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特集・世界でもっとも男女平等な国(4)歩みを止めない 真の男女平等社会を目指して

記事公開日:2018年12月20日

各国の男女格差の度合いを指数化して順位をつける「世界ジェンダーギャップ指数」。いわばジェンダー平等に関する“成績表”ですが、日本の順位は149カ国中110位。
女性活躍推進が叫ばれる中、まだまだ格差が大きい日本。いったいどうすればその格差は埋められるのでしょうか。そしてそもそも目指すべき理想の姿とは?今回の特集では、10年連続1位のアイスランドを取材。「世界でもっとも男女平等な国」の暮らしの実態と、これまでの歩みからヒントを探ります。

■特集 世界でもっとも男女平等な国
(1)父親の育休取得率7割!
(2)世界が注目!あえての“男女分け”幼児教育
(3)声をあげた女性たち ジェンダー平等への道のり
(4)歩みを止めない 真の男女平等社会を目指して ←今回の記事

法改正で「同意」の証明がなければ性犯罪に

2018年4月、アイスランドでは、セクシュアルコンセント(=性的な言動における同意の確認)に関する新たな法律が施行されました。

画像(アイスランドの旗が並ぶ町の雑感)

それまでの法律では、被害者が「No」と言った、もしくは抵抗したことが証明されたケースのみが性犯罪として扱われていました。しかし、この改正により被害者が性的関係をもつことに同意したことを加害者が証明できなければ、犯罪として扱われることになりました。

この法律の元になったのが、「イスタンブール条約」。
欧州評議会が、2011年5月「女性に対する暴力およびドメスティックバイオレンス防止条約」を提案。2014年に10カ国目が批准し、8月1日に発行されました。条約の第36条で、同意を得ていない性行為はレイプとみなすことが規定されています。

イスタンブール条約を批准した国は、国内の法律が条約の規定に沿うことが求められます。しかし、現在批准している33カ国のうち、規定に見合ったセクシュアルコンセントの法律があるのはイギリス、アイルランド、キプロス、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、スウェーデン、アイスランドの8カ国のみ。今回の法律改正により、ジェンダー先進地である北欧のなかでも、アイスランドは先駆けてこの法律を導入したのです。

「もっとも男女平等な国」でも絶えない性暴力被害

法律改正の背景には、「世界でもっとも男女平等な国」と称されるアイスランドでも、途絶えることのない性暴力の実態がありました。

2010年にアイスランド大学が18~80歳の女性を対象に行った調査では、30%の女性が何らかの性暴力を男性から受けた経験があると答え、13%はレイプもしくはレイプ未遂があったと答えています。

そんな状況を変えようと1990年に設立されたのが、性暴力被害者支援センター・スティガモットです。

センターでは、レイプやセクシュアルハラスメントなどの性的被害を経験した人々に、無償でカウンセリングやセラピーなどのサポートを提供しています。そのほか、被害者の状況調査、政策提言、治療施設や専門家との連携、メディアでの問題提起、シェルターの設立などの幅広い取り組みを続けています。

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スティガモット・センターのカウンセリングルーム

アイスランドの首都レイキャビクにあるセンターには、アットホームでリラックスできる雰囲気のカウンセリングルームが並び、基本的には一人の相談者にカウンセラー1人が対応します。
また、グループによる自助の取り組みも行われています。午後と週末は自助グループが開かれ、5人から6人のグループにカウンセラーが1人付きます。

センターの広報担当者であるグイロン・ヨンスドッティルさんです。
性暴力被害が絶えないことは、この国が抱えている大きな問題の一つだと、アイスランド人はよく認識しているといいます。

画像(グイロン・ヨンスドッティルさん)

「ジェンダー平等パラダイス、いわゆる男女平等を重んじる国にとって、この性的暴力の問題は一番の恥だと思われています。私たちは、性暴力を受けた経験のある人々を、『支援』から『自助』へと導くことを活動の基盤としています」(グイロンさん)

#MeTooの広がり 訴えることの重要性

もう一つ、法律の改正を後押ししたものがありました。それは、2017年にアメリカから始まった#MeToo。アイスランドでも大きな動きになり、歌手ビョークが過去の被害をSNSで告発したり、スポーツ界や音楽業界、医療業界などの女性が匿名で被害の実例をあげた声明文を発表したりしました。

さらに、300人以上の女性政治家が嘆願書に署名し、「すべての政党がこの問題に強固な対応をすること。また問題が発生したときの対応をルール化し、女性が泣き寝入りすることなくサポートを受けられるようにすること」を訴えました。

毎年数百人ほどの被害者が相談に訪れるスティガモット・センターでも、こうした動きに後押しされ、2017年の相談者数は、一昨年と比べて3割増加。#MeTooの影響で、沈黙しない、声をあげる人が増えたからだとグイロンさんは説明します。

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スティガモット・センターへの相談者数の推移

「被害者が沈黙を貫けば貫くほど、加害者は犯罪を繰り返すことが可能になる。暴力の責任は、必ず加害者にあります。難しいけれど、声をあげることが暴力根絶に向けた道なのです」(グイロンさん)

さらに、企業役員や議員など、社会的な立場での男女の比率が平等になることだけでは、不十分だと言うグイロンさん。日本へアドバイスをもらいました。

「女性にとって安心できる社会をつくることに成功したときに、真のジェンダー平等が実現します。ルールを守るだけでは、自分を守れません。規則に従い、親切であるだけでは足りないんです。目標を決めて、日本にどんな変化をもたらせばいいのかを考える必要があります。協力してくれる女性たちをみつけて、共に立ち上がり、一緒に変えていきましょう」(グイロンさん)

画像(グイロン・ヨンスドッティルさん)

2018年10月24日、アイスランドでは史上5回目となる女性のデモ・ストライキが行われました。今回のストライキでは、伝統にのっとり現在の男女賃金差を労働時間に反映させ、女性が午後2時55分に退社。さらに、賃金格差の問題を主軸に置きながらも、職場でのセクハラや性暴力への抗議も行われました。スローガンは「Don't change the women, change the world(女性が変わるのではなく世界を変える)」。

「世界でもっとも男女平等な国」アイスランド。真に男女平等な国へ向けて、歩みは続いています。ジェンダーギャップが世界110位の日本が学べることはたくさんあります。

※この記事はハートネットTV 2018年10月3日放送「平成がのこした“宿題”第2回『ジェンダー格差』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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