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【特集】東京“ホームレス” (4)安定した暮らしを続けるために

記事公開日:2019年04月08日

従来のホームレス対策とは異なる支援の考え方「ハウジングファースト」。「住まいは権利」という考え方に立ち、無条件でまず個室を提供し、支援はその後に行うというものです。大切なのは、路上に戻ることなく、暮らしをどのように持続させるか。ハウジングファーストの理念と課題をみつめ、これからのホームレス支援のあり方を考えます。

「ハウジングファースト」の仕組みと課題

これまで東京では、路上生活者は無料低額宿泊所などの集団施設に一定期間入り、その後、自立できると判断された人だけがアパートなどに移るというのが通常の支援の流れでした。しかし、「ハウジングファースト」は、「住まいは権利」であるというこれまでの支援とは異なる考え方に基づいています。(※詳しくは前回の記事へ

難しいのは、入居につながった人たちをどう継続的に支援していくかです。
3年前から、7つの団体が連携して取り組む「ハウジングファースト東京プロジェクト」。では、夜回り・炊き出し、医療や居場所作りなど、それぞれの団体が強みを活かして多様な支援を展開しています。医療と訪問看護は診療報酬を得て、事業として成立しています。その他の運営資金は、クラウドファンディングやNPOへの寄付が中心です。

画像(ハウジングファースト東京プロジェクトの支援の仕組み)

この仕組みについて、日本福祉大学の准教授で、厚労省の「社会福祉住居施設及び生活保護受給者の日常生活支援のあり方に関する検討会」構成員でもある山田壮志郎さんは、「医療」が入っている点が、当事者とサービスを結びつけるうえで効果的と評価します。

画像(日本福祉大学 准教授 山田壮志郎さん)

「よく日本人は、助けてというのが苦手だと言われるんですけど、ホームレスの人たちも同じです。その点、頭が痛いとかかぜをひいたとかそうした困り事は、助けてと言いやすい。お医者さんにみてもらおうという行動にもつながりやすく、基礎的なニーズはSOSを出しやすく、支援者側も受け止めやすいのかなと思います」(山田さん)

しかし、ホームレスになる人の背景が、従来考えられていた失業だけではなく、精神疾患や障害など多様化していることで、ニーズもさまざま。そうした多様な支援を、どのように提供していくかが課題になっています。

ある日、「ハウジングファースト東京プロジェクト」に参加する支援団体の1つ、ホームレスを支援するNPO法人 TENOHASIの清野賢司さんは、また1人、路上で暮らす男性をアパートに案内していました。

画像(部屋に残された日用品)

プロジェクトが管理するアパートはいつもほぼ満室ですが、この日、案内した部屋は、急きょ空きが出たもの。部屋には、前の入居者が使っていた大型のテレビが残されていました。かつて住んでいたのは、清野さんが路上で声をかけた男性。しかし、入居後、予想しなかったことがおきました。

画像(ホームレスを支援するNPO法人 TENOHASI 清野賢司さん)

「いなくなっちゃったんです。すべてものを置いて。脆弱性というか、それまでの経験から、ストレスにとても弱くなっている状態で。そうすると、これでいいだろうと思った時に、え!っていう風なことがおきます。集団生活だと、普通、喧嘩して頭にきて出るのはあるじゃないですか。そうじゃなくて、誰かと誰かが喧嘩してたら、それが怖くなって出ちゃうとかね。1回失踪して、しばらくしてまた来てくれたんで、元気ならまたどこかで顔を出してくれると思うんですけど」(清野さん)

プロジェクトの支援を受けてアパートなどで暮らす人はこれまでおよそ170人。しかし、毎年2~3人が、支援の途中で失踪してしまう現実があります。

“居場所”から踏み出した新たな1歩

一度、アパートから失踪したものの、再び戻ってきた人もいます。この日は、プロジェクトの医師が行う、週に2回の診察の日です。20年以上、路上生活をしてきたなべさんは、プロジェクトと出会った当初はてんかんとうつ病、高血圧を抱え心身ともに憔悴していました。

医師の西岡誠さんは、なべさんを初めて診察した時の様子をこう振り返ります。

画像(医師 西岡誠さん)

「別人ですね。もっとまず痩せてました。げっそりしてて、55キロで、しかも最初会った時、しゃべってましたっけ。車の中でね、倒れてたんですよね。ぐったりして。頭痛くて、血圧は200超えで、大事な薬は、全部なくなってね」(西岡さん)

アパートに入り、通院を始めてから、なべさんに変化が現れました。自ら血圧を測って記録し、健康を意識し始めたのです。

画像(なべさんの血圧の記録)

しかし、1人暮らしは最初からうまくいったわけではありませんでした。引っ越しを済ませた数日後のこと。

「ガスの立ち会いとか、電気、家賃の払い方とか、だんだん今度、全部やんなくちゃいけないから、それが全然分かんなくて。不安で不安で、家出しちゃったんです」(なべさん)

アパートを飛び出し、街を放浪したなべさん。スタッフからの電話で戻った時、ある言葉をかけられました。

「場所が遠くても、距離が離れてても、みんないるから、心配しなくていいからって。もし、なんか不安なことあったら、誰でもいいから声をかけてと。それを聞いた時に、今まで考えてなかったんですけど、1人じゃないんだ。みんないるんだと。なかなか連絡がとれなくても、みんないるんだっていうのを教えてもらって。スタッフさんと一緒に銀行に行って、振り込みの手続きの仕方、それの操作を後ろで見ててもらって、違ったらまた、教えてもらって、何か月間かやってたんですね」(なべさん)

再び、家での暮らしを取り戻して4年。なべさんは今、新たな1歩を踏み出しています。

プロジェクトに協力している地域のパン屋で、ボランティアを始めたのです。焼くのは、今、路上で寝泊まりする人に配るパン。週1回、スタッフとともに夜回りに参加し、一人一人に手渡ししています。

「なんとか自分も、ここまで来られたんだから、なんかやってあげたいなって。これは昨日の話なんですけど、(路上で)出会った人が、『どっか施設ないですかね』って言ってきたんですよ。ご本人から。TENOHASIのスタッフさんにつなげて、『そこでいいですか』って言ったら、『はい』って言って。だから自分も嬉しくってね、『良かったですね』って言って。自分もそうだったから」(なべさん)

アパートに入る前、自分は孤独だったとなべさんは言います。

画像(パン作りを手伝うなべさん)

「アパートに入ったから終わりではなくて、アパートからが本当の出発点。本当に何か、居場所があるっていうのはいちばんいいなあって。前はなかったですからね、本当に。孤独でした。パン作りを手伝いに行くじゃないですか。自分を頼りにされているっていうの、すごいなあってね。自分で焼いているんですからね。はははは」(なべさん)

ホームレスの人の住まいや生活は社会全体の問題

「ハウジングファースト東京プロジェクト」の取り組みについて、長年、生活困窮者の支援をしてきた大西連さんは、次のように話します。

画像(路上生活者の支援団体理事長 大西連さん)

「貧困とか生活困窮の問題を考える時に、経済的な問題・経済的な貧困と、つながりの貧困、関係性の貧困、いろんな言い方があるんですが、いわゆる孤立の問題、その2つがセットだと考えています。これまでの支援は『経済的に自立しよう』みたいなのが中心だったんですけど、ハウジングファーストは、まず住まいを安定させて、生活の支援をすると同時に、行く場所があるとか、人と人がつながっていく。そこをみんなで、与える与えられるじゃなくて一緒に考えながら、本人の話を聞いていろいろやりとりをして、丁寧に丁寧につないでいく。そこに特徴があって、希望があると思いました」(大西さん)

一方で、多様なニーズに応えていくためには、公的な支援の仕組みが必要だと訴えます。

「一人一人のニーズ、課題、困難を1つの団体・ネットワーク・地域だけで支えるというのは、難しさはあります。それをどうやったら解決するのか。確かに居場所があれば、そこが居心地が良い人もいるんですけど、そこでトラブルになって、喧嘩して、あの人が一緒だと嫌だとなって行かなくなってしまうと、また孤立してしまう。でもそういう居場所が地域のなかにたくさんあれば、1か所がダメでも他のところに行ける。そういうつながりをたくさん作るような活動や地域の資源が必要で、しかもそれをNPO・民間だけではなくて、公的な仕組みや行政が支援をして、作っていくことが必要だと思います」(大西さん)

現在、国も、ホームレス状態の人に住まいをどう提供していくか、生活をどう支えていくかについて検討を行っています。国の検討会にも参加する山田さんは、いま行われている議論から一歩前に進め、「どうすれば様々なニーズのある人たちが、地域生活を持続できるか」を考えていく必要があると強調します。

画像(日本福祉大学 准教授 山田壮志郎さん)

「現在、国の検討会では、無料低額宿泊所というホームレスの人たちを受け入れてきた施設のあり方が検討されています。無料低額宿泊所のなかには、貧困ビジネスと呼ばれるような劣悪な施設があって、規制を強めていこうというのが1つ。もう1つは、地域生活が難しい人たちに、良質なケアを提供している施設を育てていこうという、これがもう1つの趣旨になっています。一方で、地域生活が困難な人というのが、どういう人かというのを考える必要があると思っています。今、社会福祉は認知症を抱えている人でも、重度の障害がある人でもできるだけ地域で生活できるように支えていこうという流れですけど、一般のアパートで生活をしながら、さまざまな支援を受けながら地域生活を持続させていく。そういった発想が必要なのではないかと思っています」(山田さん)

“ホームレス”の人の生活や住まいを考えることは、社会の「セーフティネット」を考えること。地域でみなが一緒に暮らしていくために、NPOや行政任せにするのではなく、一人一人が一緒に考えていく姿勢が大切なのです。

【特集】東京“ホームレス”
(1)東京2020の影で 明らかになる実態
(2)届きにくい支援
(3)ハウジングファーストという考え方
(4)安定した暮らしを続けるために ←今回の記事
(5)“すまい”を失う不安と解決のヒント

※この記事はハートネットTV 2019年4月9日(月)放送「TOKYO“ホームレス”2019『ハウジングファースト』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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