各国の男女格差の度合いを指数化して順位をつける「世界ジェンダーギャップ指数」。いわばジェンダー平等に関する“成績表”ですが、日本の順位は149カ国中110位。
女性活躍推進が叫ばれる中、まだまだ格差が大きい日本。いったいどうすればその格差は埋められるのでしょうか。そしてそもそも目指すべき理想の姿とは?今回の特集では、10年連続1位のアイスランドを取材。「世界でもっとも男女平等な国」の暮らしの実態と、これまでの歩みからヒントを探ります。
■特集 世界でもっとも男女平等な国
(1)父親の育休取得率7割!
(2)世界が注目!あえての“男女分け”幼児教育 ←今回の記事
(3)声をあげた女性たち ジェンダー平等への道のり
(4)歩みを止めない 真の男女平等社会を目指して
昔からの社会規範としての“男らしさ・女らしさ”に息苦しさを感じている人は少なくないと思います。でも一方で、「男と女は、“同じ”ではない」のも事実。
そんな中、アイスランドにはちょっとユニークな実践を行う、教育機関があります。 その特徴は、毎日「男女分けクラス」の時間を設けること。なぜ、世界一ジェンダー平等な国で、あえての「男女分け」クラス?気になって、ある幼稚園を訪ねました。創業者のマルグレ・パラ・オラスドッティルさんは、長年ジェンダー平等を目指す幼児教育に携わり、男女平等評議会と男女平等大臣から表彰を受けてきた教育者です。
2000年に、ヒャットリステフナン(Hjallastefnan)という民間企業を立ち上げ、今では11の市町村で14の幼稚園と3つの小学校を運営、2000人以上の子どもが通っています。近年、「男女分けクラス」にこだわるその教育理念に注目が集まり、ヨーロッパだけでなくオーストラリアなどのメディアにも特集されました。
午前10時。幼稚園をのぞくと、3歳~5歳前後の子どもたち数十人が、男の子は男の子だけの部屋で、女の子は女の子だけの部屋で過ごしていました。男女それぞれの部屋で、子どもたちは、お絵かき・工作・外遊び・積み木・部屋遊び・水遊びのプログラムから、自分の意志でひとつ選択して遊びます。
同じ「部屋遊び」のプログラムでも、遊び方はそれぞれ。女の子たちが、マントをつけてごっこ遊び。男の子たちは、大きなブロックに這い上がったり飛び降りたり。
「外遊び」をする子どもたちがいる園庭は、柵や壁はないものの、半分は女の子のスペース、半分は男の子のスペースとなっています。女の子が木の枝等を使ってひとところに集まる一方で、男の子たちは大きな声を出しながら元気に走り回っていました。
マルグレさんは、30年以上の幼児教育に携わった経験上、男の子には自立性、女の子には社会性が比較的高いと感じられることが多く、それぞれの遊び方の違いは、男の子ならでは、女の子ならではの別々の「文化(culture)」だと考えています。しかし、男女が共に過ごすだけだと、それが十分に発揮されないと感じています。
例えば、男女が一緒に遊んでいるとき、元気のいい男の子が声をあげたり、力を使って場所を占領したりして、女の子が引っ込みがちな姿勢をみせることがよくあります。
そうした場合、たいてい、男の子が先生に叱られ止められる。そうではなく、男の子は、誰かの邪魔をするでもなく、誰かに止められるでもなく、自分たちのやり方を楽しみ、男の子らしくいられる環境を作りたい。女の子も、誰かに遠慮して、やりたいことを我慢しなくてすむような時間を過ごしてほしい。
マルグレさんは、男女がそれぞれの空間で活動することで、それぞれの「文化」を堪能できるようにするために、「男女分けクラス」を設けているのです。
男女特有の文化を尊重しながら、子どもたちの個性を伸ばしたい。男女が平等に暮らすには、平等の法律や権利の理念だけでなく、幼少期から自分らしく過ごすこと、そして社会が「男は、女は、こうあるべき」といった性別役割分担を押しつけないことが大切だと言います。
「男女分けクラスにすると、女の子だけなので『女の子らしい』という考えがなくなり、全てありのままになります。男の子だけのクラスも同じ。問題なのは、社会が捉える男性性・女性性が、狭い「枠」となってしまうことです。でもそれはもっと流動的なものです。狭い考えを持っていては、従来の性別役割分担に自分は当てはまらないと感じる人はどうなるでしょう?私たちは考え方を変える必要があります」(マルグレさん)
この日、遊びの時間のあとは、ダンスのプログラムが行われていました。この時間は、「男女混合」。男女ペアで音楽に合わせて身体を動かします。この幼稚園では、男女分けクラスと同様、毎日必ず男女混合クラスも設けられています。マルグレさんが目指すのは、それぞれの違いを排除するのではなく、違いに目を向けないことでもなく、尊重し合って生きていくことです。
「男女分けクラスは、ひとつのメソッドです。私たちの目標は、男の子と女の子、男性と女性が協力しながら共存し、互いを尊重すること。そして、ありのままの自分でいられる社会にしていくことです」(マルグレさん)
マルグレさんたちの教育は、人々の将来のジェンダー意識を変えることができるのか、今研究の対象にもなっています。2014~2016年にはレイキャビク大学の学生グループが、この学校の小学生にアンケート調査を実施。その結果、他の公立学校の学生と比較して、「家庭のことは同等に分担すべきだと思う」などのジェンダー平等意識が、男子も女子も高いことが示されたといいます。
男性性と女性性の違いは「ある」という前提で、その「共生」を目指す教育。ここで過ごす子どもたちの生き生きした表情をみていて、「自分の生まれた性別に違和感を抱く子がいたら、どう感じるだろう?」と疑問に思い、尋ねてみました。
するとマルグレさんは、ひとつのエピソードを話してくれました。
それは数年前、幼稚園に自分をトランスジェンダーだと考える子どもがきたときの話。女として生まれ、男として生きていきたいその子は、男性名を使い、周りは「彼」と呼んでいました。その子は、男女分けクラスの時間の時、男の子クラスと女の子クラスを両方試した結果、自分の意志で「女の子クラス」を選んだといいます。
「女の子クラスに“彼”ひとりでしたが、問題ありませんでした。子どもはとてもオープンマインドです、大人よりも断然オープンマインドです。常に覚えておかなければならないのは、子どもはただ、トランスジェンダー・男の子・女の子というわけではない、ということ。個性を伸ばす上で、男女分けクラスは、古いジェンダーロール(男女の役割分担)をなくしてくれる力強いツールです」(マルグレさん)
誰の中にもある、“男らしさ・女らしさ”。それは本来、社会に強要されるものでもなく、先入観の範囲内で語られるべきものでもなく、差別やハラスメントにつながるのではと、「違い」を重んじることを恐れていては、逆に人間としての魅力を十分に知ることはできないのだと気づかされました。
子どもへの教育に、独自のポリシーを貫くマルグレさん。未来を担う世代の認識が変わっていくことが、古いジェンダーロールに縛られた社会を変える一端になると信じています。
「アイスランドは進んでいますが、平等な社会になるには、もっとすべきことがあります。例えば、女性の職業分野を広げていくことです。女性は未だに、子どもに関わる仕事や病院・福祉が主な仕事です。個人個人の問題だけでなく、女性が多い分野に関する先入観、そして男性の分野に関する先入観を改善していく必要があります。幼稚園や学校の教育から始めることが、一番大切です」(マルグレさん)
【特集、つづきは…】
(3)声をあげた女性たち ジェンダー平等への道のり
(4)歩みを止めない 真の男女平等社会を目指して
※この記事はハートネットTV 2018年10月3日放送「平成がのこした“宿題”第2回『ジェンダー格差』」の制作過程で取材した内容を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。