ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

「生きるのがつらい…」境界性パーソナリティ障害とは?

記事公開日:2018年09月14日

感情・行動・対人関係の不安定さから、社会生活に著しい苦痛や支障を引き起こしてしまう「境界性パーソナリティ障害」(BPD:Borderline Personality Disorder)。うつ病や不安障害、摂食障害、依存症などの背後に、境界性パーソナリティ障害があるケースも少なくありません。当事者や周りの人たちから寄せられた声も紹介しながら向き合い方を探ります。

境界性パーソナリティ障害の特徴と当事者の思い

境界性パーソナリティ障害(以下BPD)の症状は多種多様ですが、代表的なのは次のようなものです。

・見捨てられるのが不安で、必死にしがみつき相手を困らせる
・自殺企図や自傷行為を繰り返す
・めまぐるしく気分が変動する
・対人関係が両極端で不安定

当事者からは、いま置かれている状況について「生きているのがつらい」「どうしていいか分からない」といったカキコミが多く届きました。共通するのは、「感情のコントロールができない」「見捨てられるのが怖い」「多くの病院を渡り歩いた」といったものです。中には、「私はまだ幼い子ども…?」と自問自答するような言葉もありました。

「20代前半にリストカット、大量服薬など自傷行為。その後、性的逸脱行為を繰り返すようになりました。誰かに必要とされたい気持ちが強すぎるのか、男性とお付き合いしても心が満たされず長続きしません。次から次へと相手を変え、そんな自分が本当に嫌でたまらない。孤独や不安をしょっちゅう感じて、誰といてもむなしい。」(千鶴さん・30代)

「親に褒めてもらうにはどうしたらいいのだろう。無駄にそんなことを考えていました。完璧な人などいなくて、誰もが世の中の人すべてに認められる存在でないことは分かっています。でも常に自分は完璧でなければつらいのです。完璧でない自分は、透明で誰からも関心を持ってもらえないような感じがします。」(まっちゃさん・20代)

WEBデザイナーとして活躍するかたわら、BPDの当事者として講演・執筆活動も行っている咲セリさんは「完璧でなければという気持ちは、すごくよく分かる」と言います。

画像(咲セリさん)

「私は、自分は生きる価値がない人間だと思いこんでいました。世界にいらない人間だから、人並みにならなければと完璧主義になってしまう。例えば、仕事で1つの修正依頼が来るだけでも『全部だめなんだ、私はこの仕事に向いていない』と深く落ち込んでいました。」(咲さん)

BPDの要因はさまざまですが、専門の医師によると、愛着・愛情の不足、不安定な状態が影響している場合が多いといいます。

こんなカキコミも届きました。

「父からの暴力・暴言。そんな父に苦しめられていた母からは依存され、子どもらしさを経験する暇もなく、大人になった気がします。結婚してからBPDの症状が顕著になり、夫をさんざん困らせてきました。暴れる、物を壊すなどして警察が来る、保護入院にもなりました。私はまだ幼い子どもなんだと思います。寂しくて不安で、それが解消できないとわめく…。幼少期にできなかったことをしている気がします。」(ぷーどるさん・20代)

咲さんも子どもの頃、家庭で精神的な虐待があり、愛情を感じにくい環境に育ったと言います。学校が好きだったことで心のバランスをとっていましたが、15歳のとき、いじめを受けるようになりました。

「家にも、学校にも居場所がない。世界中で私だけ居場所がないと思ったのをきっかけに、発症した気がします。」(咲さん)

感情が1日のうちに何十回も入れ替わり、落ち込んだときは自傷行為や自殺未遂をしたこともあるといいます。夫に暴力を振るってしまうこともありました。

BPDについては、まだ社会に広く知られていないため、周囲の人がこうした行動を「障害」や「症状」と認識することは稀で、人格や性格の問題と判断して距離をとることがほとんどです。その結果、当事者はますます孤立して追いつめられ、家庭や仕事を失うなど、さまざまな問題につながってしまいがちです。

感情の発散や自分を褒めることが回復のヒントに

咲さんは、こうした状況から何をきっかけに回復へと向かえたのでしょうか?

「3年前に自殺未遂をしたのですが、そのとき夫に言われたのが、昔は私と迎える未来を思い描けていたけど、私が『死にたい』という言葉を繰り返したり、自殺未遂をしたりするようになって、2人で一緒に年老いていくことが想像できなくなってしまった、ということでした。そこで初めて、自分がどれだけ夫を傷つけていたかに気づき、二度と彼を傷つけたくない、ちゃんと生きて、彼に安心を与えたいと思ったんです。そこから急激に世界が変わるように回復していきました。」(咲さん)

実際に回復途上にあるという人からは、こんな体験談も寄せられました。

「私のやり方はとにかく自分を褒める! 何でもいいんです。『コップを洗った』『お風呂に入った』など、頑張ったこと、できたことを日記に書く。自分を傷つけてしまう、もうひとりの自分を慰めるように。これで、自分のしたことを客観的に見られるようになってきました。」(ととさん・30代)

咲さんの場合も、「書く」ことが回復につながったと言います。そのときのノートを見せてもらいました。

ノートは2つあり、ひとつは「何でも書いていいノート」。 感情が不安定なとき、衝動を抑えられないときに、思いを吐き出すように書いていたノートです。文字だけでなく、線や絵を自由に書きなぐっています。赤いペンで人間の絵を描き、それをギザギザに傷つけたり、鎖で縛り付けたりすることで、自傷行為の代わりにもなっていたそうです。

画像(何でも書いていいノートの中身 くるしいなどの文字)
画像(何でも書いていいノートの中身 なぐり書き

もうひとつが「認知ノート」。
本やインターネットで得た情報をもとに、咲さん自ら考案して書き始めたノートです。ある出来事に対して苦しい感情が出たときに、①事実、②それに対してどう感じたか、③どうしてそう感じたか、④どうすれば良かったか、という4つの項目に沿って書いていきます。

画像(認知ノートの中身 ある出来事を4つの項目に沿って書き出している)

自分の思考や行動パターンに気づくことで、トラブルがあっても、それをただの「悪いこと」で終わらせず、自分の気づきや変化を促す「きっかけ」にしていくのです。これは、物事の受けとめ方の偏りやクセを修正していく「認知療法」の基本的な方法で、このような方法は、病院やカウンセリングの場でも行われています。

BPDに詳しい帝京大学医学部附属病院の精神科医・林直樹さんは、回復に向けた本人の取り組み方について、次のようなアドバイスを送ります。

「感情を吐き出すのは、感情との重要な付き合い方のひとつです。咲さんの赤いペンの殴り書きのように、書いて感情を発散させるのは大変良いアイデアです。それから、自己否定から入ってしまう人には、カキコミをくれた“ととさん”のように、自分を褒めることも、とても良いやり方ですね。『自分は自己否定が強いために苦しんでいるのだ』と、認識した上で取り組んでいけば、有効な対応法になります。」(林さん)

書く以外にも、例えば、完璧主義の人であれば「息抜きをする練習」、「少しくらい手抜きをしてもいいと思う練習」をするなど、さまざまな方法があると言います。

家族や周囲は回復したい気持ちを後押しする

周りの人はどう接していけばいいのでしょうか。家族の方や当事者から次のような声が届きました。

「境界性パーソナリティ障害の妻を持つ夫です。離婚を控えています。境界性パーソナリティ障害の症状は周囲にとって、とても理不尽で理解ができず、社会的影響も大きく、個人では抱えられぬほどの痛みをともないます。二者関係でがちがちに固定され、逃げ場を失います。拒絶すれば言葉や身体への暴力が待っていることもありますし、自傷行為に走られることなど、ザラにあります。この特集をただ『理解が得られにくい苦しくてかわいそうなBPD患者』という視点だけで終わらせてほしくありません。周辺の声もしっかりと拾って下さい。」

「私は加害者側になる妻であり、母親です。感情がコントロールできないとき、家族だけでは壊れてしまうのは私も感じています。もっと医療関係者や行政など第三者が入ってくれることを希望します。絶対、一対一ではうまく対処できないです。私は診察以外に訪問看護もお願いしています。保育園にも助けていただいています。カウンセリング、認知療法、さまざまな専門の第三者に話し、たまに夫も混ざり、2人だけでなく解決を目指しています。」(わとかさん)

咲さんも、夫と2人きりで向き合っていた時期はどうしたらいいか分からず、お互いに傷つけ合っていたそうです。変化のきっかけは、咲さんが病院に行けないときに、夫が代わりに行ってくれるようになったこと。夫は医師から、接し方のアドバイスや、夫自身の心のケアもしてもらえるようになり、抜け道が見えてきたと言います。

林さんは、周囲の人の本人への接し方について、こうアドバイスします。
「基本的に、回復のメインエンジンは本人なんですね。家族や周囲の方は、治ろうとする動きを後押しする、お手伝いくらいの位置づけがいいと思います。協力は、うまくいけば、非常に重要な役割を果たします。ただ、ご家族も一生懸命なだけに、息詰まってしまうと苦しみも深く、ひどい有様になってしまうこともしばしばです。そのようなときは、距離をとることも必要です。」(林さん)

大切なのは、距離を置いても、「気持ちはそばにあるよ」と本人に伝えること。それが、回復に向けて本人が取り組む上での勇気になると言います。咲さんも、夫から「ここまではできるけれど、ここからはできないよ。だけど、あなたを愛していないのではないからね」と言われ、とても救われたそうです。

また、“わとかさん”のカキコミのように、第三者の介入も有効なので、保健所や児童相談所、訪問看護やカウンセリングなど、地域の支援機関に積極的に助けを求めてほしいと、林さんは指摘します。

BPDは当事者だけでの解決が難しく、必要な支援や医療機関につながりにくい状況が見えてきます。孤立を防ぐために、まずは社会全体で、BPDについての知識を広く共有していくことが必要ではないでしょうか。

いま苦しいあなたへ・・・

最後に、咲セリさんから、いま苦しんでいる当事者のみなさんに向けてメッセージをいただきました。

画像(咲セリさん)

死にたいくらい苦しんだけど、今日も生きたよ。明日も生きるよ。と言えるだけでいいなと思います。軽々しいことは言えませんが、私もすごく苦しかったし、そのときは何を言われても聞けなかった。でもいつか、何かをきっかけに光が見えることはきっとあるので、どうかあきらめないで。今日一日でいいから生き抜いてほしいと思います。『あなただけじゃないよ』『私もこんなにつらかったけど、いま生きているし、生きようよ』と言いたいですね。」

※この記事はハートネットTV 2015年9月24日放送「WEB連動企画“チエノバ” ―知ってほしい!境界性パーソナリティ障害―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事