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精神障害者と働く 社会にもたらす多様性と経済効果

記事公開日:2018年04月05日

4月、企業に義務付けられる障害者の法定雇用率の算定に、精神障害者も加わることになり、法定雇用率が2.0%から2.2%に引き上げられました。こうしたなか、多くの企業が精神障害者の雇用に乗りだしています。精神障害者の就労が、社会にもたらす可能性について考えます。

工夫次第で長く働ける職場に

精神障害者の雇用が法定雇用率の算定に加わることになり、今、当事者の雇用に期待が集まっています。しかし、最新の調査では、就職した精神障害者の約半数が1年未満に離職。その理由は、病気、障害はもちろん、生産性の問題などの「業務遂行上の課題あり」が16.2%、コミュニケーションの問題などの「人間関係の悪化」が10.1%です。

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しかし、職場での工夫次第で、精神障害がある人たちを雇うことで、会社全体の強みにつながっている例もあります。

19歳のとき統合失調症と診断された奥野哲治(55)さんは、専門学校を卒業後、カメラや精密機器などを入れるアルミケースを作っている町工場に就職しました。社員58人のうち、知的障害者が3人、精神障害者が3人。障害者の雇用率はおよそ10%にも上ります。

会社の4つのチームのうち、奥野さんの所属するチームが担当するのは、パーツづくり。組み立て作業のなかで基礎段階となる大事な工程です。このチームには、奥野さんのほかに精神障害のある2人が働いています。勤続15年の三沢直人さん(仮名)。勤続17年の浜口慎さん。そして奥野さんは勤続22年。職場への定着が難しいとされる精神障害のある人たちが、長期にわたり働き続けています。

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なぜ働き続けることができるのか。それは、27年前のある騒動が教訓となっています。

騒動を引き起こしたのは、当時働き始めたばかりの精神障害のある社員でした。補充用のビスを4本入れる仕事で、1本ビスを入れ忘れてしまったのです。

製品は海外にも出荷。全て回収する事態に発展し、経営は傾きかけました。社員からは、精神障害者を解雇すべきだという声が上がりました。

しかし、社長の芦田さんは、ミスをした精神障害者が悪いのではなく、チェック体制やコミュニケーションの取り方に問題があったのではと思い直したといいます。

「考えてみれば、誰でもする(可能性がある)ミスで、で、チェックできる仕事の仕方をきちっと決めて改善改革をしていくと。」(社長の芦田庄司さん)

目指したのは、精神障害のある人たちにとって働きやすい職場づくり。それが社員みんなにとっての働きやすさにもつながると社長の芦田さんは考えたのです。

精神障害者の活躍で収益率No.1 職場に活気も

現在、会社に導入されているのが、誰が、何の作業を、どれだけやったのかを目に見える形にした「生産管理シート」。職場の全員で情報を共有することで、ミスを防ぐ仕組みです。さらに、どの工程まで済んだものか一目で分かる札を、部品の上に置くことにしました。すると、思わぬ効果が生まれました。

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「障害者の方が几帳面にやってくれています。健常者の方が『分かるからいいやん』みたいな感じになりますけど、障害者はそれを許さない。そのへんのとこはマネできません。(仕組みを)納得するとすごいですよね。すごい仲間です。」(同僚の森内敬子さん)

さらにこの職場では、1人1人の個性を見極め、長所を活かそうと取り組むようになりました。

学習障害のある浜口さんは不安が強く、ささいなことを何度も確認するという特性があります。浜口さんは以前、作業が進まないあせりからパニックに陥ることがありました。そこで、浜口さんの特性を逆手にとり、細かい確認が必要な作業を任せるようにしました。

こうした工夫を重ねることで、会社全体のミスが激減。そして、精神障害者が活躍するチームは、部品のロスが少なく、社内ナンバーワンの収益率を出すまでになりました。

「チームの成績を悪くしたら悪い、落とすわけにはいかないと思って頑張ってます。」(浜口さん)

「みんな教えてもらって、僕にとっては良かったなと思って。自分で地道に(新しいことを)覚えながらやっていきたい。」(奥野さん)

「僕と同じ年代の子たちはもっとお金稼いで、結婚もして、幸せな家庭築いているんですよ。
ほんなら俺もやれるんちゃうかみたいな感じです。」(三沢さん)

職場での評価は自信へとつながり、職場に活気を生み出しました。

「健常者も見習わないとあかんなと。切磋琢磨するというか、全体が良くなると思うので。みんな会社の行事にも積極的に参加してくれて、仲間意識が本当に強い。長年継続して働ける雰囲気ができるのかなとは思ってます。」(同僚の並木基治さん)

社長の芦田さんは、精神障害者と共に働いてきたことが、会社の強みになっていると感じています。

「みんなが優しくなった。人の欠点もちゃんと受け入れられるようになった。だから自然と認め合って助け合って仕事をするような雰囲気が会社の中にできたんじゃないかなと思います。」(芦田さん)

福祉事業所が生きがいに 鹿児島のA型事業所の取り組み

全国で400万人に上る精神障害のある人のうち、一般企業で働いているのはおよそ5万人。民間の雇用先がまだ少ないなか、そうした人たちの受け皿になっているのが、就労継続支援A型と呼ばれる、国が認めた福祉事業所です。

鹿児島に全国から注目を集めるA型事業所があります。30人の精神障害者が出版事業に取り組み、企画や編集、製本から営業までを担っています。主に扱うのは、メンタルヘルスをテーマにした雑誌や書籍。精神障害がある人の悩みに寄り添う文章が、読者から親しまれています。

この職場で生きがいを得たという星礼菜さん(仮名)。10年前から、本の装丁やイラストを担当しています。星礼菜さんは24歳のときに統合失調症と診断され、就職と離職を繰り返してきました。

「最後に働いた職場ではいじめがあって、辞めざるを得ない状況に追い込まれたんです。犯罪じゃないのというぐらいパワハラとかセクハラとかありました。辞めるつもりはなかったんですけど、辞める帰り道に、聞こえてきたんです、声(幻聴)が。それでもうダメだと思って。」(星礼菜さん)

その後、精神科病院に入院。働くことができない自分に失望するなか、趣味の絵が心の拠り所でした。

「働きたかったですね、すごく。自分は何もできなかったので。働いている人がうらやましくて。入院先で社長と会って『雑誌を作ってるんだけど表紙を描かない?』と言われて。」(星礼菜さん)

1日7時間、週5日のペースで仕事に励んでいる星礼菜さん。10年間働き続けることができたのには、ある秘訣があります。

毎日仕事はじめと終わりにつける、この事業所独自の日報。その日の体調、気分の安定、集中力の変化を記します。そして、日報をもとに1日を振り返り、必ずスタッフと会話を交わします。体調や気分に波がある精神障害者にとって、この日報は安定して働き続けるための大きな助けになっています。

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このA型事業所を立ち上げたのは、川畑善博さん。かつて、精神科病院で精神保健福祉士として働いていました。事業所を作るきっかけになったのは、ある入院患者との出会いでした。

「大手にいらっしゃったような営業マンで、1回目のときは会社の人が来た。2回目に再入院したときはもう会社を辞めてる。3回目のときは家族がいない。1個1個失っていく過程。その方、退院する度に仕事にトライしてはまた悪くなって、また再入院して。『もう外では居場所がないから』と。みなさん本当に、あきらめのなかで生きてて。地域の中で生活することをあきらめていて、ここ(精神科病院)がいいんですとなる。じゃあ地域で居場所を作って、実際しっかり働ければ、そういうことはなくなるわけじゃないですか。」(川畑さん)

働くことで、生きがいや自分の可能性を実感できる。ここは、かけがえのない居場所になっています。

企業のネットワークで雇用促進

精神障害のある人たちと働くことが、会社の強みにもなり、ひいては生産性の向上にもつながる。こうした点に着目し、精神障害のある人を雇いたいという企業にむけて、関西では複数の企業がネットワークを作って情報交換を行っています。

中心となっているのはNPO法人「大阪精神障害者就労支援ネットワーク」。ここではまず、精神障害がある人の職業訓練を行ったうえで、本人の特性や希望に合った企業を探します。

本人と企業、両者の希望をくみ取ることで良いマッチングをサポート。連携企業は町工場やスーパー、IT企業など、200社以上。勉強会などを通して、職場に定着してもらうための工夫や、障害の特性に応じた関わり方などノウハウを共有。企業どうしの交流が生まれ、さらなる雇用につながっています。

「(精神障害者の雇用が)うまくいくと、それを人にも言いたくなって、周りの会社の経営者にも声をかけていただいて、横つながりで雇用先が広がっていく流れもあります。」(大阪精神障害者就労支援ネットワーク事務局長 保坂幸司さん)

さらに、就労を実現させた人が医療機関に出向き、仕事についていない患者の前で自らの体験を語り、就職をあきらめている人たちにも積極的に働きかけています。

これまで、およそ6,000社に足を運び、応援したい企業への長期投資を行ってきたファンドマネージャーの藤野英人さんは、現在マーケットのテーマとして、ダイバーシティ(多様性)が重要になってきているといいます。

「世の中が多様化し、マーケットが多様化している。マーケットの多様化に対応するためには、会社の中も多様化しなければいけない。結果的に、多様性のある会社は実際にはROE、株主資本利益率も高くて儲かるということもある。」(藤野さん)

さらに、障害者雇用比率の高い会社はROEが高い、もしくは株価のリターンが高いというデータもあるそうです。

厚生労働省の試算では、精神障害者が働けないことによる経済的損失はおよそ8兆円。健常者も、働くことに対して意味を見いだしにくくなっている現代のデフレ社会。そんななか、障害者が社会の中で働き、健常者と連帯していくことで8兆円以上の効果が生まれるのではないかと藤野さんは言います。

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精神障害のある人たちの就労支援に取り組んできた、公益社団法人やどかりの里の常務理事増田一世さんは、鹿児島のA型事業所の取り組みをこう評価します。

「障害は環境によって重くも軽くもなります。A型事業所のような福祉的な就労の場はその人に仕事を合わせていくという考え方で組み立てていくので、もともと(当事者が)持っていた力を環境が引きだしていく。仲間との出会いもあるし、とてもいい仕事との出会いもあるのだと思います。障害のあるなしに関係なく、自分が社会に役立っている、やりがいのある仕事をやっていくことがさらに回復につながっていくのだと思います。」(増田さん)

一部の人を締め出す社会は、弱くてもろい社会だといわれています。障害の有無に関係なく、人は働くことで生きがいや自尊心、自分の可能性を感じることができます。そして多様性のある企業にはより経済効果が生まれ、ひいてはより強く、循環的な社会になる。そんな社会を目指すときが来ています。

※この記事はハートネットTV 2018年4月4日(水)放送「シリーズ 精神障害者と働く 第2回 共に働くことは“強み”になる」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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