場面緘黙Q&A 症状・原因・治療法について

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もくじ

 

監修:角田 圭子(かくた けいこ)
臨床心理士・公認心理師(小児科心理士・スクールカウンセラー)
かんもくネット(場面緘黙児のための情報交換ネットワーク団体)代表

 

Q. 人見知りや恥ずかしがり屋との違いは?

小学1年生の息子は家ではよくしゃべるのですが、学校ではあまりしゃべりません。ただ恥ずかしがっているだけで、人見知りが強いのかなとはじめは思っていましたが、学校の先生からは場面緘黙かもしれないと言われました。場面緘黙は人見知りとは違うのでしょうか。また、場面緘黙とはどんな症状なのかも教えてほしいです。

 

A. 場面緘黙とは自分の意思と関係なく話せなくなる症状です

人見知りや恥ずかしがり屋との違いは、「特定の場面で話せない状態が1か月以上長く続くこと」「リラックスできる場面でも話せないことが続くこと」です。入園や入学で新しい環境に入って、慣れるまでは口数が少ないことはよくあることです。しかし、人見知りや恥ずかしがり屋の子どもでも、学校に慣れて緊張がなくなれば話すことができます。

場面緘黙の症状がある子どもは、家庭ではごく普通に話すのに、家族以外や学校で話せないことが続きます。不安症の一つとされています。例えば、友だちや先生とあまり話せなかったり、クラスメイトの前で発表したりすることができません。家から一歩出ると全く話せなくなる子もいます。本来持っている力を、人前で発揮することができず、学校生活や社会生活に支障が出ます。場面緘黙の症状をもつ子どもの中には、話すことだけでなく、「かん動」といって動作が抑制される子どももいます。人前で食事することやトイレに行くこと、人前で動作することに、強い緊張や不安を感じる社交不安症をあわせもつと考えられています。

人見知りや恥ずかしがり屋の子どもでも、学校で緊張が極端に高い子どもやコミュニケーションが苦手な子どもの場合は、場面緘黙にあたらなくても、環境調整や支援が必要です。

 

Q. なぜ特定の場所で話せない?話すのが怖いのか?

引っ越して新しい園に入園してからもう半年たち、雰囲気には慣れてきたように思うのですが、園で全く話すことができません。先生の朝のあいさつでさえ顔をそむけてしまって、親として恥ずかしいです。近所に住む同じ年長クラスのお友だち1人となら、自宅や公園ではたくさん話せます。なぜ園で話せないのか、気持ちがわからず対応に悩んでいます。

 

A.  話しているのを人に聞かれたり見られたりすることに不安を感じています

場面緘黙は、不安症の一種と捉えられています。入園や入学、転居や転校時などの環境の変化により、不安が高まって発症することが多いようです。

場面緘黙の子どもは、自分が話すのを人から聞かれたり見られたりすることに強い不安を感じます。お子さんは園で話そうとすると、体が緊張し心臓がドキドキするのでしょう。新しい先生や大勢の子どものいる園の教室では、何をどう話したらいいかわからないのかもしれません。そして、話さないでいると、その不安や緊張の高まりを回避できます。そのため、話さないでいる行動が定着すると考えられています。

先生のあいさつに顔をそむけてしまうとのこと、大人の視線を脅威に感じている可能性があります。あいさつは親として子どもにさせたい行動ですが、不安が高い場面で促すと発話に失敗する経験が蓄積されやく、難易度が高い行動であることも多いです。先生の前であっても、親に向かってだと発話できることの方が多いと思います。

お子さんは、自宅や公園で近所のお友だちと話せるのですね。自宅や公園から園へとスモールステップで発話できる場面を広げていくことをお勧めします。可能なら親が少し早くお迎えに行って、園庭でお友だちと遊ぶようにしてみるのはどうでしょう。先生にお願いして、放課後の園の教室をお借りできるなら、そこで親やその友だちと遊ぶ方法も有効です。

 

Q. 場面緘黙を発症する原因やメカニズムは?

同じ環境や状況でも場面緘黙となる子どもとならない子どもがいますが、何が違うのでしょうか?場面緘黙を発症する原因やメカニズムについて知りたいです。

 

A. まだ研究段階ですが、「不安になりやすい気質」なども関係しているようです

原因や発症メカニズムはまだ研究段階ですが、子どもによって発症要因や症状に影響する要因が異なります。発症要因(原因)は、「不安になりやすい気質」などの生物学的要因、心理学的要因、社会・文化的要因など、複合的な要因が影響していると考えられています。

多くの子どもが、新しい刺激に脳が敏感に反応する「行動抑制的な気質(※1)」を元々もつという仮説が現在は有力です。不安が高まりやすく、行動が慎重となるため、環境に慣れるのに時間がかかります。中には、自閉スペクトラム症や言語障害、知的障害、協調運動障害、吃音などの神経発達障害やその傾向をあわせもつ子どももいます。トラウマや虐待は、発症の直接的原因としては否定されています。ただ、場面緘黙の子どもの中には、トラウマや虐待が影響している事例もあります。

場面緘黙の子どもは、自分が話すのを人から聞かれたり見られたりすることに強い不安を感じます。話そうとすると不安や緊張が高まりますが、話さないでやり過ごすと、不安や緊張の高まりを回避できます。そのため、話さないでいる行動が定着すると考えられています。

(※1) ジェローム・ケーガンは、乳児の気質に関する研究の中で、見知らぬ人や慣れない状況に適応するのに時間がかかる乳児を“行動抑制的”としています。全体の10~15%の子どもがこの気質を持つグループに属しており、近年の研究結果によれば、“その傾向は生涯続く”ということが示されています。日本でも、エレイン・N・アーロンの提唱したHSC(Highly Sensitive Child)という類似の気質概念が近年よく知られています。

 

Q. 自閉スペクトラム症(ASD)とは違うのですか?

小学1年生の男子の保護者です。学校ではほとんど話すことができません。先生には、必要なことは話すことができ、授業中の発表も小さな声で話せることもあるようです。幼稚園の時から一人遊びが好きで、お遊戯に参加しませんでした。家ではおしゃべりですが、自分の思い通りにいかないとかんしゃくを起こすことがあります。小児クリニックでは自閉スペクトラム症(ASD)と診断されました。場面緘黙とは違うのでしょうか。

 

A. 異なる疾患ですが、場面緘黙の子どもの中にはASDなどの神経発達障害やその傾向をあわせもつことも

場面緘黙と自閉スペクトラム症(ASD)は、異なる疾患です。ただ、場面緘黙の症状がある子どもの中には、ASDなどの神経発達障害やその傾向をあわせもつ子どもがいます。

ASDの症状や行動は子どもによって様々ですが、興味や関心の幅が狭く、ソーシャルスキルの自然習得が難しいために、人との相互交流を楽しむ経験がもちにくい場合があります。また、感覚情報処理や感情統制の困難さがあり睡眠や覚醒の調節の苦手さがあることもあります。

話さないために発達特性が見えにくく、ASD等の他の神経発達障害の確定診断が難しいことが多いです。不安や緊張の高い状態で過ごした子どもは、心身の不調が生じてASDと似た状態となる子どももいます。ASDなどの神経発達障害の有無にとらわれることなく、どのような枠組みでとらえると子どもの状態を理解し支援しやすいかを考えましょう。話せないことだけに注目せず、より広い視点で子どもの特性をとらえ、その子の状態に応じて発達を促す支援が必要です。

 

Q. 親の育て方や家庭環境による影響は?

子どもが場面緘黙なのは、育て方が間違っていたからでしょうか?周りからは、子どもに対して「過保護」なのではと言われています。

 

A. 「家庭環境のせい」と考えるのは誤解。子どもの支援は家庭と学校が協力することが大切です

場面緘黙を「家庭環境のせい」と単純に結びつけて考えるのは誤解です。過去には「虐待」や「トラウマ」に関連付けられてきましたが、研究ではほとんどの子どもに関連がないことがわかり、海外メディアでも啓発が盛んにおこなわれています。

学校の先生は「親の過保護のせい」と考えがちです。しかし、子どもが人前で話せなければ、親が心配になるのは当たり前です。過保護だと批判されることを恐れて、必要な支援まで控えないようにしましょう。先生は、子どものできている行動に注目し、親に伝えてあげてください。親と先生が協力して取り組むことで、子どもに必要な支援が始められます。

場面緘黙の子どもは、不安になりやすい繊細な気質をもつことが多いですが、親も同様の気質をもつことが多いです。親は、子どもの不安と親の不安を区別しましょう。子どもの不安を取り去るのではなく、「不安を持ちながら行動する力」をつけます。不安に対処する力を子ども自身がつけるのを助けます。子どもの不安が高まらないように先回りしたり、子どもの話す機会を奪うことがないようにします。

場面緘黙の治療は、家庭の会話を家庭外の会話へと広げていくことが基本なため、家庭での会話を増やすことも大切です。例えば、家庭では、子どもが発話するまで5秒程度待つことを心がけましょう。子どもが話せたときは、子どもの言葉をそのまま繰り返し、すぐに褒めてあげるとよいです。(先生も、子どもの行動や発話を5秒程度待つ対応がよいでしょう。ただし、先生が大げさに褒めると、かえって子どもは話せなくなることもあるため、自然な反応がよい場合もあります)

 

Q. 子どもが場面緘黙かもしれない。成長とともに治る?

もしかしたら子どもが場面緘黙ではないかと感じています。成長するにつれ自然と治るような気もするので、しばらくは医療機関やカウンセラーに相談しなくてもいいかなと思っています。

 

A. 支援を受けずに成長すると、うつや不登校などの二次的な問題も生じやすくなります

場面緘黙には、早期発見と対応が大切です。
場面緘黙の子どもは、おとなしい場合が多く、見過ごされがちです。園や学校で先生が困るような目立つ問題行動がないため支援が受けにくいのです。自然に改善したように見える事例でも、場面緘黙の経験者の話を検証すると、本人と環境の状態がタイミングよく組み合わされ、スモールステップで症状改善がなされたケースが多いです。心身が安定している時に、環境が適切な状態になれば、本人の自信が不安の大きさを超え、発話にチャレンジすることができるのです。

支援を受けずに成長すると、症状改善が遅れるだけでなく、うつや他の不安症状、不登校や人間不信などの二次的な問題が生じやすくなります。場面緘黙による否定的な経験が影響するためです。支援を受けて、人とのつながりを経験し、発話以外のコミュニケーションや他の領域で自信をつけることは、発話できるようになった後のメンタルヘルスによい影響を及ぼします。

 

Q. 中学生の子どもが場面緘黙です。症状の改善には何ができますか?

小学校高学年から場面緘黙を発症し、中学生になっても続いています。年齢的にも思春期になり家庭での声かけも難しくなっていると感じます。症状の改善に向けてどんなことができるか教えてください。

 

A. 本人の勇気あるチャレンジを尊重して。二次的な問題の予防に焦点を当てる方が良いことも

10歳を過ぎて中学卒業までの時期は、症状の改善が進みにくい時期と言われています。10歳以降は症状改善のためのスモールステップは、本人のチャレンジ意欲を保ちながら、本人主導で行うことが大切です。この時期の小さな症状改善は、本人の勇気あるチャレンジによるものです。

今できている発話を維持し、症状改善よりも二次的な問題への予防に焦点を置く方がよいことも多いです。本人の興味や関心を大切にして、人とのつながりを保ちましょう。学校外での活動参加、お店での買い物、外食、塾やお稽古事での発話を伸ばしていきましょう。発話チャレンジを行えない状態の場合は、筆談や、選択肢から選ぶコミュニケーションを伸ばしましょう。不安症について、思考パターンに働きかける認知療法や適度な運動や呼吸法などの身体的アプローチもよい影響があります。

家庭では日常的な雑談を大切にし、子どもへの指示や批判を控え、子どもができている行動に注目し、肯定的な声掛けを心がけることが大切です。親の不安と子どもの不安を区別するよう心がけ、親の心配を子どもにぶつけないようにします。

中学を卒業して新しい環境に入るとき、本人の心身状態が安定しており、話せるようになりたいという意欲があれば、「話せない自分」というレッテルから解放されて新しい環境で話せるようになることも多くあります。

 

Q どんな治療法が効果的なのでしょうか?

場面緘黙の治療は、どのようなことが行われるのでしょうか。効果的な治療方法を知りたいです。

 

A. 行動療法的なアプローチが効果的とされています。家庭や学校で安心できる環境を作ることも大切です

場面緘黙の症状については「家庭での会話」を「学校での会話」へと段階的に広げていく行動療法的アプローチが最も効果的です。「段階的エクスポージャー法」といって、不安の低い場面から不安の高い場面で発話チャレンジを行います。場面とは「人・場所・活動」の3つの要素で構成されています。すでに話せる場面から、1回につき1つだけ要素を変えて、スモールステップで発話のチャレンジを行います。「楽しく」「自信をつけながら」「場数を多く」行うことが大切です。

場面緘黙は、「専門家だけで治せる症状」ではありません。話せるようになりたいとういう本人の意欲のもと、家庭と学校が協力して発話チャレンジを行います。人と話せた経験をたくさん積んで、話す自信をつけていきます。そのため、シールやスタンプなどを用いて達成した結果を見える化する「トークンエコノミー法」も効果的です。

人前でガムを噛んだり、シャボン玉や笛など口を動かす遊びを行ったり、吐く息から無声音、発声から発話へと進める「シェイピング法」という方法もあります。子どもによって、数字数え、質問カードやカルタ、音読が発声しやすいこともあります。しりとりやなぞなぞでうまくいく子どももいます。

行動療法的アプローチを進める前提として、まず家庭と学校が協力して「安心できる環境」を調整することが大切です。発話以外の領域についても、子どもの支援ニーズを把握しましょう。心身の状態が安定せず、「段階的エクスポージャー法」が行えない状態の子どももいます。例えば、家庭で、かんしゃくや学習の困難、身体症状などがある場合は、緘黙症状改善に取り組む前に先にこれらに対応する必要があります。

また、社交スキルの不足のために場面緘黙の症状がある子どもや緘黙のために社交練習の機会が不足する子どもがいます。状況に応じた振る舞いや、子どもが社会生活を営んでいくために必要なスキルを学ぶ「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」が有効な場合もあります。

不安症については、思考パターンに働きかける認知療法もよい影響があります。適度な運動、呼吸法や筋弛緩法、マインドフルネス・ヨーガやタッピングタッチ等の身体からのアプローチも、ストレスケアとして不安緩和に効果があります。

海外では投薬して不安を緩和する方法もあります。ただし、日本では「段階的エクスポージャー法」による改善を促すための投薬はほとんど行われていません。

 

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