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性犯罪に関する刑法~110年ぶりの改正と残された課題

記事公開日:2018年10月22日

2017年6月、性犯罪に関する改正刑法が国会で可決・成立しました。これまで女性に限っていた強姦罪(改正後の名称は強制性交等罪)の被害対象者が性別を問わない形となるなど、明治40年の制定以来110年ぶりの大幅改定となり、今後の運用に注目が集まっています。しかし、改正後もなお多くの課題が残り、被害者や支援者からは「実態を反映していない」との指摘も上がっています。現場に詳しい方々に話を聞きました。

110年ぶりの大幅改正 そのポイントは

2017年6月、国会で性犯罪に関する改正刑法が可決・成立しました。明治40年の制定以来110年ぶりの大幅改正となり、大きな注目を集めました。そのポイントは次の通りです。

画像(刑法改正のポイント)

(1)強姦罪→強制性交等罪
名称を変更、これまで被害者を女性に限っていたが性別を問わないことに
(2)厳罰化
強姦罪の法定刑の下限を懲役3年→5年に引き上げ
(3)非親告罪化
被害者の告訴がなくても起訴する事ができるように(これまでは被害者の告訴がないと起訴できない親告罪)
(4)監護者による子どもへの性的虐待を処罰
18歳未満の人に対して、親などの監督・保護する立場の人がわいせつな行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰されることに

今回の改正は、現場ではどのように受け止められているのでしょうか。性犯罪被害に詳しい弁護士の上谷さくらさんに話を聞きました。

画像(上谷さん)

弁護士 上谷さくらさん

「決して厳罰化ではなくて、これまでが軽すぎた、甘すぎたと思うんですね。なので、私は適正化であると言っています。やっと適正なレベルに来たと。例えば、強姦罪の法定刑の下限が引き上げられたとか、そういったこれまで被害者の方が非常に多く問題と感じていた点ですね。あとは親告罪とされていたものが非親告罪になるということは、被害者の悲願だったので、その点が改正されることになって本当に良かったと思っています。」(上谷さん)

“暴行・脅迫”が証明できなければ罪に問えない

一方で、上谷さんは不十分な点も残ると指摘します。そのひとつが「加害者にはっきりとした“暴行又は脅迫”があったことを証明できなければ、罪に問えない」という点です。

「判例で、(暴行・脅迫とは被害者の)反抗を著しく困難ならしめる(程度のもの)と言われていまして、これが非常にハードルが高くてですね。被害を受けた側からすると、反抗が著しく困難なんだけれども、客観的に見るとそうじゃないとされてしまうことも多いんです。例えば、ちょっと肩をつかむとか、ドンと押し倒すとか、それが暗闇であったり周りに人がいないだけで、被害者としては怖くて反抗が困難です。しかし、『そのくらい頑張ったら逃げられたんじゃないの?』というふうにとらえられてしまって、結局“暴行・脅迫”の要件を満たさないというケースがとても多いなと思います。そこで泣き寝入りしている人の数がとても多いんですね。ですから要件を緩和するとか、別の新しい罪を作るべきではないかとか、いろんな意見があります。そこが結局なんら手当されることなく、今回の改正で反映されなかったことは非常に残念だと思っています。」(上谷さん)

トラウマ治療が専門で、性暴力被害に遭った人たちを数多く診察している精神科医の小西聖子さんは、被害者が抵抗することが困難であるという点について、現場での実感を次のように語ります。

画像(小西さん)

精神科医 小西聖子さん(武蔵野大学教授 トラウマ治療が専門)

「『ずっと抵抗しました』っていう方がいない訳ではないんですけど、ほとんどの方が最初からもう怖くて動けなかったり、どっかで諦めたりっていう事が多いし、もう恐怖で『とにかく生き残らなくちゃ』っていうような事だけ思っている人もたくさんいます。抵抗っていうよりも、一番聞くのは、ある時点で『もう何もできないと思いました』っていう無力感とかですね、絶望感とかそういう事が多いです。そんなに人はね、長いこと抵抗し続ける事なんかできないし、すごく怖いんですよね。その怖さがやっぱり分かってもらえてないと思います。だから端的に言うと、実態を知らない方が作った法律なんだなっていうのを強く感じます。法律を作る人も実態を知ってる訳じゃなくて、裁判にあがったようなものしか知らない訳ですよね。そうすると実際に声を上げられない人たちの多くの実態というのは表に出てこない。その悪循環があると思います。」(小西さん)

残されたいくつもの課題

子どもの頃に父親から性暴力を受け、2017年春に実名で体験を出版した山本潤さんは、改正刑法が審議された国会に参考人として出席し、当事者の声を届けてきました。山本さんは、“暴行・脅迫”のほかにも、今回の改正で抜け落ちてしまった点がいくつもあると指摘します。そのひとつが「時効」の問題です。

画像(山本さん)

性暴力サバイバー 山本潤さん

「今、刑事事件の強制わいせつは時効が7年、強姦罪(今回の改正で強制性交等罪に名称変更)は10年なんですね。今、私は43歳ですけれども、父から被害に遭い始めたときは13歳で、それが20歳まで続いたんです。そのあとすぐに被害を訴えられたかっていうとそうではなくて、自分のことを人に伝えられるようになるまでにすごく時間がかかってしまっていて、公の場で話すことができたのも2010年ぐらいのときにようやくなんです。被害者が時効の期限で自分の経験を人に伝えられるかっていうと、そのこと自体が、ものすごく難しいことだと思うんですね。ぜひ、時効を延長するとか、被害者が成人になるまでは停止するっていうことを考えてほしいと思います。」(山本さん)

また、今回新たに設けられた「監護者わいせつ及び監護者性交等罪」(18歳未満の人に対して、親などの監督・保護する立場の人がわいせつな行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰されることになった)についても、“監護者”の範囲が狭すぎることを指摘します。

「“監護者”とは、生活や生計を共にし、保護・被保護、依存・被依存の関係にある者を監護する者のこと(具体的には親など)で、本当に狭い範囲なので、上下関係において起こる性加害を裁ける類型をきちんと作る必要があると思います。海外の法律では、教師やコーチなどの逆らいがたい立場の人、あるいは医療者と患者、刑務所職員と受刑者との関係など、地位や関係性が列挙されているものがあるんです。そういう上下関係を利用して性的な加害をされたとき、抵抗することも逃げることもできないということがあるから類型を設けているわけですよね。日本ではそのことについての理解がないと感じます。法律家の見方に当てはまらなかった場合、加害者と被害者の立場の関係性を考慮することなく裁かれてしまう。そうなると、被害として認識してケアを求めたり、訴えるということもできなくなっていく。結局、被害者だけが苦しみを背負い続ける実態がすごく理不尽で、許されない状況だと思います。だから、地位と関係性を利用して加害者は何をしたのかを明白にして、罰せられるような法律にしてほしいと思っています。」(山本さん)

3年後の見直しに向けて 社会の意識変革と当事者の声を

大幅改正されたとはいえ、なお残るいくつもの課題。そこには、100年以上前の明治時代に作られた法律が今まで運用され続け、改正後もその概念が色濃く残っていることがあります。この点について、評論家の荻上チキさんは、そもそも法律が男性によって作られ、運用においても男性中心で行われてきたことが問題であると指摘します。

画像(荻上さん)

評論家 荻上チキさん

「刑法制定時は、男女の性に対する意識や意味合いが今とは違っていました。女性は結婚相手以外の人と性交をしてはいけない『姦通』といった概念もあり、そもそも性について告発することがしにくいような状況がありました。長らくの間、性は“権利の問題”ではなくて、家父長制や家族といった“あるべき規範”に縛られて議論をされてきたということです。それに加え、被害にあった人が告発をする場合、たとえば司法や警察、弁護人も含めて男性中心でずっと行われてきた経緯があります。社会自体が性暴力をものすごく過小評価する、あるいは女性個人の問題に矮小化して告発しにくいような状況を放置していた結果、『被害者の声が蓄積され、それが運動となって世の中を変えていく』という構図を、社会側が削いでいくという状況にあったんですね。それが今回の改正によって、告発というものがより社会に出やすい状況を作ることで、さらに社会を変えていきましょうというような段階にようやく立った、ようやくこれからの議論ができるような状況に、まず一歩近づいたということだと思います。」(荻上さん)

さらに、荻上さんは、性暴力の問題を“権利”と“合意”という観点から捉え直していくことが必要だと話します。

「今までは性的な行為に対して、非常に告発しにくい状態があり、『あってはならないことがおこってしまった』という“規範”の観点から、個人、被害者が責められるということになってしまっていました。でも、そうではなくて、個人の“権利”の問題として問いただせば、本人が望まない性交は、それ自体が暴力であるという結論におのずと辿り着きますよね。相手を尊厳を持った一人の人間であると認識し、互いの性は到達する“合意”のポイントである、そういったような概念を社会的に高めていくことも大事だと思います。」(荻上さん)

なお、今回改正された刑法には“附則”が付き、施行後3年を目途に、実態に即して見直しをすることが盛り込まれました。性暴力被害者として発信を続けている山本さんは、その後、被害当事者による社団法人を立ち上げ、現場の声を施策決定の場に届けるべく、精力的に活動しています。

画像(山本さん)

「被害者の声や苦しみ、どのような生活の困難があるのかということを届ける。それを施策者や法律を決定する人たちに伝え、この状況を変えるように求めていくことがすごく必要だと思います。当事者抜きに施策を作っていくと、私たち被害者が使えないものになっていることが多い。本当に利用しづらいし、使って良かったと思えるものではない。当事者の声を反映して、当事者の立場から作ってほしいと思っています。いろいろ抜け落ちてしまっている論点も含めて全体的に評価をして、要件の撤廃や追加を伝えていければいいかなと思います。」(山本さん)

さらなる見直しが予定されている改正刑法。法律を実態に即したものに変えていくためには、現場からの問題提起、そして社会全体の意識変革が必要です。そのためには、私たち一人一人が当事者の声に耳を傾け、被害の実態を正しく知ることが求められているのではないでしょうか。

※この記事はハートネットTV 2017年7月6日放送「WEB連動企画“チエノバ”性暴力被害」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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