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特集セクハラ(2)日本ではセクハラが法律で禁止されていない?! 世界の中の日本

記事公開日:2018年11月14日

セクシュアルハラスメントに関する報道が目立った今年。実は「セクハラ」が日本で初めて注目されたのは30年も前のことでした。平成元年、福岡で初めてセクハラを争点にした裁判が起こされ、「セクシャル・ハラスメント」はこの年の流行語大賞新語部門の金賞を受賞。これを機に、セクハラという言葉は広く社会に浸透しました。しかし、それから30年。いまも被害を訴える声が相次いでいます。日本初のセクハラ裁判からこれまでに何が変わり、何が変わっていないのか。そして次の時代の“あるべき姿”についてシリーズで考えます。

 ■セクハラ特集
 (1)平成がのこした宿題 日本初の“セクハラ”裁判を振り返る
 (2)日本ではセクハラが法律で禁止されていない?! 世界の中の日本 ←今回の記事
 (3)ある企業の研修 「無意識の偏見」と向き合う

男女雇用機会均等法改正 配慮義務から措置義務へ

日本で初めてセクシュアルハラスメントによる女性差別の被害を訴えた「福岡裁判」(平成元年に提訴)。原告の晴野まゆみさんは、当時勤めていた出版社の上司から2年半にわたって性的な誹謗中傷を受けたのち、会社から「明日から来るな」と告げられ、事実上の解雇に追い込まれました。

提訴から2年半後に出た判決は、晴野さん側の全面勝訴。セクハラを行った元上司だけでなく、女性が働く環境調整を怠った会社にも損害賠償が命じられました。

福岡裁判以降、日本の法律はセクハラにどう対応してきたのでしょうか。

判決から5年後の平成9年。男女雇用機会均等法に規定が設けられ、企業はセクシュアルハラスメントの防止に配慮する義務(配慮義務)があるとされました。

画像(法律の変遷)

さらに、男女雇用機会均等法は平成18年と28年に2度改正されました。平成18年にはそれまでの「配慮義務」から、必ず会社が守らなければならない「措置義務」という形へ変わり、差別禁止が男女双方に拡大されたことで、男性もセクハラの被害対象に追加されました。

そして平成28年の2回目の改正では、妊娠・出産・育児休暇等に関わるハラスメント、いわゆる「マタニティハラスメント(マタハラ)」の措置義務が追加されました。

画像(均等法改正について)

これらの改正を経て、セクハラの相談件数はどのように推移してきたのでしょうか。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構が2015年に行った調査によると、セクハラの被害の経験があると回答した人は28.7%。また、都道府県労働局に寄せられる均等法に関する相談件数のうち、相談内容別で最も多いのが「セクシュアルハラスメント」であることが続いています。

画像(労働政策研究・研修機構 副主任研究員 内藤忍さん)

「数字で見る限り、セクシュアルハラスメントは以前多いままというのが私の印象です。さらに、労働局に寄せられる相談は氷山の一角と言えると思います。」(内藤さん)

諸外国に遅れる日本のセクハラ対応

高止まりが続くセクハラ被害の件数。その理由の1つとして考えられるのが、セクシュアルハラスメントをめぐる日本の法律のあり方です。実は日本では、セクシュアルハラスメントを明確に禁止する法律がないのです。

画像(男女雇用機会均等法の指針)

男女雇用機会均等法では事業主の雇用管理上の措置義務として、職場のセクシュアルハラスメントに対して
●雇用主の方針の明確化 その周知・啓発
●相談窓口設置など適切に対応するために必要な体制作り
●セクハラに関わる事後の迅速かつ適切な対応

が求められています。

これでは不十分だと内藤さんは考えています。
「肝心のセクシュアルハラスメント行為自体を規制(禁止)する規定がないんです。現状では、会社がセクハラを防止や対応する義務が均等法に入っているだけです。セクハラ自体が禁止されていないので、禁止される行為、違法な行為の定義というのも、もちろんないんですね。」(内藤さん)

さらにセクハラ規定を巡る救済制度のあり方にも、課題があります。
世界では刑事罰・民事救済(裁判を経て損害賠償が得られる)が両方ともある国や、刑事罰のみ、民事救済のみという国がある中、日本は実は、刑事罰・民事救済ともにない状況になっているのです。

画像(セクシュアルハラスメントに対する規定)

「日本は規定がない。裁判をすることはできるのですが、セクハラを受けたら司法救済を受けられるという、専門の規定があるわけではないということです。民法の不法行為という、一般的な規定を使って争うことになります。」(内藤さん)

では、企業が措置義務に違反するとどうなるのでしょうか。

「企業が違反すると、労働局が指導します。指導や勧告に従わない場合には企業名公表という規定も均等法にはあるけれど、セクハラについては今までこれが発動されたことはないのです。」(内藤さん)

これからの日本に求められること

セクハラという行為に対して、防止・対応を義務づける規定しかない日本。このような救済制度の中で、被害者の人たちは何を求めているのでしょうか。

内藤さんが聞き取りを行ったところ、被害者からよくあげられるのが、次の3つです。

【被害者が求めること】
・セクハラがあったと認めてほしい
・謝罪をしてほしい
・再発防止に努めてほしい

しかし、今の紛争解決の仕組みの中では、セクハラが法律で禁止されていないために、セクハラがあったことを労働局が認めることが難しく、被害者が求めるこの3つが得られないという結果になっているのです。

セクハラを巡る日本の現状を、諸外国に比べ遅れていると内藤さんは指摘します。
「EUはハラスメントについての指令、セクハラについての指令もあり、例えばイギリスは、その指令を国内法化する形でハラスメントの禁止、セクハラの禁止を法律の中に入れています。2010平等法という法律で、そこで禁止された行為があったら雇用審判所というところに行って争うことができると書いてあります。」(内藤さん)

最近では、国際労働機関(ILO)によるセクハラを含めたハラスメントに関する国際条約を作ろうとする動きもあります。また国連の女性差別撤廃委員会はセクハラの禁止規定を持たない日本に対し、長い間勧告を続けているということです。

被害者が声をあげにくい、声をあげた人が反対にバッシングされてしまうといった日本の現状は、セクハラに関する法整備が遅れていることに、大きな原因があると考えられるのではないでしょうか。

【特集、続きは・・・】
(3)ある企業の研修 「無意識の偏見」と向き合う

※この記事はハートネットTV 2018年10月2日放送「平成がのこした“宿題” 第1回『セクシュアルハラスメント』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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