ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

「学校に行かない」という選択 ~経験者と語る不登校 後編~

記事公開日:2019年02月15日

様々な背景から学校に行かなくなる「不登校」。不登校中の子どもや親の多くは、罪悪感を抱いたり、将来を不安に思ったりするようです。しかし、そもそも、なぜ学校に行かなければならないのでしょうか。今の学校のスタイルができた歴史を振り返り、学校以外の学びの場に通った経験者の声と、新しい学びの場を紹介します。

近代化で浸透した現在の「学校」のかたち

不登校中の多くの子どもが感じるという罪悪感。一方で、不登校の子どもを持つ親も、子どもが学校に行かないことに不安を感じ、なんとか学校に向かわせようと躍起になったりするようです。

しかし、そもそも、なぜ「学校に行かなくては」という思いにとらわれてしまうのでしょうか。

「学校」というと、先生が教室の前に立って教え、生徒は決められた席に座っておとなしくそれを聞き、時間が来たら次の授業、というスタイルが一般的です。今では当たり前に思えるこうした学校のスタイルは、実はそれほど昔からあったわけではありません。

日本で定着したのは明治の半ば。欧米に追いつくためでした。産業革命後の欧米では、より多くの工場労働者が必要になり、同じ作業を時間内に指示通りにこなすことができる人材が求められるようになりました。急いで近代化を進めていた日本でも、工場労働者や軍人を育てようと、時間で区切って一斉に同じ内容を学ぶスタイルが浸透したのです。

画像(昔の学校の授業の様子)

しかし、産業構造も当時とは変わってきた今、これまでとは異なる新しい学びのスタイルが現れてきています。

2000年に設立された公設民営の学校、アメリカ・サンディエゴにある高校、ハイ・テック・ハイ(High Tech High)。
この学校の1日は授業ごとに区切られていません。決められた教科書やカリキュラムもなく、どんな授業をするかはそれぞれの教師に任されています。
子どもたちは学期末に開かれる展示会に向けて作品づくりや演劇にチームで取り組んでいきます。こうしたプロジェクトを通して自立的に学んでいくスタイルです。

求められる「新しい学びの場」

学校が変わろうとしているのは、アメリカだけではありません。日本でも、文部科学省と経済産業省が2018年6月にある提言を発表。この提言の中には、次のような記述があります。

画像(文部科学省と経済産業省による提言)

「教師だけが一方的に教えるような教育活動が転換され、多様な選択肢の中で自分自身の答えを生徒が自ら見出すことができるような学習が中心となる場へとなっていかなければならない。」

「学校だけ」しか教育の場として認められなかった時代から、フリースクールなど学校以外の場での教育機会が確保される時代へ。」

「学年、時間数という概念も希釈化され、学びの自由度が増す。」(提言より)

なぜ今、新しい学びのスタイルが求められているのか、東京大学名誉教授の汐見稔幸さんに聞きました。

画像(東京大学名誉教授 汐見稔幸さん)

「21世紀になって産業社会は、みんなと同じものを作るとか、指示命令で動くとか、そういうことではない。どんどん新しいものを提案するとか、あるいは人とのコミュニケーションの中からヒントを求めてくるとか、社会に入っていて何が今ニーズなのか、必要なのかということを探してくるとか、そういうものが切実に求められるようになってきた。学校とか教育というのは、子どもたちにこんなことやってみたい、これ面白そうだ!という夢を描かせる。それがやれなかったら学校は必ず否定されていきます。それがはっきりしてきたので、今はもっと、じゃあ思い切って前に進めようというふうに提案しているのだと思います」(汐見さん)

「学校」以外の選択肢とは

日本の文部科学省も提言する「新しい学びの場」。実際に、どのようなスタイル、場所があるのでしょうか。現在、学校以外の民間の学び場は、大きく分けて5種類あります。

画像(学校以外の学び場)

①フリースクール 主に不登校の子どもたちの学びや交流の場
②親の会 保護者が集まって情報交換したり、子どもたちと過ごしたりする
③学習塾 不登校の子どもたちに個別指導などを行うもの
④特色ある教育 法律で決められた学校の枠にはまらない、認可外の学び場
⑤ホームエデュケーション 家庭を拠点に学ぶ方法

福祉系の専門学校に通うたくみくんは、友だちからのしつこいからかいをきっかけに中学から不登校になりましたが、その後フリースクールに通い、元気を取り戻しました。

画像(たくみくん 専門学校2年生 (19歳))

たくみくんが選んだ東京・新宿にあるフリースクールの様子を見てみましょう。

週5日開設しているスペースで、6歳から23歳までの年齢の違う人たちが一緒に過ごしています。特徴は、いつ来て、いつ帰るか、何をして過ごすかを自分で決められること。いわゆる先生はいません。スタッフと呼ばれる大人が子どもたちのやりたいことを支えています。

画像(フリースクール東京シューレ 新宿)

例えば料理講座など、やりたいことがあれば提案し、人数が集まれば講座を開いて教えてもらうことができます。

画像(料理するスタッフと生徒)

教科学習の時間もあります。希望する人は通信制高校の課題に取り組み、高校卒業を目指すこともできます。ここで尊重されるのは、本人の主体性。勉強するかどうかは子ども本人が決め、スタッフはそれをサポートします。

画像(高校1年生の英語の授業の様子)

「やりなさいって言われて、みんなで一緒に行動するってこともないし、学校で一斉にパーっと受けなきゃいけない勉強とかも、スタッフの人が教えてくれるときはしっかり分からないところを止まってくれるし、フリースクールに来るのは全然辛くないし、すごい楽しいです。」(男子生徒)

たくみくんは、当時をこう振り返ります。

「子どもたちでやりたいことを決めて、子どもたちが作るスペースというのが大前提としてあって、自分が発言する意味を深く知れる機会には恵まれていたかなと思います。不登校した頃は、実は人見知りに近くて、ほんとテレビに出るなんてもってのほかみたいな感じだったんです。でも、イベントとか実行委員とか、そういうことを通して少しずつ関わっていくことで、人と付き合うことの大切さだったり、楽しさも知ることができたので、そういう意味で自主性と自信はしっかりつけられるかなと思います」(たくみくん)

「特色ある教育を行う学びの場」

フリースクールのほかにも法律で決められた学校の枠にはまらない、「特色ある教育を行う学びの場」があります。その1つ、デモクラティックスクールでは、運営に関することまで子どもたち自身で決めるのが特徴です。

2002年に開校したデモクラティックスクール「まっくろくろすけ」には、5歳から16歳の子どもたち33名が在籍しています。自由に過ごせたり、先生ではなくスタッフがいたりするところはフリースクールと似ていますが、違うのはスクールの運営のすべてにわたり、子どもたちが責任を持つということ。

壁に貼られているのは子どもたち自身が作ったというルール。スタッフの人事やスクールの経理に至るまで決めるのは子どもたちが中心です。

画像(「まっくろくろすけ」の壁に貼られたルール)

どのスタッフにいくら給料を支払うか、備品を買うか、買わないか。どんな活動にいくらお金を使うかなど、子どもと大人が対等に話し合って決めていきます。

ミーティングは毎日行われ、この日は全員参加で話し合わなければならないことがありました。議題は、作った梅ジュースが腐ってしまい、その鍋を処分するのかどうかについてです。

画像(ミーティングの様子)

17歳の生徒「ドリンク部でジュースを作ろうと思って入れてたんですが。虫の卵かな?鍋の側面にべったり卵がついてたんだけど、だいぶ取れたんだけど、まだ鍋自体が臭そうなので、捨てていいですか?」

司会役の生徒「捨てたらどうか、という意見が出ましたが。ほかに。はい、どうぞ」

14歳の生徒「洗うのがいいと思います」

17歳の生徒「洗う。ただ匂いはどうなるのか分からないので、1回洗ってみて、使えそうだったらというのでもいいんだけど。その場合、捨てるのよりも洗う人を探したほうがいいかな」

司会役の生徒「じゃあ、洗うのやってくれるという人はいますか?どうぞ。やりますか?」

14歳の生徒「洗います。」

備品の処分1つでもどうするか、みんなが納得するまで話し合って決めていきます。全部自分たちで決められるのは一見自由に見えます。しかし、自分から意見を出さないと自分のしたいことが形にならないのです。

画像(「まっくろくろすけ」に通う生徒)

「あまり物怖じせずに人にしゃべりかけにいけるようになったのかなと個人的には思っています。ちゃんと自分が思った通りにするためには、自分が喋らないといけないという形がどうしてもあるので、そういう能力が身についたのは大きなことかなと思っています」(まっくろくろすけに通う生徒)

自らの意思で「学校をやめた」 タオくんのケース

小学3年生のとき、公立小学校に行くのを自分の意思でやめ、「オルタナティブスクール」という学び場に通い始めたのはタオくんです。中学や高校にも行かず、15歳のときに高校卒業程度認定試験に合格。今は大好きなまちづくりについて研究したり、大学受験の勉強をしたりと、日々を自由に過ごしています。

画像(タオくん (16歳))

「小学校のときに2年生まで行ったんですけど、クラスの中でうまく協調してやっていきたいなというふうに思っているタイプで、なんとかうまくやっていこうみたいな感じで。でも、学校の授業がすごくつまらなくて、例えば先生が黒板に書いていてそれを丸写しするみたいな、これって何の意味があるのかなと」(タオくん)

そんなとき、両親が偶然新しい学校を見つけ、タオくんに行ってみないかと提案。「面白そう」と思ったタオくんは、オルタナティブスクールに通い始めたそうです。

いつ、どこで、何をするか。すべて自分で決めるというオルタナティブスクールについて、タオくんは次のように話します。

画像(オルタナティブスクールについて話すタオくん)

「本当に、何もない、授業もないんです。授業がないし、時間割もないし、すべて自分で決めるとなったときに、やっぱりすごく困るんですよ。自分に責任が一気に降りかかってくるので。そのときに初めて悩む。たぶん普通の学校に行ってたときのほうが楽だったなと僕は思っていて。だって受動的に言われたことはやればいいし、宿題をやればいいし、部活をやればいい。だけど、何もない中で自分で授業を組み立てて、全部自分の頭で考えなきゃいけない。すごい大変なんです。やっぱりサボりたくなっちゃうし、怠けたくなっちゃう。でも、自分の好きなことは何なんだろうな、ということを必死に考えるし、生きてるとは何なんだろうなということも考える。その中で見えてくるものとかがある。でも、必ずしも見えてくるとは限らない。ただ、その悩んだり考えたりすることはすごく大切だな、と。それが得られたものかなと思います。学校が合う人は学校に行けばいいし、学校が合わなかったら違うところ行けばいい。カレー食べるか、ハンバーグ食べるか、そんな感じで決めていいと思うんです。多様な教育というのが気軽に選べるようになればいいなと僕は思います」(タオくん)

ほかにも保護者が集まって情報交換したり、子どもたちと過ごしたりする「親の会」や、みきさんやもえさんのように自宅を中心に学ぶホームエデュケーションなどもあります。

時代の流れと共に変わる「学びの場」のスタイル。従来の学校の枠にとらわれず、一人一人の個性や考え方に合う学びの場を、より自由に、より気軽に選べるようになることが、本当の「多様性」を育むうえで欠かせないのではないでしょうか。

「学校に行かない」という選択
経験者と語る不登校 前編
経験者と語る不登校 後編 ← 今回の記事
子どもたちの思い
進路はどうする?

※この記事は2018年9月1日(月)放送 ウワサの保護者会 スペシャル「“学校”に行かないという選択」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事