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原発事故・7年後の「英雄たち」 1万2000人の作業員が健康調査に応じない理由

原発事故・7年後の「英雄たち」 1万2000人の作業員が健康調査に応じない理由

2018年3月12日

7年前、世界最悪レベルの事故を起こした、東京電力福島第一原子力発電所。事故直後、極めて高い放射線量の下、命の危険もある中で収束作業にあたり、「英雄」と称賛された人たちがいた。その年に作業にあたったのはおよそ2万人。こうした人たちを対象に、国は健康状態を追跡する調査を行ってきた。ところが調査に応じていない人が6割を超えていることが分かった。いったいなぜ。取材を進めると、ある元原発作業員がこうつぶやいた。

「私らみたいなのは、切り捨てなんですよ。それで命を懸けていたのかと言ったら、ほんと情けないですね」

浮かび上がったのは、「英雄」とはかけ離れた現実だった。

相次ぐ“拒否” 原発作業員2万人の健康調査 

原発作業員の被ばく線量の上限は、通常1年間で50ミリシーベルト、5年間で100ミリシーベルト、緊急時は作業の期間中100ミリシーベルトと定められていた。それが福島第一原発の事故直後は、特例措置として250ミリシーベルトまで引き上げられた。こうした過酷な状況下で作業に当たった「緊急作業従事者」は約2万人に上る。


そのうち被ばく線量が100ミリシーベルト以上の人には、ガンや甲状腺の検査などが定期的に実施されている。100ミリシーベルト未満の人にはこうした検査は行われていない。一方で国は、緊急作業従事者全員を対象に、3年〜4年に1回、無料検診を実施し、健康状態を調査することにしている。ところが、この重要な調査が進んでいないという。

国は当初、全体の80%の参加を目標に掲げていたが、調査に応じていない人が1万2,000人以上、参加率は35%にとどまっている。国から調査を委託された放射線影響研究所の研究員も「現状は、かなり厳しい。どうすると増えるのかというヒントすら、今はない」と頭を抱える。

調査が進まないのはなぜか。取材班は作業員など100人を超える関係者に接触、匿名を条件に話を聞かせてくれるという20代の男性にたどり着いた。下請け業者として依頼を受け、水素爆発を起こした原子炉建屋の周辺で、汚染したがれきの撤去に当たったという。収束作業で浴びた放射線量は20ミリシーベルト近く。政府が定めた限度内だが、将来、何か影響が出ないか不安に感じている。しかし、下請けの立場で健康調査のために休暇を取ると仕事を失いかねないという。

「(調査に)行きたいのはやまやまですね。ただ、現場回らなくなっちゃうので。月曜日から土曜日までずっと出勤。急に『この日休み』『この日休み』と言うと、上(元請け)がどういう顔するかなと。『何の休みなんだ』って、上(元請け)から言われるわけなんで。」(20代の男性)


ほかの作業員からも「調査では仕事を休んでも補償がない」「病気が見つかっても治療してもらえない」など、今の不十分な体制では調査を受ける気になれないという声が多く上がった。

「信用できないんですよ、はっきり言って」 元作業員の告発

さらに取材を進めると、国や東電への不信感から調査を拒否する人がいることも分かってきた。51歳の元作業員の男性。不信感を抱き始めたきっかけは、2011年3月24日に発生した深刻な事故だった。3人の作業員が汚染水に足をつけ、緊急搬送されたのだ。被ばくは100ミリシーベルトを大幅に超え、当時、大きなニュースとなった。この現場に男性は居合わせていた。

この日、男性は元請け企業の社員ら3人に連れられ、同僚と水素爆発した3号機のタービン建屋に入った。地上と地下の電源盤をケーブルでつなぐ作業。事前に危険な作業ではないと聞かされていたが、前の3人が階段を下りたとき、突如、線量計の警報ブザーが鳴り響いたという。地下にあったのは大きな水たまり。高濃度汚染水の可能性があり、男性は退避命令が出るだろうと考えた。ところが、出された指示は、思わぬものだったという。

「(作業に)入っちゃったから、そのままやり続けましょう。『死にに行け』と言ってるのかと。責任とれる行動ではないですよね、元請けとして」(元作業員の男性)

男性は、汚染水には足をつけなかったものの11ミリシーベルトを被ばく。ところが、深刻な被ばく事故の現場にいたにもかかわらず、その直後、男性に対しては東電からの聞き取りはなく、病院での検査すら行われなかった。男性は、調査が自分の健康を守ってくれるものには思えず、応じるつもりはないという。

「信用できないんですよ、はっきり言って。国が何をやりたいのか。何年後かに(体に影響が出ても)『検査しましたが、この人の場合は放射線の異常は認められず』、終わっちゃうじゃないですか。あそこで被ばくした人がどうなろうと最終的には考えてないと思う。それで命懸けてたのか、ばからしくて、本当に情けないですよね」(元作業員の男性)


取材を続ける中、被ばくの影響か分からないものの、健康を害している人たちがいることも分かってきた。ある元作業員は、一昨年(2016年)60代で亡くなった。がんで入退院を繰り返した末のことだったという。被ばくとの因果関係は分からないままだ。調査に応じていない1万2,000人の作業員の中に、たとえ亡くなっている人がいても、把握するすべはない。

根深い不信感をどう取り除くのか

作業員への取材では、“自分たちは捨て駒だ”といった強い言葉がたびたび聞かれた。その胸中には、命の危険を冒して作業に当たったのに、その後、国や東電から健康面などのフォローもなく、見捨てられたという不信感がある。今回の健康調査で何か異常が見つかっても、治療を受けられる仕組みにはなっておらず、「研究の材料に使われるだけ」と感じる作業員も多い。作業員の自宅に届く調査票のタイトルは「研究への協力に関する同意書」。作業員の健康を守るためという、調査のもう一つの趣旨が十分に伝わるとはいいがたい。

調査の前提となる作業員の被ばく線量データの信頼性にも、疑問が出ている。作業員からは“数値は信用できない”“実際はもっと被ばくしたのではないか”といった声があるのだ。国も事故直後の混乱期は、線量計の不足などで、被ばく線量の把握に問題があったことを認めている。調査を任された放影研では、被ばく線量の再確認の作業を始めている。

調査を進め、作業員の健康を生涯にわたってサポートするためにはどうすればいいのか。環境医学が専門の、大阪大学大学院の祖父江友孝教授 は、参加率を高めるための環境作りが重要だと指摘する。

「例えば、研究費から十分な日当を支払うとか、あるいは会社のほうで有休の手続きを取っていただく、そのために厚労省のほうから協力金を出すなどが考えられると思います。こうした方々が胸を張って“緊急作業従事者である”と名乗れるような環境作りが非常に重要だと思います」(大阪大学大学院・祖父江友孝教授)

今後30年とも40年とも続くと言われる廃炉作業。抜け落ちた核燃料を取り出すなど、さらに高い放射線量のもとでの作業が待ち受け、作業員が不足する懸念もある。これまで目に見えないこの放射線の恐怖と闘ってきた作業員、そしてこれからも廃炉作業に当たる人たちの安全を守り、不安を和らげるための、信頼されるしくみ作りが求められている。

この記事は2018年3月6日に放送した「原発事故 “英雄たち”はいま 被ばく調査拒否の実態」を元に制作しています。

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