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【対談】ジャーナリズム新時代 ~貢献する地域メディアへ~

【対談】ジャーナリズム新時代 ~貢献する地域メディアへ~

2020年2月25日

ネットの台頭の陰で、いま、新聞をはじめとした地域メディアが危機に直面しています。発行部数と広告収入の減少により、全国で廃刊や休刊する新聞が相次いでいます。こうした中、読者と直接結びつき、読者の疑問や悩みを取材する新たな報道に活路を見いだそうという動きが広がっています。目指すのは「課題解決型ジャーナリズム」。報じるだけでなく、読者とともに地域の課題解決をゴールとするのが特徴。新たな報道のかたちは、メディアへの人々の信頼を取り戻す鍵になるのか?

「あなたの特命取材班」などオンデマンド型調査報道を実践する西日本新聞記者の坂本信博さん、ネットメディアや海外事情に詳しい古田大輔さん、地域メディアを支援する瀬尾傑さん、滋賀・大津で地域の課題をネットで配信する社会福祉士の大井美夏子さんに、都内に集まっていただき、これからの地域メディアのあり方を議論しました。
進行:クローズアップ現代+キャスター 武田真一
2020年2月25日に放送したNHKクローズアップ現代+の対談記事です。

 




目次

 

記事が読者に刺さらない
「記事が読まれているという手ごたえがないとよく聞きます」

地方の取材・情報が足りていない?
「地域情報はそもそもずっと昔から足りてないんですよ」

揺らぐメディアの信頼性
「背景には、やっぱりメディアの不信があるんじゃないか」

読者の信頼と絆を取り戻す試み
「手法を見せていくことで信頼を高めていきたい」

“ニュース砂漠”が引き起こす危機?
「地域の政治に対する関心を失っていくんですよね」

新たなローカルメディアの可能性
「地域メディアが死のうとしているなんてもう言うな」

市民とメディアの新たな関係
「メディアと市民って結構区分けしすぎっていうか」

Journalism as a Service・貢献するジャーナリズム
「新聞記者はお金じゃなくて信頼を稼いでファンを増やす」

読者や視聴者から信頼されるメディアとは
「やっぱり市民の人はみんなメディアに期待をしている」



記事が読者に刺さらない

武田 真一
さっそくお伺いしたいんですけれども、私はですね、西日本新聞の坂本さんの「記事が読者に刺さらない」という、言葉にすごく共感するところがあるんですね。一生懸命自分たちの問題意識を深めて視聴者に届けようとしているのに、なかなかそれが、本当に届いているんだろうかという葛藤をやはり感じます。でも、なぜそういうことになるのか、もう少し突っ込んでお伺いするとどういうことになりますか。

坂本 信博さん
私自身が記者になって20年を過ぎたんですけれども、これまで市民が知るべきだというニュースと記者が知らせたいというニュースに軸を置いてきました。一方で、読者が知りたいということに応えられていなかったんじゃないかなというのは最近感じるようになっていまして、特に若い記者が、記事が読まれているという手ごたえがないと言っているのをよく聞きます。おそらく、誰のため、何のために書いているか、世のため、人のために書きたいと思って記事を書いているのは間違いないんですけれども、以前は「社会部110番」という企画がありまして、社会部に電話があってですね、そこに読者からお叱りの電話とかお褒めの電話がかかってきて直接やりとりすることがあったんですけれども、記者の負担を減らすとか、いろんな意味で「お客さまセンター」というものができて、読者から直接電話がかかってくるということがなくなったと。なので、刺さっている、読まれているかどうか、手ごたえとして感じることができなくなってきたというのが現実としてあると思います。

武田 真一
一生懸命、世のため、社会のためと思って取材をして書いていても届かないというのはなんなんですかね。何がそうさせたというか……

坂本 信博さん 
読まれているのかどうか、反響がまずなかなかないと。

古田 大輔さん
僕はもともと新聞記者、朝日新聞で13年記者をして、そのあとインターネットの世界に行ってインターネットメディアの編集長をやっていたんですけれども、インターネットは見えるんですよね。どれだけの人がその記事を読んだのか、何分間読んだのかとか、どれだけシェアをしてくれたのか、コメントしてくれたのか、全部可視化されています。でも、実は紙の時代って、そもそもそれをどれくらい読んでもらえているのかって分からなかったわけですよね。だから、僕が記者時代に感じたのは、これは本当に読まれてるのかなって自分で疑問を持ちながら、不安に思いながら書いていた。ただ、紙しかなかった時代はみんなそうだから、まあ、そんなものだと思っていたわけですよ。でも、インターネットが生まれて、実際、インターネットで会話をされているときに、新聞記事だけを書いているとすごく不安に陥るというのが可視化されたんだと思います。

瀬尾 傑さん
僕は週刊誌の編集をやっていたことがあるんです。週刊誌というのは、わりと昔はいいスクープが取れると売れるというのがあったんですけど、ある時期から、スクープだけでは売れないという感じになってきたんです。最近もいろいろ週刊誌で世の中をにぎわしている記事もあったりしますけど、僕はこれ、外から見てても、そんなに残念だけど売れてないなと感じることが多いですよね。

武田 真一
読者のレスポンスが部数という形で週刊誌なんかはすぐ跳ね返ってきますよね。

瀬尾 傑さん
もう一つあるのは、少し前だと、政治家のスキャンダルですね。たとえば政治資金の問題とかなんとかっていうのも、やっぱりそれを取り上げるとすごい反響があって、結果的にその政治家の方が辞任するとか、そういうケースもあったんですけれども、最近そういうスクープが出てもなかなか世の中が動かなくなっている。そういう、ビジネスの面だけじゃなくて、ある種の社会的インパクト、影響力がちょっと落ちているのかなと感じることがありますよね。

古田 大輔さん
情報という考え方で見るとですね、インターネットの前と後で大きく変わったことがあります。それが「欠乏から過剰へ」というふうによく表現されるんですけれども、昔、マスメディアしかなかった時代って、情報の流通って基本的にマスメディアを通してだったわけですよね。ほかにはそんなになかったわけです。でも、インターネットの時代になって、誰でも、1億人のインターネットユーザーが自由に発信できるし、受信できるし、拡散できるようになったら、情報の数が膨大になってしまったわけですよね。そうすると、その中でマスメディアが担っている情報の率なんて本当にこれっぽっちになっちゃったわけです。そうすると相対的にもちろん反応も薄いなと感じるようになるし、売れなくなるしという、そこら辺はすべてインターネットの影響が非常に大きいだろうなと思います。

瀬尾 傑さん
やっぱり、日本の新聞社って宅配制度が基本的に支えていますよね。だから、現場の方に聞いても、ひと昔前だと、要するにその日の部数を知らない……

坂本 信博さん
そうです。

瀬尾 傑さん
ですよね。たとえば雑誌とかあるいはテレビとかだと、部数とか視聴率というのは結構敏感だったりするんですけど、やっぱり、現場の方が数字を知らないというのがあります。それはある意味、新聞社の伝統の中で、やっぱり報道とビジネスと分けて考えるべきだという考え方があって、あえて伝えてこなかったところもあると思うんですけれども、そういう意味で、今のこういう状況になって初めて手ごたえとかそういうことを気にされるようになったのかなというふうに認識してますね。



地方の取材・情報が足りていない?

武田 真一
大井さんにぜひお伺いしたいのは、さっき古田さんがね、インターネットの時代になって、いわゆるマスメディアというものの存在感が相対的に小さくなって、というお話をされましたけれども、読者、視聴者の側としてはやっぱりそんな感じなんですか。

大井 美夏子さん
そうですね……はい。

武田 真一
こんなテレビとか新聞なんか要らないよと、もうネットがあるから、という感じ?

大井 美夏子さん
たとえば地方のほうでしたら本当に地域に関する自分たちが知りたいと思うところが本当に少ないですし、情報が。知りたいというものをもっと出してもらって深めてもらったら、これは買いたいなとか応援したいなという気持ちになるんじゃないかなと思うんですが。

武田 真一
地域に関する情報は、これだけネットもあり、マスメディアもあり、だけど身近な滋賀の情報というのはやっぱり少ないというふうにお感じになるんですか。

大井 美夏子さん
滋賀というよりは、新聞社の地域版のほうを見ていただきたいんですけど、イベントとかの情報はあるんですが、実際、本当に今起きているような問題にきちっとそこまで来て取材していただいてというのがなかなかないような気がするんですけど。

瀬尾 傑さん
ローカルの取材が少ないというのは、これ、地方だけの問題じゃないと思うんですよね。僕は、たとえば東京を見たときでも、東京都をウォッチしているメディアがどれほどあるかというと、極めて僕は少ないと思っているんですよ。東京都って財政規模からするとヨーロッパ1国に匹敵するぐらいの規模があるんですけれども、実際、それをウォッチしているのは都庁クラブの一部の記者の方だけなんですよね。本当はもっともっとやっぱり霞が関のクラブに匹敵するぐらいのウォッチャーがいてもおかしくないと思うんですよね。だから、そういう意味でいうと、やっぱり日本全体の中で、これはローカル…ローカルというのは、地方に限らず、その地方行政をウォッチするという仕組みがまだまだジャーナリズムの中では不足しているんじゃないかというふうに思います。

古田 大輔さん
地域情報ということでいうと、日本においては、やっぱり地域情報の取材というのはそもそもずっと昔から足りてないんですよね。私が朝日新聞時代に地方の記者もしましたけれども、3人で4市4町を担当しました。4市4町を3人でというのはそもそも取材が不可能な状況になっているというのが現実としてあると思います。

坂本 信博さん
(地方紙の)取材態勢は、中央紙とか全国紙に比べると、当然、取材体制が充実しているというのがあったんですけれども、おっしゃられたように徐々に新聞の部数が減ってきて、取材の効率化とか組織の再編とかする中で、取材体制が少しずつ縮小してきているというのは否定できないところだと思います。

武田 真一
確かにNHKでも、限られた要員の中でいかに効率的に、働き方改革も考えながら地域放送を充実させていくかというのは非常に大きな課題ではあるんですね。西日本新聞さんも宮崎や鹿児島では休刊になった。新聞全体も部数が落ち込んでいる。実感はどうなんですか。

坂本 信博さん
そうですね。新聞はですね、部数拡張しあう戦国時代というよりは、幕末に近いのかなと、新聞業界は。

武田 真一
幕末……

坂本 信博さん
部数が増えていれば、当然、人も確保できて取材も充実できるんですけれども、部数がどんどん減っていく中でどう維持していくかと。そうした中で、アメリカからネットという黒船がやってきて、紙かデジタルかという、開国か攘夷(じょうい)かみたいな争いになっていく中で、新聞そのものの屋台骨が揺らいでいるというのが今の状況だなというのは肌身で感じています。

古田 大輔さん
実際、僕も新聞記者をしている友人たちから、どんどん取材網が削られていっている、現場の記者が減らされていっているという話は聞いています。



揺らぐメディアの信頼性

武田 真一
皆さんがおっしゃっている、記事が読者に刺さらないという、その実感であるとか、あるいは大井さんがおっしゃるように、欲しい情報がない。なんか、ここでギャップが生じていて、背景には、やっぱりメディアの不信というものがあるんじゃないかという気もするんですけれども、たとえば、データがあってですね、若い世代になるほど、情報源として欠かせないものとしてテレビや新聞じゃなくてネットが圧倒的に多いであるとか、あるいは最も信頼しているメディアとしては新聞やNHKテレビというのが相変わらずある程度は高いんですけれども、徐々にその信頼度というのは下がってきているというようなデータもあります。どのメディアをどういうふうに信頼するかということに関してもだいぶ変わってきているような気がするんですけど、あらためてこの要因というのはどういうふうに瀬尾さんはお考えですか。

瀬尾 傑さん
信頼という意味では、僕がすごく注目している調査があるんですよね。これはロイターのメディア研究所の調査なんですけれども、「メディアが権力と戦っているのか、権力をウォッチしているのか」ということを読者側と政策者側と両方に聞いているんですね。それを見ると、たとえばヨーロッパ、イタリアとかドイツとかイギリスとかは、だいたいそれぞれ40%ぐらいなんですよ。読者側もメディアが権力をウォッチすると思っているのは40%ぐらい。でも、つくっているメディア側もだいたい自分たちはそれぐらいだなと思っているわけですね。つまり、そんなに完璧じゃないと。そのぐらいできたらよくやっているほうだという認識だと思うんですけど、日本ではですね、読者の側で、メディアが権力と戦っていると思っている人が十数パーセントしかいないんですよね。ところが、メディア側が自分たちが権力と戦っていると思っている人は九十数パーセントなんです。ギャップがあるんですね。このギャップこそがメディア不信の元凶なんだと思うんです。自分たちの姿がなかなか相対化されてない。自分たちのやっていることを読者側にも伝えてきれていないし、あるいは、読者側が自分たちをどう見ているかということもメディア側が認識しきれていないというのが今の残念な状況なんだと思うんですね。

大井 美夏子さん
権力監視に関するそういった報道というのがやっぱり難しい部分があって、たとえばデジタルのほうであれば、この報道をたとえば漫画にしたらより分かりやすくなるとか、風刺画にしたら分かりやすくなるとか、そういったものを投げかけて参加してもらって、そういった報道をより市民の方にいかに分かりやすくするかというものが今後要るんじゃないかなと思うんですよ。すごく難しい言葉を使われていて、公文書といわれても、そんなふだん使わないですから、「公文書って何なの?」という感じになっちゃいますので、公文書が破棄されたりいろんな問題が出てきてる中だったら、じゃあ、それが起きてどうなるかというのをもっと身近な事例をたとえながら表現してもらうと、報道がすんなり入るんですけど、意外と難しい言葉を、そのまま新聞で書いたことをデジタルメディアでやっても、視覚的に入らないというところが私はちょっと感じたんですけど。

坂本 信博さん
アウトプットのしかたですよね。取材をするというインプットは今までと大筋変わらなくても、どう届けるか、日々新聞を取ってくださっている方に届ける情報と、初めてネット上でぱっとわれわれの記事を読んでくださる方にどう使い分けて届けるかというのももちろんあると思うんですけれども、一方で、読者とSNSで1対1で繋がる「あなたの特命取材班」通称「あな特」を2年やって分かったのは、これまでに1万件を超す調査依頼とか困っていること、知りたいことが寄せられていまして、新聞が、斜陽産業といいますけども、まだこんなに困っている人がいて、どこにも相談できずに困っている人がこんなにいるのかというのを思い知る日々なんですよね。なので、われわれがそれにどう応えていくかという余地はまだ相当残っているなというのは感じます。



読者の信頼と絆を取り戻す試み

武田 真一
われわれが漠然と抱いている「届いていない」という感覚というのは、メディアが本当に多様化していろんな情報が氾濫しているにもかかわらず、読者や視聴者が求める情報になかなかたどり着けないし、もともと日本って、そんなに地域に対する情報というのが十分に発信できていないような面もあったかもしれないんですけど、そういう状況があらためて可視化されたというか、そういうことにみんな気づきはじめたということも……

坂本 信博さん
そうですね。そこで何か手を打てないかということで始めたのが「あな特」なんですけれども、読者と記者が直接つながることで、読者の知りたいことを吸い上げて、しかも双方向でやりとりできるので、一緒に取材に協力していただく形でいい報道をつくっていこうという取り組みを始めたところです。

瀬尾 傑さん
僕、「あな特」がすごいなと思うのは2つあって、1つは、やっぱり読者との、要するに読者から課題をもらうことによって、いわゆる読者とエンゲージメントができているということなんですね。今、メディアの中で問題になったのは、信頼性が下がっているんじゃないか。さっきおっしゃった、刺さるか刺さらないかというのは、結局、信頼性の問題だと思うんですけど、いわゆるエンゲージメント、要するに読者をいかに巻き込むかというところだと思うんですけれども、そこを「あな特」は達成していると。これはすごいと思うんですね。2つ目は、それをネットワークにしようとしていることなんですよね。アメリカでは、専門メディアが、たとえば地方紙、あるいは全国紙でも、NPOとかコミュニティーメディアと連携していろいろな取材をしているというケースがあるんです。要するに単独でやるんじゃなくて、いろんな力を借りてやるというのがすごく大事なことだと思うんですね。「あな特」はやっぱりそこにチャレンジしているので、すごく僕はいいと思います。

坂本 信博さん
そういう意味で、デジタルといいますか、ネットのおかげで、以前だと会社と会社でシステムがつながっていなければ記事のやりとりはできなかったんですけども、双方の合意さえあればコピー&ペーストほど最新の情報が共有できるものはないので、そういう情報のやりとりというのも、以前だとできなかったものが、デジタルとかネットの発達のおかげでよりやりやすくなってきているというのは間違いなくあると思います。

瀬尾 傑さん
「あな特」って「探偵ナイトスクープ」ですよね。読者から投げられたテーマを検証していく。その検証する部分というのが、実はジャーナリズムにとって究極の付加価値なんじゃないかと思うんですよね。わざわざ調べるって、なかなか一般人、一般の市民がふだん疑問に思っていてもなかなか調べられないじゃないですか。「あな特」に寄せられるのは、当たり前な、ちょっと素朴な市民の疑問なんですけど、それを調べるということが、僕、すごく大事だと思うんですね。それが、まさに目線を市民に落とすということですよね。それと同時に、やっぱり市民をうまく巻き込んでいくという試みなんだと思います。そこにたぶんメディアが信頼回復する鍵があると思うんです。だから、「信頼」と「エンゲージメント」、もしかするとそれにプラス「コミュニティー」という、この3つぐらいが鍵になって地域に根ざしていくメディアというのが成立するんだろうというふうに考えるんですね。だから、その調査報道という、調べる行動が実は信頼を勝ち取る、あるいはコミュニティーやエンゲージメントをつくる鍵になるんだと思います。

坂本 信博さん
その手法も可視化していくというのをこだわっていまして、結論が分かって「こうでした」だけではなくて、読者からこういう調査依頼があって、ここで調べたらこうで、そのあと調べたらこうでという手法を見せていくことで信頼を高めていきたいというねらいもあります。

瀬尾 傑さん
それ、すごく大事ですよね。言ってみたら、レストランのオープンキッチンと一緒で、僕らがどういう素材をつくっているか、どういう料理法をするかって見せることが、結局やっぱり信頼にかかわってきますよね。

古田 大輔さん
僕、世界各国のいろんなメディアの会議に参加しているですけれども、この数年、どの会議に出ても、必ず最後は2つのトピックに落ち着くんですね。一つが信頼性、もう一つが収益性の問題です。信頼性の例でいうと、たとえば、アメリカもかつては70%の人がマスメディアを信じていた。今は50%を切るんですよね。どこの国においてもメディアの信頼性が落ちている。それはなぜなのか。これはやっぱりインターネットなんですよね。インターネットによってこれまでは皆さん、マスメディアからしか情報を受け取らないから、ある意味、マスメディアを信じざるをえなかった。でも、それが、僕はこれを「情報の民主化」と呼んでいるんですけど、情報が民主化されて誰でも情報を発信できるし検証ができる。それこそマスメディアですら検証対象になったわけですよね。そうすると、この報道が間違っているじゃないか、これは取材の手法がおかしいではないか、なんでこれを取り上げないんだ、というふうな批判が出てくる。そういう批判もどんどんネットに広がっていく。一方で、マスメディア側はそういう批判をあまり取り上げない。そうすると、みんな信頼しなくなっていくと。なので、僕、「あな特」の手法ですばらしいなと思ったのは、今まさにおっしゃった取材の過程も、どういうふうに取材したのかということも開示することで、それで信頼性を担保しようとするという手法というのが今後ますます重要になると思います。

武田 真一
実は、「クローズアップ現代+」もですね、そういう手法を少し取り入れていまして、たとえばですね、医療機関でせん妄になっちゃった高齢の患者さんをベッドに縛りつけるというようなことに関する問題提起を番組でしたんですね。そうしたらものすごい数の医療現場の方々からの、「いや、そんなこと言われたら仕事にならない」というご批判の声が寄せられました。じゃあ、今度はその声をもとに、そういう人たちはどういう現場で働いているのかということをもう一回番組にしたりとか、そういう双方向で深めていくということをシリーズでやったりという取り組みも、ほかの話題でもいくつか挑戦して、やっぱり気をつけているのはそこなんですね。今までもやってきたんです、私たちは。視聴者の皆さんのご意見を聞いて、それに応えるような報道のしかたって、たぶん、これ大昔からやってると思うんですけど、何が違うかというと、寄せられてきた情報を自分たちのものにするかどうか、単なるネタ元というふうに扱うかどうかじゃないかと思うんですけど。

坂本 信博さん
私も社内で話をするんですけど、やっぱり、ものすごい特ダネも飛び込んでくるんですよね。ただ、社内でよく話をしているのは、「あな特」が楽して特ダネが飛び込んでくる箱だと思ってしまえば記者の足腰は間違いなく弱ると。そうじゃなくて、地域に根ざす記者として、本来であれば見聞きしなければいけないものをすくい上げるといいますか、つかみ取るための武器として使えば、われわれの調査報道は間違いなく強くなるという話をしています。新聞というのは、1回の記事で勝負するものですけども、「あな特」に関しては、反響があったら、それをまた記事化していくと。大事なことは何回言ってもいいし、読者からお叱りがあれば、あの記事にこういう批判があった、それに対してこうでしたということも引き続き記事を、どんどん、どんどんつなげていくということをやっています。



“ニュース砂漠”が引き起こす危機?

※ニュース砂漠:アメリカで広がる地域に新聞がゼロ、もしくは1紙のみなどに限られる場所のこと。
 市民がニュースに触れる機会が減ることから民主主義を揺るがす社会問題とされている。

瀬尾 傑さん
アメリカのローカルメディアは、ある意味、日本以上にはるかに追い込まれているわけですよ。やっぱり数が多い。日本のように1県1紙のようになっていないので競争が激しい、あるいは宅配制度も弱いということがあり、あるいは日本以上にそういう意味でいうと広告収入に依存している。そういう経営はすごく厳しくてですね、すでにとう汰も始まっています。

武田 真一
(アメリカの“ニュース砂漠”を取材した)VTRにもありましたように、地域の課題というか、本来はいろんな人がいろんな意見を言うべきイシューが、そのものが知らされないとか、そういうような弊害があるというふうな、地域メディアがどんどん衰退していく中で、アメリカでこんな問題が起きているとかいうことってあるんですか。

古田 大輔さん
もういろんな研究が、先に衰退が始まったアメリカではなされていて、地域メディアがなくなったところの影響で特に深刻視されているのが、たとえば投票率が下がる、選挙で候補者も減っていく。みんな地域の政治に対する関心を失っていくんですよね。それが大きな影響だといわれています。

武田 真一
実際そういうことが起きているんですか。

古田 大輔さん
起きていると。で、そこで考えたいのが、実は日本でも、今、候補者がいないという問題が言われていますよね。地方選挙のたびに、投票にもうならないと、地方議会が維持できないと。実はこれは、日本においては「ニュースの砂漠」というのが実はずっと昔から起こってたことの、僕は証左なのではないのかなと思うんですね。だからこそ、みんな地域の政治に対する関心を失い、候補者も減っていると。だから、実はアメリカで起こっていることはすでに日本でも起こっているんじゃないのかと思います。

大井 美夏子さん
市議会議員とかの選挙のときも、誰に投票したらいいか分からないとか、とりあえず書きやすい名前を書いたとか、そういう人もいるというのは、記者クラブの記者が行政にいるのであれば、この市議会議員はきちんと勉強しているとか、ちゃんと公約を出したものを守るために動いているというのをきちっと監視していただいたりチェックしていただいたり、そういったものを発信してもらうと選びやすい。で、投票に行こうかなという気にもなると思うんですが、そういう基本的な情報がまったく出してくれていない。その辺がやっぱり、参加したいとか投票したいという気も起きないですし、公開討論会みたいなのを、いろんな各地でね、候補者について、若い学生とかそういった人たちも見られるような場をつくって、積極的にそこで記者の方も質問をしたり、そういった目の前にある民主主義的な、そういった仕組みというのが見えていないので、それで投票率というのは上がらないですし、そういったものをメディアも問題提起してくれないというところがあります。

坂本 信博さん
去年の統一地方選挙のときに無投票の問題が全国的に話題になったときにですね、「あなたの特命取材班」でつながる通信員に聞いてみたんですね。「無投票で困っていることはありませんか」と送ったら、予想以上に次々と声が集まりまして、今までわれわれ「声なき声」という言葉を新聞では使っていましたけども、声はあって、それをわれわれ新聞側が受けとめるすべがなかったといいますか、聞き取る方法がなかっただけで、実は、本来われわれがくみ取らないといけない声というのはたくさんあったんだなというのを……

武田 真一
たとえばどんな声が?

坂本 信博さん
たとえば、そうですね。まさに選択の余地がないと。無投票イコールですね、決して政治に絶望しているわけでも無関心なわけでもなくて、ただ、どこに投票していいか分からないという、選択肢が示されてないという問題とかですね、そういったものがあったので、その後は、政策課題もの、たとえば選挙のときに市政の課題とかっていうのは必ず取材はするんですけれども、まず先に読者に対して「次の市長に望むことは何ですか」ということを呼びかけたら、また次々といろんな声が来まして、それをもとに市政の課題を深掘りしていくというのをやったところ、ものすごく反響が大きかったというのがありました。

古田 大輔さん
インターネットによって情報が欠乏から過剰になって、今のメディアの、特にマスメディアの危機を招いたわけですけど、同時に、そういうふうに声を聞けるようになった、読者とつながれるようになったというのは、本当に大きなチャンスだと思うんですよね。保育園の待機児童問題とかに関しても、これだけ不満が世の中にたまっていたんだということを知ることができたのはインターネットを通じてなので、インターネットというものが危機を招くと同時に、やっぱりチャンスを招いているということをしっかり生かしていったらいいんじゃないのかなと思います。

坂本 信博さん
それはすごく感じます。読者から起点の調査報道というのはどの新聞社も昔からやっていることではあるんですけど、決定的に違うのは、今、古田さんがおっしゃったように、インターネットでつながることで双方向のやりとりが文字どおりできるようになって、こっちから追加で聞きたいこととか、逆に、何かここでこういう人を探してますとか、取材に協力してくださいという呼びかけができるようになって、SNSなので、ある意味、24時間やりとりできるようになったというのはこれまでと決定的な違いだと思います。

瀬尾 傑さん
アメリカで、アメリカ大統領選の報道についての議論が起きていたんですね。それは、選挙報道そのものが、要するに競馬のレースの報道のようになっているんじゃないかと。つまり、その人たちの候補の政策じゃなくて、誰が当選しそうか、誰が何パーセント取ったということに終始しちゃって、本当に大事な情報を伝えてきれてないんじゃないかというすごく反省が起きていたんですよね。だからジャーナリズムの役割って、やっぱり表面的なことじゃなくて、一歩踏み込んだ、要するに政策に対する判断だったり、あるいは、その政策の検証、あるいは政治家が言っていることが本当に事実なのかどうか、そういう検証というのはやっぱりジャーナリズムじゃないとできない部分もあるので、そこが本来の役割なんだと思うんですね。

古田 大輔さん
2つ事例を紹介したいんですけど、1つは「エレクションランド」って、アメリカの中間選挙のときにあった企画なんですけど、「プロパブリカ」というNPOのメディアが音頭を取って、地域メディアの方々と協力をしています。「プロパブリカ」ってデータの収集・分析がすごく上手なNPOメディアなんですね。そこがアメリカ中の選挙のデータを収集して分析をすると、あそこの投票率の変化がおかしいぞとかいうことを、その地域のメディアの方と協力して連携すると。そうすると、「プロパブリカ」の連絡を受けた地域メディアの方が実際にその投票所に行ってみると、投票所がもたついていてトラブルが起きていて、実際、投票できない人たちがいるとか、そういうことがすぐに報道できる。そういった形で、インターネットを使えば、そうやって連携もできるし、データを使うこともできるし、まったく新しいイノベーティブな報道がどんどん生まれてきていると思います。



新たなローカルメディアの可能性

古田 大輔さん
アメリカの状況とかを見てもかなりつらい状況だなというのは感じるんですけど、一方で、去年すごく希望を持たせる報告書がアメリカで出されていて、「地域メディアが死のうとしているなんてもう言うな」という記事だったんですけれども、それを見てみると、新しく生まれてきているインターネットメディアが、ローカルの、地域のインターネットメディアが、もう十分な収益性を身につけてきちんと地域の情報というのを発信できるようになってきているという事例がいくつも報告されるようになってきているんですよね。なので、今、全体として紙という媒体は減る傾向にある、若い人は見ないので。でも、インターネットという面で見ると、むしろそういうふうな地域の情報をしっかり支えるメディアというのは生まれてきているんだと思います。

武田 真一
それはどんなメディアなんですか。個人で発信しているようなものなのか、新聞社のような、従来の地方紙みたいなものがネットで記事を配信するようなものなのか。

古田 大輔さん
すごく有名な事例として言われているのが「テキサス・トリビューン」というところです。もともと地域のメディアのベテラン記者と地域のメディアのオーナーの人たちが合体してつくったNPOメディアで、テキサスに関する地域の政治・経済・社会・文化をしっかりと報道しようと生まれたメディアで、そこは十分に収益ができていて、最新で、僕、2018年の報告書までしかまだ見てませんけど、その段階で正社員63人で全米にとどろくほどすばらしいニュースをどんどん発信しています。

瀬尾 傑さん
アメリカでONAというイベントがあるんですね。「オンライン・ニュース・アソシエーション」という団体がやっているんですけれども、毎年1回、カンファレンスをやっています。僕も参加したんですよ。世界中から2000人以上のデジタルにまつわるジャーナリスト、あるいはプラットフォームのニュース担当者とかですね、そういう方が集まってニュースのあり方を議論するんですよ。そこで、いろんなケースとか問題意識を共有するんですけれども、そこの中心のひとつ、イノベーションの中心のひとつがやっぱりローカルメディアなんですよね。
たとえばデジタル化だとかですね、コミュニティーメディア化について積極的にチャレンジしているケースが多いんですね。なおかつ、その中でやっぱり成功事例も起きてます。そういう意味でいうと、日本のローカルメディアも、デジタルでですね、新しいイノベーションを起こせる可能性は十分にあると思うんですね。

古田 大輔さん
たとえば、アメリカにおいても、既存メディアで「ニューヨーク・タイムズ」とか「ワシントン・ポスト」とか「ウォール・ストリート・ジャーナル」などはデジタル化でものすごく伸びているわけですよね。一方で、先ほど例に出した「テキサス・トリビューン」だけではなくて、「リバード・リポート」って、テキサス州にサンアントニオという市があるんですけど、そこのローカルなインターネットメディアが非常にいい報道をしていたり、別に、アメリカだけじゃなくて、たとえばマレーシアだったら「マレーシアキ二」という新興メディアがありますし、フィリピンだったら「ラップラー」というところがあります。南アフリカだったら「デイリー・マーベリック」という、どんどん、どんどん、新しいインターネットメディアがこの10年で生まれてきて、そこがしっかりとした報道をしていると。なので、既存メディアのデジタル化ということもありますし、そういうふうに新しく生まれるインターネットメディアもあるので、そんなに僕は報道の未来って暗くないんじゃないのかなと思うようになってます。

瀬尾 傑さん
地方紙の中で、イノベーションを起こしたいというエネルギーがすごく起きているんじゃないかと思うんですよね。僕らスマートニュースで、今度、地方紙の方に呼びかけて、「SmartNews Fellowship Program」というのをやります。それは、地方紙の方がアメリカを取材する。それを僕らが支援する、資金を支援して取材してもらうということをやるんですね。発表は各媒体でやることになるんですけれど、これはやっぱ、応募を、僕ら公募でやると、やっぱり30近くの方から集まって、それぞれいろんな企画でした。その中には、さっき話題で出ていたアメリカの“ニュース砂漠”を見てきたいとかですね、あるいは、アメリカのメディアのイノベーションを見てきたいとか、そういう欲求があったりするんですよね。だから、若い世代の中では、そういうメディアを変えていこうというエネルギーが出てきてるし、そういうものを吸収したい、見たいというエネルギーがどんどん出てきていると思うんですよね。だから、これがどういう形で表に出るかというところを僕らはすごく楽しみにしたいと思ってるんです。



市民とメディアの新たな関係

武田 真一
ここまでですね、メディアと市民の側の信頼感のギャップというような話をしてきたんですけれども、大井さんの立場で、市民の立場でですね、「もっとこんなことやってよ」というような何か要望、思いって、どんなことが……

大井 美夏子さん
たとえば、紙のメディアがだめだ、だめだという感じでずっとそういうお話もあったと思うんですが、じゃあ、たとえばいろんな小売店のほうとかで売れなくなったら、どういうふうに売れるかというのを本当に一生懸命取り組んでいるところっていっぱいあると思うんですよ。じゃあ、新聞社のほうでも、たとえば今、毎日のように届いてますけど、ふだん若い人たちって仕事とかで忙しくてゆっくり見られないけど、日曜日だったら見られるわとか、いろんな生活スタイルが多様になっている中で、その人たちに合わせた、選択できるようなパッケージづくりといいますか、そういったものをいろいろチャレンジしてみるようなことってできないのかなというのが思ったわけですよ。たとえば、高齢者の多い地域、地方だったら、医療とか福祉とかそういった紙面を充実させてそれを売る。「うちの社にはこういった得意分野の記者がいますよ」というものをどんどんアピールしていけば、「じゃあ、その記者が書いた記事を読みたいわ」とか、信頼関係というのも生まれてくるんじゃないかなというのは私は思うんですけど。

古田 大輔さん
ニューヨーク・タイムズもアメリカですごく厳しい時期があったんですね。紙がどんどん減っていって。その中でニューヨーク・タイムズは、改革をしてV字回復をしたんですよ。何をしたかというとやっぱりデジタル化なんですね。2014年に「イノベーションリポート」というとても有名な文章をつくりました。それに何が書いてあるかというと、「ニューヨーク・タイムズがこれから目指すのは、『すばらしいデジタルコンテンツも出す新聞社から、すばらしい新聞も出すデジタルメディアへ』という変革を進めないといけない」というふうに書いているんですよね。なので、おっしゃったとおり、新聞紙を今読んでいる方もいっぱいいらっしゃるのでそれを捨てるわけではない。ただし、今の若い人というところに届けようと思ったらなかなか紙を今から20代の人に買ってくれというのは難しいので、だからこそデジタルメディアとしてデジタルも頑張るという方向にするのが正しいのかなと思います。

武田 真一
今、大井さんがおっしゃったのは、まさに読者とのエンゲージメントだと思うんですよね。読者が求めるものをいかにマスメディアが届けられるか、しかも、その読者のニーズというのは一人一人違うわけですよね。生活スタイルも違えば興味も違う、必要としている情報も違う。そこに届けるひとつの方法としてはネットというのがたぶんあると思うんですけれども、それ以上に、私たちのマインドというか、そこも変えていかなきゃいけないような気がするんですけど。

坂本 信博さん
そうですね。よく社内で話をするんですけれど、ポテトチップスにたとえると、今までは工場で一つのものをつくっていて、工場の玄関に買いに来てもらっていたと。ただ、今、ポテトチップスもそうですけど、中身は一緒ですけど、コンビニで売っているものとかスーパーで売っているもの、量が違ったりとか、味もちょっと工夫していたりというところで、そういう細かなカスタマイズというのをしていかないといけない時代だと思ってるんですけれども、そういう意味では、われわれ地域メディアというのは、所帯も小さい分、小回りも利きますので、そういうカスタマイズというんですかね、自分の地域で暮らしている方がどんな情報を欲しがっていて、年代によって、または暮らしの状況によって欲しがる情報も違う、そういったところをくみ取る仕組みさえできれば、届けていくすべも工夫できていくんじゃないかなと思っています。

瀬尾 傑さん
メディアの世界で起きていることというのは、ある意味、「メディアの個人化」だと思うんですよね。従来、マスメディアしか発信できなかったものが、個人メディアでどんどん発信されるようになってきている。で、どんどん、どんどん、個人化に移ってきていると思うんですよ。これまでの構図の中でいうと、マスメディアがどんどん発達する個人メディアに押されているというところがあったと思うんですけれども、やっぱりマスメディアの中にいる記者の方たちというのは、実はすごく取材力もあったり、発信力もあったり、分析力があったりする方もいるわけですよね。それが、なかなか今まで日本の新聞社の中から表に出てこなかった。たとえば署名原稿も少なかったりします。だから、そういう意味でいうと、逆に記者の方も発信できるツール、あるいは機会もいっぱいあり、あるいは、別にネットだけじゃないと思うんですよね。たとえば、イベントでどんどん情報発信するというのもあるかもしれないし、あるいは、そういう方たちが本を書くというのもあるかもしれないし、あるいは、そういう方たちがコミュニティーメディアに入っていって、コミュニティーメディアと一緒に調査報道をやったり、あるいは自分の取材の方法を教えるというやり方もあると思うんですよね。そういう意味で、いかにマスメディアが個人メディア、自分たちの抱える個人メディアをいかにうまく使っていくのかというところが僕はこれからの鍵になるんだと思いますね。

武田 真一
西日本新聞とか、あるいはNHKの帯広放送局がやっていることもそれに近いのかもしれませんけれども、視聴者や読者の皆さまの声をもとに何かを取材して、そして、その先にまた社会を変えていくとか、より住みやすくしていくとか。ただ報じるだけじゃなくて、読者と一緒に社会を変えていくというようなこともできるんじゃないかなというふうに僕は感じているんですけれども、大井さん、いかがですか。

大井 美夏子さん
メディアと市民って結構区分けしすぎっていうか、たとえばメディアの人、記者の人も、ひとりのいわゆる家庭人であったり、地域社会の人であったり、いろんなところにいろんな趣味とかでも関わっていると思うんですけど、そういった日常的な問題とかそういったものは自分たちの周りで結構あることなので、だから、そういう境界じゃないですけど、自分はメディアの人間であり、市民でもある、県民でもある、国民でもあるというような、そういう意識でたぶん取材してもらったら、その垣根というのも、「同じじゃん」と思うんですけど、「さあ、取材に行きますよ、メディアですよ」みたいにするとみんな構えてしまうところもあるので、そういった取材の持ち方というかもあったほうがいいんじゃないかなというのが思ったんですけど。

坂本 信博さん
先日ですね、アンケートをやったんです。「あな特」通信員1万人に、「あなたにとって『あな特』って何ですか」っていうことを聞いたところ、いちばん多かった答えが「社会参加」という答えだったんですね。64%の方が「あな特」イコール社会参加だと。つまり、社会への窓だというふうに答えてくださって、それはすごくわれわれも可能性を感じました。一方で、私たちにとっても「あな特」は社会の窓になっていまして、本来であれば自分たちで見聞きしないといけないものを、気づけなかった部分を読者の方に教えていただくというのが非常に多いというものを感じていますので、そこら辺に可能性があるのかなというのを感じています。



Journalism as a Service・貢献するジャーナリズム

古田 大輔さん
「Journalism as a Service」という言葉があるんですけど、サービスとしてのジャーナリズム、これ日本語にちょっと訳しづらいんですけど、「貢献するジャーナリズム」みたいな意味があります。じゃあ、何に貢献するのか。それは社会だったり、民主主義だったり、コミュニティー、その地域だったりするわけですよね。その地域の課題と、自分たちも地域の一員として向き合って、それをどうポジティブな方向に変えていけるのかということを、そのコミュニティーの人たちと一緒に考えて報じていくというような考え方というのが広がっていて、それも、結局、何の裏返しかというと、信頼性を失ってきた中で、じゃあ、われわれの価値って何なんだろうというふうに考えたときに、われわれはやっぱりもともと、やっぱりこのコミュニティーに貢献しないといけないんじゃないかという考え方が広がってきていると思うんですよね。だから、その意味でも本当に「あな特」みたいな取り組みだったり、大井さんの地域メディアみたいな取り組みが非常に重要なんだと思います。

坂本 信博さん
そうですね。ある方から言われたのは、最近、「あな特」の姿を見てローカルメディアとか地域メディアという意味の「ローカル」とか「地域」という言葉の意味が変わってきたよねと。今までは、なんとなく全国紙とか通信社があって、それぞれの地域に根ざした地方紙だったんですけども、問題の解決の糸口はすべてローカルといいますか地域にあるので、そこでしっかり根を張って取材をできる新聞社がこれからたぶん生き残っていけるんじゃないかということを言われたことがあってですね、それをどう実践につなげていくかというのはまだまだ工夫が必要ではあるんですけれども、希望はあるんじゃないかと思っています。

武田 真一
大井さん、いかがですか。そういう期待も含めて。

大井 美夏子さん
そうですね。あと身近な、たとえば市政とかの、そこに記者クラブとかもあるんですけど、若い記者ばっかりで、それは海千山千の行政とか議員の人から言われたことをあっさり信じてしまったり、生活の感覚がちょっとあまりなかったりしてて、本当に伝えなくちゃいけないというのがずれてしまっているところがあるので、それでしたら本当にいろんな有能なOBの記者の方っていっぱいいらっしゃると思うので、そういう人が地域に根ざした方がいらっしゃると思うので、常駐して、いろんなアドバイスだったり、追及のしかたとか、そういった会見の質問のしかたとか、そういったものをアドバイスしてあげたらどうかなとか思ったりするんだけど。

瀬尾 傑さん
教育なんですよね。大井さんのような方が調べようと思っても、やっぱりいろいろ、たとえば行政の手続きを知らなきゃいけないとか、そういう調査報道とかこういうのってある種のスキルが要るので、それを無手勝流でできるわけないので、それを大井さんは元通信社の小黒純さんとか、そういうアカデミズムとジャーナリズムの両方を知っている方がアドバイスをして調査報道できるようにしているわけですよね。だから、そういう意味でいうと、コミュニティーメディアを育てるためにも教育をどういうふうにつくっていくかということがすごく大事だと思うんですね。今までのメディアの世界というのは、テレビ局も新聞社も、あるいは出版社も、どちらかというとその教育を全部内製化していて、OJTでやるというのが基本方針だったんですけれども、メディアによってはその教育の仕組みを、なかなか最近は若い人がどんどん減ってきて、育てる場所がなくなっているということもあります。あるいは、たとえばコミュニティーメディアみたいなものも育てていかなきゃいけないということもあります。それを考えると、実は外部化していくことが大事だと思うんですね。本来、メディアの持っている教育の仕組み、これを、たとえば市民に開放して誰でも受けられるようにするとか、あるいは、いくつかのメディアで組んでそういう仕組みをつくっていくとか、そのジャーナリストを育てる教育というのがこれから僕は大事になっていくんだと思うんですね。

古田 大輔さん
アメリカで、いくつも調査が出ているんですけれども、全国メディアと地域メディアの信頼度を比べるという調査がいっぱいあるんですよね。どの調査を見ても地域メディアのほうが信頼度が高い。なぜなら、自分たちの身近なことを報じてくれているからだということで信頼度が高い。なので、やはりそこは本当に大きな強みなんですよね。もうひとつ僕が感じるのが、大井さんみたいな活動をされている方がアメリカはすごく多くて、地元で市民運動をしていた女性が自分でメディアを立ち上げちゃって、既存メディアの人たちの報道にないような報道を自分たちで独自にやる。そういう人たちを助けるまさにOBの方とかですね、既存メディアのOBの方とか、大学であるとか、研究機関の人たちが、そういう人たちをトレーニングするコースを設けているんですよね。そういうのがやっぱり日本で広がることも重要なのかなと思いますし、NHKみたいなところがそういうことをするとすごくいいんじゃないのかなと思いますね。

武田 真一
あらためてお伺いしますが。大井さんは、どういう思いで情報発信を今されているんですか。

大井 美夏子さん
やっぱり、おかしなものを見つけて、そのままにしているのもちょっと我慢ができなかったのもありますし、そういった集めた資料をせっかく新聞社とか、何社にも全部提供して、こういう問題が起きているとやっても、ちょこっと書いて終わりとか、そんなものは行政のほうでも痛くもかゆくもないわけなんですよ。だったら、やってくれないんだったらこちらで、という形で始めたんですけど、やらなくちゃという使命感というよりは、書くのがおもしろかったり、取材がおもしろい。料理と同じで、いろんな材料を集めてきて、私の場合、公文書なんですけど、いろんな資料を集めてきたら見えるものがあって、それをどういうふうに伝わるようにできるかというのを表現の方法をいろいろちょっと考えるのが楽しいんですよ。だから、新聞社の人たち、そういうね、信頼と実績という新聞社の看板背負って名刺持ってらっしゃるんだったら、本当に、どんどん、どんどんね、聞きに行ってほしいぐらいですよ、本当に。貸してほしいぐらいなんですよ。いろんなところに聞きに行きたいぐらいなんですけど。

坂本 信博さん
われわれ、LINEでつながっている方は、あえてフォロワーじゃなくて「通信員」と呼んでいるんですよね。

武田 真一
通信員?

坂本 信博さん
はい。一緒に報道をつくっていく仲間ということで、情報の送り手と受け手ではなくて、一緒によりよい報道をとおしてよりよい社会をつくっていきましょう、課題解決を目指しましょうということで、あえてそういう呼び方をしているんですけど、それで、自分で調べたことを大井さんみたいに報告してくださる方もいて、その方の情報のやり取りをもとにして記事を書いていくということもあるんですよね。そういう意味では、今おっしゃったような、市民の方で地道に調査報道されている方と既存の報道機関が連携するのは十分ありえるんじゃないかと思っています。そしてまた、われわれに協力していただいた方がわれわれのファンになってくれるという。新聞記者はお金を稼ぐんじゃなくて、信頼を稼いでファンを増やすというのがこれからの仕事だと思っているので、そういう意味では一緒に連携してつくっていくという信頼関係を紡ぎつつ、協力関係も大事にしていくというのが大事なんじゃないかなと思ってます。

武田 真一
瀬尾さん、どうですか。この読者・視聴者とメディアが共に協業していく上で、どういう課題があって、どういうハードルがあるのか。

瀬尾 傑さん
僕は、まず、これは、メディア側が読者や市民を信じることだと思うんですよね。あらためてメディアの世界では最近やっぱり「読者開発」とかいろんな言葉があったりする、で、読者と向き合うようになっているんですけれども、やはりその中で「上から目線」とかいわれることは、やっぱり読者をまだ信じきれてないんじゃないかと思うんですよね。きょう議論した中でも出てきた、たとえば取材過程の透明性、あるいは、コミュニティーメディアを巻き込んでいく、あるいは市民に参加してもらうということは、前提として僕らがやっぱり読者・ユーザー・市民を信じているということなんです。その原点に戻るということが僕は大事なんだと思います。

古田 大輔さん
それ、本当に感じていて、いろんなところで今いわれているのが、「信頼を得る第一歩は相手を信頼することだ」と。そこによって初めて関係性が生まれて、その関係性を通じて信頼を獲得することができるというふうなことをいろんな今メディアで言われていて、そういう取り組みを初めていると、「あな特」みたいに相手の話をまずは聞いてみて、通信員という立場で対等な立場で話をしていくであったり、大井さんみたいな方と協業するようなパターンもそうでしょうし、そういうものこそが市民とメディアというのを2つに分けるのではなく、一緒な存在として位置づけることができるんじゃないのかなと思います。もともとメディアってそうだったはずじゃないですか。もともとメディアって僕は市民と一緒にいると思って働いていたんですけど、気づいたらそう思われてなかったと。だから、そこをもう一度見つめ直して、一緒に働く、一緒に過ごすのにはどうしたらいいのかということを考えないといけないと思います。

武田 真一
大井さん、いかがですか。何をしてくれたらメディアを信用してみようかなというふうに。

大井 美夏子さん
いわゆる声を出せない人たちの代わりに、権力監視なり、そういったできない部分をプロとしてしっかりやっていただけたら、「頑張れ」という感じで応援したいとは思うんですけど。本当にそれができる立場にいるのであれば、どんどん書いて、どんどん監視して発信していっていただいたら、それこそ本当に「頑張って」という感じでファンが付くし、みんな応援すると思うんですよ。難しい言葉をいかに市民に分かりやすいように表現して伝わるかというのを本当にやっていただいたら、“やっぱりやってくださるのはメディアとか記者の人たちだな”というので信頼関係が少しずつ上がってくるというか、じゃないかなと思うんですけど、

坂本 信博さん
大事なのは、社会にとって必要なインフラだと思ってもらえるかだと思うんですよね。そのためには、新聞が今までのアウトプットのやり方を変えてでも、まず、読者とつながって、そして、そういう読者とつながる地域メディア同士がつながって、社会とか地域課題をよりよい方向につなげていく。そのためにこの仕組みは必要だなと思っていただければ、もしかすると、古田さんにおっしゃっていただいた寄付によって報道が運営されていくということも決して夢物語ではないと思っています。というのが、今の1万人の読者からの、通信員からのつながりとか反応を見ると、決してそれは非現実的じゃないんじゃないかなというのを感じています。

古田 大輔さん
10年前と大きく変わったことがあるんですね。それは何かというと、インターネット上でクレジットカードを使ってお金を払うという行動が毎日の生活の一部になったんですよね。皆さん、何かにインターネットで買ったことがある人がほとんどになったわけです。そうしてくると、それをクリックをひとつしてもらうだけでお金を払ってもらえる。それは本当に10年前の世界とは全然違うので、やっぱり、今、もう一度そういうところにチャレンジする必要があるんじゃないかなと思います。



読者や視聴者から信頼されるメディアとは

武田 真一
坂本さん、最後に、私たちが読者や視聴者とどういうふうな関係を築いていけばいいのか、そこについてはどういうふうにお考えですか。

坂本 信博さん
20年前に記者になったときに先輩から言われた言葉で今もずっと心の中にある言葉があるんですけども、自分たち記者というのは、読者の代わりに、忙しい読者の代わりに、自分の時間と体とお金と頭を使って、読者が知るべき情報、知ったほうがいい情報、知りたいことに応えるのが自分たちの仕事なんだと言われました。それは、新聞社がどう変わろうと、たぶんそれは変わらないと私は信じています。一方で、情報の届け方とか、読者とのつながり方というのは、新しく出てきたネットとかデジタルというものをうまく使っていければ、われわれが生き残る道があるんじゃないかなと思っています。それは何かというと、われわれ記者はお金を、直接個人でお金を稼ぐわけではなくて、収益そのものに結びつくような記事とやっぱりジャーナリズムというのは一線を引くべきだと私は思っていまして、その代わり、ファンを稼ぐこと、信頼を稼ぐこと、それがわれわれ記者の仕事だと思っていますので、そのためには読者を、情報の受け手・送り手と二分するのではなくて、一緒に報道をつくっていく仲間ということで信頼して、お互いまた信頼されてよりよい報道をつくっていけば、それが社会に必要なインフラということで評価されて、ひいては新聞の収益性とか生き残る道につながってくるんじゃないかなと思っています。

古田 大輔さん
僕は、坂本さんのおっしゃることにまったく賛成なんですけど、1点違うところがあるとすれば、新聞ではなく、僕はジャーナリズムだと思うんですよね。なので、それは新聞が果たすべき役割であり、でも、同時にインターネットメディアであったりNHKであったり、大井さんのようなメディアであったり、みんながジャーナリズムという観点から果たさないといけない役割なのかなと思っています。

瀬尾 傑さん
デジタルそのものは恐れるものじゃなくて、むしろチャンスとして使えるものだと思うんですよね。新しいコミュニティーをつくったり、コミュニケーションをつくったり、あるいはリーチが広がる。新しい読者、たとえばローカルメディアでも、もしかすると全国あるいは全世界へ発信できるかもしれないという、いろんなチャンスがあると思うんですね。そういう意味でいうとジャーナリズムが大事だし、それがたぶん僕は1番の価値だと思っているんですけれども、一方で、要するにビジネスの部分、あるいはそれをどう届けるかというのは、そこから切り離すことが大事だと思ってるんです。アメリカの「ワシントン・ポスト」が、今、アマゾンのジェフ・ベゾスが出資して、ある意味、デジタルカンパニーになっています。できた記事を紙に載せるのがいいのか、あるいはデジタルに載せるのがいいのか、あるいはデジタルでも、それは普通にネットに流すのがいいのか、インスタグラムに流したほうがいいのか、ツイッターに流したらいいのかということを、つくっている人たちと別の部隊が判断するような仕組みになっているんですね。実は、これからの時代は、それをどこの最適化した場所にどう出していくかということが大事なので、それを全部が全部、ジャーナリズムの現場でやってきた人が判断するというのは難しいんだと思うんです。だから、それを要するに、デジタル時代に合った組織にどう変えていくのか、あるいは意思決定の仕組みをどう変えていくのかということがすごく大事だと思うんです。それが、最適な人に、いいコンテンツがいい読者に届くように、最適な読者に届くようになれば、そのことが結局、信頼をつくっていくことになると思うんですね。だから、そういう意味でいうと、いかにそういう新しい組織に、意思決定できる組織に仕組みを変えていくかというところが勝負なんだと思いますね。

武田 真一
きょうは本当にいろんなお話をお伺いして、私自身も、テレビって若い人たちはどんどんテレビ離れが進んでいるというふうにいわれていて、どうなってしまうんだろうというすごく大きな不安があるんですね。僕はキャスターという立場で、直接取材をするわけじゃないし、チームの一員にすぎないんですけれども、僕の立場で何ができるかということを考えたら、それは何かデジタルとかいろんな難しいことだけじゃなくて、やっぱり視聴者の皆さんといかに信頼感をもってつながれるか、信じるか、信じられるか、これはやっぱり、なんでしょうね、そこに働く者のひとりとして、僕なんかは直接的にその態度や言葉で表せるんですよね。いかに誠実に視聴者の皆さんの共感を感じ取って伝えるのか、そういうことはできるかなというふうに思いましたし、いちばんの収穫は、古田さんとか瀬尾さんとかね、ネットのすごいいろんな技とか事情をご存じじゃないですか。なんかそういうことをやらなきゃいけないのかなと思ってたんですけど、信頼なんだと。そこは、マスコミで働く一人ひとり、みんなできるなと、これもっとやらなきゃいけないな、やる余地があるなというところは、きょうはすごく、なんというか、安心もしたし、大きな課題だなというふうに思いました。

坂本 信博さん
そういう意味では、地域メディアは危機の時代ではありますけども、またチャンスの時代といいますか、読者と本当につながることができることになってきましたし、その信頼というものを、本来の姿とすごく近い形で培っていける時代が来たので、本当におもしろい時代に入ってきたんじゃないかなと思っています。

武田 真一
いかがですか。大井さん、最後に。こんなことでわれわれの決意を少し、あらためたつもりなんですけれども。

大井 美夏子さん
でも、やっぱり市民の人はみんなメディアに期待をしていると思うので、それにやっぱり応えるために頑張っていただきたいというのは思いますし、メディアがだめになったら本当に地域がゆがむので、心の底から「やってください」という感じで応援したいとは思ってるんですけど、はい。応援したいと思うような記者の方がどんどん出てほしいなと。

坂本 信博さん
頑張ります。

武田 真一
はい。頑張ります。ありがとうございました。



この対談の内容も含めた
「あなたのニュースで社会が変わる ~信頼のジャーナリズム~」の放送内容はこちら
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4389/index.html

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