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【特集】子どものSOSの“声” (1)大人が聴き逃さないために

記事公開日:2019年05月08日

2019年1月、千葉県野田市で小学4年生の女の子が虐待を受けた末、亡くなりました。SOSは出ていたのに助けられなかった。その事実は社会に大きな衝撃を与えました。子どもが安心して声をあげられて、しっかりと大人が向き合っていく。そうした環境を作るための模索が、NPOや行政などで続いています。子どもの“声”を聞き、権利を守るために必要なことを考えます。

届かない子どもの声

2019年3月、政府は児童虐待防止法の改正案を国会に提出しました。そこで掲げられたのが「子どもの権利擁護」。子どもの意見表明権を保証する仕組みの検討を進めるとしています。

画像(子どもの権利擁護、子どもの意見表明権を保証する仕組みについて施行後2年を目途に検討を進める)

日本では現在、子どもを守る体制はどうなっているのでしょうか。

子どもへの虐待などを近隣の人や学校が発見した場合、市区町村や児童相談所へ連絡し、児童相談所は家庭での養育が困難と判断すると子どもを親から引き離し一時保護します。親や子どもが自ら連絡する場合もあり、一時保護の期間は原則2か月とされています。

画像(子どもたちを取り巻く関係のパネル)

その後、問題が解消されない場合は、児童養護施設や里親・特別養子縁組という形での教育を決定します。最初の段階でSOSを発する子どもがいた場合、地域や学校、市区町村そして児童相談所、さまざまな場所にそれをくみ取るべき大人がいるはずです。にもかかわらず、なぜ子どもの声が届かないケースが後を絶たないのでしょうか。

大人に対するあきらめと不信感

児童相談所につながった経験をもとに当事者活動をする若者たちが、話を聞かせてくれました。

画像(当事者活動をする若者たち)

当事者の声を集め、社会に発信する活動をしている若者たちは、自身の経験から、SOSを大人に届けることの難しさを実感しています。義理の父親から激しい暴力を受けていたブローハンさん(27)。恐怖で、助けを求めること自体できなかったと言います。

画像(ブローハンさん・27歳)

「そもそも自分の声を届けたらリスクがあると思ってたから。もしこれを誰かにしゃべったらよりやられるって思って、よりひどくなるから、それをすることは自分にとってはもうすごい危ないことだと思ってるから。初めて先生に『お尻見せなさい』って言われたときに、『やばい、ばれる』って思った。感覚として『見つかる』っていう感じだった」(ブローハンさん)

画像(万里さん・23歳)

「言ってもかなわないというのが普通だった」と話すのは万里さん(23)。母子家庭で貧しい生活のなか、「あきらめる」ことが当たり前でした。

「シングルマザーだったんで大変なんですよね。だからもう何かやりたいこととかを言ったりしても、お母さんに言ったとしても、『また今度』みたいなのがやっぱ普通だったんですよね(万里さん)

画像(愛夢(あむ)さん(仮名)・20歳)

母子家庭で母から虐待を受けていた愛夢(あむ)さん(仮名・20)は、周りの大人にSOSは発していましたが、それをきちんと受け止めてもらえなかったと言います。

「ママに殴られるとかママに蹴られるっていうことはずっと先生たちには言ってた。小学校1年生のときに首絞められたときはさすがに対応してもらったはずだけど、児童相談所の人が来て、しつけってなったし、小学校5年生のときも近所から子どもの泣き声がうるさいって通報が入って、それで面談したときもしつけってなって、中2のときも親の怒鳴り声うるさいで通報されて、それでもまたしつけってなっちゃって」(愛夢さん)

“しつけ”と言われて、素直に「しつけなんだ」と思ったという愛夢さん。しかし、高校1年のときに、自分から声をあげます。

「それはもう死にたくなっちゃったから。で、もう死ぬ、本当に朝起きて死にたくなっちゃって。死ぬ宣言しようと思って学校に行って、保護された」(愛夢さん)

画像(愛夢さんが保護されたときの様子)

15歳で児童相談所に保護された愛夢さん。「家に戻るぐらいなら死ぬ」と必死に訴え、そこで初めて“しつけ”ではなく“虐待”だと認識されたのです。

「約10年間、しつけってされていたことをたった1回保護されただけで虐待って言われて。大人からの判断が変わるのはなんかおかしいな。信用されてないんだなって。うそついてたって思われてたのかなみたいな」(愛夢さん)

その後、里親のもとで育てられることになり、虐待から逃れました。しかし、このときの大人への不信感は消えないと言います。

届かないSOS 弥生さんのケース

画像(弥生さん(仮名)25歳)

児童相談所に40回以上相談したにもかかわらず、声をくんでもらえなかった人もいます。
4歳のころから父親の理不尽な虐待を受けてていた弥生さん(仮名・25)です。

「お父さんからタバコを握らされて手がやけどしてしまうとか、乱暴な運転で指の骨が全部折れちゃったこと。スリルとか暴力的な刺激が好きな父のもとで生まれたので、小さいときから母に父は『そういうことするのが好きで、スキンシップでしてるから我慢しなさい』と言われていて」(弥生さん)

画像(弥生さんが描いたイラスト)

家庭内で助けを求めても改善されない環境。13歳のとき、初めて児童相談所の職員にSOSを出し、面談の場が設けられました。しかし・・・

「どういう暴力を受けたのか再現してみてって言われたり。暴力の渦中で急に、最近自分がされた暴力を再現してなんて。そのときの私はしたくなくて、拒んでもするまで帰らせてくれなくて。全然私の気持ちとか、私の状況を聞いてくれている感じはなくて」(弥生さん)

画像(弥生さんが大人に相談したときの様子を描いたイラスト)

「親からバカと呼ばれ、つらい」という弥生さんの訴えへの、大人たちからの返答は次のようなものでした。

「親にそんなこと思う人いないの。愛情なの」
「僕にも娘がいるけど親っていうのはね…」

学校、児童相談所、警察。相談したどの大人にも弥生さんの声がきちんと受け止められることはありませんでした。

児童相談所とは、13歳から15歳までの2年間で47回にわたり、電話相談や、親も含めた面談を行いました。しかし、その場も本当の気持ちを出せるような環境ではなかったと言います。

「親のいる話し合いの場では私の意見が言いづらかった。父が児童相談所の人に何を聞かれても、起きる時間とかそういうことからそもそも父のうその説明が始まって。私の話が聞かれる順番があるのかなと待っていたらそれはなくて。私が1人で、親2人、というか児童相談所の人も親側なので3対1みたいなかたちで戦わなければいけなくて」(弥生さん)

15歳のとき、父親の暴力で大怪我を負い、一時保護されたものの、そのときも今後どこで過ごしたいか、希望を言える状況ではなく、情報や選択肢は提示されなかったと言います。

「私の方から児童養護施設ってどんな場所ですかって聞いても、それはいろいろ良くなってきているみたいだけど、まだ全然良くないから家庭で育つのが一番いいからさっていうかたちで」(弥生さん)

学校へも通えず、安全な自分の居場所がどこなのかもわからず、不安でいっぱいになった弥生さん。1週間後、自ら「帰りたい」と申し出ました。

画像(弥生さんが一時保護から帰宅したときの様子を描いたイラスト)

自宅に帰るときの児童相談所の職員と父親との会話です。

職員「もう暴力はしないと約束してもらえますか?」
父「(暴力を)していないので約束しません」

結局、暴力を認めない父親のいる家に帰ることになってしまいました。弥生さんは、今は民間の支援につながっていて自立の道を模索しているということです。

大人が積極的に耳を傾けることが大事

「子どもはそもそも声を発することが難しい」、「SOSを出すことが難しい」という声。児童養護施設で育った経験があり、社会的擁護の当事者団体 副代表の中村みどりさんは、子どもが安心して話せる環境の大切さを訴えます。

画像(社会的擁護の当事者団体 副代表の中村みどりさん)

「私も児童養護施設で生活しているときに、なかなか大人を信用できず、自分の親のこととか、とくにマイナスな親の情報とか伝えたくなかったりとか、相談しにくかった。やはり子どもたちは一度相談しても聞いてもらえなかった経験をすると、次に相談しようという思いにはなかなかならないと感じますし、すごく揺れ動く。『親に会いたいけど会いたくない』とか『つらい思いをしている』というそういう揺れ動く気持ちがあるんだということを大人が受け止めることが必要なんじゃないかなと。子どもが安心して話せるような環境を作っていく必要があるんじゃないかなと思います」(中村さん)

弥生さんのケースについて、児童相談所での勤務経験がある明星大学 常勤教授の川松亮さんは、次のように話します。

画像(児童相談所での勤務経験がある明星大学 常勤教授の川松亮さん)

「お子さんが十分気持ちをくみ取ってもらえなかったということについては申し訳ない気がします。当時どういう事情であったかは分からないですけれども、今、児童相談所は子どもさんを守ることを自らの使命と考えて、お子さんの話を丁寧に聞く、言えないでいることを探る。お子さんの発言の裏にあることを探る。そして、そのことをもって保護者と対峙する、ということを大切にしながら取り組んでいると考えています」(川松さん)

こうした状況のなか、近隣や学校など、私たち大人はどう対応すべきなのでしょうか。

「いろいろと気になるお子さんって地域や学校にいらっしゃると思います。やはりお子さんたちに気づく目をまずもって、そして心配なことがあったら市区町村とか児童相談所の相談機関に連絡していただくことが支援のスタートになるので、是非していただきたいと思います。連絡したらわかってしまうんじゃないかとか、虐待かどうか分からないから不安だとか思われる方も多いですが、判断するのは専門の児童相談所ですし、誰が連絡したかは秘匿することが法律で決まっていますので安心して連絡いただきたいと思います」(川松さん)

子どもが「苦しい」と訴えても「それはしつけだよ」とすり替えられてしまうという声もありました。

「しつけと虐待についての基本的な考え方としては、親が『しつけだ、子どものためだ』と良かれと思ってやっていたとしても、それが子どもにとって辛いことであったり、子どもにとって害のあることであれば、それは不適切な行為と考えていますので、しつけかどうかではなくて、子どもの立場から『子どもにとってどうか』という目で見る必要があると思います」(川松さん)

画像(スタジオの様子)

子どもがSOSを発したとしても、なかなか声をくみ取ってもらえないという現状。そもそも子どもの声を聞くという仕組みは今どうなっているのでしょうか。

「児童相談所は援助方針を決定する上では、原則、必ず子どもの意向を踏まえるとなっていますので、きちっと丁寧に聞き取ることは必要です。しかし、お子さんは相談してもいいと思えなかったり、言いにくかったりしているので、身近な大人が気づいてあげることが必要です。その他にも市町村で相談する窓口を整備しているところもありますので、そういう情報をもっと子どもさんに伝えて『相談していいんだよ』ということを伝えることが必要だなと思います」(川松)

まずは子どもが懸命に伝えようとしている声に、周囲の大人が積極的に耳を傾ける。苦しんでいる子どもに対する、大人たちのこうした姿勢が求められているのです。

【特集】子どものSOSの“声”
(1)大人が聴き逃さないために ←今回の記事
(2)子どもたちを保護する活動
(3)保護された後
(4)「アドボケイト(代弁者)」という考え方

※この記事はハートネットTV 2019年5月7日放送「シリーズ 子どものSOSの“声”1大人が聴き逃さないために 」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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