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“見た目にわかりづらい”難病患者の悩みとは? 求められる周囲の理解

記事公開日:2019年04月18日

2015年、難病患者を支援する新たな法律が施行されました。その結果、医療費の助成を受けられる疾患がそれまでの56から331に拡大。国の難病対策が一気に進展し、社会の理解も広がってきたように見えます。しかし番組ホームページには、外見からは分かりにくい難病の当事者から、切実な声が寄せられ続けています。これまで見過ごされがちだった、見た目に分かりづらい難病患者の悩みを当事者とともに考えていきます。

社会から理解されない“見た目にわかりづらい”難病

毎年2月の最終日は「世界希少・難治性疾患の日」です。難病患者の生活の質向上を目指したイベントが世界中で開催され、日本での開催は2019年でちょうど10年目を迎えました。

国は難病を以下のように定義しています。
・発病の機構が明らかでない
・治療方法が確立していない
・希少な疾病である
・長期の療養を必要とする

さらに、国は基準を設けて、医療費助成の対象を指定しています。
・患者数が一定の人数に達しないこと
・客観的な診断基準が確立していること

画像(難病の定義)

このように、国の難病対策の制度がある一方で、難病についての社会の理解はまだ不十分です。番組には多くの当事者から声が寄せられています。

「シェーグレン症候群。唾液や涙の分泌が悪くなる病気です。仕事柄、会話をする時間が多いのですが、口がカラカラに渇いて会話すら大変!頻繁に水分補給が必要ですが、上司に理由を伝えても『みんな喉が渇いても我慢してる』と。関節痛や筋肉痛もひどいのですが、痛みで困っていても理解されません」(そりたりぃさん・20代・女性)

「19歳のときに全身性エリテマトーデスと、血栓性血小板減少性紫斑病になりました。症状が安定せず、1か月に出勤できる日数も5日ほど。職場の人たちからは、日々変化する体調に対して『昨日は元気だったのに、なぜ今日は体調が悪いんだ。仮病で休んでるんじゃないか』などの声が多くなりました」(ちとにあさん・20代・女性)

特に目立ったのが、“見た目にわかりづらい”難病を患いながら働くことの悩みでした。

職場で理解してもらえない辛さ

難病当事者の川久保由加さんから、こんな声が寄せられました。

職場の理解と協力のおかげで、看護師を続けられてきました。しかし、人手不足な医療現場で、離職率も高いことから、症状を悪化するまで隠すようになりました。症状を甘えや怠けと捉えられ、誤解を生みます。伝えたくても言い訳になるのではないか?と臆病になる自分も悪いです。見た目ではわからない辛さですね。

川久保さんは一見すると健康そうですが、1年半前に末梢神経の難病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症。手足がしびれ、動かしにくくなるなどの症状が出るようになりました。歩くときは足首を支える装具が必要になることもあります。

画像(階段を下りる川久保さん)

川久保さんは総合病院で看護師として5年間勤務。病気を患ってからは職場に配慮をしてもらい、休憩を増やしました。しかし、見た目に分かりづらい難病のため、同僚の看護師にも病気のことを理解してもらうのは困難でした。そんな中、上司からある言葉を投げかけられます。

「気持ちの問題では?」

それ以降、川久保さんは苦しいときでも休憩の希望を言い出せなくなり、無理をすることが増えていきました。その後、症状が悪化。3か月ほど前から立ち続けることも難しくなりました。職場は、できる仕事がないか検討してくれましたが、これ以上は看護師として働くことは難しいと、自ら退職を決意。

画像(川久保さん)

今は、子どもたちに家事を手伝ってもらいながら、新しい仕事を探し始めています。しかし、見た目に分かりにくい難病を抱えてどう働けるのか、将来像を思い描けずにいます。

我慢を強いられている患者たち

女優で写真家の間下このみさんは、20代で抗リン脂質抗体症候群を公表し、闘病しながら出産、子育てをしてきました。

画像(女優・写真家 間下このみさん)

「(川久保さんのケースは)すごく気持ちが分かります。職場ではあまり迷惑をかけたくないとか、難病ということに気を遣ってほしくないと思って、無理をしてしまうことが多いです。痛みが出てきてしまうと痛み止めをこっそりと飲むとか、私はありました。川久保さんも職場でつらかったと思います。気持ちで痛みはとれません。」(間下さん)

難病患者の社会参加を進める活動をしている重光喬之さんは、13年前に脳脊髄液減少症を発症。常に首から腰にかけて激痛があるなどの症状があります。重光さんは、患者は我慢を強いられていると考えます。

画像(NPO法人代表 重光喬之さん)

「自分がどこまでやるか、どこまで頑張るか。我慢というか、自分との戦いになってしまうかもしれないといつも考えています」(重光さん)

20代で自己免疫疾患系の難病を発病した東京大学先端研 特別研究員の大野更紗さんは、病気と戦いながら難病政策の分析や患者の実態調査などを行っています。

画像(東京大学先端研 特別研究員 大野更紗さん)

「難病の患者さんといえば、かつては寝たきりとか、命にかかわるような重篤な疾患だというイメージがありました。しかし、現在は医療が進歩していて、治療をしながら就学就労して社会に参加するというのが患者さんのメインのあり方だと考えます」(大野さん)

分かりやすく伝えて理解してもらう

職場で病気についての理解を得られずに悩んでいる人が多いという現状。一方で、うまくコミュニケーションがとれている人もいます。

「先天性心疾患で生まれた私は、病気について他人に説明できるように父に教えられました。機会があるごとに、周囲に病気の説明をしていました。最近、心臓の調子が悪く、上司と職場のリーダーを交えて私の業務量調整の話し合いをしました。大事なのはサポートする側の人たちに、納得感を持ってもらうことです」(ドラゴンさん・40代・会社員)

ドラゴンさんは職場で病気の理解を得るために、自身の心臓が他の人とどのように違うのか、イラストを用いて説明してきました。

画像(ドラゴンさんが描いた心臓のイラスト)

「これはすばらしい方法だと思います。私は病気について口頭で説明することが多いですが、口頭だと伝えづらいです。イラストだと、小さなお子さんでも高齢者の方でも、パッと見て理解しやすいし、気持ちも伝わると思いました」(間下さん)

「難病は希少な疾患なので、インターネットで調べても医学の教科書以上の情報が出ていることが少ないです。ですので、職場の方や上司の方が、何が難しくて何ができるのかを考えるうえで、(イラストは)すごく分かりやすくて良い方法だと思います」(大野さん)

苦しみを文章にして難病とつきあう

難病の苦しみを文章にしたことで救われたという人がいます。

二十歳の堀内愛華さんは、血管の中に炎症が起きる膠原病の一種、高安動脈炎という難病を患っています。全身に痛みがあり、毎日10種類以上の薬の服用が欠かせません。

画像(堀内愛華さん)

堀内さんが病気を発症したのは高校1年生の夏。15歳の堀内さんにとって、見た目には分かりづらい難病のつらさを同級生に伝えるのは難しいことでした。入退院の繰り返しで学校にも通えなくなり、1人でふさぎ込む毎日を送っていました。

そんなときに始めたのが、難病のつらさを文字にすること。卒業を控えた3年生の春に、書き連ねてきた思いを110ページの文章にまとめました。

絶え間ない拷問のような凄まじい痛み。
こんな身体、いらない。こんなの、私じゃない。

画像(堀内さんがノートにつづった文章)

「何がなんでも書いてやるぞっていう気持ちが強かったと思います。誰かに見せようとか、そういうのは当時は考えていませんでした」(堀内さん)

やがて、堀内さんの心に変化が生まれました。壮絶な苦しみを文章にすることで、それでも生き抜いてきた自分に誇りを持てるようになったのです。

堀内さんには今、つきあって4か月になる恋人がいます。恋人の颯太さんは高校時代の同級生で、当時は病状を詳しく聞くことはありませんでした。卒業後に文章を読ませてもらった颯太さんは、堀内さんの気持ちを初めて理解できたといいます。

「自分が想像していたよりもひどいというか、さらに上を行くような痛みだったんだなというのは思いました。自分なんかで受け止めきれるのかというのはありました。でも、病気とかあっても、それを含めての彼女なので、受け入れていこうという決心につながりました」(颯太さん)

堀内さんの病気は、いつ症状が悪化するか分かりません。不安は尽きませんが、今は共にいられる時間を大切に積み重ねていこうと考えています。

まずは自分が変わることから

難病とのさまざまなつきあい方。
かつて自身の難病を本に記した大野さんが大切だと考えていることは、病気を客観視することです。

「6,000くらい難病はありますが、一人一人ニーズも症状も全然違います。自分の病気を客観的に理解すれば、それが自分のことを肯定することにいつかはつながっていくと思います」(大野さん)

画像(大野さん、間下さん、重光さん)

重光さんは、自身と同じく苦しんでいる人たちに、力を抜きながら希望を持ち続けるようにとアドバイスします。

「治したいとか治りたいという望みはあると思います。幸せになりたいという望みも。でも、100あったら50くらいを目指せばいいのかなと思います。自分もよく同様の立場の方に、『期待し過ぎず、でもあきらめないで』とお伝えしています」(重光さん)

当事者に向けて、勇気づけるメッセージも届きました。

「患者さんが心配するほど周りの人たちは冷たくない。支援してくれる方はたくさんいらっしゃいます。勇気を出して相談」(コケそうなペンギンさん・50代・男性)

国の対策が進む一方で、社会の理解がますます重要になる難病。ハートネットTVでは引き続きこの問題について考えていきます。

※この記事はハートネットTV 2019年2月7日放送「LIVE相談室“チエノバ”見た目に分かりづらい難病」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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