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精神障害者が働き続けるためには?当事者・企業の視点から

記事公開日:2018年04月04日

今年4月、法定雇用率が引き上げられ、大きな転換期を迎えた障害者雇用。そんななか、新たな労働力の担い手として期待されているのが、精神障害のある人たちです。しかし最新の調査では、就職した精神障害者の半数が1年で離職。どうすれば働き続けることができるのか。当事者と企業・それぞれの立場から考えます。

精神障害者の一年後職場定着率は約5割

4月1日に法定雇用率が引き上げられ、今、障害者雇用は空前の売り手市場。なかでも精神障害者は就職している人がまだ少なく、新たな働き手として注目されています。しかし、最新の調査で就職してから同じ職場で1年間働き続けている人の割合は49.3%と、ほかの障害と比べても低くなっています。

背景にあるのは、本人の病状把握が不十分なことと、企業側がトラブルに対応するノウハウを持っていないこと。障害者雇用に取り組む企業から相談を受ける横浜市立大学教授、影山摩子弥さんは指摘します。

「精神障害は外から見えにくい障害です。そうすると、周りの健常者社員の皆さんも、障害をお持ちだと頭では分かっていても、何かあるとトラブルに発展してしまう。それに対して会社が対応するだけのノウハウを持ってない。」(影山教授)

一方で、障害者の就職支援にあたる大阪精神障害者就労支援ネットワークの金塚たかしさんは当事者側にも課題があると話します。

「自分の作業能力とか、病気の理解、障害特性についての理解。もう1つは、相談力。困った時に相談をする力が(少し足りないことが)彼らの定着率が低い1つの当事者側の要因かなと考えています。」(金塚さん)

働き続けるには「自己理解」が大切

どうすれば、長く働き続けることができるのか。自分の障害と向き合いながら定着を目指して奮闘する当事者を取材しました。

社員566人の企業で働く林健二さん。入社して10年になる正社員です。統合失調症で月に1度の通院を続けています。担当するのは社員の健康管理。

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10年間働き続けられるのは、周囲とのコミュニケーションが上手くいっていることが理由だと林さんは考えています。以前、林さんは飲食店で調理の仕事をしていましたが、1年足らずで退職しました。

「ホウレンソウ(報・連・相)とかも全然聞いたことがない、知らない状態で生きてきたので、パートのおばさんたちが固まって話してるところに入っていけないんですよね。でもそれでも1年間ぐらい辛抱しながらやったんですけど、やっぱりちょっと限界があるなということで。」(林さん)

当時、課題に感じたのは職場でのコミュニケーション。そんな林さんの再就職への可能性をひらいたのがある福祉サービスでした。

障害者が企業で働くことを目指して訓練を受ける、就労移行支援事業所です。ここでは2年間を上限に、働くための実践訓練を行います。東京・国立市にあるこの事務所では、利用者のほとんどは精神障害者。コミュニケーション不足などの理由から、一度就職したものの、仕事が続かなかった人も少なくありません。

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「働くのがゴールではなくて、働き続ける、というのがみなさんの希望なので就労プログラムの目的は就職するため、働き続けるために何かをしていく」(男性支援員)

ここでは、実際の仕事を通して訓練を行います。弁当を作り、地域の大学や老人ホームに提供しています。人が多い厨房でコミュニケーションを取りながら作業を進めていきます。

次々に与えられる職員からの指示などで、利用者は多くのストレスに晒されます。そのストレスで引き起こされる体調の乱れや障害の特性。それに気付き、向き合ってもらうのが狙いです。

「業務に関する知識とかスキルよりも、みなさん病気があって障害があって、勤務が安定しなかったりするので、そういったものを抱えながらどうやってそこと付き合いながら、就労を継続していくかということを一番に訓練の目的にしています。」(就労移行支援事業ピアス 副施設長 吉本佳弘さん)

ここで訓練を初めて6か月になるPさんは、17年前、統合失調症と診断されました。その後、青果市場で働きましたが半年で離職。流れの速い仕事について行こうとするなかで、体調を崩すようになったのです。原因の1つは「過集中」と呼ばれる特性。集中し過ぎることで、気付かぬうちに疲れをためていました。

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訓練の中でPさんは今まで知らなかった自分の特性と向き合い始めました。作業が始まって30分。Pさんは自分の判断で1人、持ち場を離れます。

「僕は過集中という症状を持っていまして、どんどん作業をやり過ぎてしまう、スピードを上げようとしてしまうこともあるので集中力を長時間保つためにも、1時間に1回、過集中ができる前に休憩を入れるようにしてるんです。」(Pさん)

そして企業で社員の健康管理をする林さんが、10年間働き続けてきたもうひとつの秘訣はかかりつけのクリニックが開くケアサービス。週4日、仕事帰りに立ち寄り、仲間と顔を合わせます。

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仕事のストレスを貯めずにはき出し、体調の悪化を防ぐ。会社以外に居場所があることが、林さんにとって働き続ける活力になっているそうです。

日常生活と健康管理が基礎 定着を支える4つの力

障害者雇用の支援の中で広く使われるのが、職業準備性ピラミッドと呼ばれるものです。仕事の力、職業生活の力、日常生活の力、健康管理の力、働く上で身につけていくべき力が並んでいます。

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とくに人手不足が深刻な中小企業は、障害のある人に戦力になってもらおうと雇用しています。そうすると、ピラミッドの上にある仕事の力、「職業適性」が求められていると考えがちですが、実はそうではないと影山教授は言います。

「戦力になるためには、毎日安定して出社しないといけない。そうすると、健康管理がしっかりできているか、日常生活をきちっと送ることができているかが実は重要になってきます。」(影山教授)

では、ピラミッドの土台、「日常生活管理」と「健康管理」は具体的にどういったことになるのでしょうか。

「SOSの状態、身体的、精神的に状態が悪くなった時をいかに知っているかということ。いかにそのサインを知っているか、そのサインが出た時の対応策を知っているかは大きなポイントになってくる。トレーニングを通してそれを知っていく。教えられるものではなくて、自分で気づいていくところがとても大事だと思います。」(金塚さん)

そしてできるだけ長く働き続けるためには、仕事以外に公的機関や友人、サークルなどでの居場所を作ることも大切だと金塚さんは言います。

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「彼らの定着を支えていくには4つの力があって、企業の力、本人・当事者の力、支援者の力、そして、地域の力。この地域を作っていくということがとても大事かなと思っています。」(金塚さん)

企業に必要な配慮とは 支援機関の活用も

精神障害者が長く働くためには、当事者側の課題を解決する一方、雇用する企業の視点から考えることも重要です。平成29年時点で、雇用率を満たしている民間企業は50.0%。では、どんな配慮があれば定着して働き続けることができるのでしょうか。

660人が働くある広告代理店。法定雇用率の達成を目指して1年前から精神障害者の雇用を始めました。人事や経理などで6人が働いていますが、離職者は1人も出ていません。

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しかしこの1年、すべてが順調だったわけではありません。統合失調症で入院経験のあるケンさん。入社当初は体調を崩し、休む事もありました。

どんな配慮があれば安定して働けるのか。上司はケンさんとその都度話し合い、配慮の仕方を工夫してきました。入社当時、ケンさんのために会社が作った仕事の一覧表がありました。仕事を進めやすくする配慮のつもりでしたが、ケンさんからは先々の仕事が並んでいるとプレッシャーになると告げられました。

「入社してくれた戦力がどれだけ結果を出したかというのを可視化したくて作たんですけど、プレッシャーになっていたと、言われて気付きました。」(上司の小田部彩香さん)

本人の申し出を受け、会社は一覧表を使う事を中止。しかしその後、仕事に慣れてきたケンさんの要望で、再び一覧表を使うようになりました。

「自分でも、タスクの把握ができなくなってくるので。そういえば来週はこれやるんだったと思い出すこともあるので、やっぱりそっちの方が良いんじゃないかなという気がしますね。」(ケンさん)

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必要な配慮はその時々によって変わる。それを把握するために、会社がケンさんにつけてもらっているのが日報です。その日の体調や仕事の進み具合などを報告してもらいます。上司は1日の終わりに内容を確認。毎日のやりとりの積み重ねが、互いの働きやすさにつながると考えています。

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さらにこの会社では外部の支援機関(障害者就業・生活支援センター)も活用しています。

この日は、ケンさんをサポートする担当者との面談がありました。会社が把握しきれない悩みは支援機関に拾い上げてもらい、会社がすべてを抱え込まないようにしています。

「成長かどうかわからないけど、前より会社に来るのが楽しくなった。前は、結構一杯一杯な感じで来てたけど、余裕も少し出てきたし、来るのが楽しみになってきて、知ってる人たちがいる、みたいな感じで。」(ケンさん)

「お互いが受け止められれば。一方的に言うだけ言ってもラチがあかないと思うので、会社としてはそう思うんだと受け止めてもらうことと、本人はそういう風に感じてるとか、こういうのが働きづらいというのを、受け止めるのは必要かなと思います。」(人事部部長 川﨑恭子さん)

影山教授によると、障害者が働き続けるうえで大切になるのが環境づくり。そのためには合理的配慮が必要で、ケンさんが働く企業では、配慮を一方的に与えるのではなく、お互いにコミュニケーションを取ることで、状況の変化などにうまく対応しているのではないかといいます。

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さらにこの会社が活用していたのが、障害者就業・生活支援センターという支援機関。障害者の生活を含めたサポートをしてくれるため、企業側が把握、対応しきれない悩みをフォローしてくれます。しかしこういった支援機関をまだ企業が十分活用していないため、企業と支援機関双方の歩み寄りで、専門家の力を活用することも大切だと影山教授は強調します。

また当事者、企業だけでなく、支援者側の努力も、障害者が長く働き続けるためには必要になってきます。

「支援者側のほうも、就職までの支援ではなくて、就職したあと、彼らが企業の中でしっかりと戦力化していくところまでの視点を持って、企業とも本人ともおつきあいすることによって、(みんなが)幸せになれるかなと思います。」(金塚さん)

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ある大手IT企業の社内調査では、「社員の心理的安定性の高い組織は労働生産性が高い」という結果が出ています。障害者だけではなく、健常者も含めた、1人1人に合わせた働きやすさを考えていくこと。そうすればおのずと、誰もが働き続けることができる環境になっていくのではないでしょうか。

※この記事はハートネットTV 2018年4月3日(火)放送「シリーズ精神障害者と働く 第1回 働き続けるために」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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