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なぜ起こった? 国の障害者雇用水増し問題

記事公開日:2018年10月22日

激震が走った「障害者雇用水増し問題」。中央省庁の8割にあたる行政機関で、あわせて3,460人の障害者雇用が水増しされていたことが判明しました。なぜこのような事態が起きたのか。番組に寄せられた声を交えながら、現在の制度の問題点を明らかにし、今後の改善策を考えます。

寄せられた多くの声 必要なのは根本的な解決法

厚生労働省は、中央省庁の8割にあたる行政機関で、合わせて3,460人の障害者雇用を水増ししていたとする調査結果を発表しました。このニュースを受けて、番組には多くの声が寄せられています。

「ニュースを見たとき、あぁやっぱり現実はそうだよね。と思った。就職に向け頑張ってきた自分が、バカバカしくなりました。」(ゆるりさん・30代女性・秋田県)

「社会が『行政すら障害者雇ってないんだから、民間が雇わなくても問題ないだろ』という考えになり、障害者雇用がさらに冷え込む気がする。」(カルロスTさん・30代男性・東京都)

「制度があるから雇用するのではなく、そもそも障害のある方への理解を深めることが目的では? 数合わせの『お役所仕事』を心底軽蔑します。」(きょうこさん・40代女性・東京都)

作家で詩人の豆塚エリさんは高校2年から車いすユーザーですが、今回のニュースを目にして、自身の就活体験を振り返ります。

画像(豆塚エリさん)

「怒りもありますが、それよりもあきれとか諦めのほうが強くなってきました。私も就活のときに『車いすでは無理だよ』とハローワークで言われて驚いてしまって。求人票を見ても清掃とか運搬とか軽作業しかないんですね。障害者ってこういうイメージなんだなと感じてしまって、その流れがあるので今回のニュースは非常に残念ですね。」(豆塚さん)

障害のある人の権利を守る団体で代表を務める藤井克徳さん。藤井さん自身も視覚に障害があります。水増しの背景には、障害のある人への差別があると藤井さんは感じています。

画像(藤井克徳さん)

「もともと国は障害のある人たちを雇うことに消極的じゃないかなと。もっとはっきり言うと、障害者を雇用することがうっとうしいな。そんなことが前段にあって。入り口から本当の実力をもった人、障害者の人がね、きちんと受け入れるっていうことになっていないんじゃないかと危惧しますね。」(藤井さん)

中央省庁には、民間企業のような障害者枠と呼ばれる採用枠や、働く環境を整える仕組みがありません。障害のある人とない人を平等に扱う法律の原則が誤った形で適用されていると藤井さんは指摘します。

「何も支援なしで『一緒に働け』と言っても無理なわけですよ。これを補ってもらえないと、障害のある人の労働力が発揮できない。」(藤井さん)

今回発覚した障害者雇用の水増しは信頼を大きく失う事態です。しかし、役所の問題で終わらせてはならず、根本的な解決法を考えていく必要があります。

法定雇用率の算出法に疑問

中央省庁の採用規定には、障害者雇用のための採用枠と予算が設けられていません。
障害者雇用について定めている法律は「障害者雇用促進法」。
この法律の柱となる仕組みが「法定雇用率」と「雇用納付金制度」です。

画像(『法定雇用率』と『雇用納付金制度』の解説模型)

「法定雇用率」は、障害のある人を雇用する割合です。国や公的機関は「2.5%」、民間企業は「2.2%」と、法律でそれぞれに決められています。

「雇用納付金制度」は、法定雇用率を達成していない企業が、不足している1人分につき月5万円の「納付金」を国の外郭団体に支払うという仕組みです。しかし、この仕組みの適用は民間企業のみで、国と公的機関には、法定雇用率を達成しなくても納付金の支払い義務はありません。

ここで、法定雇用率の計算方法について、図で見てみましょう。

画像(法定雇用率の計算方法)

分母も分子も、「働いている人」と「失業者」の合計です。「失業者」は、「本当は働けるけれども、今は職についていない人」なので、この2つの人数を合わせると「働ける人」の合計になります。すべての「働ける人」のうちで、障害のある「働ける人」の割合が、法定雇用率の算出根拠です。

慶應義塾大学教授の中島隆信さんは、この数字にはおかしな点があると言います。

画像(中島さんの画像)

「問題があるのは『障害のある失業者の数』。おかしい数字が出てる。あまりにも失業者が少ないわけですよ。絶対もっと働きたいと思ってる障害者もいるし。本当は職探しをしたいと思ってる人もいるかもしれないけれども、実際にはそういう人たちをカウントしないでこの数字を出しているとしか思えないですね。」(中島さん)

数字の算出根拠があいまいで、法定雇用率が低く見積もられているのではないかという疑問。この点について、厚生労働省に問い合わせたところ、障害のある失業者の数は「障害者手帳等」によって算出しているという回答がきました。

これについて中島教授は、障害者手帳には失業しているかどうかが書かれているわけではないので、正確な数字は出ないと指摘。さらに、法定雇用率の分母は国勢調査によって調べられている数値なので、分子と分母で調査方法が違うのもおかしいと語ります。

分子となる「障害のある失業者」は正確な調査が存在しません。ハローワークに行ってなくても働きたいという人はいます。

そこで、中島教授に18歳から64歳までの働くことのできる割合から改めて法定雇用率を計算してもらったところ、国・公的機関の法定雇用率は5.4%になりました。

参考までに、海外の法定雇用率を見てみます。
ドイツ:5%
フランス:6%

日本が定めている2.5%よりもかなり高い数字です。
評論家で福祉フィールドを取材する荻上チキさんは、この問題を非常に危惧します。

画像(荻上チキさん)

「正確に計算をすれば海外と同じくらいの数字になるということですけど、そのような数式を採用していないのは、実際に官僚の方々に能力がないのか、意図的に数字を下げているのか。どちらにしても日本の危機のひとつなので改めてほしいと思います。」(荻上さん)

なぜ国や公共機関は雇用納付金制度に入らないのか?

続けて「雇用納付金制度」について。
なぜ、国や公共機関がこの制度に入っていないのでしょうか。

「納付金」というと、罰金やペナルティーのように捉えられがちですが、東京通信大学教授の松為信雄さんはこれを否定します。

「納付金は決してペナルティーっていう概念じゃないんですよね。法定雇用率の2.2%に達していない企業や、達している企業があります。納付金制度っていうのは、この、達成していない分のお金を徴収します。これは、1人5万円ですが、決して『罰金』ではなく、共に生きる『共生』です。」(松為さん)

画像(東京通信大学教授の松為信雄さん)

松為さんによると、法定雇用率を達成できなかった企業から徴収した納付金は、雇用率を達成した企業のさらなる職場環境の整備や、新たな仕事の創出に使われます。また、さまざまな助成金として活用され、未達成の企業が障害のある人を雇用しやすくする基金としての役割を果たします。

「障害者雇用促進法の精神というのは、企業全体が一緒になって、共生社会になって、障害のある人と皆で作り上げていきましょうという法の精神なんですよ。今回の報道で官庁が大きな問題になりましたね。官庁に関しては雇用率は設定しました。でも、納付金制度はないんですよ。だから、変なことになってしまうんですね。法の精神が官庁では生かされていないということになるんですよ。」(松為さん)

雇用納付金制度は、社会全体で障害のある人が働きやすい環境を整えていくことを目的とした制度。この仕組みの中に、国と公的機関も加わってもよいのではないかというのが松為さんの提案です。

なぜ、国と公的機関が雇用納付金制度から外れているのか。厚生労働省に問い合わせたところ、次のような回答がありました。

・国の機関から納付金を徴収すれば、国民の税金から支払うことになり、国の納付義務を国民に転嫁する結果となり、好ましくない。
・民間事業主と同様に経済的負担の調整を国の機関が行うことはなじまない。

荻上さんはこの回答を疑問視します。

「これは意味不明な言い分です。税金というのは国民のために使うものですから、税金だからなじまないという説明はそもそもおかしい。そんなことを言ったら国賠訴訟で払うのも税金ですから、訴訟で負けてはいけないみたいなことになってしまう。もう一点おかしいのは、こうした納付金は未達成の場合に払わないといけないので、国は必ず守りますとなれば、こうした前提はいらないという状況になるわけですよ。このような回答が出てくること自体が、消極性を表していると思います。」(荻上さん)

働きたい人が働けるために

取材を通して見えてきた課題から、国への提言として次の3つをまとめました。

画像(3つの提言)

1. 法定雇用率の見直し
2. 国・公的機関で障害者の「採用枠」・「予算」確保
3. 雇用納付金制度の国・公的機関への適用

評論家の荻上チキさんは、さらに国民の意識を変えることも必要だと提案します。

「この改善のポイントはとてもいいと思いますね。ただし、今回のように水増しだとか抜け穴を探すことはいつでもできてしまいます。そうしたことを許さないようなチェック体制を国民が持っていくことが一番大事だと思います。」(荻上さん)

また、「日本の仕組みでは、民間でも国でも、通勤や仕事の際、ヘルパーをつける公的サービスを受けられない」という問題点も障害者団体から指摘されました。

たとえば日本と同じように、雇用率制度と雇用納付金制度を導入しているフランスの場合です。

国と公的機関は、雇用率が未達成の場合、第三者機関に納付金を支払う義務を負っています。
また、納付金は元々国民からの税金であることから、障害がある人に還元され、通勤交通費や仕事をする際のヘルパーを雇うための費用に使うことができます。雇用率が達成できなくても、最終的には必ず障害者本人の社会生活を支えているのが特徴です。

「一人一人の人間としてとらえてほしくて、障害者とかではなく、女性や介護をしないといけない人だっているので。どんどん締め付けを強くしていくのではなくて、もっと雇用をしやすい方向で頑張ってほしいなと思います。」(豆塚さん)

今回の水増し問題を受けて、人事院では障害のある人を特別に採用する枠の導入の検討を進めるとのことです。また、厚生労働省は当事者へのヒアリングを行いながら、10月中をめどに再発防止のための報告書をまとめるとしています。

※この記事はハートネットTV 2018年9月18日放送「HEART-NET TIMES 9月」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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