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育児と介護を同時に “ダブルケア”時代の到来

記事公開日:2018年03月30日

「子育て」と「介護」。どちらかだけでも大変なのに、もし両方を同時にとなったら一体どうなるの・・・? 実はこれ、他人事ではありません。内閣府の調査では、未就学児の育児と介護を同時に行っている人は、全国に25万人以上いると推計され、”今後そうなる可能性のある“予備軍も、相当数いると見られています。現在“ダブルケア”にあたっている人の声を元に専門家や経験者のアドバイスも交えて考えます。

追い詰められるダブルケアラー

横浜国立大学大学院准教授の相馬尚子さんが“ダブルケア”という言葉を生み出し、問題提起をしたのが2012年。その後、国が実態調査に乗り出すなど「一定の進展はあるものの、まだまだ大きな課題が残っている」のが現状だといいます。

追い詰められたダブルケア当事者の声です。

90歳の祖母の在宅介護をはじめて2年半になります。私、主人、5歳、7歳の子どもと祖母の5人暮らしです。去年、うつになりそうになり、介護放棄したりしました。介護殺人して終わってしまうんじゃないかと、思っていたこともあった。(ちびさん・30代)

私は、第1子妊娠中に実母の看病と認知症義母の介護が重なりました。徘徊や暴言、暴力も激しく、生まれたばかりの息子に物を投げつけられることもあり、そのときは私も思わず手をあげてしまいました。子どもへの申し訳ない気持ちをどうにもできず、それがいちばんつらかったです。(リトルパインさん・40代)

ダブルケアの当事者は、育児と介護にどう優先順位をつけるか、日々決断を迫られています。どちらかを優先せざるを得ないなかで、選ばなかった一方に対し、十分にできなかったと悔やんでしまう。そんな当事者の様子が、相馬さんの調査からわかってきています。とくに、子どもにしわ寄せがいったときに、ダブルケアの負担感が最もピークになる傾向もうかがえます。

そうした中、悩みをひとりで抱え込んでしまう当事者も少なくありません。背景には、ダブルケアは女性が1人で、自宅で育児と介護を行うケースが多いこと、また、ダブルケア当事者は30代、40代がボリュームゾーンで、周囲に介護を経験する人が少ないため、ママ友などに相談しにくいこともあります。
長年、ケアマネージャーとして介護をする人、そしてダブルケアの当事者とも接してきた小藪基司さんは、ダブルケア当事者のなかには、そもそも、自身でダブルケアを担っている認識がなく苦しんでいる人が多いと指摘します。

ダブルケアラーの悩み 離職と金銭的な負担

ダブルケア当事者は、他にどのような問題を抱えているのでしょうか? カキコミのなかで多かったのが、仕事との両立に悩む方の声です。

5歳と2歳、2人の子育て中です。そして、実母が認知症です。母は父と同居。夜中に頻繁に起きたりするため、父も寝不足になり、ほぼ限界です。そのため、私は仕事を辞め、日中は子どもたちを保育園に預けて母と過ごし、保育園のお迎えとともに母を自宅へ送る生活です。(なのはさん・30代)

仕事との両立に悩む実態を表すグラフがあります。ダブルケアを経験した人のうち、離職したことがある人の割合です。

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男性が4人に1人、女性は3人に1人。女性・男性ともにダブルケア離職が大きな課題になっていることがわかります。

さらに、ダブルケア当事者に重くのしかかるのが、経済的な負担。仕事の問題とも密接です。

1歳半の息子がいます。実母は70歳でパーキンソン病です。介護費用は月に十数万。ローンや子どもにかかる費用など、共働きでも家計は赤字です。仕事を辞めて在宅で介護することも考えましたが、経済的にも私が働かなくては回りません。今後、介護費用をどうまかなっていくか、悩みはつきません。(りいさん・30代)

「20年前、くも膜下出血で倒れた母と、5年前に脳出血で倒れた父の生活を支えながら、結婚、妊娠、出産。お金が潤沢にあれば…と何度思ったことか。」

ダブルケアで支出が増え、仕事を辞めることで収入が減る。当事者は精神的にも追いこまれていきます。

「私たちが行ったダブルケアラーに対するインタビュー調査では、『仕事が逃げ場になる』といった声が多く聞かれました。仕事・育児・介護を同時に担うのは大きな負担となる一方で、『仕事で日々の精神的なバランスをとることができた』『家計の必要から仕事を継続していかなければ、ダブルケアのコストを負担できない』そういった声が多く聞かれました。」(相馬さん)

相馬さんらによる調査では、ダブルケアの家庭で育児・介護にかかる費用は、月平均8万円を超えることがわかりました。

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「100人のダブルケアラーの方がいらっしゃれば、100通りのダブルケアがありますので、これはあくまでも平均額です。この金額以上のケースも、もちろんありました。学資保険を解約するなど、子どもに対する費用を節約して介護費用にまわすという厳しい現状も、私たちの調査から浮き彫りになってきています。」

さらにダブルケアが貧困の一因にもなっているといわれており、貧困対策の一環としてのダブルケア支援も、必要とされています。相馬さんは「教育にかかる費用の無償化や、ダブルケアに対するサービスの助成を拡充するなどの政策があれば、ダブルケアの経済負担は軽減できる」と制度の充実を訴えます。

ダブルケアを支援する自治体の取り組み

全国的には、ダブルケアへの対策が進まないなか、一部の地域では、ダブルケアで悩む方たちの受け皿ともいえる活動が始まっています。

大阪府堺市では、2016年 10月から、市内7つの区役所に、ダブルケアの相談窓口を設置。そこでは、育児と介護の両方の研修を受けた保健師や社会福祉士などが相談にのります。

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ダブルケアの悩みは育児や介護だけでなく、上図のように多岐にわたります。窓口では相談を受けたあと、必要な部署と連携。包括的にサポートできる体制をとっています。当事者の悩みを把握することで、新たな制度づくりにもつながっています。

さらに2017年4月からは、特別養護老人ホームの入所の要件を設定し、ダブルケアの場合は優先的に入所できる制度もスタート。他にも、ショートステイを利用できる日数の拡大や保育園への優先入所など、ダブルケアの負担を減らす環境づくりを進めています。

香川県でも、2016年4月からNPOが新たな取り組みを始めました。ダブルケアの当事者たちが集まる “ダブルケアカフェ”です。月に1度開催され、費用は無料。誰でも気軽に参加できます。介護に詳しい保健師と育児に詳しいNPOのスタッフが同席し、アドバイスをしてくれます。

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参加者の女性:「介護はトイレのしかたから、もっとええ方法があるん違うかなとか、服の着方でも、もっとお父さんの着やすい方法、着やすい服があるん違うかなと、すごい思ってた。けど、やっぱり小さい子を連れて介護が難しい。」

保健師:「そんなに自分が全部仕切って把握しなきゃって思わずに、あの人に聞いたら分かるからあの人とは連絡を取り合っとこうとか。」

参加者の女性:「この人にって言われたら、今、そういう人がいないです。」

NPOスタッフ:「家族やけん、できることとできんことってある。プロの人に任せるところは任せたほうが、お父さんにとってもええと思えたら、気が楽になるけん。」

NPOスタッフは、専門家だけでなく、同じ悩みを持つ人とつながりあえる場を目指しています。
「まず、何でも言える場所なんだと認識してもらいたいです。ここに行けば、子育てのことも介護のことも聞いてもらえる。自分自身のことも受け止めてもらえる場所と思ってもらえるのがいちばん。」(NPOスタッフ)

こうしてカフェは孤立を防ぐ場として活用されています。

ダブルケアを“社会問題”として認知する

今後、どのようなダブルケア対策が必要なのでしょうか。

「現状の制度は、高齢者、子ども、というように対象、目的別のサービスになっていて、それがダブルケアラーにとっては非効率な制度となっています。ダブルケア当事者の複合的なニーズに対応する制度が必要で、それができれば、ダブルケア当事者はもちろん、もしかしたら高齢者や子育て家庭にとっても、より行き届いた制度になっていくと思います。」(小藪さん)

「サービスは社会化されましたが、ケアの責任者・キーパーソンという部分は社会化されざる領域として残っていると思います。ケアの責任を巡る、まず社会的な議論が必要になってくると思います。改めて、このダブルケア、多重責任という新しいケアワークの発見、新しい視点からの議論をする時期にあるのではと思います。」(相馬さん)

日本がダブルケア時代に突入するなか、社会の包括的なサポートが必須となっています。まずは私たちが、ダブルケアを「社会問題」として認知していくことが必要ではないでしょうか。

<出演者より>ダブルケアで悩んでいる方へ

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《小薮基司さん》
社会福祉士。ケアマネージャーとしてダブルケア当事者と接してきた。
現在、横浜市の介護福祉施設で所長を務める。

「ダブルケアラーの方には、地域の『地域包括支援センター』にぜひ相談してもらいたいです。『地域包括支援センター』は介護保険の申請をするだけの場所と思われる方も多いですが、介護だけでなく、介護者を支援することも使命としてあるんです。しかし、相談に来る人も自分自身のことを相談できると思っていないので、ダブルケアラーの問題というのがそのまま棚上げされてきたんです。だからぜひカミングアウトじゃないけれど、自分自身が辛い状況なんだということを伝えてみてほしいと思います。
また、仕事との両立に悩む方が多いのですが、私どもに相談される時点では、すでに仕事を辞めてしまっている、辞めることが決まっているといった方が非常に多いです。辞める決断をする前に、どういった介護サービスが利用できるかなどの相談を、ぜひ専門家にしてほしいと思います。」

※この記事はハートネットTV 2017年8月3日(木)放送「WEB連動企画“チエノバ” ダブルケア」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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