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“ともにつくる” コロナ時代を支えるシビックテックの潮流

“ともにつくる” コロナ時代を支えるシビックテックの潮流

2020年7月25日

新型コロナから私たちの暮らしを守るため、今世界中で注目されるテクノロジーがあります。市民自らがデータを武器に新たなサービスを作る“シビックテック”という新たな取り組みです。
アプリやサービスが次々と生み出されて、中には行政と市民がコラボする形で、コロナ対策のサイトに使われるなど、影響力を強めています。
日本のシビックテックの牽引役となっているのが、市民団体Code for Japanの代表・関治之さん。
団体に参加する人の数はコロナ以前の6倍に増え、世代も住む場所もバラバラの3,000人以上がボランティアで集まっているのです。
なぜ今、シビックテックが広まっているのか、関さんに話を聞きました。

(クローズアップ現代+ 栗原望アナウンサー)

まずはみんなで手を動かす シビックテックとの出会い

関さんは、もともとプログラマーとしての仕事のほかに、エンジニアの集まる有志コミュニティに参加し、自らがプライベートで考えたプログラムを仲間と共有する活動をしていました。
シビックテックと出会ったのは、2011年の東日本大震災の時。
自分たちに何ができるのかを考えた関さんは、すぐにコミュニティの仲間とともに被害状況や避難所の開設状況や支援物資の不足などを地図上にマッピングしたインターネットのサイトを情報ボランティアとして手がけました。


サイトは震災の発生から数日で立ち上げ、クラウドソーシングで、広く一般の人たちの情報を登録できるシステムを使い、無償で公開しました。すると、数百人の一般の人たちが、情報を登録し、さらに被災地からも情報が相次ぎ、サイトを見た行政やNPOによって必要な支援物資が被災地に届けられるようになりました。
“住民コミュニティ”と“テクノロジー”の力で地域課題を解決することの可能性を感じたといいます。

シビックテック団体Code for Japan代表 関 治之さん
「つくったものを無償で公開することで、多くの人の善意とか協力が集まり、自分たちに返ってくる。そういういいサイクルが実際にできるんだという実感を得たんです。この市民によるオープンなコラボレーションが、自治体や行政にも広がることで、より無理のないIT活動とか、公共サービスをもっとつくることができると思いました。」

ちょうどそのころ、関さんはテレビ番組で、アメリカのシビックテック団体の存在を知りました。アメリカではすでに、行政が公開した情報やデータを、市民が活用して公共サービスを生み出すなど、シビックテックが活躍していたのです。

シビックテック団体Code for Japan代表 関 治之さん
「Code for Americaの人たちの活動を見て、“あれ?もしかしてこれはCode for Japanを僕がやったほうがいいのでは?”みたいに感じました。それでCode for Americaの人に話を聞きに行って、そのあとすぐに立ちあげたんです。」

2013年 左・関さん、中央・Code for Americaメンバー 直撃し日本でも設立しようと決断した

2013年、関さんは一般社団法人Code for Japanを立ち上げます。市民に向けて新しいデジタルサービスの企画提案や参加希望者とのマッチングを行うイベントの主催など、市民同士の協力をサポート。さらに行政に向けては、行政サービスのIT化、情報公開のノウハウを支援したり、最近では民間企業と一緒にサービス開発も行っています。
“ともに考え、ともに作る”。関さんが考える、シビックテックの理念です。

シビックテック団体Code for Japan代表 関 治之さん
「シビックテックは直訳をすると“市民とテクノロジー”なのですけど、私たちは日本語で“ともに考え、ともにつくる”と言っています。市民自身がどういったテクノロジーが必要なのか、目の前にある課題に何をすべきかを考えながら、実際に手を動かしてつくっていく。自治体の担当者、地域の住民、地域で働いている企業、分け隔てなくいろんな人たちと一緒に行動することを大事にしています。」

命と健康を守るため シビックテックが真価を発揮

コロナ禍の今、Code for Japanの活動に参加する人が急増しています。そのきっかけとなったのが、関さんたちが基本プログラムを設計した「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」です。


都内の陽性患者数や属性、検査の実施数や相談件数などの行政データが、グラフなどを使って、一目で分かるようにデザインしました。関さんたちのシビックテックの活動に注目していた東京都から依頼を受け、サイトは3月にオープン。その後のバージョンアップは、まさにシビックテックの参加者によって進められることになりました。

シビックテックの特徴は2つあります。
その1つは、「市民参加型」であること。誰でもプログラムの改良やバグの修正作業に加わることができます。そのことで、行政だけではできないスピードで、市民目線の使いやすいデザインや、外国人向けのサイトなどきめ細かな情報発信が可能となりました。
そして、もう1つの特徴は「オープンデータ・オープンソース」であるということ。行政が、コロナに関する情報を誰でも活用できるよう公開。さらに、サイトの基本設計となるプログラムそのものが、オープンとなっているので誰でも簡単にコピーができます。
東京だけでなく、ほかの地域の市民も巻き込んで、最終的には、47都道府県で同様のサービスが同時多発的に生まれました。
サイトの中に書かれた行動指針はシンプルな3行。
「我々はなぜここにいるのか。
 都民の生命と健康を守るため正しい情報をオープンに国内/海外の人に伝える。
 正しいものを正しく、ともに作るプロセスの効果を具体的に示す」
この指針のもとに、年齢や職業を問わず多くの市民が、感染実態に関する情報が届きづらいという課題を解決するために参加しました。

東京都新型コロナ対策サイトの作成に参加した“市民”たち

この動きを取材していて印象に残ったのは、参加する人たちが「社会をよりよくしたい」という思いで参加をしている姿でした。仕事の後にPCに打ち込むエンジニア、新たな表現に挑戦したいデザイナー。中には、初めて参加するという高校生や大学生もいました。エンジニアでなくても、どんな場所にいても、何歳でも、社会に貢献できるのです。Code for Japan の登録者は、コロナ以前の6倍に増え、3,000人以上に上りました。
こうした市民参加の動きに関さんは、驚きと期待を感じています。

シビックテック団体Code for Japan代表 関 治之さん
「日本はこれから大丈夫なのか、不安定な状況に対する危機感が多くの人にあったんだと思うのです。だからこそこれまでにないほど多様な人が行動をしてくれて、シビックテックの裾野がすごく広がりました。今は非常にエポックメイキングの時期にいるのかなと思っています。」

社会の弱いところにITを届けたい

先月、厚生労働省が「接触確認アプリ」をリリースしました。陽性者との濃厚接触があったのか、スマホのアプリ上で、通知が来ることで、市民の感染対策を支援しようというアプリです。
実は、本採用には至りませんでしたが、関さんたちも、3月下旬から独自に「接触確認アプリ」の開発を進めていました。



自治体やPCRを行っている保健所、医師やプライバシーの専門家にもヒアリングをしながら、個人情報に配慮した形で、人々を守ることができないかと試行錯誤を続け、1か月で実際のアプリも完成までこぎ着けていました。
諸外国では、ユーザーの個人情報や位置情報を広範囲に収集する形で、同様な接触確認のアプリが登場する中で、関さんたちは、日本の個人情報保護の考えや、保健所などに負担をかけないようにする形でアプリ開発を行おうとしていた姿が印象に残っています。

シビックテック団体Code for Japan代表 関 治之さん
「動いていることで仲間や周囲からいろんな新しい情報が入ってきます。ほかの国はどういうシステムのアプリなのかとか、日本の中でも内閣府を中心としたコロナ対策チーム(新型コロナウイルス感染症対策テックチーム)が立ちあがるようだとかですね。国会議員の勉強会があるからそこで僕たちも発表する機会をもらいたいとか、いろんなつながりの中で、どんどん新しいことが分かり、どういう方向で動いていけばいいかというのも分かっていきました。」

「シビックテックは直接民主主義とまではいかないんですけど、よりニーズをダイレクトに反映できるチカラがあると思っています。縦割り行政ではこぼれてしまうことがいっぱいある一方、本来は使う側である市民が主体のはずなので、行政が行う大規模な取り組みにも市民自身が参加をすることで、縦割りとか硬直化してしまっている部分の“あいだをつなぐ”要素として生きていると思うんですね。」

この「あいだをつなぐ」という関さんの指摘。今、社会の中にある『分断』や『自己責任』の風潮が強まっていると感じる中で、シビックテックは「隙間をうめる」社会的な働きがあるのだと実感しました。
関さんは、“社会の弱いところにITの力を届ける”ことで、社会をより優しいものにしたいのだといいます。


シビックテック団体Code for Japan代表 関 治之さん
「シビックテックが果たせる役割は、多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージョン)だと言われています。一番弱いところにちゃんとサポートの手が及ぶことが一番大事。社会的に弱くなっているところから、ちゃんとITが使えるようにしていかないとどんどん格差が生まれてしまうことを、今は特に意識して活動していきたいと思っています。より優しい世界と言いますか、困った人と一緒になって課題を解決していくような、そういう社会がシビックテックのあるべき姿なのかなと思っています。」

新型コロナは社会の「隙間」や「分断」をむき出しにしています。
シビックテックは、その隙間にそっと手をかざす「やさしい」社会運動なのだと感じました。
「誰にでも市民の属性がある」という関さんの言葉で、僕も、実際にシビックテックの活動に参加してみました。
エンジニアでもない私にもできることがあるんですよね。
その報告は、また改めてしようと思います。
「社会のために何かしたい」という人は、シビックテックの扉を開けてみてはいかかですか?

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