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【性暴力を考えるvol.17】伝えたい 正しい知識と考え方 ~性教育YouTuber シオリーヌ~

【性暴力を考えるvol.17】伝えたい 正しい知識と考え方 ~性教育YouTuber シオリーヌ~

2019年9月13日
  • 性暴力

「コンドームをこのままお財布に入れてる人いませんか?それ、めちゃめちゃNGです!袋のまま保管していると、傷がついたり破れてしまったり。劣化を促すことにつながります。」

カメラに向かい、明るい声で解説しているのは、“性教育YouTuberのシオリーヌ”こと、助産師の大貫詩織さん(28歳)。
彼女のフォロワー数を示す「チャンネル登録者数」は4.6万人で、130万回以上再生されている動画もある(2019年9月8日現在)。視聴者の6割が24歳以下の若者だという。なぜ、YouTubeで性に関する話題の発信を始めたのか?本人に話を聞いた。

性の話を、もっと気軽に オープンに

シオリーヌさんが “性教育YouTuber” としての活動を始めたのは、ことし2月。大学を卒業後、助産師・看護師として、総合病院の産婦人科や、精神科の児童思春期病棟で働いてきたことが、性教育に興味を持つきっかけとなったという。
「とくに産婦人科では、さまざまな女性と接しました。予備知識のないままに性行為に及んだことで、予定外に妊娠してしまったり、不安や悩みを抱えていたりする人も多かった。助産師は妊娠してからしかその人に関われないけれど、もっと早い段階から、助産師の知識を生かして 性に関する正しい情報や考え方を伝えなければと考えるようになった」

シオリーヌさんは、助産師・看護師として働きながら、新たに「思春期保健相談士」という資格を取得。2年ほど前から、各地の小中学校やフリースクールなどで性に関する出前授業や講演活動を始めた。しかし、1回の出前授業で伝えられる知識の量には限りがある。さらに学校によっては、「生徒への刺激の強さ」を理由に、避妊の方法など具体的な解説が許されないこともあったという。

「“コンドームのイラストを見せるのはいいけれど、本物は見せないでほしい”と言われたり、“学校が性行為を推奨していると思われるといけないので、コンドームがどこで買えるかなどの具体的な情報を伏せてほしい”と頼まれたり。子どもたちが一番気にしているところほど、しっかり伝えられない…とジレンマを感じることがあった」。

シオリーヌさんの動画から。袋の開封から装着時に気をつけることまで、実物を使って解説している。

男女のからだのしくみや性行為について、できるだけ詳しく伝えたいと考えていたシオリーヌさん。子どもたちにメッセージを直接届けることができるYouTubeを使って、性教育のビデオを配信することを思いつく。
「日本の教育現場が一歩踏み込んだ性教育に二の足を踏んでしまうのは、早い時期に性教育をすることで、興味本位で性行為に及んで、望まない妊娠や中絶が増えるかもしれないという考え方があるから。でも、子どもたちにも、“みんないつかセックスをすることがあるかもしれない“という前提で、包み隠さず伝えていった方が、悩みを持ったときやトラブルに巻き込まれてしまったときに大人に相談しやすいと思う。具体的なことを何も言わないから、みんな相談の声さえあげられない」。

同期の看護師に相談すると、「わたしが編集を覚えるから、やりなよ!」と賛同し、映像編集ソフトの使い方を覚えてくれた。スローガンとして決めたのは、「性の話を、もっと気軽に オープンに」。かくして、“性教育YouTuberのシオリーヌ”が誕生した。

“みんな一人ぼっちで悩んでいる”

いまは撮影から編集までほぼ一人でこなすシオリーヌさん。ひとつの動画を作るのに必要な時間は約4~6時間。「思春期の子どもたちが飽きないテンポにするよう、常に必死です」

「安全日・危険日っていつ?本当にあるの?みんなの疑問を徹底解説!」「性的同意って何だろう?恋人とのより良い関係のために大切なこと」 ―――。
シオリーヌさんがYouTubeに動画をアップしはじめると、すぐに多くの反響が集まった。「学校の授業ではぐらかされたことが知れてよかった」「こういうの、男子にも女子にもみんなに見ておいてほしい」動画を支持してくれた多くが、24歳以下の若者たち。しかし、“子どもに性のことをどう伝えたらいいか分からなかった”という親世代からも、「動画があることで、家族で会話するきっかけにできた」とお礼のメッセージが届いた。ある学校の養護教諭からは、「教師が伝えようとしても聞く耳を持たなかった生徒たちが、“人気YouTuberの動画だよ”と言って見せると、真面目に耳を傾けてくれた」と感謝された。

そして、反響が大きくなるにつれ、シオリーヌさんの元には、性的なことで悩む人たちからの相談も相次ぐようになった。
「『避妊に失敗し、妊娠してしまったかもしれない。誰にも言えない』とか、『私はまだセックスしたくないのに、彼氏が“好きなら当然だろ”と迫ってくる。どうすればいいですか』とか…本当にみんな、八方塞がりのなかで悩んでいる。もともと何が正しいのかさえ分からないから、自分がいけないのか?という不安も抱えていて、性のことでトラブルがあっても家族に打ち明けたり、病院に行ったりすることもできていない。」

YouTubeのライブ配信やほかのSNSで相談に応じるにつれ、シオリーヌさんは、孤独に悩んでいる人たちが、まずは『病院や支援窓口に相談する勇気を持つ』ことができるように寄り添うのが、助産師・看護師の資格を持つ性教育YouTuberとしての自分の役割だと考えるようになったという。

“いやなことはいやと言う姿も見てほしい”

シオリーヌさんの動画から。性に関する情報を発信している人や団体と「コラボ動画」も制作する。

実は、性に関する話題をネットで発信するようになったことで、シオリーヌさん自身も、望まぬ性被害を受けるようになったという。
「いきなり知らないアドレスから、男性器の写真が送りつけられてきたり、視聴者の相談にのるライブ配信(ネット上の生放送のこと)中に、『足の裏を見せて』と言う要望がきたり、『ムラムラしたら連絡していいですか?』と言われたことも…。オープンに性の話題を発信することは、セクシャル・ハラスメントを受けていい理由にはならないはず」。

YouTubeでは明るく親しみやすい振る舞いを心がけているが、傷つき、恐怖を感じることも少なくないというシオリーヌさん。しかし、YouTube上での性被害に対しては、勇気を出し、真正面から向き合うようにしている。
「(性的なからかいの)コメントを無視しないで、『それ気持ち悪いです』『そういうのは嫌です』とハッキリ突き放すようにしています。わたしの動画を見てくれている若い女の子たちに、いやなことはいやと言っていい、怒っていいんだと、まずは自分の姿勢で示したい。性的なからかいをジョークにしてうまくあしらうという対処法もあるんでしょうけれど、それが賢い女性の振る舞いだとは思ってほしくないです」。

今後の目標は?と尋ねると、「まずはYouTubeのチャンネル登録者数を10万人にすること。もっとたくさんの人に動画を見てもらいたい」とはにかんだ。助産師・看護師の資格を持つ仲間と協働して、性に関する悩み相談や質問を受け付ける仕組みづくりも構想しているという。「助産師が持っている知識は、お産に関わるとき以外でも役立てることができるはずです。性に関する正しい知識と考え方をしっかり伝えていくことが、私たち大人の責任だと思っています」。
誰が、いつ、どこまでの知識を、どのように伝えるべきか。性教育のあり方には、正解がないかもしれない。しかし、シオリーヌさんのように、悩みを抱える人たちと同じ目線に立ち、性のことを隠さず、ともに語らおうとする人たちの取り組みが、互いの性の尊厳を守りあえる社会の実現につながるのだと信じたい。

NHK「クローズアップ現代+」では、性暴力の問題を継続的に取り上げ、ホームページ「みんなでプラス」で 取材経緯やさまざまな情報を発信しながら、皆さんと一緒に考えています。あなたの気持ち、意見などをお寄せください。

(クロ現+ディレクター 飛田陽子)

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