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2022年6月28日和紙が糸に? 伝統の技術を現代に融合

美濃和紙


1300年前の奈良時代から岐阜県で作られている和紙「美濃和紙」。美濃市を中心に作られ、ムラが少ない高い品質と丈夫さが特徴です。2021年に開かれた、東京オリンピック・パラリンピックの表彰状にも使われました。

国産の「こうぞ」を原料に、認定を受けた職人が「流し漉き」という技法で手ですいたものは美濃和紙の中でも「本美濃紙」と呼ばれます。一方、大量に作られる和紙は、機械で作られ、原料には「マニラ麻」などが使われています。ところが、こうした紙を取り巻く経営環境は芳しくありません。





【減少する紙の需要】



製紙会社などで作る団体「日本製紙連合会」によりますと、2021年に日本国内で作られた印刷用紙などの紙の量は、約630万トンと、ピークの2000年と比べおよそ半分の水準です。デジタル化などを背景に需要が落ち込んでいるのです。
こうした中、美濃市の製紙会社は、新たな市場の開拓を進めています。大事にしたのが、培ってきた和紙作りの技術です。





【紙でできた服!?】



東京駅の近くの百科店


わたしが訪れたのは、東京駅のすぐそばに建つ百貨店です。多くの人が行き交う中、目指したのは働く女性をターゲットにしたブランドの店舗。その中で、ひときわ目立つ鮮やかな色のニットが、このブランドの春夏向けの商品です。タグを確認しました。




春夏向け商品のタグ
製品のタグ


そこに記されていたのがこちらの写真です。「分類外繊維(紙)」とは何か。このブランドを展開するアパレルメーカーの担当者に確認しました。




和紙の素材を使ったオレンジ色のニットの服


大手アパレルメーカー デザイナー 板橋章子さん
「和紙の素材を使ったニット製品です。一押しの素材で、3年連続使っています。今暑い時期ですが、本当に涼しく、ひんやりとした接触冷感的な素材になっていますので、手に取りやすいです」





【培われてきた和紙の糸】



岐阜県美濃市の静止会社


「和紙の糸」を作っているのは、岐阜県美濃市の製紙会社です。
昭和9年創業の開発力が強みの会社で、「特殊紙」を製造しています。




和紙の糸の材料となるマニラ麻
「マニラ麻」の繊維


こちらの会社が原材料のひとつとしているのが、マニラ麻です。バショウ科の植物で、その 繊維を使って作った紙は、紙幣にも使われるなど、丈夫さが特徴です。
機械を使って1日約10トンの美濃和紙を作っています。デジタル化などで紙の需要が低迷する中、この会社が力をいれているのが、「和紙の糸」です。




和紙の糸
「和紙の糸」


「和紙の糸」は美濃和紙を細長く切り、それをよって紡ぎます。高い通気性とさらりとした肌触りが特徴です。しかし「和紙の糸」は新しい製品ではありません。この会社では創業直後から「和紙の糸」の製造を手がけてきました。しかし、いまとは少し異なります。




これまでの和紙の糸のいろいろ


その頃の「和紙の糸」は、和紙に漆で金や銀の箔を貼って作りました。西陣織の帯を彩る装飾用などとして重宝され、会社の主力商品のひとつとなりました。ところが、着物の需要の落ち込みとともに「和紙の糸」の生産量も落ち込み、いまやピーク時の20分の1以下の水準です。




和紙の糸を作っている様子


この会社で顧問を務める荻康彦さんは、40年近くにわたって「和紙の糸」の開発などに携わってきました。需要が落ち込む中であっても、「和紙の糸」を作る技術は絶やしたくない。そう考えた荻さんは、誰も手がけていなかった市場を狙いました。「着物」ではなく「ふだん使いの洋服」のための「和紙の糸」です。

大福製紙 顧問 荻康彦さん
「なんとか金銀糸(帯用の紙糸)を作る技術で、今の市場に合ったものづくりができないかということで、昭和57年度にこの紙の糸の開発に着手しました」





【課題@糸の伸び】



ところが、すぐに課題に直面します。
「ふだん使い」には、ある程度の “伸び” が必要ですが、帯を飾る当時の糸には “伸び” がなく、すぐに切れてしまったのです。




糸の伸びの実験


そこで着目したのが「しわ」です。一見するとわかりませんが、特殊な技術ですいて「しわ」の加工を施すことで、紙の糸の「伸びる」余地を確保したのです。




糸の伸びの比較実験


右側の写真は「しわ」加工を施した「和紙の糸」です。左側は加工していない糸です。同じ圧力で引っ張ると、「しわ」加工を施した「紙の糸」は、加工していない糸の7倍伸び率があるといいます。





【課題A糸の耐久性】



さらに「耐久性」の向上も課題です。洗濯や染色は「ふだん使い」には欠かせません。荻さんたちは樹脂などを混ぜた特殊な液体を開発し、それをマニラ麻と混ぜてすく方法を思いつきました。




特殊な液体に糸を入れて実験


右側の特殊な液体を混ぜずに作った和紙は水に溶けますが、左側は全く形状が変化しません。

大福製紙 顧問 荻康彦さん
「全然形状が変化しなかった。当時これは世の中にはない糸だなと、感無量というか、驚きとともにみんなで喜びました」





【アパレルで注目の素材に】



こうして作り出された「和紙の糸」は、注目の素材として、さまざまなメーカーから熱い視線が注がれています。




デザイナーの板橋さん


大手アパレルメーカー デザイナー 板橋章子さん
「和紙は、吸水速乾で耐久性があるので、洗濯にも耐えられます。軽さと爽やかな清涼感が売りです。天然素材では綿、麻、和紙というのが3大巨頭として、夏の素材として他社でも多く見受けられます」




大福製紙顧問の荻さん


大福製紙 顧問 荻康彦さん 
「美濃和紙の技術、手漉き和紙の技術の延長線上でものづくりを継承しています。今までにない客、例えばヨーロッパなどの展示会に出して、美濃和紙の糸が非常にいいということを知ってもらいたいです。皆さんに喜んでいただける商品づくりができればと思います」





【和紙の糸の今後は】



和紙で作られた糸


会社によりますと和紙の糸は少しずつ生産量が増えているということです。しかし、例えば太さ1ミリの糸の卸価格は、綿の糸の3倍とまだまだ価格に開きがあるということです。 会社では量産化に向けた開発を進めて価格差をなくすほか、培ってきた技術をさらに高め、さまざまな太さの糸を作るなど改良を重ね、さらに販路を拡大させたいとしています。





【取材して】



ファッションの通販サイトを見ていたときに、いくつものブランドから「和紙製の洋服」が販売されていることに驚き、取材を始めました。
「紙」なのに洗濯に耐えられる意外性と、これからの季節にぴったりな清涼感のある素材に、さらりとした肌触りが印象的でした。
取材で見えてきたのは、岐阜の企業の“確かな技術力”と“伝統への誇り”です。かつて、紙を着ていた時代がありました。1300年に渡って受け継がれてきた技術がさらに磨きをかけ、いつか和紙の服が“当たり前”になる日が来るのかも知れません。






齋藤記者

NHK岐阜放送局 記者
齋藤恵実
2019年入局。初任地が岐阜局。
県警担当を経て、去年から県政を担当しています。
江戸時代には美濃和紙の産地を背景に、商業地として繁栄した美濃市。当時の富の象徴「うだつ」(屋根の両端に付けられた防火壁)が残る町並みは「うだつの上がる町並み」として現代に受け継がれています。必見です!

2022年6月9日誰もが働きやすいまちへ “超短時間雇用”の取り組み



「通院しながら働ければ」「子どもの送り迎えがある」「親の介護をしなければ」・・・。

多くの業界で働き方改革が進む中、柔軟な勤務をする人が増えてきました。しかし、あなたの周りに「週3時間」という “超短時間雇用”の人はいますか?

障害や難病などを理由に短い時間しか働けない人たちは、企業で働く機会が限られていました。そこで、“超短時間雇用”を広めて、誰もが働きやすいまちを目指そうという取り組みが、岐阜市で始まっています。





【仕事は週にたったの3時間】



仕事をする丹羽さん


岐阜市の建築事務所で働いている丹羽彰光さん。勤務時間は、毎週金曜日の午前9時から正午までの3時間だけです。

統合失調症や血液の難病を抱えていて、これまで何度も入退院を繰り返してきました。今も、治療や障害のある人たちが集まる自助グループへの参加などを優先していて、働けるのは極めて短い時間に限られています。これまで4回、フルタイムの仕事に挑戦しましたが、長く続けられませんでした。

「出勤して職場が近づいてくるとプレッシャーというか、ストレスを感じるようになってきました。毎日そう感じてきて、働き続けるのはきつかったです」





【政策の枠から外れる人たち】




障害や難病で長時間働けない人の求人は、ほとんどないのが現状です。障害者の雇用を定める法律はありますが、週20時間以上の勤務でないと「雇用」とはみなされません。また、障害者を雇用した場合に出される助成金も、勤務時間が短すぎると対象から外れてしまいます。企業は、こうした人の採用を避ける傾向にあるのです。





【岐阜市の秘策 “超短時間雇用”とは】



岐阜市は、制度や助成とは別の方法で、雇用を生み出せないか検討してきました。そして、企業の「ちょっと人手が足りない」というニーズを掘り起こし、こうした “超短時間雇用” を希望する人たちとマッチングしようと考えたのです。





【歯車がかみ合った丹羽さんと会社】



パソコンでデータ入力をする丹羽さん


丹羽さんの働く建築事務所は、丹羽さんの雇用前に、社員たちに手伝ってほしい仕事を調査。見つかったのが、公共工事の入札情報をデータベース化する作業でした。自治体のホームページから文字や数字を繰り返しコピーして、専用のワークシートに貼り付けます。

もとは、ほかの社員が週に数時間かけて行っていましたが、事業拡大にあたって扱うデータ量が増えて作業が追いつかなくなり、パソコン操作に慣れていた丹羽さんに託すことになったのです。

「3時間なので、ちょうど手頃ですね。単純作業で、わかりやすくてやりやすいです」




仕事の話をする丹羽さん


丹羽さんはすぐに仕事に慣れ、しばらくすると、会社に仕事を進めやすくするためのアイデアも提案するようになりました。上司も、丹羽さんを頼りにしています。

丹羽さんの上司
「こちらが求めてることを根気よくやってくれて、成果も出ているので、非常に助かっています。通常の労働者として受け入れるものなのか、少し配慮して受け入れるものなのか兼ね合いがわからなかったんですけど、通常の新入社員と何も変わらなかったです」





【社員や会社の意識にも変化が】



建築事務所の様子


建築事務所にとっては「ちょっと人手が足りない」ことがきっかけだった “超短時間雇用”。しかし、ただの「人手」以上の変化をもたらしつつあります。

社員の中には、丹羽さんとともに自助グループの集いに参加した人が現れ始めました。同じ職場で働く障害のある人たちを、もっとよく知ろうと思ったそうです。

意識の変化は社員だけでなく社長にも。これまでフルタイムの社員しかいなかった環境で、さまざまな働き方の可能性に気づき始めたのです。




建築事務所の八代社長


建築事務所 八代俊社長
「人手が不足している中で、子育てとか結婚を機に1回リタイアして、またちょっと空いてる時間で仕事したいという人が結構います。仕事と時間に対する考え方も、その人がいつ仕事ができるかに合わせた方がやりやすいのかなと思うようになりました。もっといろんな働き方が増えるんじゃないかと思いますね」





【“超短時間雇用”のこれから】



「長時間働けないだけで、会社などからは必要とされている」

岐阜市は、多くの人と企業に“超短時間雇用”を知ってもらい、より多くのマッチングを成功させようとしています。ただ、2022年5月の時点で、マッチングが成立したのは、丹羽さんを含めて2組にとどまっています。

一方、同様の取り組みは川崎市や神戸市などでも導入が進んでいて、取り組みに携わる専門家によりますと、全国で200組以上のマッチングが成立しているということです。

岐阜市のセンターは、今後も企業への周知を重ね、取り組みの輪を広げていきたいとしています。




長短時間ワーク応援センター長の大原さん


岐阜市超短時間ワーク応援センター 大原真須美 センター長
「仕事を切り分けていくと、その人じゃなくてもできることが絶対にあると思います。その部分を誰かに担ってもらうことで、その人が絶対にやらなければいけない業務に専念できるとか、新たな業務にチャレンジする機会を増やすことができます。地域の中に、いろんな時間の長さの仕事があって、障害や難病がある人でもそれを柔軟に選んで働けるようなまちにしていきたいと思っています」




岐阜市長短時間ワーク応援センター 058-215-8280 平日 午前8時30分〜午後5時


センターは“超短時間雇用”で働きたい人からの相談を受け付けるだけでなく、企業からの「こんな仕事でもお願いできるのか」といった相談にも乗っています。少しでも関心があれば、連絡してほしいと呼びかけています。






吉田紘生記者

NHK岐阜放送局 記者
吉田紘生
2020年入局
警察・司法を担当
障害者や高齢者の取材を続ける

2022年6月7日春の象徴 サクラ




窓から見える桜



6月に入りましたが、2か月前の頃を思いだしてください。




わたし、弘永優恵は、サクラの開花に “わくわく”していました。寒さが厳しい頃には、天気予報で桜の開花予想が伝えられれば “そわそわ”。開花が近づくと、いつ咲くのだろうかと落ち着きをなくし、開花したと聞けば、サクラを探し、見つけては、ぼーっと見上げていました。そして、すっと息をのむほどの満開のサクラを見ては、しみじみ、春を感じていました。日本の春を象徴する花 “サクラ”。“名所” と呼ばれる“サクラ”だけではなく、街角に根を下ろす“サクラ”の、りんと咲き誇るその姿に心奪われました。振り返ってみると、わたしの人生の思い出にも、たびたびサクラが登場しています。





【サクラが危機に直面している】



去年、岐阜放送局に赴任したわたしにとって、ことしは岐阜で初めて迎えたサクラの季節です。その時を待ちわびていた私に、取材で知り合った人が「サクラが美しい花を咲かせるためには、年間を通じた手入れが欠かせないんだよ」と教えてくれました。「勝手に咲くのではないのだな」と、当たり前のことなのに、驚きを持ってその言葉を聞きました。しかしそれだけではなかったのです。次に続く言葉に、なんともいえない焦りのようなものを感じたのです。

「サクラが危機に直面している」

とにかく、調べ、現状を伝えたいと思いました。





【難航した調査】



岐阜県内の桜の名所の地図


調べ始めたものの。岐阜県内のサクラを網羅した資料は見当たらず、最初からつまずきました。“日本さくら名所100選”や“飛騨・美濃さくら三十三選”はありますが、母数が多くありません。わたしは岐阜県内の全ての市町村に取材し、あわせて148か所をピックアップし、それらの実態を調べることにしました。しかし、自治体の担当者ですら、管理している人がだれか、すぐにはわからないという所もあり、思った以上に取材に時間がかかりました。





【“ボランティアが管理” 18%】



ボランティアが管理している場所の地図


取材の結果です。
調査した148か所のうち、少なくとも18%にあたる27か所では、住民などのボランティアがサクラの管理を担っていることがわかりました。多くの所が、活動の中心は高齢者と回答し、中には70代から80代が管理していると打ち明けてくれる所もありました。
サクラの木の高齢化が指摘されていますが、取材では高齢者がサクラの木を世話している実情の一端も浮かびあがりました。
さらに、その約6割は後継者不足に懸念を示し、潜在的な課題があることも見えてきました。

当事者の話を聞きたいと、現場に向かいました。





【現場@ 池田町 「雲上の桜」】



池田町の「雲上の桜」の木


最初に向かったのが、池田町の「雲上の桜」です。神社の敷地に堂々と根を下ろしています。樹齢500年を超える1本のエドヒガンザクラで、町の天然記念物に指定されています。
「雲上の桜」は、平成17年の大雪によって枝が折れ、樹勢が衰えました。そこで立ち上がったのが、石井智恵子さん(79)です。石井さんは、この桜を次の世代に引き継ぎたいと、地元の人たちに呼びかけ、平成24年に愛好会を立ち上げ、「桜守」としての活動を始めました。




雲上の桜を見上げる石井さん


この地区で生まれ育った石井さんは「子どもの頃に、家族と一緒にサクラのそばで弁当を食べたことが忘れられない」と教えてくれました。そして、サクラの木の下では「懐かしい匂いが充満していて、ここが大好きです」とやさしい表情で話してくれました。





【補助金で樹木医 でも・・・】



石井さんは奔走しました。岐阜県に補助金を申請して活動資金を獲得、樹木医に“治療”を依頼しました。樹木医のアドバイスをもとに、土壌改良などを進めました。その後、樹勢は回復しましたが、ここ数年は衰えが進んでいて、毎年の「処置」が欠かせない状況だといいます。しかし、石井さんが体調を崩したことなどから、補助金の申請ができず、ことしは樹木医の治療を受けるための資金がありません。愛好会のメンバーの高齢化も進んでいて、できることは、草むしりだけです。新たな担い手も見あたらず、解散の決断に迫られていました。





【現場A 各務原市 「百十郎桜」】



各務原市の川沿いに咲く「百十郎桜」


次に取材したのは、各務原市の「百十郎桜」です。岐阜県有数の桜の名所で、川沿い5キロに、およそ1000本のソメイヨシノが花を咲かせます。
この桜並木を守ってきたのが、「百十郎桜保全ボランティアの会」です。各務原市の呼びかけをきっかけに平成14年に結成されました。




桜の手入れをする須田さん


会長の須田長良さん(78)です。

須田さんは、メンバーとともに、春の一瞬だけに花を咲かせるサクラのために、毎週月曜日、1年かけて、手入れを続けています。不要な枝を切り、病気を取り除く作業を繰り返してきました。しかし、メンバーの平均年齢はおよそ76歳。老いに直面し、活動はもはや限界だといいます。

百十郎桜保全ボランティアの会 須田長良 会長
「みんなどんどん年を取ってきているし、実際に活動から身をひいて、最近は亡くなる人もいるので、われわれの会も終わりに近づいている」




百十郎桜保全ボランティアの会の会合の様子


ことし3月下旬、須田さんたちの会合には、地元のフットサルチームの若者も参加していました。




須田さんたちの話を聞くフットサルチームの監督


会合で、フットサルチームの監督が、「引き継ぐことも大事なのかなと思っております」と保存活動への参加を申し出ました。

ところが、意見の違いが浮かび上がります。須田さんたちが毎週月曜日に活動していることについて、学生が主体のフットサルチームから、活動日を休日に変更してほしいという要望がでたのです。




要望を聞く須田さん


須田さんたちは、市役所の職員と一緒に作業を行ってきた経緯などから、活動日を月曜日にしています。そのため別の提案を行いました。

百十郎桜保全ボランティアの会 須田長良 会長
「わたしたちは、平日でないと活動できないという制約があります。一緒にやるのではなくて、独自の活動をお考えになるといいのかもしれないと私は考えているのですが、どうでしょうか」

これに対してフットサルチームの監督は「私たちが主体でとかいう話だと、申し訳ないですけど出来ないと思います」と話しました。

この日、結論はでませんでした。





【“今が最後のチャンス”】



サクラの木の多くは、今、手入れを必要としています。専門家は、サクラを管理する担い手の高齢化が進み、このままではサクラが織りなす風景が楽しめなくなるおそれがあると指摘しています。




岐阜大学 林 名誉教授


岐阜大学 林進 名誉教授
「木も高齢化する、関わる人たちも高齢化するということで、じり貧になるケースが結構目立っています。今が最後のチャンス、この機会を逃せば切って植え替えるしかない」

林名誉教授は、次の3つの対応策を提案しています。

  1. 「持続的な仕組み」
    サクラの保全に向けて、資金を集めて若い人たちをはじめとした担い手を確保し、活動の継続につなげる
  2. 「削減」
    いまの体制でも管理できるように、サクラの木の本数を減らす
  3. 「植え替え」
    病気に強い品種や小ぶりなサクラに植え替え、管理の負担を減らす



淡墨桜





【サクラは咲き続けるのか】



わたしが取材した148か所の多くは自治体などによって管理されています。しかし、大丈夫だと安心するのは早計だと思います。人口減少などによって、自治体ですらサクラを管理するための財源が確保できなくなるおそれがあるからです。そうした状況を見越し、愛知県犬山市では、残すサクラとそうでないサクラを選別する保全計画を作っています。

6月に入りサクラの木は青々とした葉にすっかり覆われしまい、春の面影はありません。しかし、そうなった今も、次の春にもサクラが咲くようにと、人知れずだれかが懸命に手をかけ、サクラを守っています。

日本でも、岐阜県でも、高齢化や人口減少が進んでいます。“桜守”たちの高齢化も進み、担い手不足の問題も顕在化しています。サクラをどう守っていくのかを考えることは、今後の地域のあり方について考えることにつながると思います。道路や橋梁などが、暮らしに欠かせない“インフラ”であるように、サクラは、わたしたち日本人にとって“心のインフラ”と呼べる存在ではないかと、生意気にも思いました。
10年先、もう少し先、少しでも長くサクラを楽しめるようにするためには、何をすればいいのか。いっしょに考えていければと思います。






弘永優恵記者

NHK岐阜放送局 記者
弘永優恵
2021年入局
警察・司法担当 サクラの思い出は、兵庫県宝塚市で大学の友人たちと初めて夜桜を楽しんだことです
記者として、何度も花を咲かせたいです

2022年5月9日“ウッドショック” 木材の安定供給のために



面積のおよそ8割を森林が占める岐阜県で、木材が足りず住宅の建築が始められない状況になっています。いったい、何が起きているのでしょうか。




【“夢のマイホーム” が建たない!?】



郡上市の工事現場



郡上市の工事現場です。施主の羽田野秀樹さんは、ことし4月の完成を希望して初めての“夢のマイホーム” を建設しようとしていました。しかし、まだ影も形もありません。




施主の羽田野さん


「今、アパートで狭い暮らしをしているので、下の子が小学校に上がるタイミングで家を建てようと思っていましたが、完成予定が秋になってしまいました」




積み重ねらえた合板


工事が始まらなかった主な原因は、ベニヤ板を重ねた「合板」と言われる木材の不足。
建物の強度を増すために、床や天井に必要不可欠で、一般的な住宅では1棟あたり140枚程度使います。
いま、合板をはじめ、さまざまな木材で価格の高騰や品不足が起きていて、“オイルショック”になぞらえ “ウッドショック” と呼ばれています。




工務店の猪島さん


羽田野さんのマイホーム建設を請け負っている工務店の猪島正司さんは、こうした現場はいくつもあるといいます。

「32年間、この業界でやってきたが、木材がないのは初めてだ」





【なぜ木材が足りない?】



アメリカテネシー州での住宅着工の様子



“ウッドショック” の背景にあるのは新型コロナウイルス。在宅勤務の浸透などでアメリカでは去年から急激に住宅着工が増えるなど、世界的に木材需要が高まりました。
また、合板の主な産地である東南アジアなどでは、感染拡大にともなってロックダウンの措置が取られ、生産量も減りました。
こうした理由で、木材の6割を輸入に頼る日本で深刻な木材不足と価格高騰が起きているのです。





【価格高騰は木材以外にも】



石油由来の接着剤や塗料



価格が高騰しているのは木材だけではありません。
原油価格の高騰が追い打ちをかけ、石油由来の接着剤、塗料、断熱材なども値上がりしています。
こうした建材の高騰で、住宅の建築コストは全体で1割から2割ほど上がる可能性がありますが、猪島さんは、契約を結んだ後に仕入れ価格が上昇した分は工務店が負担することもあるといいます。




木が生い茂る山を見つめる猪島さん


「お客さんがマイホームのために精いっぱいお金をためて契約したのに、着工したあとに、『材料価格が上がったので、価格を上げる』とは言えません。こんなに近くに木はあるのに、なんで材料がないのかと強く思います。もどかしさを感じます」





【国産木材支える林業の課題】



木はあるのに木材がない。
創業104年の建材商社を経営している吉田芳治さんは、“ウッドショック” を招いた要因には、安価で供給が安定している輸入木材に頼ってきた歴史があると指摘します。




建材商社を経営する吉田さん


「今までも、輸入木材が供給不足で入ってこないと国産木材にシフトする流れがあった。そうすると国産木材の値段も上がってきて、国産木材の時代が来たと思う。しかし、また輸入木材が安定供給で入り出すと輸入木材の方が安いからいいということで、戻ってしまっていた」

日本の木材の自給率は、一時は20%程度まで落ち込みましたが、今は40%程度まで回復しました。しかし、安価な輸入木材に対抗して価格は低迷し、林業に関わる人たちの賃金低下を招き、担い手は減ってしまいました。





【県産木材の活用のために】



建材木材の活用のために立ち上げた団体のみなさん



吉田さんは3年前伐採から加工、利用まで多業者からなる団体を立ち上げました。
供給とのバランスを取りながら、県産木材の安定的な需要を掘り起こす狙いです。

「どれだけの木を供給して、どれくらい製材して、必ずそれを使いますよっていう契約みたいな感じです。半年とか3か月間とか価格も固定して生産・供給する」




学会での様子


木材や林業の研究者が集まる学会で、この動きを全国に広めようと訴え、“ウッドショック” を教訓に、日本の林業を活性化しようと取り組んでいます。

「これだけ長く大きな “ウッドショック” は、あまり経験したことないが、山の問題などがはっきり露呈した。この痛さがわかっているうちに、対策を考え、実行していかないといけない。我々の使命だと思う」

木材供給の安定のための業者間連携は動きだしたばかりです。
この取り組みの輪を広げて、森林豊かな岐阜県の “宝の山” を活用していけるのか、注目が集まります。






齋藤記者

NHK岐阜放送局 記者
齋藤恵実
2019年入局
警察・司法担当を経て県政担当。

2022年3月29日「ハロー!ネイバーズ」始めました




ハロー!ネイバーズ



NHK岐阜放送局は、この春、東海・北陸のNHKとともに、「ハロー!ネイバーズ」というプロジェクトを始めました。異なる国籍や民族などの人たちが互いの違いを認めあって対等な関係を築き地域社会でともに生きる「多文化共生」がテーマです。





数字54061



54061
この数字、なんだと思いますか?
これは2020年の国勢調査による岐阜県で暮らす、外国にルーツがあるお隣さん“ネイバーズ”の人数です。その5年前の国勢調査と比べ48.9%増えました。人口に占める割合は2.7%と、全国で5番目の高さです。

NHKのキャンペーン「ハロー!ネイバーズ」は “お隣さん=ネイバーズ” の素顔を知り、多様な社会の今を伝えていきたいと思っています。




「ハロー!ネイバーズ」の1回目のテーマは、「やさしい日本語」です。





【その日本語、 “やさしい”ですか?】



みなさんは、「やさしい日本語」をご存じですか?
日本語が苦手な人にも伝わるよう、簡単な表現などに言いかえた日本語のことです。1995年の阪神・淡路大震災で日本に住む外国人の多くに必要な情報や支援を届けられなかった反省から研究が始まりました。





【“共生のまち”美濃加茂市】




美濃加茂市の街並み



岐阜県東部に位置する美濃加茂市は、人口が約5万7000人。あちらこちらで外国語の看板を見ることができます。美濃加茂市の人口の約9%にあたる約5300人が外国籍の住民 “ネイバーズ” です。出身はフィリピン、ブラジル、ベトナム、中国などさまざまです。市は “共生のまち” を掲げ、取り組みを進めていますが、住民のみなさんは “共生” についてどう受け止めているのか、尋ねました。



日本人に聞く


日本人
「声をかければいいのですが、なかなか一歩前へ踏み出すのが難しいです。相手が日本語をカタコトでも話せれば、うまく会話に入っていけるかもしれませんが、チャンスがないですね」
「近くに住んでいる人とあいさつくらいはします。でも、自分が日本語でしゃべっちゃうと、外国の人には難しいかなと。せめて英語が話せたら、会話できるかなと思いますけれど」
外国籍の市民は、どう感じているのでしょうか。




外国籍の市民の方々


ベトナム人
「日本語は難しい。でも面白い。ふつうのことばは、ちょっと話せる。難しいことばは、ちょっと聞けない。だから大変です」
ブラジル人
「日本人と関わりを持つと自信がつくので、関わりはあった方がいいと思います」





【初の体験型研修会】



美濃加茂市が力を入れているのが「やさしい日本語」の普及です。ことし1月には、体験型の研修会を初めて開き、12人が参加しました。



研修会の様子
(美濃加茂市が開いた研修会)



研修の講師を務めた、岐阜大学地域協学センターの大宮康一准教授は、「やさしい日本語」のポイントについて次のように説明しました。



大宮准教授
(「やさしい日本語」に詳しい 岐阜大学地域協学センター 大宮康一准教授)



▼できるだけ短く
▼簡単な言葉を使う
▼具体的に言いかえ


例えば
▼氏名を記入する→名前を書く
▼両親→お父さん・お母さん
▼公共交通機関→バスや電車


研修では、次の行政文書を「やさしい日本語」にする実習が行われました。


実習用の文章
(研修会で示された例文)



みなさんは、この文章をどのように「やさしい日本語」に変換しますか?

大宮准教授が示した “やさしい日本語” はこちら。



「岐阜県から、岐阜県に住む人にお知らせです
コロナウイルスが心配で元気な人は、12月28日から、
0円でコロナウイルスを調べられます」



こんなに短いの?と思うかもしれませんが、大宮准教授は「誰が」「誰に対して」「いつから」「どのような行動を求めているか」と、ポイントを絞って伝えるべきだとしています。さらに、ていねいに正確に伝えようとすると、かえって難解な表現になってしまうおそれがあるとも指摘しました。





【警察にも「やさしい日本語」を】



この研修には2人の警察官も参加しました。

大石巡査
(研修に参加した 加茂警察署 大石武巡査(25) )



そのうちの1人が、加茂警察署の大石武巡査です。川辺町の交番に勤務していて、これまでも “ネイバーズ” から、道を尋ねられたり、落とし物の相談を受けたりしたといいます。

翻訳アプリが表示された公用携帯
(岐阜県警の公用携帯にインストールされている翻訳アプリ)



岐阜県警察本部は、およそ650人の警察官の公用携帯電話に翻訳アプリをインストールし、活用しています。大石巡査のスマートフォンにもアプリがインストールされていますが、操作に集中するあまり、コミュニケーションがスムーズにいかなかったケースがあったといいます。


大石武巡査
「最初のコミュニケーションの導入部分で、どのように話しかけたらいいのか難しい」





【“やさしく” は “むずかしい”】



研修では、実践型のロールプレイが取り入れられました。美濃加茂市の外国籍の職員が “日本語が苦手な外国人” 役を演じます。大石巡査は、落とし物を届けに来たという設定で「やさしい日本語」に向き合いました。


大石巡査 「どうされました?」
外国人役 「これ、あそこ」
大石巡査 「拾った?」
外国人役 「落ちていた」


滑り出しはスムーズです。ところが、落とした場所を教えてもらおうとしたところから思うようにいかなくなりました。


大石巡査 「近くになにかありましたか?」
外国人役 「えっと…学校」
大石巡査 「学校。なんっていう…学校の名前わかりますか?」
大石巡査 「わからないです」
外国人役 「学校以外に何かありました?」


さらに、持ち主が現れなかった場合の手続きについて伝えようとしました。


大石巡査 「財布をもらったりすることができる権利があります」
外国人役 「権利?」
大石巡査 「例えば、もし持ち主が見つかってお礼がしたい、そのお礼を受け取ることができるというルールがあります」


思わず、難しい言葉を使ってしまいました。



研修の様子



外国籍の市職員は、大石巡査に次のようにアドバイスしました。

「権利は、ルールや決まりに言い換えないとね」





【研修後も“やさしく”】



研修を終えた大石巡査は、交番でも“やさしく”できることがあると気づきました。
例えば、警察官の不在を知らせる表示です。



交番のお知らせ
(大石巡査が勤務する交番にある標示)



大石武巡査
「『ただいま』とか『ご用の方』といったていねいな言い回しはなくして、交番に警察官がいないことを示したいので『パトロールでいません』と単純な文章にした方が伝わりやすい」


大石巡査は、まずは身近なところから「やさしい日本語」を取り入れ、さらに同僚にも広めたいと考えています。


大石武巡査
「やさしい日本語がどんどん広まっていけば、外国人の方が安心して落ち着いて窓口に来て話ができる。私が率先して実施や共有をしていければ」





【「やさしい日本語」はみんなにやさしい】



「やさしい日本語」は相手に対する “やさしさ” が根幹です。ネイバーズにも “やさしさ” を向けることで、きっと頼もしい隣人になるのだと思います。


記者2年目の私がよく言われることばに「難しいニュースこそ、簡単なことばに」というフレーズがあります。しかし、より正確なことばを使う、あれもこれも伝えなきゃと意識するあまり、かえって難しくなる場合があります。「やさしい日本語」のねらいは、日本人と外国人のコミュニケーションのきっかけをつくることですが、“やさしい” 表現の方が伝わりやすいのは日本人も同じだと思います。4月からは記者3年目に入ります。記者としてはもちろん、1人の人間として「自分の伝えたいことは、この表現で伝わるのだろうか」と考え、 “やさしい” 伝え手になりたいと思います。






吉田紘生記者

NHK岐阜放送局 記者
吉田紘生
令和2年入局 岐阜局が初任地 
県警キャップ 入局して以来、事件や裁判の取材が主な担当です
取材で特に難しいと感じるのは、子どもたちへのインタビューです。「やさしい日本語」を実践すべく「どんなことを思いましたか?」などと尋ねますが、黙り込んでしまう子どもは少なくありません。