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罪を犯した発達障害者 社会復帰への道筋

記事公開日:2019年01月08日

罪を犯した発達障害のある人への対応が課題となっています。出所しても社会になじめず、罪を繰り返し、戻ってくる人も少なくありません。見た目では障害があると分かりにくいため、支援の手が届きにくく、周囲から孤立しやすいのがその一因です。再犯を防ぎ、社会の中でいきいきと暮らすための支援の取り組みを追いました。

再犯につながる孤立を防ぐ 支援センターの取り組み

およそ600人の受刑者が暮らす長崎刑務所。そのなかには、コミュニケーションが苦手、集中力が続かないなどの特性を持つ発達障害のある人たちもいます。見た目で分かりづらい障害のため、支援の手が届きにくく社会に出ても居場所が見つからず、罪を繰り返してしまう人も少なくありません。

こうした人たちの再犯を防ぐために活動している機関が「地域生活定着支援センター」です。

画像(地域生活定着支援センター)

地域生活定着支援センターは全都道府県に設置され、全国に48か所。刑務所から出所する障害者や高齢者を必要な福祉サービスにつなぎ、仕事や住まいを確保。生活を安定させる役割を担います。

8年前に最初に設置され、先進的な取り組みをしているのが長崎県地域生活定着支援センター。代表の伊豆丸剛史(いずまる・たかし)さんの仕事は、受刑者を訪ねることから始まります。

画像(刑務所に向かう伊豆丸さん)

伊豆丸さんは、ある日、窃盗の罪で服役中の40代の男性と面談し、出所後の生活について希望を聞きました。この男性には、発達障害の疑いがあり、コミュニケーションが苦手で過去に福祉施設でトラブルを起こしていました。出所後は母親のふるさとで過ごしたいという男性の希望を聞き、伊豆丸さんは他県の定着支援センターに連絡を取り、男性の受け入れ先の調整を始めます。

「犯罪を外側から評価するのではなくて、犯罪の内側(心)に入って、本人を理解していくと。そのためには常に寄り添い続ける存在でなければいけないし、そのなかで見えてきた障害特性とか発達障害の特性を、本人が通訳(説明)するんじゃなくて、我々が支援者に通訳していくというアプローチがとても大切。本人さんを孤立させないということと、そこに一番近いところで寄り添っている人を孤立させない。この2つがとても大切だと思いますね」(伊豆丸さん)

定着支援センターは、出所前だけでなく、担当した障害者のその後もフォローします。
別の日、伊豆丸さんは福祉施設が運営する宅配弁当の工場を訪れました。

3年前から支援を続けている吉井雅史(よしい・まさし、仮名)さん、(26)。
発達障害の1つ、「ADHD=注意欠如・多動症」と診断されています。衝動的な行動を自分では抑えられず、窃盗などを繰り返してきました。

画像(吉井さん)

伊豆丸さんたちは、1つのことに集中するのが苦手な吉井さんのため、常に近くでケアする職員をつけ、さらに時々気分を変えてもらうため宅配の仕事も任せています。伊豆丸さんは吉井さんと工場長と面談し、吉井さんの様子や本人の話を聞きます。

工場長「吉田さんは愚痴の1つも言わずにたんたんとやってまいりました。そこは成長した証しではないかと思っています。」
伊豆丸さん「前までだったらね、ぽーんと、もうやめたということが昔はあったかも知れませんよね。いま、配っていくのは雅史さんも楽しいんですか?」
吉井さん「楽しいです。」

「いろんなものを失ってきている人たちが多いので、一気には変わるものではないと思うので、そこにつまずきも含めながら、リスタートできるように寄り添い続けると。そういう人たちを1人でも2人でも増やしていくことが、私は一番の支援ではないかと思っています」(伊豆丸さん)

特性を理解し、能力をいかす

長崎県雲仙市にある障害者の通所施設「トレーニングセンター・あいりん」。犯罪や非行を繰り返してしまった障害者を積極的に受け入れ、更生を支援する、全国でも珍しい施設です。

画像(黒田さん)

この施設で支援を受けてきた黒田祐一(くろだ・ゆういち、仮名)さん(31)は、中学生の頃から窃盗を繰り返してきました。黒田さんは発達障害の1つ、「アスペルガー症候群」と診断されています。先の見通しを立てて行動することや、コミュニケーションを取ることが苦手です。

子どもの頃から電車が大好きで、思いつくまま飛び乗ると、当てもなく何か月も放浪したという黒田さん。お金がなくなっても助けを求めることができず、さい銭泥棒を繰り返しました。悪いことだと知りながらも、他の方法が思いつきませんでした。何度も警察に捕まり、少年院や刑務所に入ったこともあります。黒田さんの行動を家族も理解することができませんでした。

「警察署のなかでぶっ叩いたですもんね。『どこ行ってた?』『何してた?』『寒かったろう?』『暑かったろう』って。『お金は?ご飯は?』と聞いても、言わないもんね。車のなかでどれだけ説教しても、全然人の話を聞いてない。自分が何故悪いのか分かっていなかったと思う。帰ってきて2、3か月したら、うずうずしてまた出て行く。その繰り返し。ずっと、小学校から今までですよね」(黒田さんの父親)

5年前、黒田さんの支援に乗り出した施設がまず取り組んだのは、電話をかけてもらう練習でした。
この日は、通所施設の宇野さんに、黒田さんから電話をかける練習をしていました。

画像(通所施設 事業部長 宇野光央さん)

「黒田さんは、例えばさい銭箱をひっくり返すしかなかったけど、そこで10円を持っていれば電話するとか、最悪、警察に駆け込んでいって、お金がないから助けてくれとか。そういうSOSも出せるようになってくる。1個ずつ潰すという学習ですね」(通所施設 事業部長 宇野光央さん)

さらに、本人の能力をいかす仕事を見つけることも、再犯を防ぐ支援の1つ。黒田さんには福祉施設が運営する、そうめん工場で働いてもらうことにしました。

そうめんの束を整え、袋に詰める作業。几帳面で集中力のある黒田さんにとっては、得意な仕事です。折れたり汚れたりした麺を丁寧に取り除いていました。

好きな物をいかして苦手を克服

苦手なことを1つひとつ克服するには、さまざまな工夫が必要です。
黒田さんの支援記録のなかに、好きなこと、嫌いなことを10段階に分けて書き出し、感情を視覚化したものがありました。黒田さんが強く興味を持っていることを、苦手なことの克服に活用しようというのです。

画像(好きなこと、嫌いなことリスト)

そこで注目したのは「体を動かすこと」と「電車」。
他県で開かれるウォーキングの大会に、電車で行ってもらうことにしました。

目的地はおよそ80キロ離れた福岡県久留米市。刑務所を出たあと、ここまで遠くへの一人旅は初めてです。先を見通して行動することが苦手な黒田さん。今回はきちんと予定を立てて、その通りに行動する練習です。

一人旅当日、最寄り駅から計画通りに電車に乗った黒田さん。かつてだったら、このまま帰ってこなかったかも知れません。そして長崎を出て熊本へ。ここまでは順調です。

画像(1人で電車に乗る黒田さん)

ところが、JRから私鉄に乗り換える駅で迷ってしまいました。

駅員「どちらまで行かれますか。」
黒田「久留米までです。」
駅員「310円です。」
黒田「これですよね? すいません、ありがとうございます。」

黒田さんは自分から駅員に助けを求めることができました。予定の電車にもぎりぎりセーフ。時間通り久留米に到着できました。会場に着いたら職員に電話して、状況を報告する約束も果たせました。

実は、黒田さんはこの一人旅に特別な思いを持っていました。
去年この大会に、父親と一緒に来る約束をしていました。しかし、直前に発生した熊本地震の影響で大会は中止。楽しみにしていた旅を断念しました。熊本を元気にするためにも、今年は絶対に参加したいと、心待ちにしていたのです。

そしてウォーキング大会を終え、無事帰ってきた黒田さんを祝うパーティーが開かれました。

画像(黒田さんを祝うパーティーの席)

宇野さん「一人旅はトラブルなかった?」
黒田さん「はい大丈夫でした。」
宇野さん「まったくなかった?」
黒田さん「はい。施設に帰ってきたとたんに雨が降ってきたんで、それまでなんとかもってくれました。それが一番良かった思い出です。」
宇野さん「黒田さんの行いが良かったのか、ディレクターが頑張ったのかどっちでしょう?」
黒田さん「それはもう私が!私がその時頑張ったからですよ。」
参加者一同「(笑)」

黒田さんは一人旅の思い出を、施設の仲間たちと分かち合っていました。

「発達障害の人に限らず、まず、『どう寄り添うか』を考えています。単に仕事やりましょうとか、基本訓練やりましょう、特別訓練やりましょう、ではなかなか分からない。『ここなんだな』というところが見えてきて、初めて本当の支援が始まるかなとは思います。相手に心を開いて頂かないと、我々の気持ちとか目的ばかりを押しつけても、全然効果はないと思います」(宇野さん)

支援のコツは具体性

本人に合った訓練をすることで、成功体験につながる。発達障害のある人の特性とその対応について、具体的に行動の仕方を示すのが有効だと、京都工芸繊維大学特定教授の藤川洋子さんは言います。

画像(京都工芸繊維大学特定教授 藤川洋子さん)

「発達障害の方の特性っていうのは、口で言ったり、注意したりしても、実は伝わっていないことが多くて。『あれしたらだめ、これしたらだめ』と、いくら口を酸っぱくして言っても、『じゃあどうしたらいいのか』っていうのが分からないんですよね。『困ったら電話をしましょう』とか、『困ったら交番に行って、困ってますって言うんだよ』っていうふうな、こうすればいいっていう指示の仕方っていうのがコツの1つだと思いますね」(藤川さん)

さらに、好きな物や得意なことをいかすことで、仕事ができるようになり、社会に居場所ができることにつながるのです。

「会社の中でこれは自分の役割で、これをしてたら毎日がつつがなく過ごせるんだ、それでお金ももらえて旅行もできる、一人旅ができるんだっていうようなことが、だんだん経験を重ねるとつながっていくわけですよね。それが社会のなかで適切に行われていたら、本当に社会にとってもウィンなわけで、ウィンウィンということになると思いますね」(藤川さん)

刑務所を出たあとも孤立させないために、さまざまな機関が連携し、支援していく環境が求められます。

※この記事はハートネットTV 2017年5月31日(水)「シリーズ 罪を犯した発達障害者の“再出発” 第2回出所、そして社会へ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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