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働く女性座談会 視覚に障害があるなかで働き続ける秘訣とは

記事公開日:2019年04月17日

視覚に障害があっても、さまざまな工夫や周囲の理解によって働き続けている当事者たち。今回は、企業に長く勤める4人の女性たちに集まっていただき、座談会を開催。職場のIT化にどう対応しているのか、また仕事とプライベートをどのように両立させているかなど、身近なテーマについて率直に語り合います。

オフィスのIT環境に応じて工夫

今回、集まってくれたのは視覚に障害があるなかで働き続けている4人の女性たちです。

画像(左から奥沢美砂さん、菅沼晶子さん、高橋玲子さん、松尾牧子さん)

写真の左から順に・・・
●奥沢美砂さん
株式会社資生堂 社会価値創造本部 ダイバーシティ&インクルージョン室
企業の社会貢献やCSRに関する業務のほか、視覚障害の人向けに美容に関する音声コンテンツなども作成。網膜色素変性症。人の輪郭がなんとなく分かる程度。

●菅沼晶子さん
介護老人保健施設 ケアセンター八潮 リハビリテーション科
理学療法士として勤務。強度の弱視のため、仕事中は拡大読書器を使用。

●高橋玲子さん
株式会社タカラトミー 社会活動推進課
一般市場向けに売るおもちゃに目や耳の不自由な子どもたちも一緒に楽しめるような工夫をした「共遊玩具」に携わる。全盲。

●松尾牧子さん
ANAビジネスソリューション株式会社 経営企画室総務人事チーム
総務庶務全般や福利厚生、社内報などを担当。網膜色素変性症で、わずかに光が分かる程度。

―顔を合わせるなり真っ先に話題になったのは、「職場のIT環境の変化にどうやって対応しているか?」でした。近年、視覚障害者の間では、パソコンの画面を音声で読み上げるソフトが普及していますが、「グループウエア」と呼ばれる、企業独自のソフトウエアなどでは使えないことも多いのです。皆さんはどのように対応しているのでしょうか?

松尾「会社ではグループウエアを使っていて、それを見ないと電話帳とかも見られないんですけど、どんどんそれが進化していって、どこをいじればいいのかが分からなくて。音声で対応するのに、誰かに見てもらいながら教えてもらって、やっとアドレス帳にたどり着くことができるようになったりという、そんな状況です」

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職場での松尾さん

奥沢「私も会社のパソコンがWindows7からWindows10に切り替わって、画面のレイアウトも全部変わってしまったりするので、その画面の位置情報を把握するのにすごく時間がかかったり。操作方法の変わった部分を自分がちゃんと勉強していく必要があるので、視覚障害の方にパソコンを教えて下さる教室に通ったりという苦労もあります」

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視覚障害者向け美容情報の収録をする奥沢さん

菅沼「私の勤務先も大きなグループ系の病院なので、患者データを管理する独自のソフトを使っています。もちろんその方がセキュリティ上はいいとは思うんですけど、自分にそれだけの知識もなければ技術もなく、管理ソフトに対する音声をのせられないので、全くそこに自分がタッチできないという問題があります」

高橋「私の会社もグループウエアを使っています。名前だけ分かって正式な部署名が分からなかったりというときも、グループウエアで調べないと分からなかったり。今のアクセシブルなホームページと違ってタグがないので、まずスクリーンリーダーでマーキングをしたり、自分で使いやすいように整えるところから始まって。私は点字で使える情報端末を使っているんですけど、よくかける電話番号はそこで点字で見られるようにしていたりとか。でも最初に頑張って、グループウエア使えるとやっぱり便利かな」

自身と周囲の工夫で働きやすい環境を整える

―仕事を続けるうえでは、パソコンの操作以外にも様々な“困りごと”があると思います。どんな壁にぶつかったか、どうやって乗り越えたか、教えてください。

松尾「最初はどういうことが出来てどういうことができないのか、周りに知ってもらえていなかったんです。だからやることがなくて規定を読むだけだったのですが、仕事でもExcelが使えるということを知っていただく機会があって、そこから『これできる?』と聞いてもらえたり、『できることありませんか?』ってひたすら言い続けるとか、『これができないんでちょっと見てもらえますか』とお願いをしていったことで、皆さんも私が言わなくても『手伝いましょうか』と言って下さったり、だんだんそういう関係ができてきたかなと思います」

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仕事中の松尾さんの様子

菅沼「私は専門職(理学療法士)なので、理学療法の内容に関しては何とかなっているんですけれども、紙媒体がなくならなくて・・・。たとえば読んだ人は自分の名前のところにチェックを入れる、みたいな書類だと、最初のころは締め切りを過ぎてから『菅沼さん、チェックがついてないけど』と言われて、初めてそんなのあったんだと気付いた感じでした。それを繰り返していくうちに、周りの人が教えてくれたりするようになりました」

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職場での菅沼さん

奥沢「オフィスは通路もたくさんあって分かりにくかったんですけど、部のメンバーの方が私の自席の通路に点字ブロックがついているマットを置いて下さって、今でもずっとその点字マットと一緒に私は席替えとかしてるんですけど、本当にそれはありがたいですね」

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奥沢さんの席近くに設置された点字マット

積極的なコミュニケーションが長く働き続ける秘訣

―視覚障害に限らず、障害のある人にとって難しいとされるのが職場への「定着」です。同じ職場に長く勤めている4人が、働き続けるための秘訣として共通に挙げているのが「コミュニケーション」。具体的には、どんなことなのでしょうか?

奥沢「大事なのはやっぱり周りとの信頼関係とかコミュニケーション。どうしても誰かに手を借りることがあるので、気軽に聞けるような人間関係ってすごく大事だなと思っていて。もちろん、ばらばら聞かずに、なるべくまとまった時間をもらって。そういう頼み方とかも大事だと思うし、いつも同じ人にばっかり聞くのではなく、周りに働きかけるとか。あとはその都度、『ありがとうございます』っていうのがすごく大事だなって思っています」

菅沼「私もコミュニケーションはなるべく多くとろうかなって。解決しなくてもいいことだけど誰かに聞いてほしいっていうことは結構、多いと思うので、そういう話を聞きつつ、自分の仕事もお願いして、一方通行にならないように気をつけています。あとは、器具の使い方とか、長く働く以上できないことが多いと周りのサポートがどんどん必要になってしまうので、なるべく自分が分からないことは恥ずかしがらずに聞いて、やってみるというのも忘れないようにしたいなと思っています」

松尾「私もとにかくコミュニケーションはできるだけとりたいなと思っています。なかなか会えない職員であっても、電話がかかってきた時には“話しやすい雰囲気”を作っておきたいと思っています。あとは誰でもできることであって誰かがしなければいけないことであったら、時間の余裕がある時にはお手伝いしていけたらなという感じです」

高橋「私の場合は、勤めてから結構長いのと、『共遊玩具』という障害に関わる仕事をさせてもらっているというのもあって、逆に『自分だからこそできること』を積極的にやって、できないことはどんどんお願いする、みたいな仕事の仕方をしてきています。いい環境にあると思うんですけれど、それが私にとっては、長く働いていられる秘訣なのかな。『自分だからできることは何なんだろう?』っていうのはいつも探している感じがします」

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職場で共遊玩具を説明する高橋さん

オンとオフの切り替えが仕事へのエネルギーに

―仕事を長く続けるには、オンとオフの切り替えも大切ですよね。帰宅後や休日など、プライベートの過ごし方もそれぞれ教えてください。

松尾「私はバイオリンをやっていて、余暇でオーケストラに参加させてもらったりしています。その準備に追われることも多いですね」

高橋「私は10年ぐらい前から趣味で合唱をやっています。合唱団って1人じゃ絶対できない。練習に行って、みんなと声を合わせて初めて、自分が大好きな曲を『こんな曲だったんだ!』みたいに知る瞬間って本当に嬉しくて。昼間にすごく嫌なことがあって疲れてても、練習に行って歌うと、大袈裟かもしれないけど『生きててよかった!』と思うこともあるぐらい楽しんでやっています」

奥沢「私はいま小学1年生の娘がいて、普段の夜は学童保育に7時ぐらいにお迎えに行って、それからご飯にしてと、あっという間に時間が過ぎちゃって。会社も『ここで帰らないと、学童に間に合わない!』みたいな感じなので、逆にそれで自分では踏ん切りがつけられるかな。子どもはスキーが好きで、私も昨年は20年ぶりくらいにスキーを滑りました。視覚障害の人と一緒に滑って下さるっていう方がいて、サポートしてもらうことで出来ることも色々あるから、そういう形で充実させてます」

菅沼「私はシングルマザーで娘が1人いるのですが、小学校のころはすごく大変で、楽しむっていう感じじゃなかったんですけど。思い返すとその頃が一番楽しかった子育ての時間だなって。私は趣味としては学生時代からハンドベルをずっとやっていまして、当時からいるメンバーと一緒に練習したり、演奏会に出席したりする中で、仕事の悩みも皆で話したりするのもすごく気分転換になっていますし、続けていきたいなと思っています」

画像(収録の様子)

高橋「仕事で嫌なことがあってもそれとまた別の世界を自分は持っているっていうのは、すごく励みにもなるし、居場所が2つあるみたいな感じ。毎日生きていくうえでの活力になってるんじゃないかな」

奥沢「私も仕事で何か思い悩んだりことがあっても、家に帰って考える余裕もないくらい色々やってると、かえってそれが気分転換になったりとか。逆に家で大変な時でも、会社で話すだけでもすごく気が楽になったりっていうのがあるので、両方あるっていうのはすごく大事だなって思います」

菅沼「自分が背伸びして頑張らなくてもいい場所があって、そこに行けばいつも同じような仲間がいるっていうのがすごく励みになってます」

松尾「会社で『ここはどう考えても分からないな』と思って悶々として、とりあえずその日は帰ったとしても、プライベートに切り替えてオフにしたら突然夜中に、『あ、できる』って思いついたり。やっぱり切り替えることによって、頭を1回リフレッシュさせて、ということもすごく大事なのかなって思いました」

座談会を終えて・・・(収録後記)

座談会は、話が尽きることはありませんでした。「パソコンはどう使いこなしているの?」「同僚とのコミュニケーションは?」「プライベートは何してる?」など、次から次へと話に花が咲き、「あるある!」と笑いが溢れました。

世代や職種の違いをこえて、働く女性としての大いなる共感がそこにはありました。「誰にでもできること」を誠実にこなし、「自分にしかできないこと」を高めていく。仕事の現場での、真摯な働き方が目に浮かぶようでした。

4人はそれぞれ、仕事以外の「居場所」をしっかりと持っています。奥沢さんは子どもとの時間を大切にしています。子育てが一段落した菅沼さんは、学生時代から続けるハンドベルを楽しみ、高橋さんは合唱に、松尾さんはバイオリンに、それぞれ打ち込んでいます。家族や仲間といった絶対的な応援団の存在が、仕事に向かうエネルギーになっているのは言うまでもありません。

4人のお話を通して、私は自分自身をこっそり見つめなおしておりました。
みなさんにとっても、そんなきっかけになれば嬉しいです。

執筆:視覚障害ナビ・ラジオ ディレクター 遠田恵子

※この記事は2019年1月20日(日)放送の視覚障害ナビ・ラジオ「シリーズ 仕事の現場 番外編 働く女性の座談会」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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