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発達障害のある子どもたち 小学校就学の悩み

記事公開日:2018年10月31日

子どもに発達障害がある場合に、多くの親たちが直面し悩まされる一つの壁。それは、小学校の就学先選びではないでしょうか。限られた選択肢の中で、どれが子どもにとって最善なのか。これから就学先で悩むママ、すでに選択した経験のある先輩ママ、そして教育学の専門家と一緒に就学時の悩みについて考えていきます。

就学時の4つの選択肢

ヒヨドリさんの長男ケイくん(5才)は自閉スペクトラム症の診断を受けています。
以前は、ケイくんを守るために特別な支援が必要だと考えていました。
しかし通っている保育施設での経験から、通常の学級の中でたくさんの子どもたちと関わり合いながら育って欲しいという思いが強くなったと言います。

画像(小学校選びに悩むヒヨドリさん)

たとえば遠足では、興味がないとなかなか足が進まないケイくんに「ケイくん、あともうちょっとだよ」と友達がすぐに声をかけてくれます。またある時は、食べることへのこだわりが強い特徴について「ケイくんって本当になんでも食べるよね、面白いね」とヒヨドリさんに伝えてくれた子がいました。

「違っていることは面白いって子どもたちは捉えるんだなと思って。この子はこういう時に困った行動をするけど、こういうところは良いところだよねって。自分を理解してくれる人が周りにいることで、苦手だった集団行動もやってみようってなる」(ヒヨドリさん)

発達障害のある子が小学校に上がるとき、どのような選択肢があるのでしょうか。

現在の制度では、通常の学級とは別に、特別支援教育という「将来の自立と社会参加を目標とする」教育制度を利用することができます。

画像(小学校に上がるときの4つの選択肢)

特別支援教育は状況に応じて3種類に分かれています。

通級指導教室 普段は通常の学級に在籍しながら、週に数時間程度、違う教室へ移動。
苦手な音読の指導や、社会性を学ぶためのグループ活動など子どものニーズに合った個別の指導を受ける。
特別支援学級 障害の種別で分かれた少人数の学級。
子どもの状況や保護者の要望に応じて、特別なカリキュラムを編成して学習することもできる。
特別支援学校 1クラス定員最大6人で、施設がバリアフリー化され、設備も整っている。
専門性の高い教育が受けられる一方、数が少ないため地域から出て通う場合が多い。

入学先に迷う親子のために、各自治体では「就学相談」を行っています。
子どもと保護者が、専門の相談員に進学の不安を相談できる場です。

画像(就学相談イメージ)

原則として子どもとその保護者の意向は尊重されますが、最終的には地域の教育委員会が進学先を決定します。
すべての小学校に特別支援学級などがあるわけではなく、特定の学校に生徒が集中してしまうのを避けるために、地域の教育委員会が振り分ける必要があるというのが現状です。

特別支援学級を選んだ先輩ママの体験談

よつばさんは、長女ウイちゃんと長男サクくんに、特別支援学級を選びました。
教育相談もまだ普及していなかった当時、発達検査で心理士から支援学級を提案されたのを機に、悩みながらも1人で決めたといいます。

画像(特別支援学級の特徴 障害の種類でクラス分けされた少人数学級)

特別支援学級は少人数のため、大人数の中では見過ごされがちなことにも気がついてもらえて、子どもたちの特性に合っていたと今は思っているそうです。

画像(よつばさん)

「ほぼマンツーマンみたいなものなので、言いたいことを言えて気になることを聞けて、その場で先生から答えをもらえる。しんどい時は休憩ね、とか少しずつ、スモールステップで進めることができる」(よつばさん)

一方、同じく特別支援学級を選んだタンポポさんの場合、大きくなってから息子のアボくんに「(特別支援学級は)あまり好きじゃなかった」と打ち明けられたそうです。アボくんには、相性の合わない先生がいて、少人数で先生との距離が近いぶん、居心地が悪かったのだとか。

また、よつばさんもタンポポさんも、通常学級との交流があっても、短い時間なので仲良くなるのは難しかったといいます。

「たまにしか来ない子だから、輪の中に入っている感はなく、隅っこにどうぞみたいな感じがある」(よつばさん)

通級指導教室を選んだ先輩ママの体験談

きくさんが長男ピタくんに選んだのは通級指導教室でした。

画像(通級指導教室、通常の学級に在籍しながら個別の指導が受けられる)

通常の学級に在籍しながら、通級指導教室には一週間に一回もしくは二週間に一回の2時間だけ取り出して通っていたそうです。

「障害がありながらこの社会でうまく生きていくには、何か違うやり方でもって乗り越えなきゃいけない部分があって。そこを学ぶために通級指導教室があったということです」(きくさん)

進学にあたっては、学校の雰囲気などを自分の目で確かめたいと随分見学もしました。 ここは特別支援学級だから、ということで決めるのではなく「わが子の能力を最大限に引き出してくれる所はどこなのか」という視点で選んだといいます。

画像(きくさん)

きくさんの息子ピタくんは、学習障害があり文字を書くことが非常に難しいそうです。
通級指導教室の先生がタイプする技術を身につけさせてくれたので、通常の学級での一斉指導であっても、タイプしながら一緒に勉強することができるようになりました。

しかし、通常の学級ではたくさんの子どもと関われる一方、「親のサポートが欠かせない」と、きくさんはいいます。何かあったとき対応できるよう、よく学校にいるようにしてきました。

「二階の教室から脱走していなくなった、と。その子を探している間にほかの35人は置いてきぼりになるわけですよ。『私が見ておくから大丈夫、先生は戻っていいよ』というふうにやっていました」(きくさん)

一方で、学習障害があるなかで通常の学級で授業を聞いているのは、本人も辛いのではないかと心配しているのは、小学校1年生の息子を持つ菜の花さんです。

「うちは発達障害の大きい3つが全てあるんですね。ひらがなも数字もわからない中で、それをずっと聞いている本人もきっと辛いと思うんです」(菜の花さん)

東京大学・名誉教授の汐見稔幸さんは、「いまは教室のパターンとか、授業のスタイルを問題にしているが、もう一方で、例えば学習障害のある子に対して、どういう教育をやるべきかという研究をおこなうべき」だと主張します。

画像(東京大学 名誉教授 教育学 汐見稔幸さん)

「アメリカの場合は、例えば計算が困難な子どもに『何が好き?』と聞きます。そこで『機械いじりが好き』と言われたら『では、計算機を使いましょう』となります。その上で、計算ができたら『君はすごいね』と声をかける。このように、できることを使って苦手を克服するような教育をするのです。しかし日本では、そういう教育になかなかまだ切り替わらないところもあって、通常の学級では難しい面はあると思います」(汐見さん)

理想と現実 「みんな一緒」がいいけれど・・・

通常の学級で他の子どもたちと一緒に学ぶのか、それとも特別な支援が必要なのか。 親はどちらかしか選べないのでしょうか。

映画「みんなの学校」の舞台となった大阪市立大空小学校では、多様な子が一緒に過ごす中に「大事な学びがある」という考えから、発達障害のある子どもたちも一緒に通常学級で学んでいます。

ここでは、発達障害のある子だけでなくすべての子どもたちに「“困った”子として扱うのではなく何かに“困っている”子」というまなざしが向けられています。

この学校の取り組みについて、通常の学級への就学を視野に入れているヒヨドリさんは、次のように語りました。

画像(左からヒヨドリさん、尾木直樹さん、汐見さん)

「そこにいる大人に『どの子も見捨てないよ、どの子も仲間なんだよ』っていう、筋の通ったものがあるっていうだけで、周囲が問題行動を見る目がきっと変わってくる。先生が、『またそんなことをして』っていう目で見たら、他の子どもたちは『あいついけないことをやっている』って見るけれど、『何か困っているんやろう?』って、その子に寄り添う姿勢を見せると、子どもたちも仲間として集団として成長していくと思います」(ヒヨドリさん)

一方、きくさんはご自身の経験から、次のように指摘しました。

「学校や地域で、保護者や先生がたも含め、いろいろな大人が、子どもの育ちを応援していくことが、本当にあるべき姿だと私は思う。もう一方で、この子が一人で生きて行く力を備えていくにはどういう教育があるのかってことを視野にいれながら、彼に届く教育がちゃんと施されているかってことは、もっと冷静になってよく見つめる必要がある」(きくさん)

また、菜の花さんが感じたのは、大空小学校のあり方はあくまでも理想だということでした。

画像(菜の花さん)

「現実には、いろんなお母さんもいらっしゃいますよね。『あの子がいたら勉強ができない』っていう声も、実際私の息子にではないですけれど、まわりまわって聞くこともあります。『あの子が走り回ったら、それだけ先生も手が取られる。注意もいく。勉強がちょっと遅くなるんじゃないか』って」(菜の花さん)

理想は「みんな一緒」に、そして「その子に合った教育や指導方法で学ぶ」こと。
しかし現実にはまだまだ難しく、簡単な問題ではないというのが、先輩ママたちの実感でした。

親たちのつながりが教育の現場を変える 八王子市の取り組み

浮き彫りになった理想と現実の大きな差。
この差を埋めていくために、汐見さんがまず挙げたのは「インクルーシブ教育」です。

画像(インクルーシブ教育のイメージ)

世界の教育現場では今、「一人一人のニーズにあった教育」、「みんなで一緒に学ぶ」という2つを実現しようとするこの教育に注目が集まっています。特別な支援が必要な子、ゆっくり学びたい子、たくさん勉強したい子、多様なすべての子どもたちのための教育です。日本でも少しずつ取り組みが始まっています。

汐見さんはまた、親たちの力によっても教育が少しずつ変わっていくと考えています。
実際に、東京都八王子市では今、親たちのつながりが教育の現場を変えつつあります。
「学校サポーター事業」です。

学校サポーターは、先生のように授業を行いませんが、子どもたちの学びを助ける有償のボランティアです。特別支援の対象の子どもだけでなく、誰にでもサポートをするのが特徴です。授業だけではなく、休み時間や給食のときも、あらゆることに手を差しのべ、クラスを見守ってくれます。

画像(学校サポーター)

先生たちにとっても欠かすことのできない存在になっています。
「子どもたちが“助けてもらえるという安心感”を持つことができて、待つことができたり、学習への意欲や取り組みが良くなったり、前向きになったと感じます」(小学校教諭)

学校サポーターになるためには、いくつかの条件がありますが、500名以上(2018年5月現在)の人々が登録しています。いまや、学校サポーターは、八王子市内のすべての小学校(中高一貫校を除く)で子どもたちを見守っています。

一斉に同じことを学ぶという教育は、近代社会が生み出した特殊なやり方なのだという汐見さん。
最後に次のように語りました。

画像(汐見さん)

「本来は一人一人のニーズがあって、それぞれが学びたいテーマがあって、それをちゃんと自分のものにしながら、発見する場所が学校ですよね。そのために多様な教育の形態を作らなきゃいけないというのがようやく今、いろんな形で明らかになってきて。今一人一人悩んでるお母さんたくさんいらっしゃいますからね、少しずつ声を出してね、そうすると新しい形が必ず見えてくるっていう、そういう時代が始まったんじゃないかなって思います。」(汐見さん)

学校や地域をも変えていく力を秘めている、同じ思いの親同士のつながり。学びの場を見つめ直し、新しい教育の形を模索する動きが始まっています。

※この記事は2018年05月26日(土)放送 すくすく子育て×ウワサの保護者会「ちゃんと知りたい!子どもの発達障害」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。
※すくすく子育て「発達障害のある子の就学と小学校」お悩みQ&Aはこちら

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