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医療的ケア児を見守る、福祉と医療連携の仕組み

記事公開日:2018年03月30日

今、医療技術の進歩によって命が助かり、たんの吸引など「医療的ケア」を受けながら生活する子どもが増えています。2014年度時点の数は、8年前の1.5倍。しかし、実態はあまり知られておらず、支援も十分ではありません。そうした中、2016年に国は初めて、障害者の生活を支える「障害者総合支援法」の見直し案の中に、医療的ケア児の対応策を盛り込みました。従来の福祉制度に当てはまらない医療的ケア児。子どもたちの実情と、支援のあり方を考えます。

医療的ケア児  終わりの見えない介助

近年、新生児医療の進歩で助かる命が増え、全国のNICU(新生児集中治療室)はどこも満床に近い状態です。このため容態が安定した子どもは、医療的ケアが必要でも、退院させざるをえません。入退院を繰り返しながら、自宅で暮らす子どもたちのケアが親の肩にかかり、家族が社会から孤立してしまうケースもあります。

都内に住む黒岡さん宅では、遺伝子の変異により、骨や心臓に疾患がある3歳の慶佑君を、母親がケアしています。たんの吸引は、多いときで5分おき。対応が遅れると命の危険につながります。さらに、飲み込む力が弱いため、食事は、鼻から栄養をいれる「経管栄養」。これは、準備や片づけを入れると1回およそ2時間、1日に5回行います。

母親が唯一、慶佑君と離れられるのは、訪問看護師が来ているとき。週に1回、1時間半、面倒を見てくれます。この間に、たまった家事を急いで片づけます。経管栄養や吸引は夜中も必要なため、この3年間、母親がまとまって眠れた日は、ほとんどありません。

「夜中もずっと待機しているような状態が続いて、自分もコクコクしながらたんを取っていたりとかすると、どんどん自分も体力消耗してくるので、つらいなぁと思うときはあります。普通の子は成長してくると、ごはんの介助をするとかはなくなっていきます。(わが子の場合は)それはずっとやっていかなきゃいけないし、ケアをしていかなきゃいけない大変さはあります。」(慶佑君の母)

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慶佑君が3歳になった今、活動量は増え、コミュニケーションもとれるようになりました。しかし、今、新たな壁に直面しています。同世代の子どもたちと関わるため、幼稚園などへの入園を希望しましたが、「安全が守れない」と、受け入れ先が見つからないのです。医療的ケアは原則、家族か医療職しか行うことができません。そのため、看護師がいないなどの理由で、断られてしまいます。通える幼稚園が見つからなかったため、保健師から障害児施設の紹介を受けましたが、そこにも課題がありました。

看護師が常駐し、医療的ケアを受けることができる施設は、重度の肢体不自由と知的障害のある重症心身障害児が対象となっており、知的に障害はなく、歩くこともできる慶佑君は対象となりません。慶佑君を受け入れると、施設側に支払われる給付金は、重症心身障害児と比較して一回の利用ごとに一万円の差があり、施設の運営には負担となってしまうのです。
施設は、慶佑君の発達のことを考え、週1回だけ受け入れることにしました。

受け入れ先のない医療的ケア児

こうした状況を全国医療的ケア児者支援協議会代表の戸枝陽基さんは次のように説明します。

「そもそも障害があったり、何らかの状態がある子どものいる家庭では、すでに両親をはじめ家族が、その事実を受け止めづらい状況であるのに、それに対するメンタルケア等がまったく届かない上、先の見通しも届かないという状況です。私の子どもはいつまでこのケアが続くのかとか、誰かが助けてくれるのかとか、ちょっと大きくなってくると、普通に保育園に行けるのかとか、行けないならどうしたらいいのかとか、学校に行けるの? といった不安感がどんどん頭の中で駆け巡っていくわけですよね。だからずっと家庭という空間の中で凍りついたように、暮らしをただひたすら維持してるということが、問題を潜在化させた理由だと思うんですね。」(戸枝)

悲痛な声は番組の書き込みにも届いています。

「経管栄養チューブを使用している3歳児の母です。子どもは、私が注入をしなければ死んでしまうから離れられない。子どもとひと時も離れられずに寝るひまもない。このままじゃ虐待してしまうかも。」(静岡県・30代のお母さん)

「いろいろな支援施設に電話しては、医療的ケア児は不可と言われました。通いたいのに、通える場所がそもそも存在しないのは問題だし、異常事態だなと思います。」(千葉県・30代のお母さん)

医療的ケアが必要な子どもは、一般的には、幼稚園には看護師がいないため受け入れてもらえません。保育所は看護師がいることもありますが、医療的ケアに対応できないため、不可となっています。そして、障害児の通所施設でも、医療的ケアに対応ができる看護師がいるところもありますが、制度や経営の問題から、受け入れが難しい場合もあるということで、「ここなら確実に行ける」というような場所は、実態としてないのです。

家族を支えるキーマン 相談支援専門員

こうした医療的ケアが必要な子どもたちを支援するために、重要な役割を担うのが相談支援専門員です。相談支援専門員とは介護保険のケアマネージャーのような人で、福祉サービスの相談や調整をし、計画を作る人です。

障害者施設などを運営するNPO法人で働く宮原哲史さんは、相談支援専門員として30人の子どもを担当しています。染色体異常による病気で、人工呼吸器をつけながら生活している3歳の佐々木望君とは、退院するときから関わってきました。

宮原さんは孤立しがちな母親を支えるため、定期的に自宅を訪ね、医療や福祉などのサービスを、必要に応じてコーディネートします。例えば、沐浴のサポート。望君の安全を考えると2人の介助者が必要でしたが、制度上、訪問看護師2人を配置することが難しかったため、訪問看護師とヘルパーが一緒に母親を手伝います。医療的ケアに慣れていないヘルパーに対して、宮原さんは研修も行いました。

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「うまくサービスが滞らないようにとか、スムーズにいくようなところを応援していきたいなと思っていますし、少なくともお母さん1人で困ってしまった、家族だけで考えてどうしようもない状態にだけはしないというのは思っています。」(宮原さん)

さらに、望君が通える場所の確保にも乗り出しています。1年以上前から市内の障害児施設と交渉し、4月から通えることになりました。通所に合わせた、訪問看護のスケジュールの変更の依頼も、宮原さんが手配します。

そして、通所をひと月後に控え、宮原さんは再び、佐々木さんの家を訪れました。集まったのは、望君の在宅生活を支えているチームのメンバー。訪問看護師や、行政の担当者、ソーシャルワーカーなど職種はさまざまです。宮原さんは、通所先の担当者にも加わってもらうよう声をかけ、4月からの通所で、望君に必要な支援について話し合います。

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望君の母:レントゲンで、側わんがパッと見て曲がっているっていう感じになってます。普段のリハビリとか日々の生活の中で、少しずつストレッチとかトレーニングとかで改善が目指せれば、と。

通園先の先生:園でもリハビリの専門職も入ったりするので、そういう機会は作れるのかなと思います。

理学療法士:(普段、望君が姿勢を保つために座っている椅子には)快適角度があって・・・。

理学療法士の意見を参考に、施設でのリハビリも考えいくことにしました。

求められる具体的な支援策

全国的にみると、相談支援専門員を中心とした支援体制がまだまだ浸透していないのが実態です。
そんな中で、長野県は先進的な取り組みを行っています。
新生児医療の中核を担っている病院では、医療的ケアが必要な子どもなどに対して、病院が主導して、退院する前から支援体制を作っているのです。

退院が近付くと相談支援専門員や訪問看護師などが入った「支援チーム」を作り、病院のスタッフと一緒に退院後の支援方法を話し合います。もちろん家族も参加。退院前から地域のことを知っている人と連携することで、スムーズな支援につながり、家族の不安も取り除けると考えたからです。

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家族にとって、頼みの綱となる、相談支援専門員。しかしその数は足りていないのが実情です。戸枝さんは体制整備の必要性を訴えます。

「相談支援専門員の数の実態は、介護保険のケアマネージャーと比べて相談支援報酬が5分の1から6分の1と低いせいか、非常に少なくなっています。まさに伴走者としての役割が相談支援員に求められますので、きちんとやれるように体制整備が必要です。国は2016年3月、障害者の生活を支える『障害者総合支援法』の見直し案に、初めて対応策を盛り込み、『医療的ケア児』という言葉が入りました。これは大きな前進であり、今後は、その状態像が定まり、どのような支援をすれば、家族が支えられ、本人たちがきちんと育っていくのかということが決まっていくでしょう」(戸枝さん)

制度の狭間で見過ごされてきた「医療的ケア児」。番組には家族からのたくさんの悲痛な声が寄せられました。今後、具体的にどのような支援体制をつくることができるのか。ハートネットTVでは取材を続けていきます。

専門家から

https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/700/241517.html
https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/700/241520.html

「今後は医療と福祉の連携の仕組み作りが必要」

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田中道子さん
日本訪問看護財団 あすか山訪問看護ステーション所長

「相談支援専門員が行う総合的な支援という制度はあっても、まだ不足している状況です。また、相談支援専門員も、医療的ケアが必要な子どものために特別な知識は得ていません。ですから、医療と福祉の連携という面では、私たち訪問看護師がきちんとサポートとしていくことが必要です。子どもたちの体調に何が起こるかとか、成長する上で何が起きてくるかという情報を提示して、伴走すること。そして、家族が困っていること、何か問題が起きているときに、きちんとそれを拾い上げて、相談支援専門員に伝えたり、学校の先生や主治医の先生に伝えたりして、橋渡しをしてくシステム作りが重要です。制度は見直されますが、ヘルパーさんが安心して仕事を担えるように訪問看護師がサポートしたり、継続的な教育体制を作るなど、具体的な医療と福祉の連携の仕組みを作ることも制度の中に盛り込んでいただきたいですね。」

「医療的ケア児の実態を捉え、新しい枠組みで判定や支援の方法を」

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戸枝陽基さん
全国医療的ケア児者支援協議会 代表

「各地の実態調査で、医療的ケアが必要な子どもは人口1万人に対して2、3人いるとわかってきています。これだけの人数がいるわけですから、例えば医療的ケア児の相談支援センターのようなものを全国にある程度整備して、そこに看護師と介護職が一緒にいて、とりあえず声を上げる場所だけでもはっきりさせてあげるという方法もあります。的を作ってあげることと、各役割の人たちが連携するということをハイブリットで進めながら、その上で判定や支援の仕組みを作っていかないといけないと思います。」

※この記事はハートネットTV 2016年4月5日(火)放送「シリーズ 変わる障害者福祉 第1回 “医療的ケア児”見過ごされた子どもたち」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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