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【未公開トーク】身体拘束削減への取り組み それぞれの苦悩

【未公開トーク】身体拘束削減への取り組み それぞれの苦悩

2019年10月25日
  • 認知症
  • 高齢者

10月16日に放送した「徹底討論! それでも必要?一般病院の“身体拘束”」には、これまで身体拘束の削減に取り組んできた病院の医師・看護師が出演しました。
いずれの病院でも、削減を目指す道のりは平坦ではなかったといいます。
番組でお伝えしきれなかった発言をここに掲載します。

【内田病院】身体拘束削減を支えた トップの強い意志

内田病院は群馬県沼田市にある、病床数およそ100床のケアミックス病院(一般病棟+回復期リハビリテーション病棟)。長年「縛らない認知症ケア」に取り組み、実践してきました。それを支えてきたのは、現理事長の田中志子さんの強い指導力だといいます。

身体拘束の削減に取り組んでもう15年以上たつんですが、当時の院長の娘の田中現理事長が病棟に行って、片っ端から患者さんをほどいて回ることから始まったんです。それを見て、私たち看護師は“院長の娘、何してくれるんだ”という思いで、あとを追って縛っていく、そんなことをずっと半年ぐらい繰り返しました。でも、田中現理事長としては、私たちケアしているスタッフが疲れ果てて、困り果てている姿を見て、本当に何とかしなきゃいけないと思って取り組み始めたそうなんです。


介護にしても看護にしても、すごく愛情が深く、いい仕事をしたいと思って職に就かれている方がほとんどだと思います。そういう方たちが、身体拘束はやりたくない、やりたくないけどやらないといけないというような思いの中に入り込んでしまって、いまの現状から抜け出せないというようなことがあります。そこで私たちは身体拘束を外すことを、各部署で競争しながらやっていきました。するとみんなが「苦しい」から「楽しい」に変わってきたのです。

看護師さんの数だけを見ていくと、そんなにどの病院も変わらないと思うんです。ただ、私たちの病院では昼間、リハビリの職員も、医師も、事務の職員も、できるだけ病棟で仕事をするようにしています。看護師さんだけでなくて、その人たちも患者の見守りをしたり、リハビリをしたり、話をしたりというようなことをしています。その結果、看護師さんの人数は変わらなくても見ている目がすごく多くなります。

また、人の配置や時間のずらし方なども工夫しています。病院はあまりにも、患者全員が同じ時間に食事を食べるとか、全員で同じ時間に排泄のケアをするとか、もっと(時間などを)ずらしたら人手を上手に配分できるところがありますので、その工夫もしています。




どこの病院でも、上司1人だけでも、部下1人だけでもだめで、いかに上下を越えて、職種を越えたチームを作り、拘束ゼロに向かっていくことが必要だと思います。そして、初めの一歩をみんなで重ねていって、同じような症例があれば、あのときのやり方を試してみようというふうに、できることをどんどん増やしていくことだと思います。

1つ誤解のないようにいうと、全部の病棟が身体拘束ゼロにできるとは思っていないんです。本当に命のために必要な身体拘束はありうると思うんですけども、それを見極める力を医療従事者は高めないとけないと思っていまして、理想論と方法論をセットで持っていくってことがすごく大事だと思っています。


疲弊した現場の医療従事者をどうにかしたいと、トップの旗振りで始まった身体拘束削減の取り組み。職種を越えた連携と、具体的なノウハウの蓄積が必要だということでした。

【金沢大学附属病院】身体拘束を減らしたのは 医療者自身のため

金沢大学附属病院は病床数800を超える、急性期の病院です。5年ほど前から、看護部全体で「身体拘束削減」の目標を掲げて取り組んできたといいます。

当院の場合は看護部目標に身体拘束の削減が挙げられました。しかし、現場では抑制(=身体拘束)はしたくない、でも身体拘束はせざるを得ない、安全のためにやっているという意識があり、拘束削減を目標に掲げてもみんな無理とスタッフは言っていました。特に夜間を守るリーダークラスが無理ということを言っていました

ただ、縛るということで、患者さんが元気になったあともその記憶は残ります。それから、ご家族もそういう場面のつらい気持ちが残ります。だから、できるだけ身体拘束をなくしたいなという気持ちもあって取り組みを始めました。




当院の場合は急性期の病院ですので、体にチューブ類が複数入っています。そのチューブ類の中には抜かれると2度と入れられないチューブがあったりと治療にすごく影響を及ぼすようなものもあります。そこで、抜かれないように抑制をするのですが、抜かれる場合はあります。さらに、抑制すると興奮をされますので、ベッドから転落することもあります。絶対に転倒・転落を防げるかとか、チューブ類の自己抜去を防げるかといったらそういうことではない、100%防げるわけではないと思います。そこで、当院の場合はそうならないためのケアをどんどん、いろいろ考えて採り入れていったんです。

患者さんがベッドから下りる理由があったり、ルートを触る理由があるので、そこをきちんと評価して、先回りしてケアをしていく工夫をしました。抑制をするかとか、抑制をいつやめるかとか、そういうことに終始した意見交換だとそこから広がらないので、患者さんがどんなケアを必要としているかを意見交換するようにしました。

患者が入院する前から情報を収集しました。入院生活は非日常なので、できるだけ日常性を高めるために、ご家族から入院前の生活の情報をお聞きし、いろんな不快なことをどんどん減らすことに取り組みました。

そうすることで患者さんが穏やかになったり、眠れるようになったりします。それを見て、私たちはうれしい、良かったという気持ちになり、またケアに取り組むというような形になっています。


急性期病院では、患者の命を守るために身体拘束が必要だという声が少なくありません。しかし金沢大学附属病院では、患者をよく観察し、先回りしてケアを行うことを大切にし、細かな工夫を積み重ねたことで、身体拘束を減らすことができたと言います。

【調布東山病院】身体拘束削減の取り組みを続ける苦悩

調布東山病院は病床数およそ80の急性期病院です。6年前から身体拘束の削減に取り組み、拘束の割合は年々減っているといいます。現場の看護師が疲弊していたから削減に取り組んだというこの病院は患者のケアの見直しから始めたそうです。

6年前、これからますます増える高齢者に対して何ができるかと考え、認知症について勉強を始めました。それは疾患についてではなくて、自分たちが接してる事例を持ってきて、自分はどういうふうに関わり、そのあとチームでどういうふうに関わって、その結果どうだったか、いいところとか、悪いところとか、みんなで検討し合いました。そうすることによって患者さんとの距離が近くなりまして、いろんなケアもかなり変わってきました。


例えば当院では、夜間、点滴を抜かれたくないから抑制するということがありました。そこで、ドクターたちに協力を求めて「本当に夜、点滴をやらなくてはいけませんか?」「本当に必要なんであれば、人手の多い昼間の時間だけにしましょう」ということをみんなで話し合いました。看護師さんたちだけでこの問題をどうにかすることは絶対できなかったと思います。


最初はかなり負担でしたけど、だんだんやっているうちに、それが面白くなってきました。継続してやることが、かなり私たちにも力になるかと思います。ただ、私たちの病院は急性期で、80歳以上が半分ぐらいを占めていて、夜間にもよく入院してきます。それで疲弊して辞めていく方ももちろんおります。


身体拘束を削減するために何をしたらいいのか、試行錯誤して見えてきたようですが、まだ拘束ゼロには届かず課題もあるようです。身体拘束を減らすためにやらないといけないこと、続けるために必要なことを理事長が現場の目線だけでなく、経営者目線でもその苦悩を吐露していました。

経営層が身体拘束の削減に向けて、同じ方向を向くということがまず大事だと思います。ただ、私の経験でいうと、私たちがこうしたいと言っても本当に現場の看護師さんは疲弊しきっていて「そんなこと無理」と言われます。それでもやり続けることが大事だと思います。やり続けていくと、ときどき、現場で同じ思いを持ってる人が頑張ってくれます。現場でその人の姿を見たり、患者さんの変化を目の当たりにしますと、「どうしてそんなことができたの?」「あの患者さんが笑ってありがとうと言っている」などの思いがわき上がってきます。それは現場どうしが響き合い共感してきたんだと思います。そうなるまでに時間はかかりますが、そこは諦めてはいけないと思います。

認知症はケアも大事ですし、治療も大事です。ケアについては、教育が大切です。例えば、夜、時間ごとにおむつ交換のチェックをするという教育を長年受けています。それを、起こさなくていいんだということを身体拘束の削減の取り組みで私たちは知りました。そこから、私たちが今まで当たり前だと思ってやっていたことが、実は、やらなくていいことだったということが、いくらでもあるということをもっと知らないといけないなと思っています。治療についても、私も含め医師がもう少しせん妄を起こしている理由は何か、薬の使い方など、医学的な視点できちんと理解しないといけないと思っています。




当院は急性期の病院なので夜間には40人弱の患者に3~4人の看護師を確保し、さらに看護助手さんをなるべく配置する努力をしてます。しかし、なかなか夜のハードなお仕事に参画してくださる看護助手さんはいらっしゃいません。採用のときにお給料を上げて何とか来ていただくようにすると、今度は経営的にかなり厳しく、ほとんど利益が出ない状況になります。それでも、医療で患者様を治すのがわれわれの役割です。それに向かって頑張ってくれる現場の医療従事者のやりがいを維持するためには人を増やさないといけません、そのジレンマに非常に悩んでいます。

ただ、この数年の身体拘束を削減する取り組む中で、どうしたら患者さんが落ち着くのか、スタッフがやりがいを感じるのかを私たちは知ってしまいました。メリットを知ってしまった以上、やっぱり負けたくありません。ちゃんと患者様のためにも続けていきたいと思っています。


身体拘束を削減してきた病院の取り組みには「トップが毅然と方針を示す」「現場の看護師まかせにしない」「多くの職種で連携する」といった共通点がありました。一方で、スタッフを増やすことで経営が厳しくなるなどの構造的な問題の指摘も出ています。
身体拘束の問題を中心に、今後も高齢者医療のあり方について取材を続けていきます。引き続き、みなさまのご意見をお寄せください。

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