クローズアップ現代

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「記憶の解凍」-色彩がつなぐ、戦時中の暮らし-

「記憶の解凍」-色彩がつなぐ、戦時中の暮らし-

2019年8月6日
  • あちこちのすずさん

戦時中の暮らしの記憶を語り継ぐ「#あちこちのすずさん」の取り組み、NHK以外でも広がっています。

上記の写真奥に写っている建物は広島県産業奨励館。原爆ドームの被爆前の姿です。 いま、戦前・戦時中の白黒写真を、最新のAI技術と当事者の記憶を元に、カラー化する試みが行われています。カラー写真として復元されたとき、目の前によみがえる過去の記憶。凍りついていた戦前・戦時中の記憶を“解凍”する取り組みを紹介します。

戦時中の暮らしを、もっと身近に

スマートフォンのアプリを起動すると、広島市の平和公園の航空写真が映し出されます。その上に、浮かび上がる30枚ほどの写真。その1つをタップすると、戦前、広島市の繁華街だった場所で撮られた白黒写真が画面上にアップされ、ゆっくりとカラー写真に変化していきます。

「記憶の解凍」と名付けられたこのアプリ。戦前・戦時中の白黒写真をカラー化することで、原爆で失われた広島の街や暮らしをより身近に感じてほしいと、広島の高校生、庭田杏珠さんと、東京大学大学院の渡邉英徳教授との共同研究によって開発されました。

原爆ドームとなった産業奨励館を背にして並ぶ兄弟の写真。



スイカを食べる家族。


すべて、爆心地となった市内中心部で、被爆前に撮られた写真です。

さらに、このアプリを使って平和公園を歩くと、写真が撮影された場所までの距離や方角が示され、その場所まで道案内してくれます。

アプリ開発のきっかけは、庭田さんが、白黒写真のカラー化に取り組む渡邉教授の研究に興味を持ったことから始まりました。もともと、「被爆者の想いの継承」の活動をしていた庭田さん。被爆前の広島の写真を集めて、カラー化したいと渡邉教授に提案したといいます。

「白黒のご家族の写真は、戦前の時代にストップした人でしたが、カラーにした時、自分たちと変わらない暮らしがあったんだなっていうのがすごく伝わってきました。それが原爆によって一瞬のうちに奪われたということが、カラーにすると感じてもらいやすいと思いました」(庭田さん)


色彩とともに、よみがえる記憶

取材をした日、写真のカラー化をしていたのは、昭和13年ころの広島市中心部で撮影されたこいのぼりの写真。


まず行うのは、AIを使った自動色づけ。200万枚以上のカラー写真のデータを学習したソフトで、自動的に色を判別します。さらに、AIで判別できない色は、資料などを参考にしながら、手動で色をつけていきます。

「人工物の色は千差万別なので、人工知能は分からないんです。いろいろな資料を基に人が色をつけていかなければならない」(渡邉教授)


色づけしたあとは、写真を提供してくれた方と対話を重ねながら、色の補正をしていきます。写真の持ち主、吉川正俊さんです。


写真が撮られたのは、当時旅館を営んでいた吉川さんの家の裏庭。右側の小さな男の子が、2歳の頃の吉川さんです。


色づけされた写真を眺めながら、当時のことを話しているうちに、吉川さんに、忘れかけていた記憶がよみがえってきました。

「抱かれているのは、妹ですね。これは、おふくろじゃないですね、お手伝いさんですね。」(吉川さん)

それまで、写真に写っているのは、母親だと思っていた吉川さん。しかし、カラー化した写真をよく見るとお手伝いの女性であることを思い出しました。

「おふくろと接触する時間帯ってないんですよ。お手伝いさんだったんだ、やっぱり。すごく優しい人でした。夜一緒に抱えられて寝てました。母親の代わりに」。(吉川さん)

最新のAI技術と、被爆者との対話により、“解凍”される戦前・戦時中の記憶。庭田さんと渡邉教授は、写真のカラー化を通して、記憶を少しでも掘り起こし、伝えていきたいと考えています。

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