ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

視覚障害者の4割が経験! ホーム転落

記事公開日:2018年03月30日

街なかには、目が見えていれば意識しないようなことでも、視覚に障害のある人にとっては危険なことがあふれています。どんなもの、どんな状況が視覚障害のある人にとって危ないのか、周囲がサポートするにはどうすればいいのか、カキコミやメールで紹介された経験者の話を元に考えます。

視覚障害者の4割が経験!? “最も危険”な駅のホーム

「道の端にある溝のふたがないため、よく落ちてしまう」
「ATMや家電製品などにタッチパネル式が多いので困る」
「ハイブリッドカーに気付かず、ぶつかりかけた」

これらは、視覚に障害のある方から届いたカキコミやメールの一部です。視覚障害者の間では、よく話題に上るような問題ですが、中には命の危険に関わるような問題もあります。特に寄せられた声が多かったのが、「駅ホームからの転落」。日本盲人会連合が実施したアンケートによると、なんと視覚障害者の4割の人が経験しています。

当事者に「欄干のない橋」や、「柵のない絶壁」と例えられるほどの駅のホーム。
視覚障害者団体の主催で開かれた駅の安全性を考えるワークショップでは、参加した視覚障害者20人のうち、半数の9人が実際に転落したことがあり、さらに転落しかけたことがある人は4人いました。

photo

なぜ、こんなに多くの人がホームから落ちてしまうのでしょうか。ホームから落ちた経験のある視覚障害者は、そのときの状況をこう話します。

「同じ時間帯に上りと下りの電車が入ってきて。ブレーキの音が聞こえたから、僕は下りホームにおって、てっきりその電車やと思って乗ろうと思ったら、そのままダイブしてしまったんですよ。」(男性参加者)

「前の方に乗ろうとしたら、それが電車の一番前の端で、切れてたところで、端だった。」(5回ホームから落ちたという男性参加者)

「人混みが多かったりね、通勤とかで歩いているときに、やっぱり人がいたりするとどうしても自分はまっすぐ歩いているつもりが、ホーム(線路)の方に出て行きそうになったりとか。」(女性参加者)

思い違いで転落 佐木さんのケース

電車が来たはずだ…。ここがドアのはずだ…。視覚障害者の転落事故は、こうした「思い違い」から起きる事が多いと言われています。

ワークショップを開いた佐木理人さんも、20年前「思い違い」から線路に転落し、大けがをおいました。

「まさか、自分が転落するとはまったく思ってもいませんでした。階段の裏の壁をつたって歩いて、回り込んだはずなのに。」(佐木さん)

佐木さんは当時大学生で、下宿から実家に帰る道のりで事故にあいました。

1人で歩くときは、なるべく決まったルートを使い、頭に地図を描くという佐木さん。
いつもは6両目の車両に乗って、駅に着くと、右方向に歩いて、階段を上るというルートを使っていました。しかし、この日は友人が一緒だったため、いつもと乗る場所が違っていました。

「駅のホームに友人と階段でおりましたら、ちょうどですね、電車が入ってきたので、あっ、じゃあこれに乗りますと言うことで、逆向きの電車に乗る友人と、その電車の前で別れたんですね。」(佐木さん)

とっさに乗った車両を10両目だと思いこんだ佐木さん。駅を降りると、いつもの階段を目指して歩き始めました。しかし…。

photo

「で、歩いていくと、上り階段がまったく出てこなくて、その代わりに壁のようなものが出てきたんです。」(佐木さん)
突然の壁に驚いた佐木さん。自分が乗った車両は、10両目ではなく4両目で、別の階段の裏にぶつかっていると思いました。そこで、回り込んで階段を上ろうとしたところ…

photo

線路に転落。実際はなんと、ホームの一番端にいたのです。佐木さんが乗った車両は、本当は3両目。後ろの方に乗ったとばかり思いこんでいたため、階段を探しているうちに、いつの間にかホームの端まで来てしまっていたのです。

photo

「当時のその場所には、駅のホームの端に敷設されている点字ブロックもホームの柵もまったくなく、走りだした電車に飛ばされて、引きずられている間もあ~もう、私はダメだと思ったのを覚えています。手と足を折って、頭を三十数針縫うというケガでした」(佐木さん)

ご自身も視覚障害の当事者である筑波大学附属視覚特別支援学校教諭の宇野和博さんも、駅の危険性ついて話します。
「頭の中に描いているマップと実際がずれることによって、あれ? と思って足を踏み出したら地面がなかった。こんなケースがありますね。ほかにも雨とか風の音で、ふだん頼りにしている音が聞こえなくなって迷ってしまう。駅は一番怖いといってもいいと思いますね。」(宇野さん)

進まないホームドアの設置

番組にはこんな声も寄せられました。

「駅でスマホや携帯の画面を見ながら歩く人のなんと多いこと…。前を見ていない人が多いと、どうしようもありません。白杖(はくじょう)に足がひっかかったり、軽く体が触れるだけでも視覚障害者はバランスを取るのが非常に困難です」(メールより:Blackbirdさん)

「本来点字ブロックが安全に誘導するためのものですから、ということは、そこにまず人が立っていたりとか、それから、そこに荷物をおくとかはさけてほしいな。」(視覚障害者男性1)

「一刻も早く全部の駅に(ホーム柵を)つけてほしい。ホーム柵があれば絶対安全。」(VTR:視覚障害者男性2)

当事者も設置を強く望む駅のホームドア。しかし、日本にあるおよそ9,500か所の駅のうち、ホームドアが設置されている駅の数は615か所、わずか6%あまりという割合です。

photo

国土交通省は、現在1日の乗降人数が10万人を超える駅を優先し、ホームドアの設置を推進しているとのことですが、一駅あたり設置する費用は数億円から十数億円。補助金も出るものの、工事費が高額なためなかなか設置が進んでいないのが現状です。

ホームドアがすべての駅に設置されるまで、マナーとルールを守り、声をかけながら助け合っていくことが、視覚障害者の安全を確保していくうえで欠かせません。

周囲ができる接し方、声のかけ方

photo

生まれたときから重度の弱視で、5年前に全盲になった江浪孝夫さん(73)。江浪さんは、町中を1人で歩いていると、よく声をかけられます。心配して声をかけてくれることに感謝する一方で、逆に困ることもあるそうです。それは、視覚障害者の気持ちが、きちんと理解されていないこと。その1つが、「道を案内してもらうとき」。

「白杖を持ってる手は絶対につかまないでもらいたい。白杖を持っている側の手をつかまれたら、身動きができないですね。だから普通は、ここを持って、誘導してもらいたい。」(江浪さん)

視覚障害者を引っ張るのではなく、腕や肩につかまらせてほしいという江浪さん。引っ張られるとバランスを崩すことがあるからです。また、「電車やバスで座席を譲ってもらうとき」は、背もたれの部分を触らせてもらうと、座席の向きが分かり、安心して座ることができるそうです。

先に障害物があり「危険を知らせてくれるとき」は、ただ「危ないですよ」では誰に言っているのか、何が危ないのかが分からないので、肩をトントンとノックして、具体的に何が危ないのか教えてもらえると助かると江浪さんは言います。例えば、階段の存在を教えるときは、「階段ですよ」ではなく、「上り(下り)階段ですよ」というように。見えないということは、周囲の状況が分からないということ。そうした気持ちをくんで、接してもらいたい。そう江浪さんは願っています。

photo

「視覚障害者を見たら、声をかけようというのは、いいことやけれども、やっぱり健常者の方にも、ちょっと理解してもらって、声をかけてもらったらありがたいです。」(江浪さん)

さらに、盲導犬使用者の方が「犬は暴れるからタクシーには乗せられない」と乗車拒否されたり、ホテルやレストランで入場拒否されたりするケースもあるそうです。評論家でニュースサイト編集長の萩上チキさんは、こうした対応は「身体障害者補助犬法」違反であり、そういった場面に遭遇したときは、都道府県の相談窓口に通報したり、周囲の人も「それはおかしい」と指摘することが大事だと言います。

また、こんな声も寄せられました。

「『視覚障害者=全盲の人』と誤解している人があまりに多くて困ります。視覚障害者といっても弱視の人もいますし、中途で急に見えなくなって点字が読めない人もいます」(兵庫県のはるさん)

宇野さんによると、日本に約30万人いるといわれている視覚障害者のうち、7割程度が弱視で、点字が読める人は約1割。点字だけでなく、音声や大きな文字などでの情報提供があれば、より視覚障害者の選択肢が広がるとしています。

見える人、見えにくい人、視覚障害といってもさまざま。障害のある人がより暮らしやすい社会になるよう、周囲の人も少し想像力を働かせたり、正しい手助けの方法を知るなど、まだまだ工夫できることはたくさんありそうです。

専門家から

「視覚障害を知らないがゆえに、無意識に当事者を困らせていることも」

photo

宇野和博さん
「視覚障害ナビ・ラジオ」レギュラーコメンテーター/筑波大学附属視覚特別支援学校教諭

「今回取り上げた内容は、私たち視覚障害者からするとよく出る話ばかりですが、健常者の方にとっては、『こんな問題で困っているのか』という発見があったはず。そのギャップを埋めていくためには、とにかく伝えて、知ってもらうこと。意地悪でもなんでもなく、知らないがゆえにやっていることが視覚障害者にとってものすごいハンデになっていることもあります。だから、『視覚障害者はこんなことに困っている!』と声をあげることも必要ですし、例えばデザインに関わっている人は、視覚障害者の人が使うにはどうしたらいいんだろうというふうに思いを寄せていただく。そういうお互いの歩み寄りが大事だなと思います。」

「環境整備と社会の理解向上が必要」

photo

荻上チキ
ニュースサイト「シノドス」編集長。メディア論をはじめ、政治経済や福祉、社会問題から文化現象まで幅広く取材し分析。著書に『ウェブ炎上』『ネットいじめ』『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』などがある。

「ホームに転落したと聞くと飛び込み事件があったのかなと連想する人も多いですが、視覚障害者の事故による転落だったり、貧血や不意に人とぶつかって落ちてしまうことだってある。そういう意味でも環境的に整備しないといけない点は多々あるなと思いますね。ただ、ホームドアの設置はとてもお金がかかるので、まずは周りが声がけをしたりとか、お互いに気を遣ったり、歩きスマホをやめるというようなところから始める必要があると思います。また、道徳の授業は異なる他者といかに暮らすのかという知恵と身体を手に入れる時間にするなど、教育的な面の改善も必要です。その一方で、技術的な発展にも期待したい。例えばスマホなどいろいろなデバイスが発展して、周りにどんなものがあるのかを教えてくれる技術ができたらそれはすばらしいものですよね。そういう技術の発展と社会の理解を同時に進めていくことが大切だと思います。」

※この記事はハートネットTV 2015年7月30日(木)放送「WEB連動企画“チエノバ” ―これだけは知ってほしい! 視覚障害の悩み―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事