クローズアップ現代

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アーティストDAOKOさんが描いた「#あちこちのすずさん」

アーティストDAOKOさんが描いた「#あちこちのすずさん」

2019年7月26日
  • あちこちのすずさん

15歳でインターネット上に登場し、独特の歌詞とリズムで幅広い世代を魅了してきたアーティスト・DAOKOさん。「特定の言葉では表せないようなことを表せるのが絵」だといいます。

実はDAOKOさんは、幼い頃から絵を描くのが大好きで、学生時代には美術を専門的に学びました。アーティストとして表現の幅を広げていく中で、絵のもつ可能性に改めて挑戦したいと考えていましたが、映画『この世界の片隅に』の世界観には立ち上がれないほどの衝撃を受けたといいます。

今回「#あちこちのすずさん」に寄せられたエピソードを読み込み、2枚の絵を描き上げたDAOKOさんに、どんな思いを込めたのかを伺いました。



―映画『この世界の片隅に』をご覧になって、改めて戦争について考えたということですが、どんなところが心に響いたのですか?


小さいときから、おじいちゃん、おばあちゃんと親戚から戦争の話を聞く機会はあったんですけど、そのときは「ああそんなことあったんだなぁ」くらいでした。この映画はよりパーソナルなところに近づいてきたというか。すずさんの、一人の女性というところ、若い女性というところもそうだし、自分が重なるところがあって。絵を描くところとか、いろいろな理由があると思うんですけど。

当時、すごく過酷な状況というか、想像するよりきっと、ひどい世界だったと思うんですけど、そんな中でも優しくいられる人たちが描かれていて、それがすごいなと。一人一人がどういう気持ちで生活していたのかっていうことは記録に残らないので、そういう意味ですごくいい映画だなというか、それも、心に響く要素の一つかなと思います。

「戦争はよくない」、だけじゃなくて、「どうして戦争が起きてしまうんだろう」とか「もっとみんな優しいはずじゃん」みたいな。何かそういうところで引っかかりましたね。

映画『この世界の片隅に』を見ながらツイッターのハッシュタグを調べる




―DAOKOさんが、「#あちこちのすずさん」というハッシュタグに関心を持って、参加したいと思われた理由は何でしょうか?


うーん、SNSとかツイッター自体のあり方がどんどん殺伐としてきてるなって印象があって。私はけっこうツイッターを10年くらい前からやっていて、いろいろ見てきた中で、情報がありすぎてどれを見たらいいのか分からないし、どれも入ってこないみたいな。ぱっとつぶやいたものが自分のものではなくなるみたいなことがちょっと危ない、危ういなとも思ったりしていました。

何か「あちこちのすずさん」っていうハッシュタグはそれをうまく、いろんな人に届くというか、心が本当に温まるなと思ったのがきっかけで、これはすごく、優しい世界に近づくハッシュタグだなと思いました。なにか優しい世界に近づくために自分も、音楽であったりとか絵を描いたりしているなっていうのはあるので。



―いつも絵を描かれるときは、ご自分の経験の中から心に残った風景や、脳内に思い浮かべたものを元にされるそうですが、今回は「#あちこちのすずさん」に寄せられたエピソードがイメージの元になりますよね。どんなことが印象に残りましたか?


エピソードを形にするということは、それぞれの人、一人の人にフォーカスするということ、その人の人生を垣間見ることだと思うんです。

エピソードの中には、ホタルの光をいっぱい集めてきて、鳥かごの中に入れて家の灯りにしていたとか、花火を見ると空襲を思い出すとか、戦争中は男の人がいなくてキスなんて考えられなかったとか、夫婦で海辺で社交ダンスを踊っていたら外で男女2人で何をしているって怒られたとか。恋愛とか人を愛するっていう行為は戦争中もちゃんとあったんだと分かるお話とか、景色が思い浮かぶものにぐっときました。

自分から湧き上がるものというか、だってそうなんだもん、みたいな、だってそう思っちゃったんだもんみたいなところで、自分の心の動いた瞬間。

ものすごくパーソナルな、その個人の見ていたその時の景色とか、その時感じてたこととか、よりその人自身の気持ちとか、意外とほっこりするお話があったりします。大変な中でも、みんなそれぞれの幸せをちゃんと見いだしていたというか。もちろん悲惨で悲しいことがありながらも、きれいだなと思ってしまったりとか。今の自分たちと変わらない感性かなと思えるお話が多いので、何かぐっと近い感覚になれるというか。戦争っていうものへの考え方がそこで、距離が近くなるんですかね、たぶん。

表現したいアイデアをノートに書き留めていく



DAOKOさんは、戦争を記録した資料や、被爆者の描いた絵なども取り寄せて、実際に何があったのか、その時代を生きた人々の思いをどう伝えるべきなのか、試行錯誤し、現代のアーティストとしての責任についても話してくれました。


―自分が経験していない、戦争のことは難しくないですか?


難しいですよね。いろんな人の思いがあるので、いろんな解釈が出てくると思うんですけど、そこは素直になればいいのかなと思うんです。

実際に経験してこなかった人っていうか、私たち世代、戦争体験者じゃない人たちが表現していくのって、繊細に表現しなければならないところだと思うので、やっぱり想像の範ちゅうだけで全くきれいごとにしてしまうのは、それは違うのかなという感覚ですね。実際にあったことを肯定する絵にはしたくないというか。あえて自分が思った感情をそのまま描いたほうがいいのかなとは思います。


東京大空襲を生きのびた人の体験談をもとに描いた



―こちらの明るい色彩の絵は、小学6年生のときに東京大空襲で被災した86歳の女性のエピソードからですよね。

寄せられたエピソードから抜粋 

「夜が明けて、見た景色は一面の灰燼の深く積もった平野でした。見渡す限り立体の家跡などは見あたりませんでした。現在、テレビドラマなどで、空襲で焼夷弾被害の跡を放映されるとき、普通の火事跡のように黒焦げの柱などがセットで組まれているのをみると、違う違う、そんな生易しい焼け跡ではないと言いたくなります。」(米 カリフォルニア州 塚本 惠さん)


そうですね、エピソードから想像されるのは、灰色の世界だったり、色がなかったり、黒だったり、そういう世界だと思うんですけど、私は当時生きていた人のそこにあった思い出とか、暮らしの中での日々の記憶とか、そういう感情を可視化することを意識していて。その気持ちまで何もなかったことになってはいけないのではという気持ちがあって、絵にできたらという気持ちで描きました。

遠くから空襲を眺めたという体験談から描いた



―もう一枚は、遠くから空襲を見て「きれい」と思ってしまったというエピソードです。


そうですね、遠くで燃えている町をきれいだと思ってしまったというメッセージが、いくつかあって、それがすごく印象的に残って。そのきれいだと思ってしまった子どもの時の映像とかってすごく焼き付いていると思うんですよね。それってすごく残酷なことでもあると思うんですけど、それを見たその人のビジョンのようなものを想像して描きました。絵の具の上から、ラメというかグリッターを重ねてみて、燃えているところを表現しました。

戦争の話って、「こういうことがあったんだ」って力強く私は言えないので、なんかこういう絵であったり、本当に感じた感情を作品にすることで気づいてくれる人は気づいてくれると思うので、作品にしたいと思いますね。みんなが考えるきっかけになってくれたらと思います。




【取材後記】
DAOKOさんは、水彩の絵の具で少しずつ、たくさんの色を重ねて描いていきました。筆で重ねる点ひとつひとつが、そこにあった人たちの思いや生活であるかのように、無心に、丁寧に、色を置いていく様子が印象的でした。

(#あちこちのすずさん 取材ディレクター)

水彩絵の具で点描する

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