惑ったという女性たち。なぜ、日本産科婦人科学会の指針では、医師は積極的に妊婦に検査について知らせる必要はない、とされているのでしょうか。

出生前検査に詳しい明治学院大学教授の柘植あづみさんは、背景に旧優生保護法の影響があると話します。

画像(明治学院大学 教授 柘植あづみさん)

「出生前検査をめぐっては、日本の歴史が関わっています。優生保護法という法律が1996年まであり、障害のある人たちを社会が排除するような内容でした。出生前検査も『障害や病気が見つかったら、産まない』という選択肢が1つとして示されるわけですから、それによって障害者の方々を社会が排除することになるのではないか、という疑問が示されたのです。検査をすること自体が疑問だったり納得がいかなかったりする方たちの『検査を進めていくことを抑えた方が良い』という考え方があるためだと思います。もちろん、妊婦さんから質問があれば、丁寧に正しい情報を伝えなければいけない、ということは決められています」(柘植さん)

※旧優生保護法(1948~1996)
遺伝性の障害などを理由に本人の同意なく不妊手術を認めた法律

出産・医療の現場を長年取材しているジャーナリストの河合蘭さんは、取材をしているなかで、情報がないために戸惑っている女性たちは多いと言います。

画像(ジャーナリスト 河合蘭さん)

「報道が盛んにありますので、まったく聞いたことがないという方は少ないと思うんですけど、漠然としている、はっきりと像を結んでないという方はとても多いです。妊娠して、非常に早い時期に知って、決めていかなければならないことですので、焦りますし。そういうざわざわした気持ちでスマホを一生懸命叩いても頭に入らない。ご家族だけで、専門家の助けがないところで、スマホだけを頼りに考えている方はたくさんいらっしゃいます。なかには、人工妊娠中絶が可能な22週を過ぎてから、自分のダウン症候群の確率に気がついて先生に質問をしたという方もいらっしゃいました」(河合さん)

情報を求める人がいる一方で、障害のある人の排除につながらないようにしていかなければならない。今後の情報提供はどうあるべきなのでしょうか。柘植さんは、妊娠する前の教育の段階で、情報や考える機会を与えることを提案します。

「妊娠して、医療機関で『こういう検査がありますよ』と情報提供されたとしても、それから夫婦で話し合って、検査を受けるかどうか考えるときに、ものすごく心理的なプレッシャーがあります。ですから、必要な情報は妊娠する前から、例えば成長する過程であったり、中学や高校から保健や社会科などで、『こういう技術が今あるんだよ、どんどん進んでいるんだよ、それからどうしたら良いと思う?』ということを考える機会が、あったら良いなと思います」(柘植さん)

おなかの赤ちゃんの障害や病気について知ることになる出生前検査。ひとごとではなく、誰もが抱える問題として、検査について考え、議論する機会を作ることが必要なのかもしれません。

【特集】出生前検査
(1)求められる情報提供のあり方 ←今回の記事
(2)検査を受けるか受けないかの選択を支える
(3)「産むか、産まないか」つらい決断を迫られた親たちのケア
(4)妊娠から出産後まで。いま求められるサポート

※この記事はハートネットTV 2019年7月2日放送「シリーズ 出生前検査 第1回 妊娠…その時、どうしたら?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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