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医療・教育現場の働き方改革 時短と使命達成のジレンマの中で

医療・教育現場の働き方改革 時短と使命達成のジレンマの中で

2018年5月2日

日本社会で加速する働き方改革。改革の大きな焦点の1つとされているのが、医療と教育の現場だ。私たちが命を預ける医療、子供の将来を託す教育。いずれの現場でも仕事量が膨れ上がり、長時間労働が常態化している。国の直近の実態調査では、「過労死ライン」とされる月80時間以上残業した人の割合は、医師では4割。20~30代の若い医師では6割近く。教育現場では小学校で3割、中学校では6割近くの教師が、月80時間以上の時間外労働を行っていることが分かった。一方で、労働時間削減の波が医療や教育の質の低下につながらないのか、懸念の声も上がっている。使命の達成と労働時間の縮減というジレンマの中、持続可能な「働き方」は定着させられるのか、模索する現場から手がかりを探る。

「患者の受け入れを制限します」 ある市民病院の異例の決断

患者の受け入れを制限するという異例の決断に踏み切った病院がある。90万人の医療の中核を担う新潟市民病院だ。背景にあるのが37歳の女性の研修医の自殺。看護助手から34歳で念願の医師となったが、長時間労働が原因で、うつ病を発症したとみられている。過労死と認定された。女性の死をきっかけに、医師の長時間労働の見直しを迫られた病院。医師を増やすことは難しいため、軽症の患者の受け入れを制限し、症状が重い患者の治療に専念することにした。

女性を追い詰めた長時間労働とは、どのようなものだったのか。NHKは独自に病院の内部資料を入手した。この病院では休日や時間外労働は、医師の手書きによる自己申告。しかし、別の記録を確認したところ、かけ離れた勤務実態が浮かび上がった。例えば、女性のある日の時間外労働は自己申告では午後5時から8時まで。しかし実際には、午後11時56分まで電子カルテを入力していた記録があった。調査した労働基準監督署は、女性がこの時間まで働いていたと認定。女性の時間外労働は、この病院で働き始めた4月から7月までの間、多い月で自己申告の3倍近く、4か月連続で80時間を超えていた。女性の業務が特に集中していたある1週間の記録では、連続38時間も働いていた日があった。

さらに、女性は労基署が認定した時間よりも長く病院に滞在していた。グラフの黄色は女性が自己申告した時間、青は労基署が認定した時間、赤は病院に滞在していた時間だ。出入りする際に使うカードの記録から割り出した。すべての月で、労基署が認定した時間を大きく上回っていたことが分かった。

手術の訓練は「業務」か?「自己研さん」か?

ではこの滞在時間で、女性は何をしていたのか。過労死の原因を調べた弁護士は、女性は手術の訓練や、症例の学習をしていたとみている。

「高い職業意識の中で、修行もやる、仕事も一生懸命やる。かなり異常な長時間、働いているんだなと思いました。」(遺族代理人 齋藤裕弁護士)

しかし、女性が行っていたとされる、手術の訓練や症例の学習に充てる時間を労働とみるかどうかは、見方が分かれている。病院側はあくまでも「自己研さん」として労働時間には含まれないとしている。

「“自己研さん”という形でいろいろ勉強してきたので、全部(労働時間として)がちがちに決められると、(医療の)質的にも落ちる可能性があると危惧している。」(新潟市民病院 片柳憲雄院長)

一方、弁護士は、患者のために費やした時間は自己研さんではなく、時間外労働として認めるべきだと訴えている。

「患者のために尽くすという意識は非常に尊いもの。だから患者の命が救われている部分もあることは否定できない。ただ、精神論だけでやってきたことで今回の事件が起こったとはいえる。」(遺族代理人 齋藤裕弁護士)

長年地域医療に取り組んできた医師の鎌田實さんは、医師の勤務が長くなる構造的な原因を指摘する。

「応召義務といって、医療界には“患者さんを断ってはいけない”というルールがある。中核病院は、高度医療化をして、設備を整え、患者さんたちが集まりやすいような環境を作っていて、住民も、たぶん軽いだろうなと思いながら、いい病院に行ったほうが安心という思いがあって、集中しやすい状況というのが作られているのではないか。もう1つは、やはり地方の病院では医師の数が足りない。また、医師そのものが、自分のスキルアップのために勉強したい、経験を積みたい、いろんなテクニックを学びたいということで、「一生懸命やりたい」という思いが強いところがあります。」(鎌田さん)

こうした現状を受けて、厚生労働省は、入院時の説明や診断書の入力などの業務を医師から看護師に移管する取り組みや、当直明けの勤務負担の軽減、複数の医師でのチーム医療の推進など、個々にかかる負担を少しでも減らすための議論を始めている。また病院側でもさまざまな取り組みが始まっている。聖路加国際病院では一部の診療科での土曜の診察を廃止。東邦大学大森病院では、地域の開業医と連携し当直を担ってもらうなどの取り組みを進めようとしている。

7時に出勤しても仕事が終わらず深夜に自宅に持ち帰り 学校教師のリアルな労働実態

およそ500人の生徒が通う大阪市立東中学校では、新学期に、教職員の働き方改革に理解を求める手紙を保護者に出すことにした。背景には、増え続ける仕事への危機感がある。

この学校の所定勤務は朝8時半から夕方5時まで。しかし、多くの教師が朝7時過ぎには出勤する。ある教師の1日を追ってみるとこんな具合だ。7時40分、校区を巡回する。警察から不審者情報があったためだ。午前の授業を終えると、昼食はわずか2分で済ませた。その後、生徒に声をかけながら校内を見回る。いじめやトラブルは休み時間に起こることが少なくないからだ。

「何気ない話から、今どんなことで悩んでいるのか、そんなことも休み時間によく分かる。職員室にずっといるということはできない。」(西垣一範教諭)

午後の授業を終えると、放課後は部活動だ。この学校では、すべての教師が部活動の顧問をしている。国の学習指導要領では「学校教育の一環」とされているが、行われるのは、ほとんどが土日を含めた勤務時間外だ。夕方、授業の準備など、教師のいわば本業にようやく取りかかる。しかし、その合間にも保護者や地域から電話がかかってくる。さらにこの日は午後6時半から緊急会議。休み時間中、いじめにつながりかねない行為が見つかり、指導方針を話し合うことになったのだ。深夜になっても仕事が終わらず、自宅に持ち帰ることも少なくないという。

負担を少しでも減らせないか。大阪市では、夜間の電話対応を自動音声に切り替えることを検討している。さらに市では、部活指導専門の職員を外部から雇用する予定だ。教育の質を落とすことなく、長時間労働をなくすことはできるのか。教師たちの模索が続いている。

「今の仕事全体を短縮させることは、子どもに関わる教育活動のどこを削るのかということになってくるので、保護者にご理解をいただきながら、中学校の先生方の労働環境、労働時間の短縮を改善していくことに努めていきたい。」(大阪市立東中学校 黒田光校長)

医師や教師の負担を減らすために「私たちにできること」

教師が長時間労働に陥ってしまう背景のひとつが法律の規定だ。教師の仕事は特殊で「時間管理はなじまない」として、時間外や休日勤務手当は支給されていない。代わりに、月給の4%が「調整額」として支給されている。

さらに、「教師の仕事がどんどん積み上がっている」と指摘するのは、民間から初めて公立中学校の校長を担った藤原和博さんだ。

「1つは、学習指導だけじゃなくて、生徒指導、生活指導、習慣を作っていくことまで日本の先生は仕事にしているということ。小学校だと「雑巾はどういうふうに絞るか」から「給食はどこで食べるか」など。それから中学・高校では、なんといっても部活ですね。そして最後に、事務量が非常に増えているということがあります。「レッテル付きの教育」っていうんですが、消費者庁ができれば消費者教育、さらに情報教育、IT教育、環境教育、福祉ボランティア教育もやりなさいということで、どんどん積み上がってくる。本当は何かをやめて、何か新しくしなきゃいけないんだけど、全部積み上がっていっちゃってるというところがあります。」(藤原さん)

文部科学省は、「教師の働き方改革」として、いじめ対策にスクールカウンセラーやソーシャルワーカー、部活動には外部の指導員など、外部パワーの活用を検討している。しかし藤原さんは、外部パワー活用が有効な分野と、必ずしもそうでない分野があると言う。

「小学校の英語とか、プログラミング教育は生きると思います。問題は部活。これは先生たちの中には、人生かけてやっていたり、やりがいがあるということがある。それから、バスケット部とかサッカー部で、授業では自分はスターになれないけど、スポーツでスターになれる、そういう教育的な部分があるので、なかなか外に出してスポーツとしてやればいいというふうにはならない。そこが難しい。」(藤原さん)

私たちにもできることはありそうだ。医師の鎌田さんは「夜中に軽い症状で病院にかかるようなコンビニ受診はやめてほしい」と訴える。元校長の藤原さんは「サラリーマンや公務員の方に、ぜひ学校のサポートをしてもらいたい」と呼びかける。働き方改革の動きが社会に広がる中、これまで私たちが当たり前に享受してきた医療や教育の常識も、変わらなければならないのかもしれない。

【ジレンマの中で】働き方改革の大きな焦点となっているのが医療と教育の現場です。国の調査では「過労死ライン」を超える医師が40%、中学教師は60%近くに。命を預かる医師、子供の未来を託される教師。苦悩の中で模索する現場に密着しました。

この記事は2018年4月16日に放送した「シリーズ働き方改革 残業80時間超・現場で何が」を元に制作しています。

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