
“イベント自粛”の波紋 エンタメ業界トップによる緊急対談
新型コロナウイルスの影響で中止・延期となった音楽、演劇などのイベントの数は、少なくとも8万1000(3月23日段階)。5月末までにライブ・エンターテインメント市場9000億円のおよそ4割が消失するという試算もあります。
音楽や演劇などのライブ・エンタメを担う業界は、この事態をどう受け止めているのか。
業界団体トップの方々に実情を語ってもらいました。

(左)日本音楽制作者連盟・理事長 野村 達矢さん
(中)コンサートプロモーターズ協会・会長 中西 健夫さん
(右)日本音楽事業者協会・会長 ホリプロ社長 堀 義貴さん
“どんなに早くても6月いっぱいまではできない”
堀 義貴さん
音楽団体はこれまで自粛要請のあった2月26日から、緊急事態宣言より1か月半ぐらい前から経済活動を止めている。だからもともと(損失の)補償をという話をしていたんですが、でも今はあらゆる業界の人たちが補償、補償という話になってきて、ちょっとフェーズが変わってきましたね。現状、ライブは何月までなくなっているんでしたっけ?
野村 達矢さん
緊急事態宣言の期限が5月6日に今のところはなっているので、5月いっぱいみたいな目安には今のところなっていますね、ライブ関係は。
中西 健夫さん
現実的な解釈としては、どんなに早くても6月いっぱいまではできないだろうなと僕は思っていますけど。

野村 達矢さん
業界独自でも(再開の)ガイドラインをつくり上げていきたいなという部分である程度まではつくり上げていったものの、もっと状況がよくならないと、というところはありますよね。ただ、我々が1か月先行して自粛してきたというのは事実だった。
堀 義貴さん
少なくとも3月いっぱいは現金収入ゼロでやってきたわけじゃないですか。ほかのお店は開いていましたけど。
野村 達矢さん
振替公演がさらに延期になっているところもあるし。振替公演をしたくても会場がとれなくなってきているという部分もある。会場問題というのも出てきている。演劇の場合、長期公演があるので、会場問題というのはもっとシビアになってくるじゃないですか。それを簡単に半年後というわけには当然いかないでしょうし。
堀 義貴さん
舞台ってほんと2年、3年先までスケジュール決まっているわけじゃないですか。延期というのは現実的じゃないですよね。うちも今度8月に(舞台を)控えてるんですけど、(自粛する)期間が長引けば長引くほど、来年の公演と再来年の公演の話を考えなきゃいけないですよね。
“エンターテイメント全体がもうだめですよね。ちょっときついな”

中西 健夫さん
現実的には経営がもたない会社の数は半端なく出てくると思うんですよね。再開に向けて何がしかの支援があったとしても、再開できるまでもたない。今、出口が見えないんで。いつからできますと言われたら覚悟ができるんだけど、「いつからできるの?」という。5月ぐらいまでならね、何とかやろうかってみんなで気持ちも含めてもつけど、それ過ぎると気持ちとお金がもたなくなりますよね。
堀 義貴さん
構造的にイベントを下で支えている照明とか、音響とか、レコードでいえばスタジオとか、そこの資金が回らない。1か月ゼロになってますから、5月までもてばという会社がいくつかあるというのはもう聞いているんですよね。大きいところでも半年続いたらきつい。
中西 健夫さん
コンサート系のアルバイト会社が完全に仕事がゼロなわけです。チーフクラスのバイトが20~30人いて、彼らがいきなり食べられなくなるわけですよね。

堀 義貴さん
うちの場合、たとえば芸人とか、若い役者とか、結局、アルバイト先から来なくていいと言われていたり、まったく収入がなくなっているという現状があったりするんで、それを会社としても何とかしなきゃいけないと思うと、また出費がどんどん増えていくということが連鎖的に重なっていますよね。僕は豊中のオーケストラの理事でもあるんですけど、いわゆるオーケストラの楽団の人たちも、運営費自体が非常にきつい中で、個別で演奏関係のアルバイトや学校で演奏会もできないんで、オーケストラ自体もほんとに大変。バレエのダンサーとかもまるでだめだという話だし、エンターテイメント全体がもうだめですよね。ちょっときついな。
中西 健夫さん
震災のときとかは、音楽とかライブ・エンターテインメントは一時完璧にストップしたけど、途中からこれ(エンタメ)で元気になろうって言えたのが、今、言えない。コロナが終わらないと何もできないっていう不安感がありますよね。
野村 達矢さん
本来であれば、みんなの精神的な健康も含めて高揚するみたいな役割もエンターテイメントは担っているはずなのに、それが本来ある姿で伝えきれない状況に追いやられている。震災のときはアーティストが現地に出向いていって、たくさんお客さんを集めて、いろんな人たちを励ましていったという構図があったんだけれども、その本来のあるべき姿を再現できないというのがすごくもどかしい。
堀 義貴さん
何か役に立てることがあるんじゃないかと思っても、それやると人が集まっちゃうとだめだからという…。
“そろそろ出口を見つけないと、守り切れなくなっちゃう”
Q:今後、業界としてどのような対策を?
堀 義貴さん
ないから困っている。今はとにかく命を守ることと、ウイルスをうつさないこと以外、やることがないんじゃないかな。ただ、考えないことにはしょうがないんで。実際、食べられないという人が出てきちゃってるわけだから。
中西 健夫さん
耐え忍んでいくにも、そろそろ我々の出口を見つけないと、守りきれなくなっちゃいますよね。チャレンジは当然していこうと思うし、何ができるかわかんないけど、今、考える時間だけはあるんで、そういうときにできることをやっていく。それがもし政府に何か言わなきゃいけないことであったとしたら、法律を変えてくれとか、税法を変えてくれとかってことは言い続けていかないと、僕らが僕らを守るために頑張んなきゃどうにもなんないという状態だと思うんですけどね。
野村 達矢さん
制度上のハードルがまだありますからね、そこに関しては。そこを乗り越えていかないと。政府からの資金援助だけじゃなくて、やっぱり民間でそういう1つのファンドみたいなものを集めていって、日本の未来の文化のためにそれを維持していく仕組みを早急に作んなきゃいけない部分も出てきている。
“エンターテイメントの役割は衣食住のすぐ隣にある。そこだけは信じていきたい”
中西 健夫さん
ミュージシャンとか、タレントさんだけじゃなくて、ライブとか演劇を一つやるために何十社とかかわっている人たちのことを何とかしなきゃと思ってるんですよ。ほんとに産業として膨大なジャンルの方々がかかわっているんで、そのことまで含めると、本当にどうしていいかわかんないぐらいの広い範囲で、今、やれないことが増えているということですよ。エンターテイメント産業というのは実は、ホテル業も、交通も、何もかもインクルーズした内需拡大産業なんですよね。僕らだけでやっているわけじゃないんですよ。
堀 義貴さん
エンタメは生きるのに必要なものではないから自粛は当たり前だと言う人もいたけども、ほんとになくなったら、また立ち上げるのは大変。自然とテレビからおもしろいものが流れたり、自然と音楽が流れたりなんてことはないんですよ。バタバタとイベント関連会社が倒産してしまえば、ライブをやりたくてもスピーカーの台数が足りないみたいなことも起こる。照明の人たちは廃業して別のことをやっていますという話になったら、前と同じようなことはもうできない。アーティストになりたいと思っていた子たちも、あきらめて普通の会社へ入ったほうがいいと思う人もいるだろう。今はまだプロの照明家でも音響マンでもない、専門学校に何千という子たちがいるわけです。彼らが来年の4月には卒業してくるわけです。そこの受け皿がなくなっていくという、それって恐怖ですよ。仕事があるはずだと思っていた会社がもうなくなっているということで、その人たちはどこに行くのか。もう1回その会社をつくるというのは簡単じゃない。もう1回同じことをやるというのは大変ですよ。
野村 達矢さん
ただ、何かやっぱり信じておきたいのは、人間として生きていく以上、何らかの表現があったりとか、何か人を楽しませたり喜ばせたり、場合によっては悲しさを癒していくみたいなことも含めて、エンターテイメントの役割は衣食住のすぐ隣にあるような気がするので、そこだけは信じていきたい。だから、それをつくり上げてきたスキームをなるべく崩さないようにどうやって長い期間維持できるかどうかということを取り組まなきゃいけない。経済的な部分で支援できるのであれば、そこの支援の部分を構築していく必要がある。スキームを維持する方法を大きなフィールドの中で考えていく必要が出てきている。
(取材「クローズアップ現代+」ディレクター 菊地啓)