各国の男女格差の度合いを指数化して順位をつける「世界ジェンダーギャップ指数」。いわばジェンダー平等に関する“成績表”ですが、日本の順位は149カ国中110位。
女性活躍推進が叫ばれる中、まだまだ格差が大きい日本。いったいどうすればその格差は埋められるのでしょうか。そしてそもそも目指すべき理想の姿とは?今回の特集では、10年連続1位のアイスランドを取材。「世界でもっとも男女平等な国」の暮らしの実態と、これまでの歩みからヒントを探ります。
■特集 世界でもっとも男女平等な国
(1)父親の育休取得率7割!
(2)世界が注目!あえての“男女分け”幼児教育
(3)声をあげた女性たち ジェンダー平等への道のり ←今回の記事
(4)歩みを止めない 真の男女平等社会を目指して
10年連続、世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ指数」により、世界一男女格差が少ないとされたアイスランド。
首相は女性。企業の役員や国会議員も半数近くが女性。いま、世界でもっとも男女平等な国として知られています。しかし、そのアイスランドも以前は男性中心社会でした。男女平等世界一になれたのは、「声上げた女性たち」の存在があります。
2年前の2016年10月24日14時38分。
大勢の女性たちが仕事を切り上げ、国会議事堂の前に集まりました。女性たちが抗議したのは、この年、明らかになったアイスランドの男女における所得差です。世界一平等な国でも、女性の所得は男性より3割少ないという結果。であれば、労働時間の7割で仕事を切り上げて格差の解消を訴えようというのです。
このストライキに子どもを連れて参加したエイルンさん。彼女が参加したのは、以前働いていた職場で男女に不平等があったと感じていたからです。
「その職場では基本給は男女同じでしたが、いつも男性ばかりが残業を頼まれていました。追加の仕事は男性のものでした。よく同僚と話してたんです。なぜ女性は残業を頼まれないんだろうって。制限があると感じたら、自分で変えること。誰かを待っていてはいけないのです。自分の意見を声にして、行動するのです」(エイルンさん)
今年1月、この動きを受けて新たな法律が施行されました。同じ仕事をする男性と女性に対して同額の賃金を支払っていることを証明するよう、雇用主に義務付けるという内容です。証明できない場合は罰金が科せられるという、世界で初めての法律です。
自ら声を上げて社会を変えることは、アイスランドの女性にとって初めてのことではありません。エイルンさんの母エイグロさんも、かつて声を上げたひとりです。
「私が18歳のころでした。姉や友達と一緒に学校をさぼって行きました。広場についたときに、鳥肌が立ちました。まるで人の海のようで、信じられない光景でした」(エイグロさん)
1975年10月24日。エイグロさんは、ほかの大勢の女性たちとレイキャビック中心の広場にいました。目的は、職場における男女の格差や、性別による役割分担に抗議の声を上げること。
アイスランドの成人女性9割が仕事も家事も放棄したことから、後に「女の休日」と呼ばれるようになります。
「若いひとりの女性として、私はすごく影響を受けました。みんなで集まって努力をすれば、本当に世界を変えることができるのだと。今でも鮮明に覚えています」(エイグロさん)
このストライキを呼びかけたのは、複数の政党や女性団体でした。運営に携わったエリザベータさんが当時のことを振り返ります。
「女性がどれほど経済に貢献しているかを示すことが目的でした。女が仕事にいかなければ、社会は麻痺するのだと。企業の偉い人たちは、電話の使い方すら知らなかったし、子どもを職場へ連れて行く羽目になりました。言葉通り、何もかもストップしたのです」(エリザベータさん)
この日を境に、アイスランドの男女平等は大きく進展しました。女性たちが結束して支援したことで、1980年には初めて女性大統領が誕生。さらに女性だけの党が生まれて、国会議員や首相も女性が担うようになります。
もう一つの転換期は2008年。
この年、アイスランドではリーマンショックの余波を受け、 通貨が大暴落。マネーゲームに走った金融機関は 次々と追い込まれていきました。そんな中、女性が立ち上げた投資銀行が、黒字経営を続行。無謀なリスクをとらない堅実な理念が評価され、経済界での女性の存在が注目されるようになりました。
そして2010年、政府は企業役員の4割を女性にするクオータ法を導入。その後も、性的少数者を含むジェンダー平等の政策を推し進めてきました。
アイスランドがジェンダー格差を埋めた歴史から、日本が学びとれることは何か。北欧のジェンダー政策が専門の大塚陽子教授は大きな理念を持ったうえで、あらゆる政策を横断的に進めていくことが大切だと考えます。
「アイスランドでは2008年からジェンダー平等法にクオータ制を入れてます。政治的意思決定の場にクオータ制を導入し、男性女性のいずれも40%を下回らないようにと条文に掲げています。ジェンダー平等に関しては社会省が中心的にやっていますけど、経産省であれ農林水産省であれ、あらゆる省庁にジェンダー平等に取り組む予算をつけています。これからの私たちの社会をどういう風にしていけばよりよくなるのかという大きなスタンスが必要になってきます。北欧諸国は幾多の危機に直面してきました。それらを乗り越えていまだに福祉先進国であり続けるということは、将来への明確な理念があり、それに基づいて行動して実践していくという一貫したスタンスをとっているからだと思われます」(大塚さん)
先進国の中でも、ジェンダー格差が大きいとされる日本。2016年に女性活躍推進法が施行となりましたが、小手先の対策ではなく、どのような社会にしていきたいのかという大きな理念が求められています。
【特集、つづきは…】
(4)歩みを止めない 真の男女平等社会を目指して
※この記事はハートネットTV 2018年10月3日放送「平成がのこした“宿題”第2回『ジェンダー格差』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。