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認知症にやさしいまち大賞 その1 アクション農園倶楽部

記事公開日:2018年11月12日

農園に集まり、土に触れることで、認知症の人に失いかけた日常を取り戻してもらいたい。地域の人々には、認知症の人と知り合うことで、偏見をなくし、理解を深めてもらいたい。新潟県湯沢町では、地元の高齢者にとって大切な農業を通じて、認知症の人たちの社会参加を応援しています。NHK厚生文化事業団が実施する「認知症にやさしいまち大賞」。今回は、今年の大賞受賞5団体から、「アクション農園倶楽部」についてご紹介します。

引きこもる高齢者が増えている

上越新幹線の越後湯沢駅から車で数分走った住宅地の一角に、認知症の人のための小さな農園があります。今回、「認知症にやさしいまち大賞」を受賞した「アクション農園倶楽部」の活動拠点です。

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416平方メートルの小さなコミュニティ農園

湯沢町は、2011年から、認知症に関する施策をそれまでの行政主導から当事者本位へと見直すための話し合い、「アクションミーティング」を開催することになりました。その際に、認知症対策だけでなく、認知症予防の観点からも、「高齢者がその人らしく暮らせる町づくりをしよう」ということで、提案されたアイデアのひとつが「アクション農園倶楽部」です。

発案者は、現在団長を務めている丸山静二さん。丸山さんは、地元でマンション管理の仕事をしているので、マンション暮らしの高齢者の様子に通じているだろうと、話し合いのメンバーの一人として役場から声がかかったのです。

現在、湯沢町の高齢化率は35.9%で全国平均の27.7%を上回っています。さらに、三世代同居が徐々に減り、夫婦のみ・一人暮らしの高齢者が目立つようになってきました。役場の調査によれば、65歳以上の高齢者の約26%は、週1回以上外出することがなく、自宅に閉じこもりがちです。

また、湯沢町のマンション居住者は総人口の約15%に上り、その4割近くは高齢者です。マンションで暮らす高齢者が地域との交流の機会を失い、閉じこもってしまうと、体力的にも精神的にも衰え、認知症であれば、進行を止めるのは難しくなります。いかに高齢者の屋外活動時間を増やすかが、最大の課題でした。

丸山さんは、「湯沢町の高齢者の多くは農業経験者なので、室内での活動よりも、外で土いじりをする方が、生き生きするのではないか」と農園活動を提案しました。そのアイデアが採用されると、丸山さんはおもしろがって、自らを“団長”と称して、アクション農園倶楽部をスタートさせることになりました。

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「アクション農園倶楽部」団長の丸山静二さん

日常を失わないために

活動日は毎週火曜日。午前9時に集まって、お昼まで農作業に従事します。参加するのは一回に20名から40名ぐらい。事前の申し込みは必要なく、現場に行けば、そのまま参加することができます。自宅、グループホーム、小規模多機能施設などで暮らす認知症の当事者をはじめ、その家族や介助者、近隣の住民たちなどが集まります。

「毎週続けることで、特別なイベントにはしたくなかった。認知症の人が失いかけているのは、日常の暮らしです。知り合いと挨拶したり、おしゃべりしたり、一緒に体を動かしたり、みんなで食事をしたり、当たり前の日々を取り戻してもらうのが、アクション農園倶楽部の役割です」と丸山さんは話します。

農作業は週に1回ですが、作物が育つ様子を見守ることで、活動の喜びは日々の生活の中にまで広がっていきます。数日前にまいた豆の種が芽を出しているのを散歩中に見つけて、仲間に報告したり、イチゴが色づく様子を確かめ合ったり、作物の成長が、人々の思いをつなぎます。

「トマトが成ったら、カラスが来るよ。ブロッコリーには、青虫がつくよ。野菜は生き物だから、世話しないと死んでしまうよ」と、認知症の高齢者が経験者らしいアドバイスを与えてくれることもあります。

「農園づくりなど、大都会以外は、日本中どこでもやれることでしょう。日常的な営みだから7年間も続いている。農作業をやっていると、認知症の人と普通の人との境目がなくなり、みんな家族みたいになっていく。継続の秘訣は無理な努力をしないで、やれることしかやらないこと!」と丸山さんは笑顔で話します。

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農作業が終わると畑の恵みをみんなで味わう

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煮大根にくるみ味噌をのせて

地域の人々の交流拠点として

アクション農園倶楽部は、住民と湯沢町役場とが連携して行っている活動です。役場の担当者は、湯沢町健康福祉部・健康増進課の國松明美さんと林君江さん。二人は7年間にわたって、農園の活動を見守ってきました。

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國松明美さん(左)と林君江さん(右)

2012年にこの事業がスタートした背景には、それまでの高齢者向けのサロン活動などを検証する動きがあったと言います。

サロンでは、お仕着せのメニューに合わせて、体操したり合唱したりするだけで自由がない。本人の知識や経験が活かされない。利用者たちが慣れない場所や作業に戸惑ったり、居づらそうにしている様子が見られるようになりました。さらに、室内でのイベントや活動は、訪れた人にしか知られず、周知啓発につながりにくいという悩みもありました。

それらの課題を解決するひとつの手段としてアクション農園倶楽部が位置づけられました。

農園は出入り自由で、畑に入って農作業に加わっても、他の人の作業を見守っているだけでもいいので、参加者にプレッシャーは与えません。デイサービスには行きたがらない高齢者も、農園になら気楽に足を運びます。そして、支援スタッフの指示を待つまでもなく、自由に農作業を始めることになります。それは訓練ではなく、生活そのものです。

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通行人が収穫を味わうのも自由

周知啓発という点では、農園の近くには、金融機関や農協やスーパーがあり、交通量が多く、活動が人目に触れやすい場所にあることから、多くの住民の関心を集めることになりました。認知症のことで困ったことがあるなら、火曜日にあの農園に行けば、誰かに会えるし、相談できる。参加はしないけれど、活動は知っているという住民が増えていきました。

地域住民との交流もさかんになっていきます。2016年からは、保育園入園前の親子が月一回、活動に参加するようになりました。子どもたちが大好きなイチゴ、スイカ、サツマイモなどの収穫の際には、親子を畑に招いて歓待します。

首都圏から移住してきたリゾートマンションの住人たちも、農園に集う高齢者たちと自然と触れ合うようになりました。役場が何も働きかけをしないのに、高齢者の受診介助や買い物などを手伝ってくれるようになったといいます。

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子どもたちの訪れをみんな楽しみにしている

「アクション農園倶楽部が、認知症の症状に医学的にどんな効果をもたらしているかを測るのは難しいと思います。でも、感覚的には確実に手ごたえを感じています。みんな表情が明るくなって、行動が活発になり、背筋も伸びてきていますから。それに何よりも住民の意識が変わってきました。“認知症になったらおしまいだ、一緒には暮らせない”と思う人が減ってきています。農園が地域のさまざまな人たちの交流拠点となって、認知症への理解を広げてくれているからだと思います」(國松明美さん)

アクション農園倶楽部では、要支援者も支援者も、双方にゆとりが感じられました。人と人との関係だけではなく、自然の恵みが間に入ることで、気持ちがほぐれていくようです。みんなで育てた、取れたての野菜を食べる場には、笑顔しかありません。福祉が理想とする「“ふ”つうに“く”らす“し”あわせ」を、認知症の人たちだけではなく、誰もが味わっているように見えました。

執筆者:Webライター 木下真

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