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「特別養子縁組」ってなに?

記事公開日:2019年01月30日

生みの親が、予期せぬ妊娠や虐待や経済的な理由などで子どもを育てることが難しい場合、親子の愛着形成に問題が生じにくい乳幼児期に育ての親に託し、永続的な親子関係を保障する「特別養子縁組」。利用を進めたい国は、“原則6歳未満”という対象年齢が縁組の壁になっているとして、“原則15歳未満”に引き上げるなどの見直し案をまとめました。制度が始まって30年、あらためて「特別養子縁組」の意義について考えます。

日本における特別養子縁組

およそ4万5,000人。
日本国内で、経済的な理由や虐待などで生みの親と暮らせない子どもの数です。日本ではその内8割以上が乳児院や児童養護施設などの施設で暮らしています。オーストラリアでは9割以上、アメリカ・イギリスは7割以上が家庭養育であり、主要先進国は家庭養育が社会的養護の半数以上を占めています。

こうした中、2016年に『児童福祉法』が改正され、全ての子どもを養子縁組・里親を含む「家庭的な環境」で育てる《家庭養育優先原則》が明文化されました。

画像(特別養子縁組イメージ)

「特別養子縁組」とは1987年に民法に加えられた制度で、後継ぎなどを求め養子を迎える「普通養子縁組」と違い、子どもの福祉の観点から「要保護児童」に恒久的な家庭を与える目的で創設されました。

原則6歳未満の子どもが対象で、縁組が成立すると、生みの親との法的な関係はなくなり、育ての親と新たな親子関係が結ばれます。

特別養子縁組の普及啓発に取り組む、ある女性リーダーは「特別養子縁組は“特別”と付いていますが、欧米ではふつうの社会的養育の方法です。“家庭を必要とする子ども”、“育てるのが難しい生みの親”、“不妊に悩む夫婦”の3者にとってメリットのある制度です。日本では血のつながりのない親子を特別視する文化的な土壌がありますが、これをふつうのことにしていきたいのです」と語ってくれました。

なぜ「家庭養育」が重要なのか

「特別養子縁組」の前提には、「家庭養育」があります。
乳児院や児童養護施設で献身的に働いている職員の方たちがいることは、「特別養子縁組」を推進する人々も理解しています。その上で、なぜ施設養育ではなく、家庭養育なのでしょうか。

施設養育と家庭養育の違いが象徴的にわかる事例を、養育里親を支援するNPO団体の代表が、紹介してくれました。

施設から里親家庭に預けられた子どもが、うれしかったこととして挙げたのが、「今日の夕飯、何が食べたい?」「今晩テレビ、何を見ようか?」とたずねられたことだそうです。

画像(食卓イメージ)

施設では、食事のメニューはみんな共通です。テレビの番組も、自分の見たいものを優先するわけにはいきません。でも、里親は自分にどうしたいかを聞いてくれます。一般的な家庭で育った人では意識できないような“当たり前”のことが、施設で育った子どもにはうれしい。
“自分に向けられた愛が、つねに当たり前にあること”が、子どもを笑顔に変えるのだと言います。

国連の子どもの権利条約では、幼児の社会的養育に関しては「家庭養育を優先する」ことを基本と定めています。

国連がその考え方の根拠としているものに、「アタッチメント(愛着)」という児童精神医学の概念があります。イギリスのジョン・ボウルビィという児童精神医学者が、1950年にWHO(世界保健機構)からの要請により行った「孤児たちの精神衛生を向上させるための研究」を通じて理論化した概念です。

画像(母と子イメージ)

「幼児は発達の過程で、他の大人とは区別して特定の養育者を意識し、愛着の対象とする。そしてその精神的なつながりは乳幼児期に消え去るのではなく、人間の一生を通して存続し、人格形成を支える核になる」というものです。

愛着の対象は、場合によっては生みの親である必要はありませんが、養育者が何度も入れ替わるのはよくないと考えられています。また、ボウルビィは、「愛着の絆」は幼児の一方的な求めによって作られるものではなく、相互作用によって生まれるとしています。幼児がある養育者を特別と感じ、愛着を示すとともに、その養育者もその幼児を特別なものと感じ、愛着を示すことで関係が安定するとしています。

特定の愛着の対象がいること。そして幼児のうちにすみやかにその環境を整えられること。さらに恒久的に親子関係を維持できること。「特別養子縁組」が子どもの利益を最優先した制度だと、児童福祉の関係者に評価されるのは、そのような点からです。

救えなかった命を救うという視点

「特別養子縁組」が必要な理由として、子どもの虐待の予防や予期せぬ妊娠・出産をする母親たちの救済、という視点もあります。

2015年4月に東京・渋谷で行われた特別養子縁組の啓発イベントのなかで、熊本県の慈恵病院の元相談役の田尻由貴子さん(助産師)は、子どもを手放さざるを得ない母親の実態について紹介しました。そして、行き場のない赤ちゃんを預かる赤ちゃんポスト(正式名称『こうのとりのゆりかご』)の意義と「特別養子縁組」との連携の重要性について訴えました。

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田尻由貴子さん

厚生労働省の発表によれば、平成29年度の日本における子どもの虐待相談件数は年間13万3778件(速報値)です。相談件数をそのまま虐待件数と捉えることはできませんが、父母の虐待により乳児院に入所する幼児は約2割、児童養護施設に入所する子どもは約4割と、入所の理由が虐待であるケースは見過ごせない数になっています。

虐待者の6割近くは母親です。虐待死にいたる子どもの年齢は、0歳児がもっとも多く4割強となっています。(平成24年度 厚生労働省調べ)

「こうのとりのゆりかご」は、赤ちゃんを預かるだけではなく、24時間体制で母親たちの電話相談も受け付けています。深夜にせっぱつまった状態で電話をかけてくる女性たちも少なからずいると言います。相談の電話は、熊本県外からが9割を超えます。

「こうのとりのゆりかご」の運営がスタートしたのは2007年です。当初は「赤ちゃんポスト」という名前が独り歩きして、支持する声と同時に多くの批判の声も寄せられました。「責任感のない、だらしのない親に手を貸すことになるのでは」という倫理的な批判もありました。しかし、「こうのとりのゆりかご」の利用者や相談者の内訳を詳しく見ると、行き場がなく苦しんでいるのは、赤ちゃんだけではなく、母親たちもそうであることがわかります。

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「こうのとりのゆりかご」に相談を寄せる女性の年齢グラフ

田尻さんの説明によれば、「こうのとりのゆりかご」に相談を寄せる女性の4割は20代、2割は20歳未満の若い女性です。20歳未満の女性のほとんどは学生で、中学生や高校生も含まれます。

「こうのとりのゆりかご」に託した理由としては、「未婚」「生活困窮」「世間体・戸籍」「パートナーの問題」「不倫」などです。これらの理由を見ると、出産後に、子育てに負担感が出たので手放したのではなく、年齢が若すぎたり、経済的事情から育てるのが難しかったり、パートナーとの関係に問題があったりなど出産前からさまざまな事情を抱えていたことがわかります。

慈恵病院では、妊娠の段階から女性たちの相談にのることで、子どもの遺棄や虐待死を防ぐ可能性は高まると考えています。そして、そうした“罪”に手を染めることがなければ、母親たちは深い心の傷を負わずに、その後の人生をやり直すこともできるはずです。田尻さんは、相談者には「親身になって寄り添い、責めないこと」が大切だと言います。

画像(乳児をネグレクトする母親イメージ)

「いままで救えなかった命を救うこと」というのが、説明会に参加した養子縁組のあっせん団体のスタッフの方たちが強調していたフレーズでしたが、困難を抱えた赤ちゃんがいるということは、その背後に困難を抱えた親がいるということです。その両方を救済する姿勢を持たない限りは、赤ちゃんそのものも救えないということかもしれません。

特別養子縁組によって赤ちゃんを引き受けようと心に決めているという、都内から会場に来ていた40代の女性は、田尻さんの話にもっとも感動したと話していました。

「生みの親のことは、どうしても気になりますよね。でも、私たちが子どもを引き取ることで、その母親を救うことにもなるのだと思うとホッとします。田尻さんは“責めない”と言われていましたが、心に響きました。私たちの子どもを身ごもってくれた人ですから、その人にも幸せになってほしいです」

「特別養子縁組」は、1988年に施行された制度で30年という節目の時期を迎えています。
児童虐待が深刻化する中、国の法制審議会はことし(2019年)1月29日に「特別養子縁組」の対象年齢を「原則6歳未満」から「原則15歳未満」に引き上げることなどを柱とする、民法改正の要綱案をまとめました。

なぜこのような制度が必要なのか。困難を抱える母親たちの事情も含めて、理解が広がっていくことが望まれます。

執筆者:WEBライター 木下真

※この記事は、2015年4月のハートネットTV連載ブログ記事「『特別養子縁組』で子どもたちにあたたかい家庭を」前編・中編・後編を再構成したものです。

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