妊娠中の女性が風疹にかかると、生まれてくる赤ちゃんに障害がでることがあります。風疹の流行が繰り返されるなか、先天性風疹症候群のある赤ちゃんの早期発見と早期支援の体制はまだまだ整えられていません。
妊娠中(とくに妊娠初期、妊娠20週まで)の女性が風疹にかかると、お腹のなかの赤ちゃんも風疹ウイルスに感染し、難聴や白内障、心臓の疾患、発達の遅れなどの障害のある赤ちゃんがうまれる可能性があります。そうした病気や障害を先天性風疹症候群といいます。
1歳になる息子を育てている、しまこさん(仮名)。
2012年3月に妊娠したしまこさんは、妊娠5ヶ月目に身体に発疹ができ、風疹と診断されました。出産後に、医師のすすめで受けた新生児聴覚スクリーニングなどで、息子に重い難聴があることがわかりました。
先天性風疹症候群の場合、聴覚だけではなく、目や心臓にも障害がでるおそれがあります。
そのため、しまこさんは、幼い息子を連れて様々な検査を受けなければなりませんでした。
「眼科に行ったり、循環器科に行ったり、神経科に行ったりとか。病院通いもだんだんしんどくなってきちゃって。『生まれてきて、この子は幸せなのかな』とか不安と『どうしたらいいんだろうっていう心配とでしんどかったなと思います」(しまこさん)
風疹の予防接種を受けなかった自分を責め続ける日々でした。
不安で押し潰されそうだったしまこさんを救ったのは、同じ境遇の母親たちでした。
知り合いから、先天性風疹症候群の母親たちのネットワークを教えられ、子育ての具体的なアドバイスを得られるようになりました。
「この子の場合は、耳のことがあるので。『こういった耳のための遊びをしているんだよ』とか、そういうのを教えてもらえる身近な存在の方ができたので良かったです」(しまこさん)
難聴でも聞こえる音があり、息子の最近のお気に入りは打楽器です。状態にあわせ適切に対応していくことで、しまこさんは前向きな気持ちが生まれてきたといいます。
「合図というか、言葉を話したり声を発したり。そういうことが最近すごく上手になってきたので、楽しそうに遊んでいる姿を見ると『生まれてきてくれてありがとうだね』って思います」(しまこさん)
関東で暮らす1歳の女の子は、生後9ヶ月で先天性風疹症候群による白内障と診断されました。母親がミルクをあげている時に、女の子の目が白く濁っていることに気づき、眼科を受診。詳しい検査の結果、先天性風疹症候群による白内障と診断されたのです。
その後女の子は、濁った水晶体を取りのぞく両眼の手術を受けましたが、眼鏡での生活を余儀なくされています。
手術直後の女の子
「やっとできた子だったので、せっかく来てくれた子に、障害を与えてしまったというのは、申し訳ない気持ちでいっぱい。他の子に比べて、発育や発達が遅いので、他にもまだ見つかっていない障害が出てくるのではないか心配です」(女の子の母親)
女の子の母親は、妊娠中に風疹の症状が全く出ず、感染に気づいていませんでした。
風疹は、感染しても15%から30%は症状がでないのです。症状が出ないために、妊娠中に感染に気づかず、赤ちゃんに障害が出るケースは他にも相次いでいます。
2012年~13年にかけての風疹の流行で先天性風疹症候群と診断された45人のうち、母親が妊娠中に風疹の症状が出た人は31人で、残りの14人は症状がなかったか、分からなかったということです。(国立感染症研究所 先天性風しん症候群の報告)。
風疹の流行によって、先天性風疹症候群と診断される赤ちゃんが相次ぐ中、母親たちからの相談に応じている女性がいます。岐阜市に住む可兒佳代さんです。
可兒さんは、1982年、妊娠中に風疹に感染。娘の妙子さんは、目や耳、心臓に重い障害が出て、18歳の時、心臓の障害が原因で亡くなりました。
可兒佳代さんと娘の妙子さん
可兒さんは、自分たちのように、風疹で苦しむ母子をなくしたいと、2002年にホームページを開設し、風疹の危険性とワクチンの接種を呼びかけてきました。
しかし可兒さんの願いは届きませんでした。
風疹は、2012年から大人を中心に大流行。可兒さんのもとには、風疹によって障害が出た赤ちゃんの母親から相談が相次いでいます。
「私は知らずに風疹にかかっており、出産してから、子どもが先天性風疹症候群と分かりました。何も分からず、いろいろ不安です」(心臓などに障害がでた赤ちゃんの母親)
「子どもの将来が不安でたまりません」(娘の目に障害がでた母親)
可兒さんは、不安を抱える母親たちに、自分の経験などをもとに丁寧に返信し、励ましています。
「風疹さえ流行しなければ、こんな思いをすることは誰もなかったと思うと、とても悔しいし切ない。今苦しんでいる母親たちは、妙子と同じ年代で、私にとっては娘と同じです。娘たちの力に少しでもなってあげることができたら、そんな気持ちです。」(可兒さん)
可兒さんは、他の母親たちとともに、患者会「風疹をなくそうの会 hand in hand」を立ち上げました。
国に対し、成人に公費でワクチン接種を行うこと、そして障害が出た子どもと親たちを支援する体制の整備を求めてきました。
厚生労働省の担当者に要望書を提出し、対策を求める患者会
また、東京・墨田区で開かれた、医師や保健師、助産師を対象にした先天性風疹症候群についての研修会にも参加。子どもの発育について1人で悩んでいる母親もいることを報告し、障害を見逃さず、早期に治療や療育につなげる体制を作ってほしいと訴えました。
患者会のメンバーの一人は、妊娠8週目で風疹の症状が出て、この夏に生まれた男の子が風疹による難聴と診断されました。
「息子はゆっくりではあっても成長してくれています。ただ家に引きこもりがちになり、悶々としてしまうこともあります。今後、先天性風疹症候群の疑いがある赤ちゃんやその母親と接した場合には、ささやかな日常会話をしてもらえたら、心が落ち着くのではないかと思います」(先天性風疹症候群の男児がいる母親)
風疹が全国に広がった影響は、生まれてくる赤ちゃんに次々に現れています。
風疹の流行をこれ以上広げないだけでなく、先天性風疹症候群についての早期発見、早期支援の体制作りを出来るだけ早く行っていく必要があります。
※この記事は、2014年1月29日放送のハートネットTV「福マガ 緊急企画 風疹の流行を食い止めろ」と、2013年12月に掲載されたハートネットTVのブログ記事「風疹の障害で娘を亡くした母の願い」「風疹による障害 早期診断 早期支援を」をもとに作成しています。情報は当時のものです。