気候危機を回避せよ!激変する金融の世界

気候危機を回避せよ!激変する金融の世界

2019年10月21日
  • 温暖化

銀行が変わる!

 
 グレタ・トゥーンべリさんの涙の演説が注目されたニューヨークの国連本部で、9月22日、画期的な署名式が行われました。130の銀行が、「責任銀行原則」と呼ばれる新しい方針に署名、今後、気候変動への影響を考慮しない融資は行わないと誓ったのです。グテーレス国連事務総長は、5000兆円を超える総資産を持つ世界の銀行のトップを前に語りかけました。
 「私が最も強くお願いしたいのは、気候変動対策に投資し、化石燃料への投資をやめることです。1つ1つの銀行が、自分たちのビジネスを責任銀行原則という目標に合わせていけば、変革を起こすことができます」
 この原則は、「温暖化対策の国際合意であるパリ協定の目標達成に整合性のないような融資は行わない」ということを意味します。
 日本で署名した銀行は、三菱UFJ、みずほ、三井住友、三井住友信託の4つのグループで、大きな期待が寄せられています。ただ、署名したということは、本当に約束を守っているかが問われる、ということでもあります。グテーレス国連事務総長は、地球温暖化を1.5℃未満に食い止めるためには、2020年以降の石炭火力発電所の新設を禁止すべきと訴えています。日本の三大メガバンクも石炭火力への融資を見直す方針を発表しましたが、すでに計画を進めている発電所への融資は撤回せず、慎重に検討するとしています。このため世界のNGOは、脱石炭への動きが十分ではないと批判しています。果たして今回の署名を受けて、どこまで本気で地球のミライを守るリーダーシップを取れるのか、大きな注目が集まっています。

TCFDって何??

 こうした動きを後押ししているのは、TCFDという流れです。なにやら呪文のようですが、これは、Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略で、日本語では、気候関連財務情報開示タスクフォースと呼ばれています。金融機関や企業が持っている気候変動に関する財務情報を公開することで、どれだけのリスクとチャンスがその企業にあるのか、“見える化”しよう、という動きです。今、世界では、大手金融機関に加え、メジャーと呼ばれる大手石油資本のシェブロンやロイヤル・ダッチ・シェルといった化石燃料産業も含めた800社以上が署名しています。実はTCFDは日本でもトレンドになっていて、世界で最も多い190社以上が参加しています。
 10月8日、世界初のTCFDサミットが東京で開催。菅原経済産業大臣が出席し、金融界や産業界のトップが集まりました。イギリスの中央銀行にあたるイングランド銀行のカーニー総裁は、「気候危機を回避するために、今こそグリーン投資が求められている」と訴えました。


気候変動対策が“指標”になる!

 投資家に投資判断の目安となる指標を提供する金融情報サービスの世界最大手、MSCI社もこのサミットに参加しました。幹部のベア・ペティットさんがアピールしたのは、気候変動に関する情報開示の大切さです。今年6月に発表した新たな指標「気候変動インデックス」では、こうした情報をもとに企業の価値を評価しているといいます。例えば、石炭など化石燃料を多く使用したり、石炭に関連する会社に投資したりしている企業はリスクが大きいと判断。逆に、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの利用などの対策をとっていたり、これらに投資しているような企業は高く評価します。


MSCI社のリサーチ部門でマネージングディレクターを務めるローラ・ニシカワさんは、気候変動対策は大きなビジネスチャンスにもつながると語ります。


「投資家が本当に気にかけているのは、企業の将来にわたる気候変動対策です。投資を取り巻く環境は劇的に変わりました。気候変動を考慮しない投資は、もはや考えられません」
 皆さんにお伝えしたいのは、ここ数年で、企業の“通知簿”の付け方が大きく変わった、という事実です。今までは、短期的に利益をあげる会社が良い会社とされ、金融界もそこに投融資を続けてきました。しかし、異常気象が相次ぎ、まさに気候非常事態といえる経済被害が現実となるなか、もっと中長期的な視点で“気候危機を食い止めることに貢献している会社”が良い会社、という時代に突入したのです。
 私たち市民も、そういう観点で銀行や企業を選ぶことができます。私も実は、石炭火力発電所への融資が多い銀行から、再エネ支援に力を入れている銀行に貯金の一部を移し変えました。ささやかなことですが、金融には世界を変える力があると思ってのことです。皆さんもぜひ、気候危機と金融についてチェックしてアクションを起こしてみてはいかがでしょうか?きっと地球のミライを変える力になると思います。

(地球のミライは私たちの手に 取材班 プロデューサー堅達京子)


NHK「クローズアップ現代+」では、「地球のミライ」についてみなさんと一緒に考えていきたいと思っております。私たちができること、いまあなたがやっていることを教えてください。

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