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摂食障害~当事者の苦しみと回復への鍵~

記事公開日:2018年10月19日

「太るのが怖くて食べられない」「いったん食べ始めると止められない」などの状態が続き、生活や人生がままならなくなってしまう心の病気「摂食障害」。自己否定感や周囲の無理解などに苦しみ、うつやひきこもり、自傷などの問題をあわせもつ場合も少なくありません。当事者の声をもとに、摂食障害の本質と回復へのヒントを探ります。

「摂食障害」ってどんな病気?

摂食障害の症状は、大きく分けて「拒食」と「過食」の2つがあります。「拒食」は、食べない、もしくは食べられない状態で極端に痩せてしまっているにもかかわらず、本人がその深刻さを認めないというものです。一方、「過食」は、明らかに大量の食べ物を食べてしまうことが続いて、食べるのをやめようと思ってもやめられないというものです。

画像(拒食と過食の症状)

摂食障害でよくある典型的なケースを見てみましょう。

中学3年生のA子さん。一見明るく活発ですが、実は人にとても気を遣う性格で、生真面目で完璧主義なところがあります。ある日友人から言われた何気ない一言が気になりました。

「最近ちょっと太ったんじゃない?」

A子さんはすぐにダイエットを始めます。半年後に体重は8キロ減少。「痩せてきれいになったね」という周囲の言葉に喜びと達成感を覚えたA子さんは、その後も厳しい食事制限をやめませんでした。体重は40キロを切り生理も来なくなり、心配した母親はなんとか食事をとらせようとします。しかしそんな母親の声も、まだ「私はまだまだ太っている」との認識でいるA子さんの耳には入りません。

画像(過食のイメージイラスト、女の子が大量のお菓子やご飯を泣きながら食べている)

そんなある日、突然、食欲がコントロールできない感覚に襲われます。気づいた時にはスナック菓子を一袋たいらげていました。以来A子さんは、食べたいという衝動を抑えられなくなりました。袋いっぱいの弁当やお菓子などを買ってきては、一気に食べつくし、その後には決まって罪悪感に襲われるようになっていきます。

「どうして食べちゃうの?!やせたいのに…やせたいのに…!」

やめたいのにやめられない。もはや自分の意志ではどうすることもできなくなっていました。

摂食障害を経験し、現在、自助グループNABA(ナバ)の運営をしている鶴田桃工さんです。最初に症状が現れたのは15歳の頃。過食から始まり、その後、拒食、過食を繰り返しました。大学を卒業したり就職したりはできたものの、27歳の頃に人生がどうにもならなくなったことで自助グループにつながり、30歳の頃には症状がなくなったといいます。

画像(摂食障害の自助グループ「NABA」共同代表 鶴田桃工さん)

「A子さんのケースは確かに典型的な例ではあるものの、必ずしも思春期の女の子の病気というわけではない」という鶴田さん。
鶴田さんのグループには、40代、50代、60代のメンバーや男性、LGBTの人もおり、症状も、食べたものを吐いてしまう「過食嘔吐」や、下剤の乱用、痩せるために過度な運動がやめられない「運動強迫」など、人によってさまざまだといいます。さらに、症状の辛さ=病気の重さであるとも一概には言えないと指摘します。

「グループにやって来る人たちの中には、『こんな程度で摂食障害っていっていいんでしょうか?』と言って、ずっと独りぼっちで症状を抱えて生きてきた人もいます。そうした人たちの多くが、しっかりした社会人や主婦をやっていたり、なかには自分自身が福祉や医療の援助職だっていう仲間もとても多いです。」(鶴田さん)

自分を責めることがさらなる症状を引き起こす

当事者はどんなことに苦しんでいるのか、番組に寄せられた声から浮かび上がってきたのは 「やめたいのにやめられない」「自己嫌悪」「周囲の無理解」の3つのキーワードです。

画像(摂食障害に共通する3つのキーワード)

「中学生のとき、クラスの男子からのいじめがきっかけで、過度なダイエットを始めたあとに過食になってしまいました。何か大きなストレスがあると食べることに逃げてしまう。食べているときは何も考えずにすむんです。日に日に増えていく体重。鏡で見る太った自分の醜い姿を見てはやめなきゃ…と思うのに、一度過食してしまうと止められない。自分をコントロールできないことが本当に苦しい。」(りらさん・20代)

りらさんの「食べているときだけはほっとする、何も考えずに済む」という言葉に、とても共感できるという鶴田さん。「昔の過去の傷を思い出すと、痛くてたまらなくて死にたくなるぐらいのときに、食べることで忘れられる」ということは、それだけ人間関係の中に安心感がない、そういう状況にいるのではないかと指摘します。

そして、「今日こそ絶対に過食してはいけない」と思えば思うほどやってしまい、自分のことが信じられなくなっていく感覚も、とてもよく分かるといいます。

「『自分はダメだ』という自己嫌悪がまた次の症状を引き起こすことにつながってると思います。ただ、摂食障害になったから自分のことが嫌いになったかっていうとそうではなくて、自分の経験からも、もともと『このままの自分じゃ見捨てられる』とか、『このままの自分じゃ生きてる価値がない』と思っている方たちが陥る病気だと感じます。」(鶴田さん)

「周囲の無理解」に苦しんでいるという声も寄せられました。

「はじめは拒食症でした。半年もしないうちに48kgから31kgになり、強制入院させられました。退院してからは過食の始まりでした。毎日太り続ける自分が嫌で、食べ物を吐こうとしましたが吐くことはできませんでした。こんな私を見て、親は『痩せろ、もう食費を使うな』とまるで病気が治ったように扱ってきました。私だって食べたくて食べているわけではありません。働いて稼いだお金をすべて過食費用にまわすなんてバカみたいです。毎日食べてしまったあとに悔しくて泣いているのをきっと誰も知りません。」(ハレルヤさん・10代)

ハレルヤさんの気持ちが痛いほど分かるという鶴田さん。自分のことを誰にどう伝えて相談したらいいか分からない、周囲に理解者がいないという状況は本当につらいといいます。鶴田さん自身も、当時、親から「努力や根性で治しなさい」と言われたり、医師から「明るく前向きに頑張って」と言われたりしたことで、どんどん追い詰められていったそうです。

「周囲の人たちは、励ませば、叱れば治るんじゃないかって一生懸命になりがちなんですけど、それは逆です。愛情で治すというのも無理です。摂食障害は“依存症”。アルコール依存、薬物依存とかと重なる部分がたくさんあって、“やめたいのにやめられない”から“病気”なんです。」(鶴田さん)

苦しみから抜け出す「鍵」とは?

どうすれば摂食障害の苦しみから抜け出すことができるのでしょうか。
その手がかりとなるのが、摂食障害から生き延びた人たちの声です。

「小学校低学年のときから、『自分は生きる価値がない』と思っていました。学校ではいじめられていたし、家では父が不機嫌になって怒りださないように常に顔色をうかがって、ほっとする時間とか、自分の気持ちを話せるような人はいませんでした。摂食障害は、そういうつらい日常や過去の傷から私を救って、生き延ばしてくれたと思っています。食べ物や体型のことで頭がいっぱいのときは、つらいことを思い出さなくてすんだから、死なずにすみました。こんな症状さえなければと思うこともあるけど、摂食障害には感謝もしているし、愛着もあります。今も過食はしていますが、少しずつ症状ともつきあえるようになってきたし、仲間と分かち合うなかで、自分が死ななきゃいけないような、だめで恥ずかしい存在じゃないって思えるようになってきました。」(くらげさん・20代)

くらげさんは、数年前に自助グループにつながったことで、自分の生きづらさに気付くことができたそうです。その姿勢に、鶴田さんは自身の姿を重ねます。

画像(摂食障害の自助グループ「NABA」共同代表 鶴田桃エさん)

「摂食障害の症状はあくまでも表面的な症状であって、『このままの自分じゃだめだ』とか『生きる価値がない』っていう自己否定感とか、自尊心のなさに問題があると思っています。私自身、すごく自分を責めて、こんな自分で申し訳ないって思って生きていました。(こうしてテレビに出ている)今も、緊張して、びくびくして、どう見られてるんだろうとか…それが昔は表現できなかったから、なんとか、しっかりして、ちゃんとしていなくちゃと思って追い詰められていました。」(鶴田さん)

鶴田さんも、自助グループで出会った仲間たちから多くのことを教えられ、価値観が変わっていきました。くらげさんが言うように、症状が自分を傷つけるものであったと同時に、それによって辛い日々をなんとか生き延びてきたという意味で、自分の命を救ってくれるものでもあったことに気づいたといいます。

「食べ物とうまく折り合いがつかないとか、体型がこのままじゃだめだっていうのは、結局『生きていくのが怖い』っていうことの表れで、(摂食障害の)症状と仲良くしていくっていうことは、結局、自分自身とどうやって仲良くつきあっていくかということなんです。仲良くつきあっていくといっても、例えば親友っていつも仲がいいわけじゃないですよね。時にはけんかもできる。そういうふうに、“自分”と折り合いをつけて生きていくのが鍵だと思います。今、これを見ている方たちの中には、どこにどう助けを求めていいのか分からない人もいると思います。助けを求めるって本当に大変ですよね。だけど、それでも勇気を持って、できることからやっていってほしいと思います。」(鶴田さん)

表面的な症状ばかりが注目されがちな摂食障害。努力や根性ではコントロールできない「病気」であることや、その本質が「生きづらさ」であることは、まだまだ認識されていません。当事者の声に丁寧に耳を傾けながら、理解を広げていくことが求められているのではないでしょうか。

※この記事はハートネットTV 2015年11月25日(水)放送「WEB連動企画“チエノバ” 一緒に知ろう!摂食障害」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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