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ミャンマー クーデター「アジア最後のフロンティア」に思わぬ落とし穴?日本企業は今

ミャンマー クーデター
「アジア最後のフロンティア」に思わぬ落とし穴?日本企業は今

2021年2月18日
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2月1日にミャンマーで起きたクーデター。日本から遠い話のように感じていませんか?
実はミャンマーは長年の経済援助や投資などを通じて、日本と結びつきの深い国なんです。2011年の民政移管以降は経済改革が進み、豊富な労働力と大きな市場を背景に「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれています。

日本政府は大規模な経済支援を通じて民主化の流れを後押ししてきており、日本企業の間でも、民主化の進展と経済開放政策の中で「投資の安全性が担保された」として、ミャンマーへの進出が続いてきました。

しかし今回のクーデターでその大前提が揺らいでいます。進出した企業の間では「今後ビジネスのリスクが高まるのではないか」という懸念の声もあがっています。
ミャンマーに命運をかけてきた日本企業の今を取材しました。

(経済部:池川 陽介・嶋井 健太・樽野 章・吉田 稔 経済番組:金武 孝幸)

「寝耳に水」想定外だったクーデター

2月1日、岐阜県にある創業69年のアパレルメーカー・岐阜武の田中真一社長は、いつものように出社すると、聞かされた言葉に耳を疑いました。

「ミャンマーでクーデターが起きた」

現地には5人の日本人駐在員に加え、韓国人と中国人のスタッフ6人、そしてミャンマー人の工員2500人がいます。大急ぎで安否確認を取ろうとしますが、なかなか連絡がつきません。昼前になってようやく無事を確認し、安堵しました。

田中社長にとって今回の事態は想定外の出来事でした。ミャンマーはこのまま民主国家としての道のりを歩んでいくと信じていたからです。


田中真一社長
「“寝耳に水”の事態。まさかクーデターが起こるとは思いませんでした。工場もしっかり稼働しており、事務所も平穏無事にやっているということで安心はしています。ただ今後の事態がどういうふうに動くか、これは非常に危機感があり心配しています」

社運をかけたミャンマー進出 背景に中国の賃金高騰

岐阜武はアウターを主力商品としており、全国のショッピングセンターなど、およそ250店舗で商品を販売しています。近年では海外への輸出にも力を入れきました。その生産のほとんどを担っているのがミャンマーにある2つの工場です。

岐阜武 ミャンマーの工場

もともとこの会社は中国に生産拠点を構えていました。しかし急速な経済成長で人件費の高騰に歯止めがかからず、「脱中国を図るしかない」と決断を迫られました。

2000年代以降にファストファッションのブランドが台頭し、商品の価格競争は激しくなる一方でした。ミャンマーに進出したのは10年前。なんとかして安価な労働力を確保し、厳しい競争を生き残っていくためでした。他のASEAN諸国についても調査したものの、ミャンマー以上の好条件はありませんでした。

「ここが最後のフロンティアだ」。社運をかけた決断でした。

「ともに成長していく」ミャンマーの民主化と歩んだ10年

会社のミャンマー進出は、ミャンマーの民主化の流れとともにありました。最初の工場を建設したのは、民主化が進む契機となった「民政移管」が実現した2011年でした。そして2番目の工場を建設したのは、アウン・サン・スー・チー氏が率いるNLD=国民民主連盟が総選挙で大勝した2015年でした。

進出から10年、かつては中国に頼り切っていた生産能力のほとんどすべてを、ミャンマーに集約しています。ミャンマー人の工員たちは丁寧なものづくりが得意で、高い技術を要する手縫いの製品は、ヨーロッパや中国などから引き合いがあるといいます。

田中真一社長
「我々は売っているものの90%以上をミャンマーで生産していますから、生命線であるのは間違いありません。しっかり根を張って、世界に夢のあるファッションを提供できる企業に育てていく。そんな形でミャンマーの国に役立つ企業として育てていきたいと思いますし、必ず育てていけると思っています」

大規模な経済支援で民主化を支援してきた日本

日本企業がミャンマーへの進出を加速していった背景には、日本政府の意向も関係しています。ミャンマーの改革への努力を評価した日本政府は、大規模な経済協力を行うことで、民主化を後押しするとともに、日本経済の発展にもつなげようとしてきたのです。

ミャンマー最大の都市ヤンゴン近郊にある「ティラワ経済特区」は、日本とミャンマーの協力関係の象徴ともいうべき一大プロジェクトです。特区内には、大手商社の三菱商事、丸紅、住友商事などが参画して2013年から開発を続けてきた工業団地があります。

自動車メーカーのスズキが進出し、現地向けの自動車を生産しているほか、トヨタ自動車も工場の稼働に向けた準備を進めています。JETRO(日本貿易振興機構)によると、日本から進出した企業は2011年度末には53社でしたが、2021年1月末の時点では436社と、10年で8倍以上に増えました。

“「斜陽産業」から「花形産業」へ” 復活をかけた企業も

しかし今回のクーデターによって、日本とミャンマーのビジネスに暗雲が立ちこめています。自動車シートなどを製造している愛知県の繊維メーカーのツヤトモは、去年、ミャンマー政府と合弁事業を行う契約を締結し、今年の春から現地で工場を稼働する予定でした。

ところが1月末、必要な機材を現地に持ち込むための認可を得る申請をした直後に、今回のクーデターが起きてしまいました。1週間程度でおりるはずだった認可は、2月中旬になってもまだおりていません。クーデターの影響で認可手続きが滞っていると見られ、工場の操業開始が遅れるのは避けられない見通しです。

左:小栗由裕社長

ツヤトモがミャンマー進出を決めたのは、日本国内で繊維産業が年々厳しさを増しているためでした。売り上げはおよそ30年前のピーク時に比べ、4分の1にまで落ち込んでいました。

日本にとどまっていては会社の未来は危うい――。海外進出を模索していた中で目をつけたのがミャンマーでした。日本の状況とは対照的に、ミャンマーでは繊維産業がさかんで「花形産業」のひとつだといいます。小栗由裕社長は「ミャンマーの地にすべてをかけよう」と心に誓いました。

ミャンマー政府と合弁事業を行う覚書を交わした際の写真

小栗由裕社長
「我々みたいな中小企業とミャンマー政府が合弁するということは、最初は信じられませんでした。日本だと斜陽産業ってことで、赤字だとか、もうしんどいなっていうのがあったんですけど、ミャンマーでは繊維は花形産業ですごく歓迎する雰囲気で、全く逆だなと思って。それだけ求められるんだったら全力でやりたいなと思いました。」

コロナ禍に加えクーデターも “こんな時期に大丈夫か?”

本社から少し離れた場所には、ブルーシートをかけられた5台の大型機械が、屋外に置かれたままになっています。多額の借り入れをして購入しましたが、クーデターによる計画の遅れで、ミャンマーの工場に運び込むことができずにいるのです。

ミャンマーに運び込むことができずにいる機械

去年はコロナ禍で特に4~6月は売り上げが大きく落ち込みました。「この時期にミャンマー進出なんて大丈夫なのか」。取引先からはそう心配されたといいます。工場稼働の遅れでコストがどのくらい余分にかかるか、まだ見通しは立っていません。しかし、会社の未来をかけて挑戦すると決めたミャンマー進出は、なんとしても成功させなければならないと小栗社長は考えています。

小栗由裕社長
「不安要素はあるが、我々としてはそこにかけるしかないです。我々のミャンマーにかける思いのようなものが、この事業の成功に通ずることを祈るしかないんです」

大手ビールメーカー 軍と取り引きある企業との提携解消へ

クーデターで軍に厳しい目が注がれる中、苦渋の決断を下した企業もあります。大手ビールメーカー、キリンホールディングスは、2015年にミャンマー最大手のビールメーカーを傘下に収め、現地の大手複合企業、MEHL=ミャンマー・エコノミック・ホールディングスと合弁で事業を手がけてきました。

しかし合弁先のMEHLは軍と取り引き関係がありました。軍のクーデターを受けて、キリンは提携を解消する方針を明らかにしました。2月15日の決算会見で磯崎功典社長は、「2月1日のミャンマーにおける国軍の行動は、当社のビジネス規範やビジネス方針とは全く相容れません。MEHLとの提携は解消せざるをえない」と述べました。

ミャンマーで生産されているビール

キリンのミャンマーのビール事業は、ミャンマー国内の市場でおよそ8割のシェアを占めています。昨年度の売り上げは326億円、事業利益129億円と収益力の高い事業です。
それでも、提携の解消は避けられないといいます。

2月16日、西村慶介副社長は、NHKのインタビューに対して「軍と取引のある企業との提携を続けていくことは、ミャンマー国民の支持を得られない」としたうえで、既に合弁先の企業と協議を始めていることを明らかにしました。提携解消に応じるかは、今後の交渉次第ですが、ミャンマーで事業を続けていくためには現地企業と合弁事業にしなくてはならず、今後新しい提携先を探す必要があります。

西村慶介副社長
「難易度は決して優しい話じゃないと思っております。MEHL側(合弁先の企業)と話し合いを進めながら、我々が引き続き残って、ミャンマーの社会、経済に貢献できるような状況をこれから模索していきたいと考えております」

今後の心配は 経済制裁がどうなるか・・・

アパレルメーカーの岐阜武が気をもんでいるのが、欧米各国の経済制裁の行方です。現在、手縫いを多用したハンドメイドの商品をはじめとして、ヨーロッパへの売り上げが伸びており、出荷数全体の3分の1を占めるまでになっています。

もしも今後、すでに経済制裁を発表しているアメリカに続いてヨーロッパも加わることになれば、販売ネットワークを根本から見直す必要に迫られます。ミャンマーに進出している日系企業とも対応を協議しながら、協力して打開策を探っていこうとしています。

今後の対応を検討する社員たち

対策を練るための経営会議では、あらゆるリスクを想定して検討を重ねました。議論の終盤、ある幹部の口から出たのは、ミャンマーの工員たちを思う言葉でした。

「我々はミャンマーに進出してミャンマーの人たちとここまで一緒に仕事をしてきている。その2500人と、その家族を入れるとたくさんの人たちの生活がかかっている。そのことを忘れずに、踏ん張って、なんとか守れるようにしていきたい」

会社の命運をかけ、「アジア最後のフロンティア」ミャンマーへと進出した日本企業。
ともに成長していく未来を信じ、クーデターの行方を見守っています。

<番組のお知らせ>

2021年2月18日(木)放送 「ミャンマー クーデター 抗議デモの行方」 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4518/index.html

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