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【対談】新型コロナも影響か 深刻化するゲーム依存

【対談】新型コロナも影響か 深刻化するゲーム依存

2020年5月20日

世界中で急増している“オンラインゲーム”への依存。新型コロナウイルスの影響が長引く中、ゲームに依存する子どもたちがさらに増えることが危惧されています。これから私たちはゲームとどう向き合えばいいのか、ゲーム依存症治療の第一人者・樋口進さんと、「高橋名人」としてゲーム業界を長年けん引してきた高橋利幸さんと一緒に考えました。
(2020年5月20日放送の「外出自粛の陰で…ゲーム依存は大丈夫?」の対談記事です)









ゲームへの依存 対策はあるのか

武田 真一キャスター:自宅で過ごす時間が長くなる中で、ゲームの売り上げは増加しています。今や、なくてはならないという人も多いのではないでしょうか。ゲームに熱中しすぎるということと、ゲームに依存するということとの境目は一体何でしょうか。

栗原 望 アナウンサー:去年、WHOが「ゲーム障害」を治療が必要な疾患と認定しました。「ゲームの使用をコントロールできない」「生活の関心事や日常生活よりもゲームを優先する」「問題が起きてもゲームを続ける」などの状況が12か月以上続くことを「ゲーム障害」と定義しているんです。


武田:長年、子どものゲーム依存の治療にあたっている樋口さん。ゲームによって日常生活が送れなくなり、それが長く続くことが問題なのですね。

樋口 進さん(国立病院機構久里浜医療センター 院長)
依存とはそもそも何かと言うと、依存に特有の行動と、それによって起きてくる問題がセットになった状況を言います。先ほどの「ゲーム障害」の定義ですけれども、上の3つが「依存行動」です。最後の「ゲームによって日常生活にさまざまな分野で明確な問題が生じる」は機能性の障害と言って、これが明確に出てくることで依存と定義しています。


武田:小さい頃からスポーツに打ち込むことも同じだと思うのですけれども、囲碁や将棋に打ち込んで若くしてプロ棋士になる方もいます。そういう子どもたちとの違いは、日常生活で明確な問題が生じるかどうかですか。

樋口 進さん
まず依存の出発点は、何かをすることによって快感を得る、多幸感を得ることです。この多幸感を追い求めていって、それがだんだんコントロールできなくなってしまって、結果として明確な問題が出てくるというのが依存なわけです。例えば脳を見てみると、依存特有の脳の中の機能変化っていうのが捉えられるのですけれども、こういうものがたとえば囲碁とか将棋にあるかどうかが、とても大きなポイントになるのです。

武田:依存症に悩む人たちというのは日本にどのぐらいいるのでしょうか。

樋口 進さん
インターネット依存が疑われる方は2017年に全国の中学・高校生を対象にした実態調査だと、およそ93万人。これはゲームだけではなくてSNSとか動画とか、そういうものの過剰使用も含んでいます。

武田:そしてもう一方、30年以上ゲームの開発に携わってこられたレジェンド・高橋名人。よろしくお願いします。高橋さんも長い間、ゲームをプレーし続けてこられたと思いますけれども、ゲーム依存についてはどう見てきたのですか。

高橋 利幸さん(ゲームプレゼンター)
私が登場したのが1980年代の頭ですけど、そこから35年間、メーカーとしてもこういう依存症は、懸念事項ではあったんですね。ですから、私は昔から「ゲームは1日1時間」と言っていまして、特に小学生は「ゲームだけじゃなくて、他にやることいっぱいあるでしょう。その中の楽しみの1つがゲームなんだよ」と言っていたんです。
ゲーム障害を認定したWHOで、新型コロナウイルスが流行し始めたとき、アンバサダーの方が「#Play Apart Together」と、“家にとどまってゲームをしよう。そうすると感染は防げるんだ”ってことも言っているわけです。WHOにするとゲーム依存の症状と新型コロナウイルスと、どっちが怖いかっていうと、新型コロナウイルスの方が怖いんですね。いろんな意見の方がいると思うので、なかなかまとまらないとは思うんですけど。
あと、家庭用のテレビゲームに対して、オンラインゲームがあります。ゲーム依存になってひきこもりになってしまう子がいると思うのですけれども、まずゲーム依存になったからひきもこるのか、それとも、ひきこもりになったから時間ができてゲームをやるのかというのは、まったく見方が逆だと思うんです。
ひきこもりになる原因がいじめだったり、いろんな問題があると思うんですけれども、オンラインで日本中の子どもたちと話せるということは、いじめの問題とか悩みを相談できるんですよね。ゲームによって救われる子どももいると思うんですよ。そこを区別してやってかないとダメなんじゃないかなと思います。

武田:ゲームがなくてはならない、ゲームに救われているという子どもたちもいるでしょうし、一方でゲームによって心身をむしばまれてしまうという両面あるわけですよね。そこにどう線を引いてケアしていくかということが大事ということですか。

高橋 利幸さん
ゲームも悪いところがあるのですが、良いところもたくさんあるんです。例えばアクションゲームをやると、反射神経が良くなってテストの解答の速度が上がったり、昔のすごろくゲームで地理を覚えられるとか、いろんな良い点もいっぱいあるんですよね。そこをうまく親御さんが使ってあげればいいんじゃないかなと思います。

武田:オンラインゲームは、ゲーム依存と関係するのですか。

高橋 利幸さん
どうなんでしょう。ただ、一般的に家庭用に売られているゲームはパッケージで売られていますので、エンディングを迎えたら基本的にはそれで終わりなんです。ところが、オンラインゲームはいつまでも終わりがないんです。手に入れて遊び始めて、1年後に同じゲームをやっている方もいると思うんですよね。メーカーも遊び続けるためにいろんなアイデアを出してきます。これは他のコンテンツでもそうですね、週刊誌だって毎週買ってもらうためにいろんなアイデアを出すのと一緒なんです。それにはまると、熱中度が上がってくるし、高揚感も出てくる。何も楽しみがない、ひきこもっている子は、そういうゲームが身の回りにすぐ近くにあると、やり続けてしまうかもしれないですね。

武田:子どもがゲームばっかりして困るというのは、昔からあった問題だと思うのです。ゲーム会社としては、どういうふうに対処しようとしてきたのでしょうか。

高橋 利幸さん
ゲーム会社としては、年齢別に制限のある自主規制を始めています。例えば暴力ですね、ゲームのキャラクターの体が欠損しちゃう場合には18歳とか20歳以上でないと遊んじゃいけない、とか。ペアレンタルコントロールの実施で、SNSのオンラインゲームの課金は、お子さんが毎月千円以上は課金できないようにするとか、1週間で10時間以上は画面に電源を入れられないようにするとか。そういう感じのコントロールを親御さんが決めるということです。
業界的には自主規制はどんどん入れ込んで、あまり変な方向にはみんなで行かないようにしようね、ということになっています。



ゲーム依存症対策条例は有効か

栗原:香川県では独自のゲーム依存に関する条例を制定。この4月から施行されています。18歳未満のゲーム時間は平日60分、休日は90分まで。こうしたことを子どもたちが守るよう保護者が管理するように求めているんです。さらにゲーム会社に対しては、依存症を進行させるおそれのある事業の自主規制を求めています。この条例ができたことで賛否双方の声が高まっているんです。


武田:行政がゲームのプレー時間を決めることは有効なのか、どう考えますか。

高橋 利幸さん
現時点では、私は時期尚早かなとは思います。実際、ゲームの利用をシャットダウンする制度が海外で行われたことがあるんです。2011年に、韓国で16歳未満に、午前0時から6時まで、ゲーム会社はサービスを提供してはいけないという法律ができました。
確かに2011年は、利用時間は少なくなったのですが、その後、着実に増加して2011年よりも増えて、インターネット中毒とか睡眠時間への影響はまったくなかったんです。
法律を作ったからお子さんが守るかという問題ではなく、利用時間について家庭で、親子で話しあうべきなんです。お父さんがお子さんに「1時間でやめろ」と言ったって、楽しいのでやめられるわけがありません。
私が昔「ゲームは1日1時間」と言ったのは、1時間集中してやることでうまくなると。学校の勉強だって1時間単位でしょう。「1時間過ぎて、疲れてきたときの失敗の記憶が残ったって、うまくならないんだよ」と言っていたんです。

武田:樋口さん、ゲーム障害、ゲーム依存を考えるときに必要なのは治療であって、こういった規制はどのくらい有効なのかと疑問を持つ方もいると思いますが。

樋口 進さん
我々は2019年1月に、全国の10歳から29歳までの方々、9000人に対する実態調査を行いました。そこでは、平日の平均のゲーム時間が増えると、ゲームに伴う問題の割合が増える傾向が明確に見えました。
「学業成績や仕事の能率が落ちた」と言う人の割合が、平日のゲーム1時間未満で5%、1時間以上になると10%を超え、時間と共にだんだん伸びていって、6時間以上だと30%ぐらいになっています。他にも同じような傾向が見られます。できるだけ時間は少ない方がいいと思います。


武田:成績が落ちるとか、いろんな作業の効率が落ちていくということですか。

樋口 進さん
朝起きられないとかですね。遅刻が増えるとか、学校に行けなくなってしまうとか。親子の間でゲームをめぐっていさかいが絶えなくなってきて、お父さん、お母さんが殴られたり、我々の病院に外来で来る患者さんの中で、お父さん、お母さんが殴られるケースはだいたい30%ぐらいです。壁に穴を開けるとか、部屋のモノを壊すのは50%以上いますので、そういうことも問題としてはあります。
香川県の条例の1日の60分、90分っていう時間は、あくまでも目安と書いてあって、これを守りなさいという義務ではないんです。
子どもたちと時間について話すときには、こういう目安があると話して、親子の間のディスカッションの1つの根拠になれば、いいのかなと感じています。
話は違いますけれども、例えば依存を引き起こすアルコールは合法なのだけれど、アルコールにも厚生労働省がしっかりガイドラインを出しているわけです。なので、依存を引き起こすものについては、ある程度のガイドラインが必要と思います。
この条例を全国に広げるという議論はあってもいいと思うのですが、高橋さんもおっしゃっていますけれども、実際に施行したときに、どのくらいの有効性があるのかは評価してからにしていただきたい。当然、有効性とともに課題も出てくるはずなので、評価がきちんとされてから、全国に広げることを検討されるのがいいと私は思います。

武田:香川県の条例について、ネットメディア編集長の合田文さん、作家の石井光太さんにもお話を伺いました。

合田 文さん(ネットメディア編集長)
「コロナの状況であってもなくても、子どもたちは“1日何時間だけだよ”と言われて時間だけ制限しても、なかなか聞かないんじゃないかなというのが私の意見です。どれくらいの時間でどんな影響が出てくるのかがセットで分からないと、こういう影響が出るからダメなんだなとか、この時間くらいだったら楽しく遊べるんだなというところが本人たちに落とし込まれていない状況だと、うまくいかないんじゃないかなというふうに思います。」

石井 光太さん(作家)
「家の中でゲームのルールを決めるのは、基本中の基本だと思うんです。ただ、状況として、それができる家と、できない家があると思います。きちんと親と子が話し合ってルール作りをしてそれを守れる家と、あるいは家庭自体がうまく機能していなくて、親自体がいないとか、ほとんど帰ってこないといった状況の中で、そういった家庭だとどうしてもルールを作って守るということができないと思うんです。ルール作りができる家と、できない家というのを、ちゃんと切り分けて考えていく必要があるのではないのかなと思います。」

武田:高橋さん、わが家でも子どもたちに「ゲームはいいかげんにしなさい」「ちゃんと時間を決めなさい」「夜にはスマホはここに置いておくんだよ」って何度も言ったのですけれど、なかなか家の中でルール作るって難しいですよね。「1日1時間」っていうことをずっと言い続けて、どうアドバイスしてきたのですか。

高橋 利幸さん
子どもたちからすると「ゲームは1日1時間」て言うと、半分以上が反対意見なんです。「1時間でゲームクリアできません」「どうやって名人はクリアするんですか、1時間で」って言う。
でも、そういうことじゃなくて、「ゲームは1日1時間集中してやるからうまくなるんだよ」というのがあるんです。
実は、私が言っていたのは、5か条あるんです。1つ目が「ゲームは1日1時間」なんですけれど、その次が「外で遊ぼう元気よく」「僕らの仕事はもちろん勉強」「成績上がればゲームも楽しい」「僕らは未来の社会人」というところまで続いています。
小学生に対しての僕の気持ちは、遊びというのはいっぱいいろんなことがあって、例えばサッカー、野球に熱中するのもいいけれど、その中の遊びの1つがテレビゲームなのだから、小学校のときには、いろんなことを体験しなきゃいけない。それは勉強も含めてなのですけれど、それがあって、初めて明るい未来が来ると。テレビゲームしか知らないと、つまらない大人になっちゃうよ、っていうのもそこに入っているんです。だから、子どもの将来をつぶすようなことがあってはいけないし、遊びの1つでないといけないと思います。

武田:「ゲーム1時間しかやっちゃダメ」と言うんじゃなくて、「ゲームもやっていいけど、他のこともやろうよ」っていうふうに、いろんなことにモチベーションを広げていくということなのですか。

高橋 利幸さん
そうです。だいたい男の子って自分が子どものときもそうですけど、上からガッて言われたら、だいたい言うこと聞かないですよ。だから言うことを聞かせるためには、どう引っ張ってあげればいいかを考えないとダメだと思います。



外出自粛とゲーム依存


栗原:今、新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続く中で、生活のリズムが乱れている人も多いと思います。病院などに取材しますと、「今は学校が休校しているので影響が見えにくいが、学校が再開して登校できなくなったことで初めて依存が表面化する子どもが増えてくるのでは」と危惧している医者もいます。「家の中でゲームの時間のルールを決めるのも難しい」という親御さんからの相談も多くあると聞いています。

樋口 進さん
「病院で早く診てもらいたい」という家族からの受診希望は、私の病院にもいっぱい来ています。なので、問題として大きくなっているのだろうと思うのですけど、まだ全体的によく見えないので、状況が明らかになってくのは、もう少し後なのじゃないかという感じがします。

栗原:取材の中では、暇をもてあました子どもたちに、親がこのタイミングでゲームを買い与えるケースもあるそうなのですが、ゲーム依存のリスクはどれだけあると考えていますか。

樋口 進さん
リスクはもちろんあると思うのですが、外来に今、そうやってゲームの時間が延びてきている子どもたちが来ても、私は責められないですよね。
この何もない状況で、外での活動ができればいいのだけれども、それもほとんどできず、学校の友だちにも会えない状況で、私は彼らに「学校が始まったらちゃんと学校行けるかい?」「今の状況で少なくともそれは必ずできるようにしようね」という話をしています。子どもたちの中には自分のゲームの時間を、スマホの時間を増やさないようにしている子どもたちもいます。そういう子どもたちには、ほんの小さなことでもいいから、努力していることを、おおいに褒めて、それをさらに大きくしていくことをしています。状況は非常に厳しいです。早くいろんなものが解除になって、自由に外に出られるような状況になっていただきたいなと思います。



eスポーツとゲーム依存

武田:一方で、eスポーツの影響という議論もあります。今、国をあげてeスポーツを盛り立てている状況ですけれども、このeスポーツとゲーム依存っていうのは、何か関係があるのでしょうか。どういうふうに両立していけばいいのでしょうか。

樋口 進さん
医学論文を読んでみてもeスポーツが依存につながるということを示すデータは、実はあまり出ていないんです。その辺りを大局的に見ている研究はあまりないです。ただ、我々の病院を見ると、eスポーツの選手になることを目指してゲーム依存になって受診するケースが、だんだん増えてきています。
一番私たちが気にするのは、選手になって華やかな舞台に出られればいいけれども、そういうような子どもたちはほんの一握りで、プロになれない場合、ひきこもりとか不登校になって、それがずっと続いてしまうことがあるんです。
若者ですから将来に大きな影響があります。子どもたちに「今ここでゲームをずっと続けていて、それでもし仮にプロのゲーマーになれなかったときにどうなるか、分かるかい?」って聞いても、自分が置かれている状況が実はよく理解できていないのです。
私はeスポーツも当然、ポジティブな面があることはよく分かっていますけれども、ネガティブな面もある。バランスを取ったアプローチをしていただきたいと思います。

武田:高橋さんはeスポーツの業界団体の理事も務めてこられましたけれども、どう考えていますか。

高橋 利幸さん
eスポーツだけじゃなくて、世の中にあるプロのスポーツゲームは、みんな同じだと思うんです。例えば、プロ野球の選手だって、高校野球で甲子園に行ってスカウトされるのはわずかです。そういうことを考えると、必ずプロの選手となって成功するかどうかは、子どもからしても親御さんからしても、やっぱりチャレンジでしかないと思うんです。
だから、これはこれからの私の仕事になると思うんですけど、プロのeスポーツプレーヤーじゃなければ何ができるかという道を探してあげる。例えば、実況者だったり、今までプレーをした時のアイデアを使ってゲームメーカーで働く。いろんなことをこれからも考えなきゃいけないなとは思っています。
プレーがうまいだけだと、人はついていかないんです。そこに、キャラクターや、コミュニケーション能力に長けているとか、そういうものが加わってプロのeスポーツ選手になれるわけです。ゲームがうまければ、賞金は稼げると思います。でもそれは、大会に出てみんなから羨望の眼差しで見られるプロのeスポーツ選手として成功するのとは、また違うと思うんです。

武田:いろんな経験をしていかないといけないということですね。

高橋 利幸さん
いろんな人と話すことも経験だと思うので、そこは自分の世界に閉じこもるのじゃなくて、いろんな人とコミュニケーション取ってもらいたいなと思います。



ゲーム依存の背景にある“生きづらさ”

栗原:今回の取材で多くの若者たちに出会いましたが、みんな共通してあるキーワードを話していました。それが「居場所がない」ということです。親から進路を一方的に押しつけられて自分を認めてくれないと悩んでいた人。コミュニケーションが苦手で不登校になった人。壮絶ないじめを経験したことによってひきこもりを経験した人。そうした人々にとってゲームが“逃げ場所”であったということも見逃せない事実だなと感じています。

武田:ゲーム依存の背景にある子どもや若者たちが抱えているさまざまな“生きづらさ”。多くの患者さんを診てこられた樋口さんはどう感じていますか。

樋口 進さん
こういう方はゲーム依存になりやすい、という危険要因が実はあるんです。男の子であることとか、年齢が思春期にあるとか、ゲームを始めた年齢が早いとか。
逆に、こういう要因を持っていると、ゲーム依存になりづらいというのもあります。防御要因と言いますけども、今までの研究だと、社会的な能力が高い、自己評価が高い、自分の行動をうまくコントロールできている、学校の場合にはクラスにうまく溶け込んで成績もある程度取っている、そういうようなことです。一言で言うと、現実の生活の中でどれだけ自分で自己実現しているかということが防御要因になっているわけです。
自分の居場所がないとか、特に外来で診ているとコミュニケーションに自信を持っていない子どもたちが非常に多い。高橋さんが、プロのゲーマーの場合には表現力が大事だということを言っていましたけれども、どうもそういうところに自信を持てなくて、現実で苦しい思いをしている方々が結構いるのです。
治療にとって何が大事かというと、単にゲームの時間を減らすとか、やめるとかっていうことだけでは不十分で、ゲームを減らしたその時間を「現実の生活」で補うことができると、安定した回復が望めるのです。
なので、ゲーム依存の治療は、現実の生活を考えながら、子どもたちがこういうことだったら、実際の生活をもうちょっと豊かにできるんじゃないかということをいつも悩みながら、ご両親と相談しながら治療していくというのが現実の状況です。

武田:本当に若いときは自信もないし、人とうまくコミュニケーションが取れないというのは、僕もそうでしたし、多くの人がそうだと思いますけれども、現実の世界、ゲーム以外のところで何か「自分はこれだ!」と思えるようなものを持ってくれるといいですよね。

樋口 進さん
それを一番知っているのは、お父さん、お母さんのはずなんです。なので、お父さん、お母さんと話ながら、この子はいったいどういうところだったら自己実現できるのかということを一生懸命考えて、それを模索していくのはすごく大事だと思います。

栗原:現場を取材しても“生きづらさ”はこの時代、非常に強まっている気がします。そういう社会の中で、ゲーム依存もこれからどんどん増えてしまうんじゃないかという危機感も感じますが。

樋口 進さん
ゲーム依存になっていくときには、いろいろな要因が関係していますので、一概には言えないと思いますけれども、今後さらに悪化していく可能性はもちろんあります。いろんな機器がますます進化しますし、スマホだってどんどん進化すれば、あの中にパソコンにも勝るとも劣らないような機能が入るかもしれません。そうするといつも持って歩けるわけですから、そういうことを考えると今後さらに悪化することは危惧されます。

武田:“生きづらさ”については、こんな意見もあります。

合田 文さん
「社会がいま不安定な中で、つらさを感じた子どもたちが自己肯定感を上げるためにゲームにはまり込むというのはよく分かるのですが、これは自分たちの居場所を探しているんじゃないかなと思います。エンタメもけっこう昔と比べて多様になってきているので、昔の人は人と一緒に集まってお酒を飲んだり楽しんだりっていうのも一つの娯楽だったと思うのですが、その時とはけっこう状況が違うのかなと思います。景気も違うし、日本社会が元気だった世代から“ゲームなんか…”と言われても状況が違うのかなと思っています。」

石井 光太さん
「厳しい現実、虐待だとかいじめ、そういったものを受けることによって、あまりにもつらくてゲームに逃げてしまう、現実逃避する例を僕はたくさん見てきています。そういった子どもたちにとってゲームをするということは、逆説的ですが、生きることでもあるんです。ただし問題は、ゲームというのは実社会と必ずしもつながっていないこと。だからこそゲームをすればするほど、現実社会を生きるためのスキルが失われてしまう可能性があるのです。そう考えてみると、ゲームをするのはいいのだけれども、ゲームをしながらでもいいから、せめて実社会ときちっとつながっている、自分のアイデンティティを作っていく、そういったことが大切なんじゃないかなと思っています。」

武田:高橋さんは、ゲームを多くの方に楽しんでもらいたいと思って開発や普及を進めてきたと思いますが、そのゲームがある種の“逃げ場”になっているとすると、本当に切ないことだと思いますが、どう感じますか。

高橋 利幸さん
そう使われるのはちょっと残念ではあります。私としては、ビデオゲームはツールとして使っていただくのが本当はいいと思うんです。会話をするきっかけになるツールですね。例えば、小学生の小さいお子さんでしたら、おじいちゃんと会話をして、一緒にプレーすることで話をすることができるとか。そういう良い方に使ってくれると、この業界にずっといてよかったなと思えるんですけどね。

武田:親の立場だと、つい子どもがゲームをやっているだけで「何やってるの!」みたいな感じになりますけど、むしろ親の側から子どもたちとのコミュニケーションを図るべきということもありますか。

高橋 利幸さん
最初に家庭用のゲームが出たのが1975年。私が小学生のときにはテレビゲームはもちろんなかったわけで、そのころは、外の地面が土だったからクギ刺しとか、危ないこともいっぱいやるわけですよ。ビー玉を投げて相手のビー玉を取るとか、めんこを取るとか。それを親に言うと「だめだよ!」って何をやっても怒られるんです。
木登りをしても危ないからって怒られる、いつの時代になっても親は子どもを心配するのが当たり前みたいなものがあるから、何をやっていても心配になるんですが、それをうまく使ってやることがその子を伸ばすきっかけにもなる、って考えればいいと思うんですね。例えば、木登りをしていたら握力がつくと考えればいいんです、運動の一環として。そういうふうに全部うまく考えていけば、いい親子関係ができると思うんです。

武田:ゲームを通じて親子やいろいろな人たちがコミュニケーションを取れるようにするということも、1つの方策なのかもしれないですね。



ゲーム依存に悩んだら

武田:それでもゲーム依存に悩む当事者、保護者の方が多いと思います。こういう人たちはどこに相談したらいいのでしょうか。

樋口 進さん
私はまず親子で話し合って、ある一定の線を決めることをやってほしいと思うんです。その時に、どうも親の方がかなりレベルの高いところを求めすぎている。例えば、今まで5時間ゲームをやっているお子さんに「1時間にしろ」、場合によっては「30分にしろ」って言ったりするのですが、お子さんはなかなか受け入れられないですよね。
なので、私は、ほんの1時間でも30分でも減らすということを本人が言うのであれば、まずそれをやってみましょうよと。それでうまくいったら、また次の段階を目指して少し短くしていきましょうと。そういうような感じで、ご両親の方が少し柔軟性を持って取り決めをしていった方がいいです。特に「本人に決めさせる」っていうのが大事なこと。外来で子どもたちとゲームの時間を決めるときには「君だったらどのくらいならできるの?」と聞いて、それでやっていくことが多いです。自分が決めたものはけっこう守ろうとします。
親子の間っていうのは甘えと攻撃があったりして、なかなかうまくいかないのが一般的です。そういう時は第三者に助けを求めた方がいいです。学校の先生でもいいし、スクールカウンセラーでもいいです。私の患者さんで、友だちの一言でずいぶん変わったというケースもあるので、言葉が適切かどうか分からないですけれども、使えるものは何でも使って、その子に少しずつ分かってもらうようにした方がいいんじゃないかと思います。
それでもうまくいかない場合は、相談機関に相談する、あるいは医療機関を受診するのがいいと思います。相談機関については、各都道府県や政令指定都市に精神保健福祉センターというのがあり、ここが相談に乗ってくれることになっています。ここに相談すれば医療機関も紹介してくれます。もし医療機関を探すのが難しい場合には、我々の久里浜医療センターのホームページに全国のリストが掲載されていますので、それも参照していただければと思います。



ゲームとどう向き合うか

武田:保護者も、子どもがどんなゲームをやっているのか、何が楽しいのか、知る努力も必要なのかなと思いました。


高橋 利幸さん
ぜひお子さんがやっているゲームがどんなものなのか実体験してもらいたいです。子どもというのは何がきっかけで何を覚えるかというのは、本当によく分からないんです。例えば私がデビューしたときにやっていたシューティングゲームがあるんですけれど、1面、2面、3面というのが数字じゃなくて、α、β、γというやつだったのですけど。小学校1年生、2年生が、α、β、γ、δ、εって全部覚えているんです。
だから、何が元になって何を覚えるかっていうのは、本当に分からないんです。特に男の子は、自分が好きになったものは本当に覚えますからね。何を覚えてもいいような環境をお父さんたちは温かく見てあげて、そこにちょっとだけ手を差しのべてあげれば、コミュニケーション能力というのはそのまま生きてくんじゃないかなと思います。

武田:ゲームとどう向き合っていくのか。こんな声もあります。

合田 文さん
「ゲームに関する教育を義務教育に盛り込んでいくのがいいんじゃないかなと思っています。何かを扱う時にリテラシーというのはすごく大切で、いま小学校でもパソコンの授業をやりますが、そういうときに、ゲームはどういうふうに遊ぶと楽しいのか、どういうふうに使ってしまうと悪影響になるのかを一緒に学んでいけたらいいんじゃないかなと思います。私が子どもの頃は、たばこについての教育が始まっていたんですけれども、悪影響だって教えられて、たばこを吸っている人と吸っていない人の肺がどれくらい違うのかっていうのを見て、私は吸わないでおこうと小さいときに思ったことがあるのを覚えています。そういう感じで子どもたちの小さい時からの刷り込みというか、前提知識に入っていければいいんじゃないかなと思います。そもそもスマホも生まれてまだ10年ですし、リテラシーがまだまだ伴わすに使っている人たちは世代に関係なくたくさんいると思います。各家庭で教育するのはすごく難しいし、教育できる家庭もあればできない家庭もあるし、いろいろな状況がありますので、義務教育の中で教えていけるのが一番なんじゃないかなと思っています。」

石井 光太さん
「大人が忘れてはならないのが、ゲーム依存の子どもというのは決して今のままではいいと思っていなくて、本当にもがいて苦しんでいることです。なんとか学校行きたい、ゲームをやめたいと思っているケースもあります。例えば定時制高校の場合、6割、7割の生徒たちというのが不登校で、ゲームにはまっていた子どもたちなんです。でもわざわざ定時制高校に来るというのは、今のままではいけないから、一生懸命来るんです。なんとかして社会に復帰しようと思ってくるんです。その時に学校の先生もそれを理解しているし、周りの同級生たちも同じような目線で受け入れています。だからこそ、そういった子どもたちは学校に来られるようになって、そして多くの子どもたちが定時制高校を卒業できるんです。そしてゲーム依存からも脱却できます。僕たちがここで忘れてはならないのが、社会の方がきちっとその子どもたちの立場に立って理解をして、そしてそのまま受け入れてあげるってことが大切ということだと思うんです。それがきちっとできれば子どもたちはゲームに依存せずに、学校に行けるようになるし、社会に出て行けるようになる、そういった目線が必要なんじゃないかなというふうに思っています。」

武田:通信制高校の女子生徒の「ゲームには、良いところも悪いところもあるんだ。とても大切なものなんだ」という言葉が、非常に印象に残りました。そういう目で大人がゲームを見ているのかどうか、社会が見ているのかどうか、ということもすごく問われることだと思うのですが。

樋口 進さん
私はゲームを全面的に否定するなんていう気持ちは一切ありません。ゲームは多くの子どもたち、あるいは大人の方々に愛されているんだと思うんです。でも、行きすぎてしまうとやっぱり問題が出てきます。だから、その辺りを明確に分けて考えることと、やっぱり良い面と悪い面があって、悪い面に関しては予防していかないといけないというようなことについて、きちっとした情報発信が必要なんじゃないかと思います。

武田:高橋さんはどうゲームと向き合っていけばいいと思いますか。

高橋 利幸さん
私のいる業界的には、もっと中心となるシステムを作っていかなきゃいけないと思います。例えばプロのeスポーツ選手を育てる場というのが、今、専門学校数校、高校にそういうクラブがあるぐらいです。教育としてクラスの授業の中に組み込んでしまう、アメリカの高校とか大学にはそういうクラスがあるんですね。そこでみんなで応援して、選手になったときには学校の連合として野球の甲子園みたいな大会を開催するとか、そういう活躍の場も作ってあげて、ゲームをやっているのは楽しいという状況を作っているわけです。
日本ってまだまだなんです。リオオリンピックで総理大臣がああいう格好をして、日本はゲームの国で、アニメの国だって言ってくれたんですけど、その後の進化がまだ遅いんです。法改正も含めて、みんなでちゃんと正していかなきゃいけないんじゃないかと思います。テレビゲームというかビデオゲームって、まだたかだか50年ぐらいの歴史なんです。まだ若いんです。新しいものが出てきたときには、必ず反対ってあるんです。
例えば明治時代は、本を読む、小説を読むというのは悪だったりするんです。落語を聞くっていうのもダメだったんです。でも、今の時代、100年経ったら文化を継承するってことでいいことになっているじゃないですか。
ビデオゲームもあと50年したら、これはすばらしいと思われる時代がくるかもしれません。ゲーム機がどんどん、どんどん発展してきたからこそ、実体験で本当は経験できないことが経験できるようになっているんです。
例えばドライブシミュレーターとか、フライトシミュレーター。リアルの運転免許証で事故の経験は本当はできないです。でも、シミュレーターに乗っているから、人が飛び出してきて事故ってしまった、十字路に出たときに一時停止しなかったからぶつかってしまった、そういう経験も与えてくれるのがゲーム機だったりします。これからうまく関係を作っていかないといけないという時代になってきているのは間違いないと思いますので、ゲーム依存への対応も含めて、みんなでいい道を作ってくべきですね。

樋口 進さん
我々治療している側から言わせていただくと、まだ本当に体制が十分ではなくて、特に相談するところが非常に厳しいです。相談を適切にしてくれるマンパワーの育成がまだ十分できていません。“お母さんがうちの子どもがゲームやりすぎて困っていて。いったいどこに相談したらいいんだ…”という時に助けとなる情報があまりないんですね。そもそも、ゲーム依存症を診られる医療機関も非常に数が少なくて、診療がパンクするような状況です。なので、医療の体制の拡充が今後非常に大事なんじゃないかと思います。

武田:今日は本当にありがとうございました。



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この対談の内容も含めた
「外出自粛の陰で…ゲーム依存は大丈夫?」の放送内容はこちら
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4417/
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