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発達性協調運動障害の子どもたち 必要な療育とは?

記事公開日:2018年10月18日

「極端な不器用さ」に悩む発達性協調運動障害(DCD)の子どもたち。まだまだ認知度が低く受診にすら至らないケースも多いですが、その子に合わせた療育や支援が必要なケースも。兵庫県立リハビリテ―ション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター」の小児リハビリテーション室を取材しました。

発達性協調運動障害のT君

小学2年生のT君は、発達性協調運動障害以外には、発達に関して何の問題もないというケースです。

母親が最初に違和感を持ったのは1歳の時でした。
玄関のたった一段の段差を降りるのに、一度座ってお尻を床についてから降りるのを見て、「ふつうの子とちょっと違うな」と感じていたそうです。

その後も階段は苦手で、必ず手すりにつかまって、おそるおそる降りていました。エスカレーターを乗り降りする際には、タイミングをはかりかねて大騒ぎ。

「他人から見たら何気ない行為であっても、うちの子どもは真剣そのもの。すごい努力をしているのです。」(T君の母親)

4歳のとき、ラジオ体操の様子を見ていたら、とても真似できないほどに手足の動きがばらばらで、受診を決意したと言います。

しかし、数年前までは、発達の専門医であっても「発達性協調運動障害(DCD)」という診断名を知らない先生がほとんどでした。最初の病院では小児科から小児整形に回され、「別に問題ないです。お母さんの心配しすぎじゃないですか?」と言われてしまったそうです。

その後も様々な医療機関を受診して、最後に訪れた兵庫県立リハビリテ―ション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター」の初診のときに、「これはDCDですね」と即座に言われます。

初めて受診することを決意してから、すでに1年半の月日が経っていました。

「幼児期からの療育が重要ですから、この長い空白の時間については、いまでも本当に悔しく思っています。」(T君の母親)

作業療法では、手先の細かい作業をしたり、ボール遊びをしたり、トランポリンで跳ねたり、鉄棒の逆上がりにも挑戦しています。

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補助ベルトをつけて逆上がりの難易度を緩和
 最後は補助ベルトなしでもできるようにします。

筆者が母親と話し込んでいると、T君がうれしそうに「いま逆上がりできたよ。見てた?」と満面の笑顔で母親のところに近づいてきました。

1年生のときには、体育の縄跳びの授業に行きたくないと、玄関で泣き崩れていたT君ですが、いまはクラスの友だちからも応援されることが多くなったと言います。

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小児科医の中井昭夫さん(現:武庫川女子大学 教育研究所・教授)

小児科医の中井昭夫さんによると、日本の小児科医の間で発達性協調運動障害の認知が本当に高まるようになったのは、2013年の第110回日本小児精神神経学会のメインテーマを「子どもの不器用さとその心理的影響~発達性協調運動障害を中心に~」にしたことがきっかけだったと言います。

T君のように発達性協調運動障害以外の症状がないケースでは、受診から療育までつながることは少ないそうです。子どもが不器用、運動音痴という理由だけで医療機関を受診する保護者は、ほとんどいないからです。

不器用さや運動ができないことを大人は軽く見がちですが、本人にとっては大変なプレッシャーになります。運動の優劣や不器用さはいわゆる教科と違って、子どもが見ても明らかです。体育で悪い見本として他の子どもの前にさらされ、自尊心を深く傷つけられる子どももいます。T君の母親が病院に連れてきたのは、自分の子どもには、そのような二次的なコンプレックスをはねのけてほしかったからです。

ADHDとDCDが併存するM君

小学3年生のM君は、注意欠如・多動性障害(AD/HD)と発達性協調運動障害(DCD)とが併存するケースです。病院を受診したのは、落ち着きがないなど注意欠如・多動性障害の症状のためでした。

「教室では走り回って、そのうち出ていってしまう。先生の言うことなど、まったく聞いていません。字を書くのは苦手ですし、枠内をきれいに色付けする塗り絵のようなものも嫌いです。食事のときには、食べることに集中できず、不器用なためにご飯をぼろぼろこぼします」(M君の母親)

小児科医の中井さんの診察を受け、注意欠如・多動性障害(AD/HD)の他に、発達性協調運動障害(DCD)と診断を受け、薬物治療とリバビリテーションを受けるようになってから、ようやく落ち着きが増し、できることも増えました。

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M君が「ドミノ倒しを一緒にやろう」と小児科医の中井さんを誘う

授業にも集中できるようになり、成績も見違えるようによくなりました。教科の勉強だけではなく、図工の時間に描く絵も変わりました。それまでは、人間の肩からすぐに手が出ている変な絵を描いていましたが、きちんと腕が伸びた人間を描けるようになりました。

M君に好きな教科を聞くと、「理科、図工、体育」という答えが返ってきました。
「体を動かすのは好き?」と聞くと、「好き!」という返事。

「発達障害の子どもの場合、苦手なことは“発達しない”と思っている人もいますが、発達障害の子どもたちも、ゆっくりであったり、道筋はいろいろですが、ちゃんと発達していきます。ひとつひとつ教えられなくても何となく自然にできるようになっていく定型発達の子どもとは違っていますが、やったことは、徐々に、確実に上達していきます。ある日、何かが劇的に上手になることだってあります。きちんとした評価に基づき、その子に合わせた療育や支援の方法を見つけ、一緒に取り組んであげることが大切です」と中井さんは語ります。

発達性協調運動障害のための療育とは

学校の体育の授業と医療機関での療育とは、何が違うのでしょうか。
作業療法士の若林秀昭さんに聞いてみました。

「学校の体育は集団でやるものですから、個人をサポートするのはどうしても難しい。できない子どもがいても、練習の質を変えるのではなく、量を増やすことで、乗り越えさせようとしがちです。でも、それでは発達に課題のある子どもの能力は向上していきません。私たちは、できない行為をできるだけ緻密に分析して、何ができて、何ができないかを明らかにしながら、練習のメニューを段階づけて考えていきます」(若林さん)

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ビー玉の動きを見つめながら、身体全体を使って手の傾き加減を調整する

たとえばキャッチボールをするには、自分がボールを投げるだけではなく、相手の様子を見ながら、相手が取りやすいように投げるタイミングや力加減を調整しなくてはなりません。こうした療育メニューは、単に運動としてだけでなく、表情や動作から相手を理解する非言語コミュニケーションの発達にもつながっていると言います。

また、療育のメニューは、子どもの要望をきちんと聞きつつ、療育効果のあるメニューを大人の側からも提案し、子どもと保護者と相談しながら決めていきます。

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作業療法士の若林秀昭さん

「子ども自身がやりたいこと、やれるようになりたいことを最も重視します。また、療育施設の特殊な器具を使わないとできないメニューではなく、家庭や学校など日々の生活の中で可能なメニューも提示します。自尊感情を損なって、やる気をなくす、それで苦手なことから遠ざかり、さらに不得手になる。そういう悪循環に陥らせないために、本人が“やった!”と喜べるようなメニューを用意してあげたいですね。」(若林さん)

療育は、子どもたちにできないことを強いる場ではなく、スモールステップを踏んで、できることで終わり、達成感を味わって帰ってもらう場。若林さんは「気持ちの上で、運動の得意な子どもに負けてほしくないと思っています」と、子どもたちにエールを送ります。

執筆者:WEBライター 木下真

※この記事は2015年9月のハートネットTVブログ『発達性協調運動障害の子どもたち』前編と後編を基に作成しました。情報は2015年9月時点のものです。

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