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【特集】東京“ホームレス” (2)届きにくい支援

記事公開日:2019年04月02日

2020年のオリンピック・パラリンピック大会の開催に向け、再開発が進められる東京。世界の注目が集まるなか、都は「自立の意思を持つ全てのホームレスが地域生活へ移行」を目標に掲げ、路上生活者の支援を行っています。しかし、そこには課題も指摘されています。今、本当に必要な支援とは何かを考えます。

課題の多い無料低額宿泊所

東京オリンピック・パラリンピックを前に、東京都は「自立の意思を持つ全てのホームレスが地域生活へ移行」を目標に掲げ、支援を進めています。

現在、行政は路上生活者からの相談を受けると、自立支援センターという施設につなぎます。支援センターは東京都と23区が共同で運営していますが、入所には条件が設けられており、実際は入所できないことが多いのが実情です。

画像(東京都のホームレス支援)

そこで用意されているのが、民間が運営する無料低額宿泊所です。無料低額宿泊所は生活保護を受けていれば無条件で受け入れる場合が多く、入所している人の数が、自立支援センターの4倍以上となっています。しかし、今、ここである課題が持ち上がっています。

複数の施設を運営する事業者は、苦しい実情を知ってほしいと都内にある無料低額宿泊所の取材を受けてくれました。行政の委託を受け、路上生活者の受け入れを行う施設の1つです。2段ベッドが置かれ、ベッド1つ分が、1人あたりの生活スペースです。この施設は都が定める居住環境のガイドラインを満たせていませんが、採算を考えると、スペースを広げることは難しいと言います。

「基本的には、お食事とか、そういったものは食堂で皆さんやっていただいて、居室のほうはあくまでもお休みになるスペースという形で利用していただいております」(無料低額宿泊所を運営する社会福祉法人の職員)

入居者はここで生活保護費を受給しながら職を探します。毎月の生活保護費から、施設利用費や食事代など、およそ10万円が支払われますが、運営は常に赤字だと言います。

画像

入居者が施設に支払う費用の内訳

「最近の傾向ですと、若い方・手帳をお持ちでない方であっても、ちょっと発達障害なのかな、知的障害なのかなと思われる方も非常に多いです。自分の管理、金銭管理とか、お金の使い方であったりとか、服薬なんかも自分ではなかなかすべてやり切れない方も多い」(無料低額宿泊所を運営する社会福祉法人の職員)

80歳以上の高齢者もいます。10人のスタッフで24時間見守り、排泄介助、病院への付き添いなど、本来は業務外の対応もしています。収益の多くを人件費に費やしますが、それでも人手は足らず、無料低額宿泊所で医療や介護などの専門的なケアを行うための制度は、今のところ設けられていません。

現状の課題をどう考えるのか。23区で最も無料低額宿泊所が多い豊島区に話を聞きました。

画像(豊島区役所 生活福祉課 課長)

「路上生活を脱却していくための1つのステップとして、1つの選択としては、数少ないなかで、無料低額宿泊所を選ばざるを得ない。高齢者の方だったら高齢者福祉課とか、障害者だったら障害福祉課とか、足りない部分は、ほかの部署との連携で補っていくことで効果が出るようにやっていくことであればいいのかなとは思います」(豊島区役所 生活福祉課 課長)

入所するも環境の悪さに耐えきれず「再路上化」

こうしたなか、無料低額宿泊所への入所が自立につながらず、路上生活に戻る“再路上化”が問題になっています。

“再路上化”を繰り返した経験がある沢田さん(仮名・63歳)は、2年前、民間の支援につながり、現在は都内のアパートで暮らしています。

画像(台所に立つ沢田さん)

沢田さんが路上生活を始めたのは、30年前。勤めていた造船所の倒産がきっかけでした。缶集めや警備員など、日雇いの仕事を転々とする日々が始まります。

「半分はきついんですよ、慣れるまで。労働仕事ですから。あとは、野宿ですか。それじゃ、身がもたないからですね、精神的に。若いうちだけですよ、ああいったのが続くの」(沢田さん)

さらに、日雇いの仕事で負ったけがで、できる仕事に制限が生じてしまいます。
その後、行政の紹介で無料低額宿泊所に入りましたが、劣悪な住環境に耐えきれず、再び路上生活へ。30回以上、宿泊所と路上を往復してきました。

「にっちもさっちもいかないでしょう。もう、どうでもいいや、と思いながら生活してたんですね。だから、その前もけっこう、人生やめようかなと思ったんすよ、もう。こっち(路上)で」(沢田さん)

30年の路上生活によって、人間関係も絶たれてしまいました。緊急連絡用に渡されたスマートフォンで音楽を聴くのが、唯一の癒やしだと言います。

画像(スマートフォンで音楽を聴く沢田さん)

本当に必要な支援とは

住まいを得ても安心できずに再び路上に戻ってしまう路上生活者。この、負のサイクルを断ち切るために、行政は何をすべきなのでしょうか。

東京の路上生活者の支援を行っている支援団体理事長 大西連さんは、現在行われている支援の現状を次のように話します。

画像(大西さん)

「ホームレスの方が制度を利用して、でも再路上化してしまうと、『自己責任じゃないか』という声が正直よく聞かれるんです。でも今、自立支援センターもそうですが、都内で個室の場所がすごく少ない。非常に問題だと思います」(大西さん)

現在、国では、無料低額宿泊所のあり方について検討会を開き、個室化を義務づけることなどが議論されています。大西さんはこの動きを評価する一方、足りない視点があると指摘します。

「いわゆる貧困ビジネス対策、規制はすごくいいことだと思います。面積を最低限これくらいにする、と言うのは大事ですけど、一方で、(無料低額宿泊所の職員が)排泄の支援をしているとか、介護をしていると、専門性のある職員なのかとか、介護保険が使えないのとか、いろいろ思うところがある。そういう支援をどうするのか、という視点がとても重要。もっと言うと、生活保護は制度の法律上、居宅保護の原則というのがあって、誰でもアパートに入れるという仕組みなんです。そこをもう一度取り戻すと言うか、施設前提の仕組みではなくて、誰でもアパートに入れる、そのための支援をする、という視点は必要だと思います」(大西さん)

東京都は2019年の4月から、就労が難しい高齢者で、長期にわたる路上生活をおくってきた人を対象に、支援員がついて福祉サービスを行いながら住宅を貸し出す施策を行うとしています。これまでモデル事業として一部の地区で行っていたものを、23区全体に広げるというものです。

ホームレスの実態調査を行っている東京工業大学 准教授 土肥真人さんによると、五輪の開催をきっかけに、支援のあり方を改めた都市もあると言います。

画像(東京工業大学 准教授 土肥真人さん)

「最初、アトランタで(およそ1万人以上の路上生活者が逮捕されるという)ひどいことがあって、その次のシドニーオリンピックでは、社会で包摂して、共にオリンピックを楽しみ、オリンピックに貢献する。ホームレスの人も貢献してもらうということで、行政市民NPOが、一緒になってホームレス問題を考えていく、ということをやってます。プロトコルというのをつくって、『ホームレスの人も市民であり、公共空間にいる権利がある』、そういうことを言ってます。一方で、必死に、路上にいるのは危ないから、アパートに入ってもらうということをやっている」(土肥さん)

共にオリンピックを楽しむために、ホームレスの人たちを排除ではなく包摂する。そんなレガシーも、過去に五輪を開催した都市では生まれているのです。

「このホームレス問題は、世界中の都市で多くの方々が、解決しようと努力している。あるいは歴史的にもそうした挑戦はされてきたけれど、とかれたことのない、難しい問題です。いろんな背景があるし、行政ができることも、限られている。だから、これまでのロンドンやシドニーオリンピックでは、市民の人たちがたくさん知恵を出して、多くの行動を起こして、レガシーにつなげている。ですから、今回の東京オリンピックは、そういう意味では絶好のチャンスで、市民の人たちがホームレス問題を知り、そして考え、小さな行動に移していく。そういうことが大事だと思います」(土肥さん)

今、本当に必要とされている支援は何か。共に考え、行動に移していくことが、さまざまな人を「包摂」できる社会にしていくための一歩になるのです。

【特集】東京“ホームレス”
(1)東京2020の影で 明らかになる実態
(2)届きにくい支援 ←今回の記事
(3)ハウジングファーストという考え方
(4)安定した暮らしを続けるために
(5)“すまい”を失う不安と解決のヒント

※この記事は2019年4月2日(火)放送 ハートネットTV「TOKYO“ホームレス” 第1回 明らかになる多様化の実態」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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