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生きるために学びたい “夜間中学”に集う若者たち

記事公開日:2018年09月21日

かけ算の「九九」ができない。電車に乗っても「運賃」という文字が読めない…。病気やいじめなどで学校に通えず、義務教育課程で十分な教育を受けられなかった20代・30代の若者たちがいます。生きるために学び直したい―。そんな思いを抱えた人たちの受け皿となるのが公立の夜間中学校です。しかし、その設置数は少なく、とても十分とはいえません。そんな中、岡山ではボランティアによって自主夜間中学が運営されています。「学び直しの場」を取材しました。

基礎学力に不安を抱えた若者たちの受け皿

義務教育の間に、十分な学力をつけることができなかった若者たち。そんな彼らを支援しようという取り組みが広がっています。

葛飾区立双葉中学校・夜間学級です。戦後の混乱などで学校に通えなかった人たちのために、昭和28年に開校しました。授業は月曜から金曜の夕方5時半から夜9時まで。学力に応じたクラスがもうけられており、教員免許を持つ教師が昼間の中学と同じ教科書を使って授業を行っています。

画像(双葉中学校の夜間学級で給食をとる生徒たち)

国語や数学などの教科に加え、音楽や美術、体育の授業もあります。さらに給食や運動会、修学旅行など、社会で必要となる集団行動も経験します。戦後、教育を受けられなかった年配の人や日本の義務教育を受けていない外国人など42人が昼間の中学校と同じように学んでいます。

画像(双葉中学校夜間学級教諭 和島直樹さん)

双葉中学校夜間学級教諭、和島直樹さんはこう話します。

「公立学校の勉強がやり直したい子がいた場合は、やっぱり公立夜間中学校が必要なんじゃないかなと思うんですけどね。集団生活のやり直しではないですけど、移動教室も修学旅行も行っていない。クラスで運動会もやっていない。一緒に給食を食べるのもやってない。そういう、もう一度やり直す『学び直しの場』というような感じがしますね」(和島さん)

今、生徒の顔ぶれに変化が生まれています。義務教育を学び直そうとする10代や20代の若者が増えているのです。

画像(新谷藍吾さん(16))

この春、地元の中学校を卒業した新谷藍吾さん(16)。原因不明の発熱に悩まされて、中学2年生から、ほとんど登校できませんでした。十分な学力がつかないまま、中学を卒業したと言います。

「これでは、卒業したことにはならない。」
新谷さんは夜間中学への入学を決意しました。

「中学に行ってないのに卒業証書はもらっているから、もし高校に行けたとしても、ついて行けるのか不安だったので、やっぱり勉強し直したいと思いました。」(新谷さん)

増えない公立夜間中学校

ここ数年、小中学校における不登校の児童・生徒の割合は増え続け、全国で13万人を超えています。学校に通えず、基礎的な学力を得られない若者の増加が課題となっています。

画像(グラフ 不登校児童生徒の割合)

そこで2017年2月、文部科学省は義務教育で身につけるべき学力を得られない人たちに対して、夜間などの時間帯に教育の機会を確保することを目的とした「教育機会確保法」を施行。

これを受けて国は、47都道府県に少なくとも1校の公立夜間中学校の設置を求めています。現在は8都府県で31校。2019年の4月には、新たに埼玉県川口市と千葉県松戸市で開校します。

画像(全国の公立夜間中学校)

しかし、多くの自治体では計画すらないのが実態です。岡山県でも、公立夜間中学校を設置する予定はありません。そんな中、去年4月からボランティアによる自主的な夜間中学が始まりました。

立ち上げたのは、岡山市内の公立中学校で英語教師をしている城之内庸仁さんです。

画像(公立中学校 教諭 城之内庸仁さん)

「中学校で以前、担任をしていた生徒が『全欠』というほとんど学校に来れない状況で、3年間過ごして卒業していきました。そして何年かあとに私の元を訪ねてきて、『先生、働きたいけれどうまくいかないんだ』と。『どうしたんだい』と聞くといざ就職試験を受けようと思っても読み書きもうまくできないし、計算も上手にできない。誰か教えてくれる場所があるかなーといろいろ調べたけどないんだと。彼らが3年卒業したあとに、どこにも相談できない、どこにも学びに行くことができない。そういうのを想像しただけで、どんな規模が小さくても勉強する場は作りたい。日々の仕事の中でもそう強く感じます。」(城之内さん)

城之内さんの考えに賛同した人たちが、ボランティアとして集まり、今ではスタッフは40人。大学教員、教師、会社員、主婦、大学生など職種はさまざまです。教員免許を持っている人ばかりではありません。

公立の夜間中学校とは異なり、ここには義務教育で使われる教科書は支給されません。そのため教材は、寄付やスタッフからの会費で調達しています。

ボランティアの手によって運営されている自主夜間中学。開設当初、3人だった生徒が、この1年あまりで40人にまで増えました。城之内さんは改めて、公立の夜間中学校の必要性を感じていると言います。

「岡山県でいうと『教育機会確保法』ができたあとに、岡山県のニーズを調べるということで、県の教育委員会は2万7,000枚のビラを公民館や図書館を中心に配りました。しかし、返ってきた答えは、23件の問い合わせと、5件の『学びたい』という思いの方。本当に学びたい方は、字が読めなかったり、自分自身に自信が持てない。そう簡単に、チラシをまいたからすぐ来ますというものではないと思っています。やはり岡山に公立夜間中学校を設置していただきたい。資金の問題、スタッフの問題で、回数を今、増やすことができないんですね。でも学びたい方は、できるだけたくさん学びたい。そう考えたとき、やはり、岡山県に最低1校は、まずは作るべきではないかと思っています。」(城之内さん)

ボランティアで始まった自主夜間中学。生徒数の増加により、多くの資金が必要となってくるなかで、城之内さんが目をつけたのは、「クラウドファンディング」です。

画像(夜間中学のクラウドファンディング募集ページ)

公立夜間中学校の設置を求めると同時に、当面は寄付によって、自主的な夜間中学を充実させていきたいと考えています。まずは、50万円を目標に寄付を募ります。

「クラウドファンディングをこういう団体がやるのも初めての試みになるので、これが成功すれば、これから続いていくであろう、いろんな夜間中学校とか、いろんな団体の1つの指標にもなる。」(城之内さん)

後悔が原動力に 夜間中学に通う理由

岡山市内のアパートで1人暮らしをしている井上健司さん(33)。町を歩きながら、目につく漢字を読み上げようとしますが……。

井上「えーと、市役所…(筋)きん方面って読むんですか?」
井上「これ、(標準)たんじゅん? (標準)つうじょう?」

画像(井上健司さん(33))

「『くず人間』だなと思います。自分でも、そういう自分も変えたいし、勉強やって、一から、土台っていうか、基本的な勉強をやって働けるようになったらいいな。」(井上さん)

井上さんは小学3年生の2学期から学校に通えなくなり、そのまま中学校まで卒業しました。井上さんが不登校になったのは病気が原因でした。9歳のとき突然、小児糖尿病を発症。いつも体がだるく、入退院を繰り返してきました。徐々に症状が悪化し、今は週に3回、4時間の人工透析を受けています。

画像(人工透析を受ける井上さん)

中学を卒業したあと、文字が十分に書けなかった井上さんは、履歴書が用意できず、知り合いのつてで、造園業に就職。しかし、体力が続かず職を転々。20歳を過ぎた頃には、まったく働けなくなりました。

生活保護を受けながら1人で暮らす井上さん。両親は、井上さんが病気になったあとに離婚。その後、一緒に暮らしていた母・広子さんは46歳で亡くなりました。広子さんはいつも「体調がいいときは学校に行きなさい。」と言っていたと言います。

「学校に今まで行っていなかった自分が悪いんですけど、後悔もあって自分が変わりたいというのが結構あって。母親も糖尿病で亡くなったんですけど、18歳のときに亡くなってから親孝行していなくて後悔しているというのもあって。結構迷惑かけたので。勉強は親孝行みたいなもの。」(井上さん)

井上さんは、城之内さんたちが立ち上げた、月に2回の自主夜間中学に欠かさず通っています。授業は、第2、4土曜の午後6時から9時まで。10代から80代まで幅広い年代の人たちが、集まっています。

生徒の希望に沿って、マンツーマンでの学習が行われます。この日、井上さんは小数のかけ算を学んでいました。教材は、小学4年生の問題集。教えるのは、70代の元国鉄マン。

画像(夜間中学で勉強する井上さん)

「普通のかけ算じゃないから、かけ算(九九)できないから難しいです。」(井上さん)

井上さんが今一番力を入れているのは英語です。半年がかりでアルファベットを覚え、今度は、文章を読むことに挑戦しています。

城之内「これはどんな意味かわかりそう?『pardon』って。」

井上「もう1回?」

城之内「そう、そう『もう1回言って』という意味。どうしてもその意味が心配だなと思ったら、教科書の後ろの辞書で調べたらいい。何度も何度も単語は調べればいい。すぐには頭に入りにくいから。」

岡山の夜間中学で学んだことで一歩前に進んだ井上さん。辞書の使い方を教えてもらい、わからないことは自分で調べられるようになりました。

「今まで辞書で調べることはできなかったけれど、教えてもらってできるようになって、調べるのが楽しいなと思って。勉強ができるようになって、就職も、仕事がしたいので。今はひたすら勉強って感じですかね? レベルを早く上げたい。頑張って。(就職は)今のところまだ見えない。まだ全然勉強が足りない。公立夜間中学校ができてくれたらうれしいですね。通えるようになったら。」(井上さん)

学ぶことは生きること

自主夜間中学の日、井上さんは城之内さんにあるものを見せました。ノートに書いた、城之内さんへの感謝の気持ちを伝える英文です。

井上「先生これ合ってるんですか?」
城之内「すごいじゃん。うれしいな。Thank you」

画像(井上さんが城之内さんに見せた英文)

井上「なんか違うな?」

城之内「いやいや、しっかり伝わった。英語で大切なのは日本語でもそうだけど、自分で気持ちを伝えるっていう。ありがとう、びっくりした。」

井上「これ4時間かかった。」

城之内「4時間!4時間もかけてくれたんか。」

画像(授業を行う城之内さんと井上さん)

人生を取り戻すために、学び直そうとする若者たち。その思いを受け止める場所が、今求められています。

※城之内さんたちが呼びかけたクラウドファンディングは目標額50万円に対して140万8,000円が集まり、終了しました。

この記事は、ハートネットTV 2018年8月7日放送「もう一度学びたい~“夜間中学”に集う若者たち~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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