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精神医療は今(1)措置入院患者の退院後の“支援”

記事公開日:2019年01月09日

2016年7月、相模原市の知的障害者施設で19人の命が奪われた殺傷事件。被告は事件前、一時措置入院となっていたものの、その後の状況を把握している人がいませんでした。事件を受け、国はすべての措置入院患者を対象に、退院後の“支援”を強化する方針を示しました。これに対し、当事者からは支援の名の下に“監視”につながるのではと強い懸念が上がっています。精神医療のあるべき姿を考えます。

兵庫モデルの退院後支援とは

2017年2月、相模原市で起きた殺傷事件を受け、措置入院のあり方を見直すことを盛り込んだ精神保健福祉法改正案が通常国会に提出されました。その後、改正案は廃案になりましたが、厚生労働省は、措置入院した患者の退院後支援に関する指針を策定し、都道府県などに通知しています。

措置入院とは、自分や他人を傷つける恐れがある人を、本人や家族の同意なしに、都道府県知事等の権限で入院させる、いわば強制入院の1つです。

国が制度づくりの参考にしたのが兵庫県です。
全国に先駆けて、措置入院患者の退院後の支援を行っています。

画像(国の方針で示された「支援計画」イラスト)

国の方針では、患者の入院時から自治体が病院などと協力して、退院後の支援計画を作成。継続的にサポートすることを義務づけています。兵庫県では、県内13の保健所に「継続支援チーム」を設置。中心になっているのは、主に保健師です。

保健師は、入院中の患者を定期的に訪問。医師や看護師、ケースワーカーなどから様子を聞き取り、本人が不安に思っていることや、周りがどう接したらいいのかなども話し合います。

患者が退院すると、さらに支援機関が加わります。
支援機関の会議には、県の保健所に市の職員や障害福祉の専門員、市民から通報を受けることが多い警察も参加。人との関係づくりや、経済的な不安などをどう支えるか、さまざまな立場から検討します。関係者が顔を合わせることで適切な支援につなげていこうと、会合は定期的に開かれています。

画像(引き継ぎ連絡票)

さらに、退院した人が他の自治体に転居しても、支援が途絶えないように、病状のほか、医療・福祉サービス、生活支援など、具体的な情報を転居先の自治体に引き継ぎます。

兵庫県で退院後の継続支援が始まって1年。(放送時点)
対象者は13の保健所で合計60人以上にのぼります。退院後支援は期限が決められていないため、保健師が担当する人数は増える一方。日常業務を抱えながらの対応には、限界があるといいます。

画像(明石健康福祉事務所 地域保健課 課長 藤原惠美子さん)

「今の状況で、もうマンパワーが精いっぱいの状況なので、これ以上の対象者が増えてくるには、それなりのマンパワーが必要です。その分の財政的な支援もお願いできたらと思います。」(明石健康福祉事務所 地域保健課 課長 藤原惠美子さん)

相模原事件再発防止策検討チームの委員も務めた、精神科医の松本俊彦さんは、モデルケースとなった兵庫県の取り組みを「総論的には良い制度」と評価しています。

画像(精神科医 松本俊彦さん)

これまで措置入院は、「人権を強く制限するため、医療機関も短期間にしようとするあまり、それによる弊害もあった」といいます。

「例えば薬物を使って、幻覚や妄想等の精神病になって措置入院になったと。それが治ったから退院するということになるんだけど、実は、その根っこには、薬物をやめられない、止まらないっていう問題があるんですよ。そこに何の支援の計画とか手を入れずに、退院させてしまう。退院したあとに地域で孤立させないということは、大事なことなのではないかなと思っています。」(松本さん)

国が示した指針では、患者の入院中に自治体が入院先の医療機関などと協議して、社会復帰のための支援計画を作成することになっています。

画像(認定NPO法人COMHBO 共同代表 宇田川健さん)

この退院支援計画について、障害のある人に情報提供などを行う認定NPO法人COMHBO(地域精神保健福祉機構)共同代表で自身も統合失調感情障害で入院経験もある宇田川健さんは、「措置入院を担当したお医者さんが、普段の患者の生活を知らずに、措置入院の間に中心になって計画を作って、計画に従わなければ、どんなことになってしまうかがすごく不安」と危機感を募らせます。

制限多い措置入院 課題は山積

さらに、措置入院のあり方についても、当事者たちからは強い疑問の声が上がっています。

都内に住むAさんは10代の頃、人間関係に悩み精神科を受診。以来、抑うつと不安障害に悩まされて、3年前に措置入院を経験。今もそのときの扱われ方が、心の傷になっていると振り返ります。

「採血中に、固定されて動いたら危ない状態のときに、『ちょっと興奮しているようなんで眠っていただきます。薬を打ちます。』って、採血しながら言われたのが、最後の記憶です。」(Aさん)

意識が戻ったのはそれから2日後。隔離された部屋で、体を拘束されていました。枕元には、措置入院決定の通知書だけが1通、置かれていました。「意識を失っている間のことで、衝撃だった」といいます。

画像(Aさんが措置入院した際の隔離された部屋の図)

病室は6畳ほど。ベッドの他は、むき出しのトイレと段ボールの机。カーテンはなく、廊下からいつも丸見えの状態でした。体の拘束も、1週間ほど続きました。

病院の公衆電話から、Aさんは措置通知書に書かれていた不服申し立てができる窓口に電話しました。しかし、手続きと審査に数か月かかると説明され、諦めたい気持ちになったといいます。措置入院は55日間続き、その間、Aさんが心から相談できる人はいませんでした。

「ひと言で言って、怖いです。医者が言ったことだけを根拠に、社会も認めることになってるので。医者が『おかしい』って言ったら、もうおかしい。人間否定っていうか人格破壊っていうか。もしそれが目的だったら、ある意味成功してますよね。そのぐらいのダメージを受けました。」(Aさん)

措置入院は、閉鎖病棟の使用、隔離拘束などの行動制限、電話などの通信制限があり、外出や外泊も大きく制限されます。

精神科医の松本さんは、その人自身に病気という認識がなく、深刻な問題行動を起こす場合があるため、強制入院の必要性は認めざるをえないといいます。しかし一方で、課題の多さも指摘しています。

「措置入院だからといって、全員が隔離室や、体を抑制してベッドに縛りつけることが必要ではないと思う。緊急のときに介入するのは本人の利益のためであるはずなのに、どちらかというと、限られた医療機関のマンパワーでやっていくために、過剰な行動制限が行われてはいないか、人権侵害が行われていないかということを絶えず考えていかなくてはいけない。今後そこをどうやって改善していくのかを、真剣に考えなければいけない。」(松本さん)

権利擁護という視点を

患者の権利を守るための仕組みには、どのようなものがあるのでしょうか。
日本では原則として、精神医療審査会から電話で書類を取り寄せ、記入して申請するという手順になっています。

画像(入院中の人権擁護機関へのアクセス)

例えばイギリス(とくにイングランド)では、患者が病院スタッフにリクエストすれば、第三者機関の権利擁護者が、必ずサポートをしてくれる制度になっています。

さらにオーストラリアでは、患者がリクエストしなくても自動的に7日以内に、権利擁護者がサポートを開始してくれることになっており、患者が18歳以下の場合は、24時間以内に支援が開始されます。

宇田川さんは、「きちんとした第三者が権利擁護に入ってくれるのが、いちばん大切なこと」だと主張します。松本さんも「病院の中で、患者さんはとても弱い立場にあるので、(精神医療審査会に申し立てをしたら)医療関係者を敵に回すのではという不安もあると思う。例えば法律の専門家など権利擁護の担当の人として入ってく、ご本人の気持ちを代弁して、それなりに議論できる人がいたら心強いかなと思いますね」といいます。

過剰な制限や人権侵害が行われないためには、どうすればよいのか―。
当事者の利益がきちんと守られる仕組みになるよう、ハートネットTVでは、これからも取材を続けていきます。

※この記事はハートネットTV 2017年4月4日(火)放送「相模原事件を受けて 精神医療は今 (1)「措置入院」退院後の支援」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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