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食い物にされる“福祉” 障害者はなぜA型事業所を解雇されたのか

記事公開日:2018年03月30日

障害者に就労の機会を提供し、社会的自立をサポートする役割を担うはずの福祉事業所。しかし中には、自治体からの給付費や助成金目当ての理念なき経営者も存在します。それに対し国は、事業所に対する規制強化を進めていますが、良心的な事業所まで運営が困難になるのではないかと懸念されています。揺れ動く福祉事業所と翻弄される障害者の姿を追います。

154人が一斉解雇。福祉事業所の突然の閉鎖

2017年夏、ある福祉事業所が突然、閉鎖されました。運営していたのは、株式会社“障がい者支援機構”。全国6か所に事業所を構え、154人の障害者が働いていました。

閉鎖された事業所で働いていた、今井大作さん(47)は、専門学校を卒業後、コンピュータープログラマーとして一般企業に就職。その後、飲食店の店長を務めるなど、精力的に仕事に取り組んでいました。しかし、40歳のとき統合失調症を発症し、退職。一般企業への再就職がかなわず、今回閉鎖された福祉事業所にたどり着きました。

仕事も順調にこなし、ようやく自信を取り戻した矢先、今井さんは解雇となりました。事業所から納得のいく説明は一切ありません。

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「突然でしたね。7月の給料が入る前に、とりあえず社長からお話はあったんですね。社長はその後、どこかへ行ってしまったらしく、連絡が取れなくなったみたいです。しょうがなく会社の人が警察に連絡して探してもらったところ、秋田か新潟にいて。それから戻ってきて、8月1日に『8月15日に給料を支払います。』ということを、みんなの前で言ったんですね。」(今井さん)

しかし、6月から8月までの3か月分の給料は、今も支払われていません。福祉事業所は、なぜ閉鎖に至ったのか。社長の弁護士に取材を申し入れましたが、破産申し立てに向けた準備を理由に、取材には応じませんでした。

急増する“就労継続支援A型” 10年で20倍以上に

この会社は4年前に設立され、物品の仕分けやシール貼りなど、軽作業を行う福祉事業所を、全国6か所に展開していました。

“就労継続支援A型”と呼ばれる福祉サービスです。A型事業所では、一般企業への就職が難しい障害者でも職員のサポートを受けながら働くことができ、最低賃金が保証されます。そして事業所には、職員の人件費や事業の運営経費をまかなうため、国や自治体から給付費が支給されます。その額は障害者1人につき、1日およそ5千円。さらに、3年間で最大240万円の助成金が得られます。

A型事業所の数は、制度が創設された2006年の翌年には、全国で148か所でした。それが、10年足らずの間に20倍以上に急増。株式会社などの参入も認められていることが大きな要因です。

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さらに、A型事業所の立ち上げを後押しする、コンサルタント会社の存在もあります。「充分な収益を上げられなくても障害者を集めれば給付費で安定経営ができる」とのアドバイスにより、福祉としてではなく、ビジネスとして参入する事業所が増えていきました。

「株式会社 障がい者支援機構」による154人の障害者の解雇という事態を、行政はどう受け止めているのでしょうか。

「このような形の破綻というのは正直、私ども名古屋市の事例でも初めてでして、これが一般的な事業廃止の形なのかと聞かれれば、イレギュラーなケースだと思っています。」(名古屋市の担当者)

今回の閉鎖は、あくまで特殊なケースだとする名古屋市。しかし、実は今年に入ってから、岡山や北海道などでA型事業所の閉鎖が相次いでいます。その背景には、一部の事業所が“福祉”を食い物にしている実態が見え隠れします。

長年、障害者の就労を支援してきた関係者たちが「この問題を、曖昧なままで終わらせてはならない」という思いのもと、話し合いを重ねる『A型問題を考える会』も発足しています。

「事業所がこれだけあると、同じような障害者をリクルートして金儲けをしているところが、ここだけじゃない可能性がある。」(関係者1)
「営利法人が就労継続支援A型に参入してくるのは、儲かるから。」(関係者2)
「でも、A型事業所を必要としている人がこれだけいるわけだから、障害が重度の人も含めて、家族にとってみると、事業所へ働きに行ってもらっているだけでもありがたいというのもある。」(関係者3)
「そもそも障害者が働く、就労するということはどういうことなんだという原点に立ち返ってA型事業所の問題も捉えて、制度設計はどうあるべきかというところにも踏み込んでいかざるを得ないと思うんですよね。」(関係者4)

給付費で障害者の給料を賄う現実

“就労継続支援A型”という制度は、働きたいと願う障害者たちの希望である一方で、その思いにつけ込む事業所を増やし続けてきたのです。なぜ、福祉の理念とはほど遠い事業所が、見過ごされてきたのか。行政のチェック体制について聞きました。

「A型事業所が増えることは、いいことだと思っています。一般企業で就労出来ない方でも就労機会が与えられる、そして最低賃金が保証されるという福祉サービスだからです。今の県の監査体制が、毎年監査に実地指導に行く体制ではないものですから、事業所の認可指定後の収支状況や、従業員の勤務体制など、チェックすることがなかなかできなかったのはあったかと思います。それは今後の課題でして、例えば毎年定期的に確認する必要があるんじゃないかと思っています。」(愛知県の担当者)

今回閉鎖した事業所の社長は、自らの経営責任を棚に上げ、原因はA型事業所の制度そのものにあると説明しました。

「1番の原因は、(最低賃金の)845円でみなさんの給料を支払わなければいけないという、これは事業所を立ち上げたときからの課題でした。『支援費(給付費)で障害者の給料を支払ってはならない。』という行政の指導で今までやってきたものの、実際は給付費でみなさんの給料を支払っている現状がありました」(説明会での社長の言葉)

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事業収入だけで障害者の給料はまかなえず、給付費を回していたという実態。これは、他のA型事業所にも広がっています。名古屋市の調査では、給付費を障害者の賃金に回さざるを得ないという事業所が、およそ8割にのぼりました。

規制強化が事業所や障害者を追い込む

2017年4月、国は不適切な運営をしているA型事業所が増えているとして、制度を見直しました。給付費を障害者の賃金に充ててはならない、という規制が強化されたのです。本来、給付費とは、障害者をサポートする職員の人件費や、事業の運営経費に充てるべきものとされています。国はこの指針を強化し、障害者の賃金を事業収入からまかなえない事業所は、指定の取り消しもあり得るとしました。

「自立支援給付費とは、障害福祉サービスの運営費、あるいは障害者・利用者の方々を支援する職員の人件費に充てるべきものです。これを利用者の賃金に充ててしまっては、そこで働く職員の給与が低くなってしまうので、そうしたことを避けていただくということです。現時点で生産活動から最低賃金を支払うことが難しい事業所については、経営改善計画を作っていただいて改善なり向上していく必要があると思いますので、努力をしていただく仕組みを設けているということです。」(厚生労働省担当者)

一方、現場からは、この規制強化により、閉鎖に追い込まれるA型事業所が増えるのではないかと不安の声が上がっています。一般就労が困難な障害者が働くA型事業所。採算がとれる仕事を見つけるのは難しく、やむを得ず給付費を賃金に回している事業所が大半なのです。

40年以上にわたって障害者の就労支援に取り組んできた、福祉事業所の運営者はこう言います。

「悪いものを減らしていこうというのは大賛成で、それは是非やって欲しかったのですけど、今回のような単なる規制強化では、むしろすでにある良いものですら潰していく結果を招きかねず、こういうやり方はやめてほしいと思います。そこで何が欠けているかというと、自分たち行政の側がそういう悪いものを放置して増やしてしまったにも関わらず、今後障害者をどういう形でフォローしていくか、ということを何ひとつ考えていないですよね。まずそこをちゃんと考えた施策をやって欲しい。それを無しに、厳しくする基準だけを設けるのは間違っていると思います。」

給付費目当てに福祉を食い物にする、一部の理念なきA型事業所。しかし一方で、働きたいと願う障害者たちの望みをつなげてきたという現実。障害者の大量解雇という問題の背景には、「福祉」と「就労」のあり方をめぐる、根深い問題が横たわっています。

※この記事はハートネットTV 2017年11月22日(水)放送「食い物にされる“福祉” ―障害者の大量解雇問題を追う―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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