「てんかん」はおよそ100人に1人の割合で発症する、身近な病気です。しかし、「突然意識を失って倒れる」などのイメージが先行し、根強い偏見があるのが現状です。周囲の無理解に苦しんでいる人も少なくありません。当事者の声をもとに、てんかんとはどのような病気なのか、社会はどう向き合っていけばいいのか考えます。
てんかんは、「脳の神経細胞が一斉に過剰に興奮することによって、特定の発作が繰り返し起きる」という脳の疾患です。およそ100人に1人の割合で発症する身近な病気ですが、まだまだ社会には知られていません。
てんかんの当事者で、自らの体験をもとに、てんかんに関する記事を連載している、新聞記者の原隆也さんです。
「私は、今から7年前、35歳のときに最初の発作が起きました。職場で倒れたんですけれども、当直明けのときにニュースの速報を見ていたときに速報が読めなくなって。横に流れる字が縦に、ばらばらと落ちるような、目で追っていけなくなって、そのうちに意識を失ってしまった形ですね。このときは診断がつかないで、約1年後に2回目の発作が起きまして、会社からの帰宅途中だったんですけれども、買い物しようと思って途中下車をした際に改札口が突然分からなくなってしまって、そのうちに、スイッチが切れて意識を失ってしまったという。そのときてんかんと診断されました。」(原さん)
発症するまで、予兆がまったくなかったという原さん。今は毎日服薬を続けることで状態は安定し、発作は5年間起きておらず、仕事にも支障はないということです。
てんかんは、原さんのケースのように「突然意識を失って倒れる」というイメージを持たれがちですが、発作には他にもさまざまなものがあります。日本てんかん協会が作成しているDVDから、よく見られる発作の一部を紹介します。
・強直間代発作(意識を失い、全身がけいれんする)
・ミオクロニー発作(腕がピクッとする、意識は通常ある)
・側頭葉期限の複雑部分発作(腕がピクッとする、意識は通常ある)
・失語発作(声は出せるがことばがうまく話せない)
(※画像はいずれも、公益社団法人 日本てんかん協会・編「てんかん」入門シリーズ1 てんかん発作 こうすればだいじょうぶ~発作と介助~[改訂版]付録DVDより。てんかんの専門医が発作を再現したもの。)
このほかにも、「首や目が一方向にグーっと動き、コントロールできなくなる」、「意識がもうろうとしたままうろうろ動き回る」などの発作もあります。表れ方は人によって違い、100人いれば100とおりの発作があるといわれています。
さらに、発作のなかには、
・光が見えたり、耳鳴りがしたりするなど、視覚・聴覚に異常が起こる
・体の一部がしびれたり、感覚がなくなったりする
・理由もなく突然、恐怖感や不安感などがわき起こる
といった、知識がなければてんかんだと気づきにくいものもあります。早期に発見し、適切な治療に繋げるためには、正しい知識が欠かせません。
てんかんは、脳卒中や脳腫瘍など特定の病気が原因で起きることもありますが、6割くらいの人は原因が分かっておらず、あらゆる年代で発症する可能性がある病気です。一方で、早期に適切な治療を受けることによって、70%以上の人が発作のない生活を送ることができます。原さんのように、服薬や生活リズムの維持によって発作をコントロールし、社会生活を送っている当事者もたくさんいます。
番組には、周囲の誤解や偏見に苦しむ当事者からの声が寄せられました。
「私はてんかんを持つ40代の女性です。現在は主婦をしながら、通信制の大学で福祉を学んだり、ボランティアで、図書館で本の整理をさせていただいております。ここまで来るのにはいろいろな苦しみがあったけれど、現在、私はてんかんを伝えるための小さなマンガを描いております。小さな力ですが、1人でも多くの人に理解していただき、いつか偏見がなくなることを願っております。」(久遠さん・山梨県)
久遠さんが描いたマンガです。
老人「お気の毒に~。難しい病気なんでしょ~?若いのに…。飴かミカンやろうか?」
主人公「…全然問題ないです。(ミカンとかもいいから…。)」
(マンガより)
マンガに描かれているのは、すべて久遠さんの実体験です。てんかんと診断されたのは33歳のとき。これまで、さまざまな場面で、心ない対応に傷ついてきました。
「まわりの人にてんかんだと言えば言うほど、ふざけ病だとか詐病だとか言われるようになって。自分の病気って、恥ずかしい病気なのかな、嫌な病気なのかな、って思ってしまって。すごくマイナスなイメージが強かったですね。」(久遠さん)
日常生活で困るのが、風邪をひいたときなど。病院で、てんかんを理由に診察を断られることがあると言います。公共の施設などでも、利用を断られたことがありました。「人としてすごく下に見られている気がする」という久遠さん。当事者の多くは、ごく当たり前の日常生活を送っているということを分かってほしいといいます。
他にも、偏見に苦しんでいるという声が届きました。
「てんかんの患者さんが生きづらい現状を少しでも変えたいと思って、大学は社会福祉系の学部を志望し、入学しました。しかし、仲良くなった友達に持病のことを話すと『え、障害者なの?』と好奇の目で見られるようになりました。また、入った写真部のサークルでも、『発作が起きた場合責任がとれないから、所属しても良いが、参加はしないでくれ』と言われました。散々な嫌がらせにあい、体調を崩し、大学は2か月で辞めてしまいました。親にも、とても申し訳ありません。」(じるこにあさん・10代・埼玉県)
原さんは、取材の中で、このような「いつ発作を起こすか分からない」という理由で、就職の採用試験で断られた声を聞いたこともあるといいます。まずは周囲の人に正しい知識を身に着けてもらうことが必要だと指摘します。
「寝不足と疲労が蓄積したときに発作を起こしやすくなるので、(本人が)そこに気をつけて服薬を欠かさなければ、日常、一般の方々と変わらない生活を送れます。そういうことを理解していただいて、周囲の方々に見守ってもらうことが一番じゃないかなと思います。」(原さん)
また、てんかんに関して、よく取り上げられるのが車の運転の問題です。てんかん患者による事故が報道されるたび、辛い思いをしているという声も寄せられました。
「ここ数年の車事故で、世間からのてんかん患者への見方がキツくなりました。けいれん、意識喪失=てんかん=危ない。確かにそうですが、ちゃんと服薬してコントロールしている人の方が多いはずです。」(ハート花子さん・30代)
「残念ながら、2011年の鹿沼の事故(※注1)等で大きく報道されて、犠牲者も多かったわけですけれども、事故を起こしたドライバーは服薬を欠かしていたという背景があります。すべてのてんかんを持つドライバーが服薬を欠かしてるわけではなくて、多くの人はちゃんと規則も守ってるわけなのでそういうところも分かってほしいなと思います。」(原さん)
てんかんのある人の運転免許取得には、一定の条件が決められています。運転に支障が生じるおそれのある発作が2年以上なく、今後も症状悪化のおそれがない場合、免許の取得・更新時に病状を申告すれば可能です。(※大型免許と第2種免許は、5年以上薬を飲まなくても発作が抑制されている必要があります) 原さんは「当事者自身もきちんと治療を受け、服薬を欠かさない、体調管理に気を付けるなど、ドライバーとしての責任を果たすことを忘れてはならない」としつつも、報道の影響によって、ルールを守っている当事者まで不利益を被ることがないようにしてほしいと指摘します。
(※注1)2011年4月、栃木県鹿沼市の国道で、登校途中だった小学校の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故。運転手は、てんかんの持病を申告せずに免許を取得し、事故前夜に薬を飲まず発作を起こしたとして、自動車運転過失致死罪で有罪判決を受けた。
周囲の人からは、こんな声も届いています。
「幼なじみの友人がてんかんです。中学生のとき、一緒に話していると急に力が抜けたようにその場に崩れ落ちて倒れました。突然のことでびっくりしてしまい、何もできず立ちすくむことしかできませんでした。その後、友人の病気がてんかんというものであることを知りました。友人は自分から病気のことは話さないため、私もその話題に触れることができません。無理に聞かれたり、詮索されたりしたら、きっと不快だと思います。でも、また何か起こったときに、少しでも力になりたいです。」(みさとさん・10代・愛知県)
発作が起きたとき、まわりはどのように対応すればいいのでしょうか。
「事前に患者さん、てんかんがあるということが分かっているならば安静にしてあげて、しばらく様子を見る。ただ、発作が長い時間持続するようでしたら救急車を呼んでいただくか、あるいは頭部を打っていたりとか、てんかんだと判断がつかないと思って迷ったりしたときには救急車を呼んでいただくのが一番かなと思います。」(原さん)
かつては意識を確認するために体を揺すったり、何かを飲み込まないようにタオル等をかませたりといった対応が見られましたが、現在ではそのようなことは推奨されていません。まずは安静にして様子を見ることが一番とされています。
「てんかんの患者は『1分だけの障害者』と言われます。発作が起こっているのはごく短い時間で、それ以外の時は“普通の人”と何ら変わらないのです。当事者としては、てんかんがあることを、進学や就職のとき、あるいは結婚のときに、学校側に言おうか、会社側に言おうかあるいは、パートナーに言うべきかすごく葛藤するんですよね。これに対して解はないんですけど、てんかんですよと言っても受け止められるような、そういうような社会になってもらいたいなということがお願いです。その方が病気のことを言いたくなったら相談に乗ってあげて、寄り添ってあげてもらえればなと思います。」(原さん)
まだ世間ではよく知られていない、てんかん。周囲の人が正しく理解することで、当事者の人たちが暮らしやすい社会につながっていくのではないでしょうか。
※この記事はハートネットTV 2016年7月7日放送「WEB連動企画チエノバ『“てんかん”を知ろう!』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。