JKビジネス、リベンジポルノ、SNSを通じた児童買春など性にまつわる犯罪に巻き込まれたり、LGBT当事者の約7割が性を理由にいじめを経験したり。いま若者たちは、性をめぐるさまざまな困難に直面しています。ハートネットTVにも、性をめぐって悩む若者の声が多く寄せられています。4月よりリニューアルした、社会をみんなの力でブレイクスルーし、未来を変えていく「ブレイクスルー2020→」。第2弾は、“性”に傷つく子どもを支える「もうひとつの”性“教育プロジェクト」が始動します。
性暴力、LGBT当事者へのいじめ、男女差別・・・。多くの若者が「性」をめぐる悩みをひとりで抱え込んでいます。番組にも次のようなメッセージが寄せられています。
「高校に入ったら差別的発言が増えてしんどいです。誰か助けて下さい」(高校1年/バイセクシュアル)
「私、兄から性的虐待を受けました。もう9年経つのに体が記憶して私を苦しめてくるんです」
今の若者を取り巻く多様な性について、幅広い教育を考えられないか。そこでこれまでハートネットTVに出演した、さまざまな視点を持つ次のメンバー6人が集まりました。
風間俊介さん 俳優。「ブレイクスルー2020→」MC。
牧村朝子さん 文筆家。レズビアンとして、日々感じる思いを本やウェブで発信する。
渡辺篤さん 現代美術家。ひきこもりとうつ病の経験があり、性に関する作品も制作。
真境名法子さん 男性として生まれ、心は女性のトランスジェンダーであるタレント・真境名ナツキさんの母親。
沖田×華さん 漫画家で発達障害当事者。子供の頃セクハラまがいの体罰を受けた経験がある。
嵯峨根望さん シッティングバレー選手。病気で両足を失った経験を学校で子どもたちに語る。
このプロジェクトの発案者でもある牧村さんは、好きな女性との生活や、カミングアウトした経験など、自身の性についての率直な思いを語ってきましたが、10代の頃は、性についてひとりで悩み続けてきました。
そんな牧村さんに、数多く寄せられているのが、性の悩みや思いを綴った若い世代からの手紙やメール。LGBTに関する悩み以外にも、セックスについての悩み、性暴力、なかには、性暴力で受けた心の傷まであります。
学校などでLGBTについて講演する機会が増えているという牧村さん。生徒の中に当事者がいる状況にも関わらず、教育の現場では、まだまだ異性愛が前提であることに疑問を抱いてきました。悩む若者を支えるためには、LGBTや広い意味でのセクシャリティーについてもしっかり教える、もっと幅広い性教育が必要なのではないかと牧村さんは考えます。
牧村「私が今回皆さんと考えたかったのは、性教育のことです。目指したいのは卵子と精子が出会って新しい命が生まれますだけじゃなくて、自分の体を持って生きていくための性教育になったらいいなと思います。性教育というのは人と人が関わるベースだし、人が体を持って生きることのベースだと思う。人は肉体を持っているので、望む望まずにかかわらず性のことは人につきまとう。」
そもそも、学校では今、どのように性教育が行われているのでしょうか。現場の先生たちを取材してみることにしました。
今、中学の保健の授業では、思春期に起こる男女の体の発達や心の変化、そして性感染症の予防について教えています。学習指導要領はLGBTについて触れていません。時間も限られるなか、なかなか教えるのが難しいと言います。
「LGBTについては教えていない、実際に自分の経験のなかでそういう子が出てきた経験がないので、ないというか、実際あるのかもしれないけど、表面化したことないので」(男性教諭)
そもそも、性の基本的な部分についても、どこまで教えていいか難しさがあると言います。
「中学1年生の3学期に聞いたんですが、あなたはお母さんのお腹から、どこを通って生まれてきたんですか、って聞いたんです。おしっこの穴を通ってきた、うんちの穴を通ってきたという子がけっこういるんですよ。しかも女の子なんです。一番問題に感じているのは、中学1年生で体のことをこれだけ細かくやっているんだけど、いわゆる性交、性行為、セックスについてはまったく触れられていない。そして突然3年生で、性感染症予防の説明としてコンドームが出てくる。やっぱり頭のなかが混乱しているというか分からない状態があると思う。」(男性教諭)
今回集まった先生たちは現場では「性交は扱わない(男性教諭)」と指導されているといいます。今、学習指導要領には、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」と書かれています。性交についての直接の記述はありません。そのため、絵本などの副教材を使って一歩踏み込んで教えている先生もいますが、性交についてどこまで教えていいかはあいまいだと言います。
現場の先生たちの声を聞いて、牧村さんは「これがあれば辛い思いをしなくても良かった」と思えるような内容を盛り込んだ副教材のようなものを作れたらと考えました。
プロジェクトのキックオフミーティングでは、性に関わる中学の理科、保健体育、高校の保健体育、家庭科の教科書をメンバーが読み、感想を交えてさまざまなことを話し合いました。
風間「その子にとっては早く教えるべきではないのかもしれないけど、なかには幼い子を性的対象にしたがる人もいる。そういう意味で言うと、知識がまだ備わってない方がいいのかもしれないけど、子どもの身を守るためには知識をという考え方もある。」
沖田「性虐待とか、物心つく前に、身内の人に性虐待を受けてる10代の方とか小学生の方とかいる。その時に、この教科書を読んだ時に、何も答えになることが書いてない。」
渡辺「これまでの性教育について、誰が傷ついているかとか、どこに痛みがあるかについて触れず、LGBTがあるとただ言うんじゃなくて、これまでの間違いを教育のなかで教えてもいいと思う。教育側が(間違いだったと)言ったら、誰が傷ついていて取り残されていたかの想像力が生まれるかなと思う。性別の問題以外で、その順番が自分にも回ってくるかもしれない。脚を欠損するかもしれないし、ひきこもりになるかもしれない。他の人は性的指向によって、生きづらさとか傷をかかえているということを、逃げずに教えることが大事かなと。」
嵯峨根「難しいところですね。僕の場合、障害者の話に触れてほしくない時期があった。僕は小学校の時にずっと脚を隠して生きてきて、誰にも見られたくないなと。先生は同じ障害を持っている人に話してもらって、みんなの理解を深めようって思うんですよね。でも僕としては、障害を持っている人が前に来て話すと、みんな僕のことだと思って聞いてるんと違うかな(と思ってしまう)。教科書に載せるのが必要だと思うけど、載せることで、目に触れることによって傷つく子もいるのかなと。」
牧村「話を聞いた人が結果として良くても、『かわいそうなマイノリティーさんです。どうぞー』とされた人の傷は癒えない。」
真境名「私の娘が、娘といっても戸籍上の次男がトランスジェンダーなんですけど、中学校時代が一番暗黒だったって言いますね。私はそういうことまったく気にしないので、もしかしたら娘は、なんて無神経なお母さんだろうと、すごい迷惑を被ったかもしれない。結局学校の先生と話し合いをへて、女の子の制服を着ていけるようになった時、彼女は言わないけど、バッシングとか、『何?』っていう空気もあったと思う。自分が無神経だから『気にしなければいい』って言えるけど、娘は災難ですよね。気にするのがおかしいとか言ってしまうことで、もしかしたら苦しんでいたかなと、今となっては思います。」
風間「たぶんやり方次第だと思う。チープな言葉になってしまうけど、そこに愛情があったら伝わり方が違って、大して興味もないのに『絶対闘わなきゃだめだよ』と言っているやつの言葉がガシガシ傷つけることもあれば、お前のこと思ってるんだよと言うけど、そんな馬鹿なと言うやつもいて。本当に相手のことを思って、相手をいとおしく思っている人の言葉というのは、傷つくことも言われるかもしれないけど、大ダメージになりづらいと思う。一番興味がない人の言葉が一番ダメージになる。」
プロジェクトでは、LGBTや性暴力といった分かりやすいものだけを扱うのではなく、「誰もが当事者」というメッセージを込めた、さまざまな人の考え方や姿勢を取り入れた媒体にしたいという方向に、話は進んでいきました。
牧村「どういう媒体とか。次に何をしたらいいか。自分が子どもの時に何が欲しかったですか? ホットドッグプレスがあって、エロ本があって良かったねって人もいたりしますけど。」
風間「手に取りやすいポップな、勉強として手を伸ばすものではない、自分が興味をひくと思うような、でもやっぱ冊子とかなのかな。どうなんだろう。」
真境名「冊子ってでもやっぱり堅くなっちゃう、教習所の本みたいになりがちで」
風間「方法について話すことは大事だけど、何かしたいという気持ちの方がたぶん一番大事だから、そこが今話せて一番良かったな。気持ちがなくて方法を考え出すと一番タチが悪いことになるから。もしかしたらこれからやろうとしていることは間違えているかもしれないけど、その間違えている姿勢も見せていけたらなと。」
牧村「(このプロジェクトは)教材を作っているところのドキュメンタリーにもなるんですよね。私はこれを作りたいってやってしまっても、私のための教材になってしまうので、まずはいろんな人に、性教育で何を教わったら良かったか、また先生たちが何を教えているか、現行の制度ではできないけど、本当は何を教えてあげられたら良かったと思うのかを聞きたいですね。」
風間「冊子を作れるとなった場合は、自分の今まで生きてきたこういう経験だったりこういう才能だったりとかいうものをそれに反映できると思います?」
真境名「私もさいたるマジョリティ-ですよね。めがねで丸顔で小太りのおばさんって、スーパーにいけば10人くらいいますよ。でもそれでもね、差別を受けたことないかって言えば、いっぱいあるわけですよ。辛い思いとかあるわけですよ。自分のなかの差別があったり、私も差別したこともいっぱいありますし、そういうのを自分が原点に立ち返られるような、自分だって色々弱点があるよなと。そういうことを素直にみんながうちあけられるような、雑誌ができたら素敵だなと思いました。」
いろんな人に話を聞き、性で傷ついている若者たちの力になる教材を作ろう。そんな気持ちで歩み出したプロジェクト。皆さんの思いやアイデアが、そのプロジェクトを動かします。
NHKハートネット(福祉情報総合サイト)の中にある「みんなの声」に、このプロジェクトに関するご意見、体験談をお寄せください。詳細はこちらへ・・・もうひとつの“性”教育 プロジェクトへのアイデアや体験談、募集中!
※この記事はハートネットTV 2018年4月9日(月)放送「ブレイクスルー2020→ もうひとつの“性”教育プロジェクト」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。