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ディレクターは見た!「古代の航海 徹底再現プロジェクト」のスゴイ!を改めてまとめてみた

ディレクターは見た!「古代の航海 徹底再現プロジェクト」のスゴイ!を改めてまとめてみた

2019年7月23日
  • 歴史

「スマホ動画日記」をお送りしてきたディレクター今氏(いまうじ)です。私は6月23日に台湾に入り、現地で取材をしながら、いつ来るかわからない出航の時を待ってきました。度重なる延期を経て、ついに7月7日、丸木舟「スギメ」は出航。45時間10分の航海を経て、7月9日11時48分、スギメは沖縄・与那国島に到着しました。
同行取材した私は今、編集室にこもって航海に完全密着した舞台裏映像を編集中です。その放送を前に、現場で実際に見て感じたこのプロジェクトの4つのスゴイ!をお伝えします。
(「クローズアップ現代+」取材班 今氏源太ディレクター)

舟がスゴイ!

(丸木舟「スギメ」 名前は「杉の女神」から)

まず、航海に使われた丸木舟「スギメ」。長さ7.5メートル、重さ350キログラム。材料やつくる道具はできるだけ科学的に裏付けられたものになるようにこだわりが!杉の丸太を削ったのは、3万年前の遺跡で発見された石器を元に再現した石斧(せきふ)です。

(再現された「刃部磨製石斧(じんぶませいせきふ)」)

舟の形ができても、すぐに乗れるわけではありません。調整がとてもたいへん!水の抵抗が少ないスギメは強い推進力を持っていますが、同時にバランスを取るのが難しく転覆のリスクが高い舟です。5月末に台湾で行われた事前合宿でも、スギメは何度も転覆・浸水して、航行できなくなりました。

(事前合宿では転覆・浸水を繰り返した)

そこで改良です。舟の底におもりを置いて重心を下げ、こぎ手が座る位置を数センチ単位で調整してバランスを良くします。舟の前後には浸水防止用に編み込んだ草を貼り、横にも竹で波よけの仕掛けを作りました。何度も実験と検討、改良を繰り返し少しずつ長距離航海に耐えられる一隻へと進化をしていったのです。
そして、舟の改良に加えて大事だったのが、こぎ手が何十時間にも及ぶ練習を通して、スギメを乗りこなし、「5人のこぎ手、そしてスギメも含めて一つの体のようになっている」(こぎ手・鈴木克章さん)ことだといいます。細やかな工夫や微調整を経て、スギメは五人のこぎ手のための、この世に一隻しかない舟になったのです。

こぎ手がスゴイ!

こぎ手は男女5人。200キロに及ぶ航海を途中交代なしでこぎ抜きました。40歳から64歳まで、プロのシーカヤックガイドなどつわものたちです。古代の祖先も航海の知識や経験が豊富だったと推測されるためです。
こぎ手のキャプテン・原康司さんは、アマゾンやインドネシア、アラスカなど世界の海を渡ってきたシーカヤッカー。天候や海況を読み、出航日を決める最終的な判断にも大きな力を発揮しました。

(こぎ手のキャプテン・原康司さんは「ダイドック(海霧男)」というエスキモー名を持つ)

舵取り役の田中道子さんは、ふだんはアウトドアメーカーの社員をしながら、週末には海でシーカヤックをこぐ生活を20年以上続けています。本番では舟の最後尾に座り、地形や海況を見ながら、向かうべき進路を決める大切な役割です。

(舵取り役の田中道子さんは野生動物を見つけるのも得意だという)

こぎ手たちは海岸にテントを張り、トレーニングをすると同時に自然への鋭敏な感覚を養い、出航に備えていました。

航海術がスゴイ!

今回の実験では、本番期間の6月25日から7月13日の間で凪(なぎ)が2~3日続く日を慎重に選んできました。天気予報やルート付近にいる船乗りからの情報などを元にして計画を立てましたが、この時期の台湾は不安定な日が多く、延期を繰り返してきました。出航当日もタイミングを見計らい、予定より2時間以上遅らせて最終的な出航の判断を行いました。
そして、針路をどうやって決めたのか。頼りになるのは星や太陽などの天体や台湾の地形などです。また雲の位置、うねりや風向きなど刻々と変化するものもガイドに利用しました。GPSや地図がないため「何もない」と思いこみそうになりますが、頼りとなる多くの情報を海の上で集めていたのです。

(暗闇の中を進むスギメ)

出航して8時間あまり、あたり一面は真っ暗になり、夜の航海が始まりました。針路で最も頼りになるのは星です。季節ごとの星座や星の軌道を把握しておけば、確実に方角の指標となるからです。「星さえ出てしまえば昼間よりも夜のほうが航海しやすい」(こぎ手・原さん)というのです。この時はあいにくの曇りでしたが、深夜雲間から少しずつ見えてきたのはおりひめ星として知られるベガ。くしくも七夕のこの日、舟はおりひめに導かれるように東に進み続けることが出来たのです。

「ご先祖様」がスゴイ!

(与那国島に近づくスギメ)

与那国島到達の偉業を成し遂げた今回の実験航海ですが、いまだに解明出来ない大きな謎があります。それは、なぜ祖先は危険を冒してまで海を越えて日本列島にやってきたのかです。人口増加で押し出された説、争いの末に逃げ出した説など、様々な説が唱えられていますが、現代の研究ではその真意を見つけ出すことができません。そんな疑問をこぎ手の方に問いかけると、必然か偶然か、みんなが口をそろえて同じ言葉を発しました。「好奇心」です。
「丸木舟時代も3万年前の未知の世界を飛び出す宇宙船って捉えてみたら、今の人類もやっているじゃないですか。秘めているんじゃないですか。人間がもともと持っている素質として」(こぎ手・鈴木さん)
人類の中で今も生き残り繁栄を続けている、私たちホモ・サピエンス。アフリカを出た先祖がなぜわざわざ危険な海を渡って世界中に拡散したのか。そのヒントを感じました。

完全密着!こうして丸木舟は海を渡った

国立科学博物館による6年に渡るプロジェクトの最後の挑戦として行われた今回の実験航海。航海成功のターニングポイントの瞬間に何が起こっていたのか?「クローズアップ現代+」では、7月24日(水)放送予定の番組で、その舞台裏を詳しくお伝えする予定です!
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4313/index.html

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