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【特集】子どものSOSの“声” (4)「アドボケイト(代弁者)」という考え方

記事公開日:2019年05月14日

親などの虐待から保護された経験のある人は、保護されたあとも、自分の意見を伝えることが難しいことがあります。その解決の糸口となるのが「アドボケイト(代弁者)」という考え方です。どういうものなのか取材をしました。(これまでのシリーズについてはこちら→ 【特集】 子どものSOSの“声”

子どもの意見を代弁するアドボケイト

児童虐待や親の不在などにより、施設などで暮らす社会的養護の子どもたち。彼らの意思を尊重し、保障するための仕組みとして、いま注目されているのが「アドボケイト(代弁者)」という考え方です。

画像(アドボケイト(代弁者)の仕組み)

これまでは、児童相談所などが福祉サービスを決定する際に、子どもと親の双方の話を聞いて「子どもの最善の利益」は何かを考えて判断していました。しかし、子どもの中には、うまく話せない子どももいて、弱い立場に立たされ、意見が反映されないこともありました。

そこで、子どもの立場だけに立って、子どもの意見を代弁するアドボケイトと呼ばれる人たちが、いわば「子どものマイク」となって、周りの大人に子どもの意見を伝えるという仕組みです。

一部の民間シェルターでは独自にこうした取り組みを行ってきました。 母子家庭で育ったゆきさん(19)は、母親に精神疾患があり、小学生の頃から家事のすべてをゆきさんが担ってきました。さらに、母親からたびたび言葉の暴力を受けてきました。

画像(ゆきさん)

高校生になるとゆきさんはアルバイトを始めるものの、稼いだお金のほとんどを使われ、学校にも行けなくなりました。追い詰められたゆきさんは17歳のとき、大阪にある民間の子どもシェルター「子どもセンターぬっく」に保護されました。

画像(子どもセンターぬっく事務局)

ここで1か月過ごすことになったゆきさんが、最初に面談したのが普段は法律事務所で働く弁護士、入江祥大さんです。

画像(ゆきさんのアドボケイト 弁護士・入江祥大さん)

ぬっくでは、子ども一人一人に担当弁護士がつき、子どもの意向を汲み取る仕組みがあります。24時間常駐する職員のほか、「コタン(子担)」と呼ばれる弁護士が26人登録しており、子どもの要望を整理。児童相談所や家族との間に入ってサポートします。

さらに、食事作りなどをするボランティアが一緒に過ごすことで、話しやすい環境を作ります。気の合うボランティアは「ぬっくメイト」となり、退所後も関わり続けます。

画像(ぬっくの仕組み)

入江さんはシェルターを出たあと、どんな選択肢があるのか示し、ゆきさんの希望を確認しました。

「彼女は、集団で生活するよりも1人で生活をしたいっていう思いがあったので、施設(の選択肢)はなくなって、里親っていうのも家庭に入るっていうのは、彼女自身が望んでなかったと思いますし、能力的にも1人暮らしをできる。十分、家事もやっていて、アルバイト経験もあって、きちんと収入が得られる子だったので1人暮らしをしようかと」(入江さん)

「入江さんはちゃんと私の話を聞いて、わかってくれるじゃないですけど。でも、『こうしたほうがいい』とかあまり言ってこないというか。押しつけてこない。それがすごいうれしかったですね」(ゆきさん)

1人暮らしをしたいと聞き、入江さんがまずサポートしたのが職探しです。シェルターに入って3週間後、ゆきさんと一緒にハローワークを訪れ、すぐに正社員での採用が決まります。
その次は部屋探し。しかし、未成年のゆきさんは部屋を契約する際、親の同意が必要でした。入江さんが、母親を説得し、承諾を取り付けました。

「やっぱり私一人だったら、もっと絶対時間がかかってたことを、本当に早くしてくれるというか、すべてのことをしてくれるから。弁護士っていう職業の方を頼もしい感じするなって思ってて。すっごい、ありがたいことなんだなって。初めて自分の意見を尊重されたというか、本当に自分が決めたこと、自分で何かを選べたみたいなのがうれしかったしすごい、よかったなって思っています」(ゆきさん)

こうしたアドボケイトの取り組みについて、NPO法人子どもセンターぬっく代表・森本志磨子さんはこう話します。

画像(NPO法人子どもセンターぬっく代表 森本志磨子さん)

「子どもたちに、きちっと自分の気持ちに気付いてもらったり、それを発したら物事が変わっていくんやとか、実現していくんやということを知ってほしい」(森本さん)

ぬっくとつながったことで、希望していた1人暮らしを始めたゆきさん。いまもシェルターで出会ったぬっくメイトと定期的に会い、悩みや近況を聞いてもらっています。

画像(ぬっくメイトに今の生活を話すゆきさん)

ぬっくで一時保護された子どもは3年間で69人。子ども自身が納得できる道を一緒に探す、地道な取り組みが続いています。

日本でのアドボケイト制度に向けて

ぬっくの取り組みやゆきさんのケースについて、児童養護施設で育ち、現在厚労省の社会的養育専門委員会で委員を務める中村みどりさんはどのような印象を持ったのでしょうか。

画像(社会的養護の当事者団体 副代表 中村みどりさん)

「本当に子どもを中心にいろんな人がサポートしているという取り組みだったかなと感じましたし、やはりボランティアの方たちが子どもたちに寄り添っているということも印象的でした。そして、やはり社会的養護や法律に関わる子どもたちも多いかなと思いますので、専門職の方が味方にいるというのはとても心強いことだなと思いました」(中村さん)

ゆきさんが保護された子どもシェルターは民間の取り組みでしたが、政府も2019年3月に、児童虐待防止法改正案を国会に提出。「子どもの権利擁護」を掲げて、子どもの意見表明権を保障する仕組みの検討を進める、という内容です。

画像(児童虐待防止法改正案 子どもの権利擁護,子どもの「意見表明権」を保障する仕組みについて施行後2年を目途に検討を進める)

子どもの声を保障する仕組みについて研究している栄留里美さんは、アドボケイトは公的な仕組みになることが理想と話します。

画像(大分大学助教 栄留里美さん)

「イギリスやカナダでは、アドボケイトが法制化されていまして、日本でも法律としてきちんとした形で派遣されることが望ましいと思います。例えばイギリスでは、主にNPOが行政から委託を受けて、施設や児童相談所とは独立した形で、きちんと要請を受けて派遣されていますので、そういった形で進めていくことが望まれると思います」(栄留さん)

期待されるアドボケイトの役割

国内でも2017年から、「市民アドボケイト」というモデル事業が始まっています。講習を受けた市民が、児童養護施設などを定期的に訪ねて、子どもの声を反映させるように支援するというものです。

2019年3月、このモデル事業の活動報告会が大阪で行われました。

画像(モデル事業の活動報告会)

報告会には、児童相談所職員や施設関係者など60人が参加。実際に児童養護施設を訪問したアドボケイトが、要望があっても「施設に伝えたくない」という子どもとのやりとりを紹介し、「やっぱり伝えない」という意思を尊重することもアドボケイトとしての役割だと語りました。

一定の成果があったという報告の一方、施設職員からは戸惑いの声もあがりました。

画像(報告会で話す施設職員の男性)

「職員にとっては、直接日常生活に関わっている職員でない人が入ることによって、利害とかそういったものから離れた人が入ることによって、一生懸命子どものことを考えてやってきた、だけど他者から言われて自分は間違いなのかみたいな感じにとらわれてしまう。課題がないわけではないともちろん思っています」(施設職員の男性)

成果があった一方で、複雑な思いを抱く人もいる市民アドボケイトの制度。この市民アドボケイトのモデル事業に携わってきた栄留さんは、手応えと課題の両方を感じていると言います。

「アドボケイトは、子どもが話した内容に対して守秘義務があるため、何を話しているのかと抵抗感がある職員さんもいます。ただ、一方で子どもたちが思っている気持ちをアドボケイトが引き出してくれたことで、『あぁこういうふうに思っていたんだ』って職員さんたちが気付くことができて、それを支援計画に盛り込もうとしてくれた職員さんもいます。ですから、非常に職員さんからもうれしいという言葉をいただいています」(栄留さん)

子どもの意向に寄り添うアドボケイト。
しかしその意向を必ずしもかなえてあげることができない場合、アドボケイトは、どう向き合っていけばいいのでしょうか。

「実際に子どもの支援内容を決定するのは児童相談所や施設なので、アドボケイトはあくまでも、子どもの声が反映されるように支援していく立場です。子どもの意向が叶わないケースはもちろんありますが、例え希望が叶わなかったとしても、その決定プロセスに子ども自身が参加することで納得感に大きな変化があることがイギリスの調査でも分かっています。このように欧米では、子どもの支援計画を決める会議などに子ども自身が参加する“子ども参加”が重視され、イギリスやカナダでは、アドボケイトがそうした場でも子どもの意見表明を支援しています。さらに、イギリスではアドボケイトの採用に、社会的養護の子どもが必ず立ち会っています。中には、“ボクの目を見て話をしてくれなかった”と、子どもが不合格を希望する場合もあり、採用や政策への子ども参加も進んでいます」(栄留さん)

中村さんもこのモデル事業に携わり、子どもたちの声を実際に聞いています。

「子どもたちの声を聞いていると、大人が、職員さんがうざいときに話を聞いてくれた、とか秘密を守ってくれたと言ってくれる子どもたちもいて、実際に活動では、『アドボさん』っていうふうなことを言ってくれたり。子どもたちにとっては受け入れられてきたなというふうに感じています」(中村さん)

画像(スタジオの様子)

これから日本でも子どもの意見が尊重されるためには、そしてアドボケイトが広まっていくためには何が必要なのでしょうか。

「子どもたちが自分たちの人生に参加する、意見を言って参画していくことがとても大切だと思っています。でも市民の人たちも社会的養護のことを理解しながら、そういうことって大切だよねとサポートしてくれるということが必要ではないかなと思います。忙しいというところで、子どもたちにしっかり向き合って話を聞くという風な時間が持ててないとも思いますし、本当にこれから子どもたちの声を聞くというのが当たり前の社会になればいいなと思っています」(中村さん)

子どもたちにとって当たり前であるべきことが軽んじられてしまう。そんな現状に、アドボケイトが大きな役割を果たすことが期待されます。

【特集】子どものSOSの“声”
(1)大人が聴き逃さないために
(2)子どもたちを保護する活動
(3)保護された後
(4)「アドボケイト(代弁者)」という考え方 ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2019年5月14日放送「シリーズ子どものSOSの“声”(2)『意思を尊重するために』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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